サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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堕天使事件 Case6

 地下聖堂は礼拝のための空間ではなく、冷たい実験場へと姿を変えていた。石壁には無数の配線が這い、天井から吊るされた照明が青白い光を落としている。中央には魔法陣と機械装置が重なり合い、異様な気配が渦巻いていた。

 

「ほぅ、侵入者が悪魔以外にもいたのか」

 

 低く響く声と共に、男がゆっくりと振り向く。ヴァルグレイ。細身の体躯に似合わぬ重い気配を纏い、視線は鋭く俺を射抜く。その横には、見覚えのある顔があった。

 

 兵藤が立っている。腕の中には金髪の女性を抱え、その身体は糸の切れた人形のように力を失っていた。頬は青白く、呼吸の気配がほとんど感じられない。

 

「えっ、あんたは一体って、この前のギャバンがなんでここに」

 

 兵藤の声が震える。混乱と恐怖が入り混じった表情だ。先ほどまでのブルースワットの装備は解かれ、今は蒸着したままの姿で立っている。

 

「そこにいる奴を逮捕に来たが、遅かったようだな」

 

 視線をヴァルグレイへ向ける。男は薄く笑い、ゆっくりと肩をすくめた。

 

「確かに遅かったようね、あなたが彼が言っていたギャバンね」

 

 声の主は、その隣に立つ堕天使だった。派手な衣装を纏い、その手には禍々しい輝きを放つ神器が握られている。聖性とは程遠い、濁った光が脈打っていた。

 

「わざわざ、神器を堕天使に渡したのか」

 

 問いかけると、ヴァルグレイは指先で装置を軽く叩く。

 

「お前も知っているだろ。このエモルギアには負の感情が必要だと。その結果だ」

 

 装置が低く唸る。空間が歪み、黒ずんだ霧が渦を巻きながら形を成す。同時に現れたのは、暗色の靄を纏った二足歩行の怪物だった。輪郭は定まらず、内側で何かが蠢いている。

 

「なんだよ、あの怪物は」

 

 兵藤が思わず後ずさる。

 

「エモンズ、負の感情でエモルギアから生まれた怪物だ」

 

 言葉と共に、怪物が低く唸る。空気が重くなり、胸の奥がざわめく。

 

「そう、そして!」

 

 堕天使が高らかに宣言する。見上げた先で天井が割れ、金属音が響き渡る。現れたのは堕天使を模した巨大な機械兵装だった。翼の形をしたフレームが展開し、赤い光が眼のように点滅する。

 

「あれは」

 

 兵藤の声が掠れる。

 

「エモルギアのエネルギーを利用した兵器という訳か」

 

 冷静に分析する。禍々しい波動が機体全体から放たれている。

 

「そういう事だ」

 

 ヴァルグレイが満足げに頷く。

 

「なんだよ、こんなの」

 

 兵藤の声に恐怖が混じる。目の前の現実が理解を超えているのだろう。

 

「はぁ、全く、想定していたとはいえ、早々に行う事になるとはな」

 

 小さく息を吐く。地下空間に漂う熱気と焦げた匂いが、喉を刺す。

 

「えっ」

 

 兵藤が顔を上げる。

 

 その瞬間、上空から金属が空気を裂く音が響いた。天井の破片を弾き飛ばし、コスモギャバリオンからアンカーが射出される。鋼の爪が床に突き刺さり、青白い光を放つ。

 

 俺は迷わずアンカーに手を伸ばす。装甲越しに伝わる振動が、上空の機体と繋がった証だ。そのまま身体を引き上げ、ワイヤーに沿って宙へ舞い上がる。

 

 視界が一気に開ける。地下聖堂を見下ろしながら、機体のハッチへと滑り込む。コクピットに収まった瞬間、外部映像が立体投影される。

 

 巨大兵器が翼を広げ、エモンズが唸り声を上げる。ヴァルグレイの笑みが拡大表示される。

 

 コクピットへと滑り込んだ瞬間、全天周モニターが地下聖堂の全景を映し出す。割れた天井から差し込む月光が、瓦礫と魔法陣を照らし、中央にそびえる巨大兵装の輪郭を浮かび上がらせていた。堕天使を模した鋼鉄の躯体は、翼を思わせるフレームをゆっくりと展開し、内部に赤黒い光を宿している。

 

 ヴァルグレイが一歩前へ出る。その足取りには迷いがなく、まるで用意された舞台へ上がる役者のようだった。背後ではエモンズが不規則に蠢き、黒い靄を撒き散らしながら低く唸る。堕天使は神器を掲げ、その刃から溢れる濁った光を機体へと流し込んだ。

 

「さぁ、実験の第二段階だ」

 

 ヴァルグレイが装置の基部に触れると、機体の胸部が左右に開く。内部には複雑な回路と、脈動するコアが鎮座していた。紫電のようなエネルギーが走り、地下空間の空気が震える。

 

 堕天使が先に跳躍する。翼をはためかせ、開いた胸部へと吸い込まれるように飛び込んだ。神器の光が内部回路に絡みつき、機体の瞳が強く点灯する。

 

 続いてエモンズが地を蹴る。黒い靄が形を保ったまま収束し、鋼鉄の内部へと溶け込んでいく。その瞬間、機体全体が不気味に脈打ち、関節部から軋む音が響いた。

 

 最後にヴァルグレイが振り返る。地上に残る兵藤と、上空の俺を一瞥し、薄く笑う。

 

「宇宙刑事、観測させてもらう」

 

 その言葉と共に、彼もまた跳躍する。白衣の裾が翻り、開いた胸部へと滑り込む。内部が閉じられ、装甲が重なる音が地下に響いた。

 

 次の瞬間、巨大兵装の翼が大きく広がる。エモルギアのエネルギーと負の感情が混ざり合い、禍々しい光が地を這う。床の魔法陣が砕け、天井の瓦礫が宙へ浮かび上がる。

 

 巨大な瞳がゆっくりとこちらを向いた。

 

 敵は一つになった。

 

 コクピットに身を沈めた瞬間、外部映像が全天周に広がる。巨大兵装が翼を震わせ、地下聖堂の瓦礫を吹き飛ばしながら浮上を始めていた。エモンズの黒い靄が機体内部で脈動し、堕天使の光が装甲の隙間から漏れ出す。地上に残る兵藤の姿が小さく映り、胸の奥に熱が走る。

 

「太郎、聞こえるか」

 

 背後席からレオルドの低い声が届く。普段のだらしなさは消え、警察官の顔になっている。

 

「最高議長より直通回線。強襲モード、使用承認だ」

 

 短い言葉だったが、その重みは十分だった。コクピット中央のホログラムが赤から蒼へと変わり、封印されていたコマンドが解放される。

 

「やっとか」

 

 操縦桿を握る手に力を込める。フェイトが隣のサブコンソールで素早く指を走らせる。

 

「出力制限解除、段階的に上げるよ。無理はしないで」

 

 機体内部で低い振動が生まれる。背部ユニットが分離し、外装パネルがスライドしていく。光学迷彩が解除され、鋼色の機体が夜空に姿を現す。機首がわずかに持ち上がり、追加ブースターが展開する。

 

 腹部装甲が左右に開き、内部フレームが回転する。エネルギーラインが再接続され、機体全体を蒼白い光が走る。翼状のユニットが伸び、推進ノズルが多段展開する。

 

「コスモギャバリオン、強襲モードへ移行」

 

 レオルドの声がシステム音声と重なる。警告表示が一瞬点滅し、すぐに安定値へ変わる。

 

 機体のフォルムが明確に変わる。機動重視の流線形から、突撃特化の鋭角的な姿へ。前部装甲が厚くなり、エネルギーキャノンが前方へスライドする。機体中心部のコアが強く脈動し、内部温度が急上昇する。

 

「出力八十パーセント到達。残り二十、いける?」

 

 フェイトが横目で見る。

 

「行けるさ。王様が退く訳にはいかないだろ」

 

 足元から伝わる振動が強くなる。機体が唸り声を上げるように震え、推進器が火を噴く。地下聖堂を突き破り、巨大兵装が上昇するのを追うように、コスモギャバリオンが急加速する。

 

 強襲モードのスラスターが一斉に点火し、夜空に蒼い軌跡を描く。視界の端で巨大兵装が振り返る。赤い瞳がこちらを捉える。

 

「さぁ、実験だと言ったな」

 

 操縦桿を前へ倒す。

 

「なら、こっちは実戦だ」

 

 蒼光を纏った機体が一直線に敵へ向かう。強襲モードの真価を、今から叩き込む。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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