サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
翌朝の教室は、淡い春の光に包まれていた。窓際のカーテンがゆるく揺れ、白い布越しの光が机の角をやわらかく照らす。廊下からは運動部の掛け声が遠くに混じり、教室の空気にはチョークとワックスの匂いが薄く漂っている。椅子を引くと、床がかすかに鳴った。
鞄を机に置く。布地が木の天板に触れ、軽い音が響く。指先でファスナーを開き、教科書の角を揃えて引き出す。紙の手触りが指に馴染み、ぱらりとめくると微かな紙の匂いが立った。背筋を伸ばし、息をひとつ整える。
「おはよう」
隣から静かな声が落ちる。視線を向けると、塔城小猫がいつも通りの姿勢で座っている。黒髪が肩にかかり、窓の光を受けて細く光る。制服の袖口を軽く整える仕草が、いつもよりゆっくりだ。
「おう。朝から静かだな」
「いつも通りです」
短い返事のあと、小猫は視線を前に戻す。シャープペンを指で回し、机の上にそっと置く。カチ、と芯を出す音が小さく鳴った。教室のざわめきがその音を飲み込む。
教科書を開く。ページが擦れ合う乾いた音が響く。視界の端で、小猫がこちらを一瞬だけ見る。視線はすぐに下がるが、肩の力がわずかに抜けたのがわかる。
「昨日、どこかに出かけましたか」
窓の外で風が枝を揺らす。葉擦れの音がかすかに届く。ペンを持つ手を止め、ゆっくりと顔を向ける。
「ん? いや、家だ」
椅子の背にもたれ、制服の襟を指で直す。布が指先で擦れ、軽い音を立てる。
「レポート終わらなくてな」
「そうですか」
小猫は頷き、消しゴムを指先で転がす。白い粉が机にわずかに残り、それを袖でそっと払う。空気が少しだけ静まる。
「……変な匂いがしました」
時計の針が進む音が、やけに近く聞こえる。教室の後方で椅子が引かれ、足音が過ぎる。
「匂い?」
「焦げたような」
窓から差し込む光が机の端で揺れる。視線を逸らさず、軽く肩をすくめる。
「近所で何か燃やしてたんじゃねぇか?」
「かもしれません」
小猫はそれ以上追わない。ペンを握り直し、ノートに視線を落とす。黒い睫毛が影を落とす。
チャイムが鳴る。金属音が教室に広がり、空気が一斉に動く。教師の足音が廊下を近づく。
「昨日の人」
小さな声が、チャイムの余韻に紛れて届く。
「昨日の人?」
「……いえ」
視線が一瞬だけ重なる。小猫の指先が机の縁を軽く叩き、すぐに止まる。
「どこかで会った気がしました」
俺は小さく笑う。教科書を閉じ、指で端を整える。
「俺は平凡な学生だぞ」
「そうですね」
それだけ言って、小猫は前を向く。窓の外で風がまた枝を揺らす。教室はいつも通りの朝に戻っていく。
ページをめくる音だけが、静かに続いた。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王