サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
バイサーは一瞬だけ目を細めた。
「宇宙刑事だと? 笑わせるな」
鼻で笑う。
四肢が踏み鳴らす。獣の脚が床を割り、廃館の梁が震える。
「貴様らが裁けると思うな!」
腕を振り上げた瞬間、空間が歪む。黒紫の魔法陣が幾重にも重なり、空気が焼ける匂いを放つ。
次の瞬間、光弾が雨のように降り注いだ。
爆音。
壁が砕け、床板が吹き飛ぶ。
だが俺は一歩も退かない。
ギャバリオントリガーを構える。
引き金を引く。
鋭い閃光が一直線に走る。
魔法弾と交差し、火花を散らしながら空中で弾き飛ばす。
連射。
軌道を読み、正確に撃ち落とす。
爆発の連鎖が空中で潰れていく。
バイサーの瞳が揺れる。
「……なに?」
魔法陣をさらに重ねる。
弾数を増やす。
だがすべて撃ち落とされる。
火花と衝撃波だけが廃館を満たす。
「馬鹿な……!」
俺は照準を下ろさない。
「魔法だろうが、因子だろうが」
引き金をもう一度引く。
衝撃波がバイサーの肩を掠める。
「当たらなきゃ意味はない」
ひづめがわずかに後退する。
初めて、明確な動揺が走った。
魔法陣が一瞬、乱れる。
引き金を引き続ける。
ギャバリオントリガーの光弾が、弾幕のように空間を縫い、バイサーの魔法陣を削り取っていく。
撃ち落とされた魔力が火花となり、夜の花火のように弾けた。
その隙間を縫うように、俺は一歩、また一歩と前へ出る。
バイサーの蹄が後退する。
巨体が廃館の柱を押し倒し、木片が舞う。
「なぜだ……なぜ当たらん!」
困惑が声に滲み、魔法陣の輝きがわずかに乱れた。
距離は十分に詰まった。
照準を下げる。脚部、獣の腱が集中する一点。
引き金を引くと、光が一直線に走り、装甲と肉を同時に穿つ。
乾いた衝撃音が響き、巨体が大きく傾いた。
ひづめが床を削るが、もう踏み込めない。
脚が崩れ、重量が片側に沈む。
バイサーの息が荒くなる。
巨獣が初めて、自分の足場を失った。
撃ち抜かれた脚を庇い、バイサーは荒い息を吐いた。
巨体が揺れ、床板がきしむ。
赤い瞳が俺を見上げる。その奥に、さきほどまでの獣の光はない。
代わりにあるのは、底の見えない深みに落ちたような恐怖だった。
「来るな……!」
声が震える。
魔法陣は消え、空気の重さだけが残る。
俺はゆっくりと歩み寄る。装甲が擦れる音が、静まり返った廃館に規則正しく響く。
「終わりだ、バイサー」
銃口を下ろす。
「これ以上、誰も食わせない」
その言葉に、バイサーの肩が落ちた。
獣の脚が力を失い、膝を折る。
「……俺は、飢えていただけだ」
絞り出すような声。
だがその背後に、奪われた命の重みが横たわっている。
俺は目を逸らさない。
「だからといって、許されるわけじゃない」
手錠型拘束具を取り出す。
光が輪となり、重い腕と獣の胴を包み込む。
鋼の輪が閉じる音は、乾いた鐘のように響いた。
「銀河連邦警察の名のもとに拘束する」
足元に転送陣が展開する。
青白い光が廃館を満たし、塵が浮かび上がる。
バイサーは目を閉じる。
「……ギャバン」
その名を、低く呟いた。
次の瞬間、光が収束する。
巨体は消え、廃館には静寂だけが残った。
埃がゆっくりと床に戻る。
崩れた梁の隙間から、夜風が流れ込む。
俺は一息つく。
「待ちなさい!」
鋭い声が入口から飛ぶ。
振り向くと、赤髪の少女が魔力をまとい立っている。その背後には仲間の気配。
空気が変わる。夜の静けさが、張りつめた弓のように軋んだ。
「あなた、何者?」
問いが真っ直ぐ飛んでくる。
俺は視線を逸らさず、複眼の光をわずかに落とす。
「通りすがりの公務員だ」
レオルドの声が通信に低く響く。
『名乗るな。まだだ』
俺は小さく息を吐く。装甲越しに胸の鼓動が響く。
「こいつは管轄案件だ。こちらで引き取る」
少女――リアスの瞳が細まる。
「悪魔の問題よ。勝手な真似は困るわ」
魔力が波紋のように広がる。
転送光が頂点に達する。
俺は一歩だけ後退し、バイサーを視界に収めたまま言う。
「罪は消えない。だが処理は済ませる」
光が弾ける。
巨体が消え、残るのは焦げた匂いと揺れる埃だけ。
廃館の空気が、ゆっくりと静まる。
リアス達の視線が突き刺さる。
名も正体も告げないまま、俺は踵を返す。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王