サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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邂逅 Case10

 味噌汁の湯気が、天井の灯りにゆらりと溶けていく。焼いた魚の香ばしい匂いと、白米の甘い熱が混ざり合い、狭い食卓をやわらかく包んでいた。箸が器に触れる乾いた音、絶花が静かに茶碗を置く気配、そして卓の端で不自然に行儀よく座っているコーギー――レオルドの視線が、肉の皿へと何度も滑る。平穏だ。少なくとも、今この瞬間は。

 

「レオルド、視線が露骨すぎる」

「……犬の本能だ。許せ」

 

 軽口を交わした、その直後だった。空気が、ほんのわずかに澄む。重くなるのではない。逆だ。雑味が抜け落ちるように整う。レオルドの耳がぴくりと立ち、箸を持つ絶花の手が止まる。

 

「……来るぞ」

 

 次の瞬間、部屋の中央が淡く歪んだ。爆ぜるような光はない。ただ、水面に石を落としたような波紋が広がり、その中心に人影が静かに立つ。金の髪が揺れ、落ち着いた瞳がこちらを捉えた。

 

「こんばんは。遅い時間にごめんね」

 

 柔らかな声。だが、その佇まいは隙がない。軽装の私服に身を包みながらも、纏う気配は戦場のそれだ。俺は小さく息を吐き、箸を置く。

 

「……先輩。飯時に転移は勘弁してくれ」

 

「あなたが家にいる時間、ここしかないんだよ」

 

 わずかに笑う。その仕草は穏やかだが、視線の奥に責任の色がある。レオルドが姿勢を正す。

 

「フェイト巡査部長。まさか直々にとは」

「堅いなあ、レオルド。今は任務前の挨拶だよ」

 

 絶花が立ち上がり、軽く頭を下げた。

 

「初めまして。フェイトさん、ですね」

「うん。太郎の先輩……という立場かな」

 

 その言葉に、絶花の視線が一瞬だけ俺へ向く。探るでもなく、ただ確かめるように。そして小さく頷いた。理解は早い。戦場側の人間だと察している。

 

 フェイトが表情を引き締める。

 

「本題に入るね。この地球の堕天使に接触を試みている宇宙犯罪者がいる。エモルギア改造型。すでに大気圏内へ侵入済みだよ」

 

 部屋の空気が変わる。味噌汁の湯気が、急に遠く感じた。

 

「堕天使を利用する気か」

「可能性が高い。取引か、実験か……どちらにせよ放置はできない」

 

 静かだが、断定に迷いはない。俺は腕を組む。

 

「宇宙警察が動くってことは、地球の管轄も絡むな」

「だから来た。単独行動は禁止」

 

 目が合う。柔らかい声だが、そこに譲歩はない。

 

「命令か?」

 

 一拍。フェイトはほんの少しだけ微笑んだ。

 

「お願い」

 

 その言葉に、肩の力が抜ける。命令なら反発もできた。だがこれは信頼だ。

 

「……分かったよ、先輩。王もたまには従うさ」

 

 絶花が静かに口を開く。

 

「太郎、危険なんでしょう」

「危険じゃない任務はない」

 

 フェイトが続ける。

 

「でも一人じゃない。今回は、私もいる」

 

 その言葉は軽い。だが重い。俺は立ち上がり、窓の外を見た。夜空は変わらず静かだ。その向こうに、雷を抱えた戦艦が待機しているのだろう。

 

「飯は食っていくか?」

「ううん、任務後に。楽しみにしてる」

 

 ふっと空間が揺れる。気配が薄れていく。

 

「太郎。無茶はしないで」

「先輩に言われる筋合いはねぇな」

 

 最後に残ったのは、静かな温度だけだった。

 

 湯気はもう消えかけている。日常は、簡単に戦場へと接続される。

 

「……忙しくなりそうだな」

 

 レオルドが小さく鼻を鳴らした。

 

「王様、今度こそ稼げよ。酒代がな」

「黙れ、駄目犬」

 

 絶花が静かに笑う。だがその瞳の奥に、わずかな不安が揺れていた。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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