サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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邂逅 Case3

 廃館は、風に軋む音だけで息をしていた。

 

 割れた窓から吹き込む潮風が、腐った木材と湿った土の匂いを混ぜてくる。壁は剥がれ、床は黒ずみ、かつての装飾は蔓のような影に呑まれていた。

 

 足を踏み入れると、靴裏がぬめりを拾う。

 

「……想像以上だな」

 

 肩の通信機から低い声が響く。

 

『ここは本当に地球か? 宇宙人でも住みたくないぞ』

 

「贅沢言うなよ、駄目犬」

 

『私は繊細なんだ。こんな湿気はスーツが泣く』

 

「お前、こっちでは裸だろ」

 

『酷い事を言うなよ』

 

 確かに空気が重い。

 呼吸の奥に、微かな甘い匂いが混じる。

 

 植物の匂いだ。

 

「反応は」

 

『地下だ。だが……』

 

 レオルドの声が僅かに低くなる。

 

『飢餓状態だ』

 

 廊下の奥で、何かが擦れる。

 

 視線を向けた瞬間、壁の影がゆらりと動いた。

 

 そこに“立っている”。

 

 人の形をしているが、輪郭が曖昧だ。背後の壁と同化するように蔓が絡み、指先は黒い根のように細い。

 

 口元だけが歪む。

 

 獲物を見つけた獣のように。

 

「……バイサー」

 

 名を呼ぶと、影が一歩前に出た。

 

 瞳がこちらを射抜く。

 飢えた光だ。

 

『地球の匂い……新しい』

 

 喉の奥で湿った音が鳴る。

 

 床を這う蔓がゆっくりと伸びる。

 

 レオルドが小さく息を吐く。

 

『来るぞ、王様』

 

 俺はゆっくりと懐へ手を伸ばす。

 

「悪いがな」

 

 バイサーの唇がさらに吊り上がる。

 

「お前を逮捕に来た」

 

 床板が軋む音と共に、影が前へ出る。

 

 上半身は人型。だが腰から下は巨大な獣。四肢は太く、黒ずんだ筋肉が波打つ。ひづめが床を踏むたび、埃が舞い上がる。

 

 額の奥で赤い瞳が揺れた。

 

 俺は懐から銀河連邦警察手帳を取り出す。光沢が、廃館の闇を切り裂いた。

 

「銀河連邦警察。地球担当」

 

 一瞬、バイサーの目が細まる。

 

「……宇宙警察だと?」

 

 驚きは確かにある。だが次の瞬間、喉の奥で低く笑う。

 

「まだこの星に残っていたか。面倒な連中だ」

 

 ひづめが床を削る。

 

 俺は淡々と告げる。

 

「バイサー。地球法、殺人罪。宇宙法、知的生命体違法捕食。危険生体因子暴走罪」

 

 空気が張りつめる。

 

「被害者は三名。逃げ場はない」

 

 獣の脚が一歩踏み込む。重い振動が足元に伝わる。

 

「飢えただけだ。弱い肉がそこにあった」

 

「理由にならねぇ」

 

 手帳を閉じる。

 

「よって、逮捕する」

 

 四肢が地を蹴る。

 

 突進。

 

 空気が裂ける寸前、俺は短く言う。

 

「蒸着」

 

『キズナ! チャージ!』

 

 光が爆ぜる。

 

《蒸着! それはギャバンシステム発動のコマンドだ!》

 

《臨界点を越えたエモルギーがギャバリオン粒子と融合。僅か1ミリ秒でコンバットスーツへと投射形成され、蒸着を完了する!》

 

『キズナ! アクティベート!』

 

 光が収束する。

 

 深紅と夜の黒を纏った鋼の戦士が、突進を真正面から受け止めた。

 

 ひづめと装甲が激しくぶつかり、火花が散る。

 

 バイサーが目を見開く。

 

「貴様っ……まさか!」

 

 俺は銃を構える。

 

「ギャバン」

 

 複眼が光る。

 

「その名は、お前も知っているだろ」

 

 重い衝撃波が廃館を震わせる。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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