サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
廃館に残ったのは、焦げた匂いと緊張だけだった。
崩れた梁の向こうで、赤髪の少女が静かに魔力をまとっている。
視線が絡む。敵意というより、探る目だ。
俺は銃を下ろしたまま、装甲越しに息を整える。
「……あなた、何者なの?」
落ち着いた声だが、隙はない。
背後で剣を抜く音がした。金属が空気を裂く。
俺は肩をすくめる。
「名乗る義理はない。だが、敵じゃない」
少女の眉がわずかに動く。
「悪魔の問題よ。勝手に連れて行くなんて、説明は必要だわ」
正論だ。だが口を開けば、宇宙警察の名が出る。
それは許されない。
俺は一歩下がる。
「さてっと、互いの立場があるから譲れないからな。逃げさせて貰うぜ」
瞬間、空気が弾ける。
木場が地を蹴った。
騎士の速度。残像が廊下を裂く。
だが俺は壁に足を掛け、そのまま跳ね上がる。パルクールの要領で梁を踏み、天井近くを走る。
「速いわね……!」
背後から低い声が飛ぶ。
次の瞬間、瓦礫が唸りを上げて飛んできた。
塔城小猫だ。怪力で投げられた木片が弾丸のように迫る。
身体をひねり、空中で軌道を外す。瓦礫は壁を砕き、粉塵が舞う。
雷光が走る。
姫島の魔法陣が展開し、青白い閃光が廊下を焼く。
床を蹴り、柱を踏み台にして軌道を変える。雷は背後で爆ぜ、熱風だけが装甲を撫でた。
心臓は静かだ。
焦りはない。ただ計算するだけ。
出口までの距離、敵の間合い、次の足場。
屋根の縁を掴み、夜空へ跳ぶ。
月光が装甲をなぞる。
振り返ると、彼らは廃館の入口で立ち止まっていた。
「待ちなさい!」
声が夜に溶ける。
俺は軽く手を振る。
「悪いな。話はまた今度だ」
そのまま屋根を伝い、闇へ滑り込む。
背後に残るのは、雷の残光と、解けない問いだけだった。
屋根をいくつか飛び越えた先で、ようやく足を止めた。
月明かりの下、装甲に残った焦げ跡が白く浮く。
通信機から低い声が漏れる。
『派手にやったな、王様』
「追い払っただけだ」
短く答え、深く息を吸う。
静かな場所を選び、腰のトリガーに触れる。
「……解除」
装甲が粒子となってほどける。
深紅と黒が夜に溶け、普段着の感触が戻る。
冷えた空気が肌を撫で、現実が急に近づく。
路地の奥から、短い足音が近づいた。
街灯の影から現れたのは、見慣れたコーギーの姿。
レオルドが欠伸をする。
『無事で何よりだ。悪魔の連中は諦めたらしい』
「諦めたって顔じゃなかったぞ」
壁に背を預ける。
心の奥に、ひとつだけ引っかかる影がある。
『何だ、気になることでもあるか』
「……いたんだよ」
言葉が少しだけ重くなる。
「クラスメイトが」
レオルドの耳がぴくりと動く。
『ほう』
「塔城小猫」
その名を口にした瞬間、廃館での光景がよみがえる。
無表情のまま瓦礫を投げた姿。あれは偶然じゃない。
胸の奥がわずかにざわつく。
学校の机と、さっきの戦場が重なり合う。
日常と非日常が、音もなく擦れ合った。
『……ややこしくなりそうだな』
レオルドの声は静かだ。
「だな」
夜空を見上げる。
星は何も知らない顔で瞬いている。
「俺だけの問題じゃなくなったかもしれねぇ」
言いながら、拳を握る。
王を名乗るなら、守るべきものは増えるだけだ。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王