サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
翌朝、まだ街が完全に目を覚ます前の時間に、俺は河川敷へ向かった。夜露が芝を濡らし、靴底にしっとりとした感触が伝わる。空は薄い群青色で、遠くに白い雲が静かに流れていた。橋の下の影に立つ金の髪は、朝日を受けて淡く輝いている。フェイト先輩は腕を組み、静かにこちらへ視線を向けた。
「早いな、先輩」
「任務前に整理しておきたかったからね。昨日は時間が足りなかった」
その声音は穏やかだが、目の奥に鋭い集中が宿っている。俺はフェンスに背を預け、風に混じる川の匂いを吸い込んだ。レオルドは少し離れた場所で、周囲を警戒しながら耳を動かしている。
「で、その犯罪者ってのは何者だ」
「コードネームはヴァルグレイ。元宇宙警察の技術補佐官だよ」
淡々と告げられた言葉に、思わず眉が動いた。裏切りか、それとも転落か。フェイト先輩は視線を川面に落としながら続ける。
「エモルギアの粒子制御理論を改造し、魔力と融合させる研究を進めていた。だが制御実験で事故を起こし、責任を取らされる形で除隊になった」
「恨みか」
「それだけじゃない。彼は証明したいんだ。宇宙警察の技術が、この星の異能を凌駕できると」
胸の奥に嫌な予感が走る。堕天使を利用する理由が、そこに繋がる。
「堕天使を実験台にする気か」
「違う。もっと効率的な方法を選ぶはずだよ」
フェイト先輩は顔を上げた。その瞳は冷静に未来を測っている。
「堕天使の持つ負の魔力は高密度で安定している。彼はそれをエモルギアの増幅炉として利用するつもりだ。つまり、魔力を燃料にした強制進化装置を作ろうとしている」
風が強まり、橋の影が揺れる。川面がきらりと光り、朝日が反射する。俺は腕を組み直し、息を整えた。
「強制進化ってのは、暴走前提だろ」
「そう。制御できなければ都市一つが消える規模になる」
言葉は静かだが、その重みは十分だ。レオルドが低く唸り、尻尾を固くする。
「狙いは堕天使の誰か、あるいはその周辺か」
「可能性は高い。接触記録から、特定の上級堕天使に近づこうとしている形跡がある」
胸の奥に、昨夜の赤い瞳が浮かぶ。偶然では済まない。
「先輩、取引現場は分かってるのか」
「まだ断定はできない。でも接触は今夜か明日。彼は焦っている」
河川敷の風が、草をなびかせる。朝日はすでに高くなり、街の音が少しずつ増えていく。
「焦りは判断を鈍らせる」
「だから今が止め時だよ」
フェイト先輩は一歩近づき、まっすぐ俺を見る。その距離は近いが、圧ではない。信頼を試すような視線だ。
「太郎、この任務は単独では危険だ。あなたの盤面制御と、私の解析が必要になる」
川の流れが、静かに音を立てる。俺は小さく息を吐いた。
「王に命令は効かないって言っただろ」
「だからお願いだよ」
同じ言葉でも、今度は重みが違う。俺は視線を外し、空を見上げた。
「分かった。堕天使が燃料にされる前に、止める」
風が止み、朝の光がはっきりと差し込む。
「ありがとう」
その一言は短い。だが確かな信頼が込められていた。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王