サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
拠点に戻った頃には、夜はすっかり深まっていた。窓の外に広がる街明かりは静かで、何事もなかったかのように揺れている。その穏やかさが、逆に胸に引っかかった。教会で感じた魔力の歪みも、エモンズの咆哮も、ここには届いていない。
机の上に置かれたエモルギアが、弱々しく明滅している。割れてはいない。砕かれてもいない。ただ、ひどく疲れているように見えた。触れれば、微かな震えが指先に伝わる。怒りでも悪意でもない、混乱に近い波長。
利用されたのは堕天使だけじゃない。こいつもだ。
「それでフェイト。尋問の結果はどうだった?」
声に出してみると、思っていたより低かった。苛立ちではない。焦りだ。ヴァルグレイの理論は一歩ずつ進んでいる。こっちは後手に回り続けている気がしてならない。
「結果は、はっきりと言えばほとんど知らなかったわ。無知というべきかエモルギアの事に関してはほとんど知らないわ」
フェイトは淡々としているが、その瞳は鋭い。ミッテルトは計画の核心を知らなかった。ただ“強くなれる”とだけ聞かされていたらしい。
「まぁ、この地球では宇宙に関する事はほとんど極秘扱いだからね。けれど、一つ気になる情報があったわ」
嫌な予感がする。こういう時の直感は外れない。
「気になる情報?」
「あの堕天使が言うには近く神器を持った子がここに来るらしい。その子を使う予定かもしれない」
神器。胸の奥で王国の駒が微かに反応する。所有者の想いに応じて変化する力。願いが強ければ強いほど、形を持つ。そこにエモルギアを重ねれば、出力は跳ね上がる。
「神器、そういう事か」
自分の声がわずかに硬くなる。
「太郎も知っていると思うけど、神器は所有者の感情によって変化する。それは君の王国の駒とキズナエモルギアが共鳴した事でギャバンになれたようにね」
あの時の感覚を思い出す。覚悟と、守るという決意が一つに重なった瞬間。通常値を超えるギャバリオン粒子が生成された。あれが意図的に歪められたらどうなる。
視線を机の上へ落とす。エモルギアはまだ不安定だが、さっきより光が穏やかだ。フェイトの保護フィールドが、優しく包み込んでいる。
「……こいつも被害者だな」
思わず零れた本音だった。エモルギーは感情に反応する生命体だ。善意にも悪意にも触れれば揺れる。ならば、ヴァルグレイの冷たい理論に触れ続けたらどうなる。
「エモルギーは利用されただけよ」
フェイトの言葉は静かだが、そこに怒りが滲む。
レオルドが段ボールから顔を出す。相変わらずだらしない格好だが、目は真剣だ。
「さて、厄介な情報が来たぜ」
「何か分かったかレオルド?」
「あぁ、どうやら奴はエモルギアを動力源にした兵器を開発したらしい」
兵器。感情を燃やす装置。神器の願いを増幅し、エモルギアで出力を強制的に底上げする。想いを力に変えるどころか、搾り取る仕組みだ。
胸の奥に鈍い痛みが走る。もし神器保持者が、まだ幼い子どもだったら。願いが純粋であるほど、出力は高くなる。
「はぁ、どうやら今回の事件も面倒な事になりそうだな、レオルド。悪いがもしもの時は」
「あれか、認可要請は色々と面倒だけどな」
「仕方ないだろ、その兵器の規模にエモルギアの事を考えるとな」
「分かっている分かっている。けど、使わない事が一番だけどな」
使わないのが一番。だが最悪を想定しない王は、王じゃない。
窓の外を見る。街は変わらず静かだ。だがそのどこかで、神器を持つ子が近づいているかもしれない。
ヴァルグレイは観測するだろう。感情が揺れた瞬間を。願いが強くなった瞬間を。
ならば。
王国の駒に触れる。脈動が伝わる。キズナエモルギアとの共鳴が、胸の奥で静かに熱を帯びる。
守ると決めた瞬間に、力は応える。
利用させない。歪ませない。願いは奪わせない。
「二正面だな」
レオルドが低く呟く。
「神器保持者の保護と、兵器の阻止」
「どっちもやる」
口にした瞬間、覚悟が固まる。
エモルギアの光が、今度ははっきりと安定した。
理論で縛るなら、こっちは信念で繋ぐ。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王