サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
焦げた魔力の匂いがまだ漂う中、赤い髪が夜風に揺れた。
堕天使の気配を辿るように現れた少女は、倒れ伏した影と兵藤、そして銀の装甲をまとう俺を静かに見渡す。その視線は鋭いが、無闇に踏み込むことはせず、空間ごと測るような間合いを保っていた。
「……イッセー、大丈夫?」
低く抑えた声が、張り詰めた空気をわずかに緩める。
兵藤がかすれた声で応じると、彼女は小さく息を吐き、次にこちらへと真っ直ぐ視線を向けた。紅い瞳の奥で魔力が淡く揺れ、いつでも展開できる構えを崩さないまま、それでも礼節を忘れない立ち姿で言葉を選ぶ。
「あなたが、どのような目的で動いたのかは分からないわ。けれど、うちのイッセーを助けたのは事実。そこは感謝するわ」
「律儀だな」
短く返すと、装甲越しに自分の声がわずかに反響した。
互いの立場はまだ曖昧だ。
礼の言葉と警戒の気配が同じ空気に混ざり、夜の静寂を薄く震わせていた。
瞳が細められる。
「宇宙刑事……そう言ったわね。それは何かしら。悪魔でも堕天使でもない、別の勢力の名?」
問いは穏やかだが、探るように空気を撫でる。魔力がわずかに揺れ、場の主導権を握ろうとする気配がにじんだ。
肩越しに堕天使を一瞥し、軽く首を鳴らす。
「さあな。ただの肩書きだ。治安を乱す奴を取り締まる、それだけだよ」
装甲の奥で苦笑を押し殺す。詳しく語れば波紋が広がる。宇宙刑事という存在は、まだこの星の表舞台に出すには早い。拘束済みの堕天使を床に滑らせ、リアスの足元へと静かに押し出す。
「そっちの管轄だろ。引き取ってくれ」
「待ちなさい――」
その声が届く前に、床を蹴る。
影の濃い梁へと跳び、鉄骨を踏み替え、壁を蹴って屋外へ抜ける。魔力の追跡を感じながらも、視線を交わさずに夜へ溶けた。
屋根の上に着地し、装甲の内部で短く息を吐く。
背後では赤い魔力が一瞬だけ閃いたが、追撃は来ない。リアスは堕天使を優先したのだろう。判断が早い。
「……借りは作らない主義でな」
呟き、蒸着解除の光が静かに散る。
制服姿に戻った手を見下ろす。
わずかに残る放電の感触が、さっきの対峙を思い出させる。あの紅い瞳は、ただの感謝では終わらない。いずれ必ず、真実を探りに来る。
それでも今は、距離を保つ。
宇宙刑事としての立場と、駒王学園の一生徒としての生活。その境界線は、まだ誰にも踏ませない。
スマホが震えた。
レオルドからの短い通知だ。
『派手にやったな、王様。後始末は任せとけ』
思わず小さく笑う。
夜風が頬を撫で、遠くで救急車の音が鳴った。
「さて……帰るか」
屋根から跳び降り、街灯の下へ。
影は、いつもの高校生のものに戻っていた。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王