サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
夕暮れの街は、妙に静かだった。
人通りはある。だが空気の底に、わずかな歪みが沈んでいる。堕天使の魔力は鋭い棘のように残る。見えないが、確かにそこにある。
「反応は薄いけど、消えていない」
フェイト先輩が足を止める。金の髪が夕陽を受けて淡く光る。
「昨夜の堕天使の残滓か」
「うぅん、これは意図的に削られている。痕跡を隠そうとしてる」
俺はしゃがみ込み、地面に触れる。乾いたアスファルトの下で、わずかに粒子がざらつく。
「削った跡があるけど、自然消失じゃない」
「ヴァルグレイは几帳面だから、証拠を残すタイプじゃない」
先輩の声は静かだが、警戒は緩まない。
俺たちは路地を抜け、人気のない区域へと足を進める。風が止み、建物の影が長く伸びる。
「堕天使が動いた経路は?」
「南西方向に高密度魔力の滞留点がある」
「教会跡か」
街外れにある廃教会。人払いはされていないが、誰も近づかない場所だ。
「堕天使が拠点にするには目立ちすぎる」
「だから逆に使える。人間は“それらしい場所”を避ける」
皮肉だな、と俺は小さく笑う。
崩れかけた教会の扉を押す。軋む音がやけに大きい。
内部は静まり返っている。壊れた長椅子。割れたステンドグラス。だが床には新しい靴跡がある。
「最近、誰かが出入りしている」
「複数だね。魔力の濃度も高い」
俺は祭壇へ歩み寄る。石の台座に、細い焦げ跡が走っている。
「これ、エモルギア粒子の焼き付きだ」
「吸収実験の痕跡だよ。堕天使の魔力を強制的に引き出してる」
先輩の声がわずかに硬くなる。
「堕天使は協力しているのか」
「違う。これは拘束下の痕跡。魔力の流れが乱れている」
胸の奥がざわつく。
「実験体か」
「可能性は高い」
沈黙が落ちる。
俺は壁に刻まれた幾何学模様を指でなぞる。粒子制御式だ。見覚えがある。
「ヴァルグレイの理論式だな」
「うん。魔力増幅フィールドの補助回路」
「つまりここは中継点だ。本命は別にある」
フェイト先輩がこちらを見る。
「どうしてそう思うの」
「ここは痕跡が多すぎる。あいつは無駄を嫌う。ここは“見せ場”だ」
先輩の瞳が細くなる。
「罠だと?」
「俺たちを誘導してる。魔力を集めさせる場所を見せて、本命の炉心を隠す」
風が吹き抜ける。割れた窓が鳴る。
「なら本命はどこだ」
「堕天使が自然に集まる場所。信仰でもなく、戦場でもない」
考える。盤面を組み直す。
「……学園周辺」
先輩が息を止める。
「高位悪魔と堕天使の交差点。魔力が安定している」
「ヴァルグレイは堕天使を“炉心”にする。なら安定供給できる場所を選ぶ」
沈黙が続く。
「太郎、もしこれが誘導だとしたら」
「分かってる。俺たちはもう盤面に乗ってる」
「それでも行く?」
俺は振り返らない。
「王は盤面から逃げない」
先輩が小さく息を吐く。
「なら急ごう。増幅が始まる前に」
教会を出る。空はすでに赤く染まり始めている。
静かな街が、嵐の前のように息を潜めていた。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王