サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
廃館は、風に軋む音だけで息をしていた。
割れた窓から吹き込む潮風が、腐った木材と湿った土の匂いを混ぜてくる。壁は剥がれ、床は黒ずみ、かつての装飾は蔓のような影に呑まれていた。
足を踏み入れると、靴裏がぬめりを拾う。
「……想像以上だな」
肩の通信機から低い声が響く。
『ここは本当に地球か? 宇宙人でも住みたくないぞ』
「贅沢言うなよ、駄目犬」
『私は繊細なんだ。こんな湿気はスーツが泣く』
「お前、こっちでは裸だろ」
『酷い事を言うなよ』
確かに空気が重い。
呼吸の奥に、微かな甘い匂いが混じる。
植物の匂いだ。
「反応は」
『地下だ。だが……』
レオルドの声が僅かに低くなる。
『飢餓状態だ』
廊下の奥で、何かが擦れる。
視線を向けた瞬間、壁の影がゆらりと動いた。
そこに“立っている”。
人の形をしているが、輪郭が曖昧だ。背後の壁と同化するように蔓が絡み、指先は黒い根のように細い。
口元だけが歪む。
獲物を見つけた獣のように。
「……バイサー」
名を呼ぶと、影が一歩前に出た。
瞳がこちらを射抜く。
飢えた光だ。
『地球の匂い……新しい』
喉の奥で湿った音が鳴る。
床を這う蔓がゆっくりと伸びる。
レオルドが小さく息を吐く。
『来るぞ、王様』
俺はゆっくりと懐へ手を伸ばす。
「悪いがな」
バイサーの唇がさらに吊り上がる。
「お前を逮捕に来た」
床板が軋む音と共に、影が前へ出る。
上半身は人型。だが腰から下は巨大な獣。四肢は太く、黒ずんだ筋肉が波打つ。ひづめが床を踏むたび、埃が舞い上がる。
額の奥で赤い瞳が揺れた。
俺は懐から銀河連邦警察手帳を取り出す。光沢が、廃館の闇を切り裂いた。
「銀河連邦警察。地球担当」
一瞬、バイサーの目が細まる。
「……宇宙警察だと?」
驚きは確かにある。だが次の瞬間、喉の奥で低く笑う。
「まだこの星に残っていたか。面倒な連中だ」
ひづめが床を削る。
俺は淡々と告げる。
「バイサー。地球法、殺人罪。宇宙法、知的生命体違法捕食。危険生体因子暴走罪」
空気が張りつめる。
「被害者は三名。逃げ場はない」
獣の脚が一歩踏み込む。重い振動が足元に伝わる。
「飢えただけだ。弱い肉がそこにあった」
「理由にならねぇ」
手帳を閉じる。
「よって、逮捕する」
四肢が地を蹴る。
突進。
空気が裂ける寸前、俺は短く言う。
「蒸着」
『キズナ! チャージ!』
光が爆ぜる。
《蒸着! それはギャバンシステム発動のコマンドだ!》
《臨界点を越えたエモルギーがギャバリオン粒子と融合。僅か1ミリ秒でコンバットスーツへと投射形成され、蒸着を完了する!》
『キズナ! アクティベート!』
光が収束する。
深紅と夜の黒を纏った鋼の戦士が、突進を真正面から受け止めた。
ひづめと装甲が激しくぶつかり、火花が散る。
バイサーが目を見開く。
「貴様っ……まさか!」
俺は銃を構える。
「ギャバン」
複眼が光る。
「その名は、お前も知っているだろ」
重い衝撃波が廃館を震わせる。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王