サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
結界の残光がゆっくりと薄れていく中、森は異様な静けさに包まれていた。巨大戦の衝撃で何本もの木が折れ、焦げた葉の匂いが湿った土に混じって漂っている。夜風が枝葉を揺らすたびに、かすかな火花の残滓が地面へと落ちた。
コスモギャバリオンから跳躍し、地面へ降下する。着地の瞬間、膝を軽く曲げて衝撃を吸収する。土がわずかに沈み、靴底に湿り気が伝わる。上空の雷光はすでに消え、残るのは月明かりだけだ。
森の奥に、二つの影が立っている。
ヴァルグレイは崩れた木の幹に手を添え、静かにこちらを見ていた。その背後で、黒い靄が蠢く。エモンズが地面を這うように形を変え、ゆらりと立ち上がる。輪郭は曖昧でありながら、その中心だけが濃く沈んでいる。
ゆっくりとギャバリオントリガーを引き抜く。金属音が夜に溶ける。銃口を僅かに下げたまま、照準は外さない。
「わざわざ森まで逃げるとはな。散歩にしては物騒すぎるだろ」
軽く肩を回しながら言うと、ヴァルグレイは口元を歪めた。
「君の戦いは観察に値する。ここなら邪魔も入らない」
その声音は落ち着いているが、目の奥には計算の色がある。指先がわずかに動く。
「エモンズ」
短い指示。
次の瞬間、黒い影が弾けた。エモンズの腕が刃のように伸び、地面を抉りながら一直線に迫る。森の空気が重くなる。負の感情が波紋のように広がり、胸の奥をざらつかせる。
だが足は止まらない。トリガーを構え直し、体勢を低く落とす。
「ほら来た。挨拶も無しかよ」
エモンズの影が頭上を覆う。枝葉が震え、月光が遮られる。戦闘の始まりを告げる気配が、森全体を張り詰めさせていた。
エモンズの躯体が膨れ上がる。黒い靄が収束し、外殻の表面に硬質な光沢が生まれる。その装甲はまるで蟹の甲羅のように幾重にも重なり、節ごとに鋭い棘が突き出していた。月光を受けて鈍く光り、森の影を映し込む。
照準を合わせ、引き金を引く。ギャバリオントリガーから放たれた蒼いビームが一直線に走り、エモンズの胸部へ命中する。だが、光は弾かれた。外殻に触れた瞬間、波紋のように広がり、四散する。焦げ跡すら残らない。
「硬いな」
言葉と同時に、エモンズが地を蹴る。重いはずの体躯が信じられない速度で迫り、前腕が鎌のように変形する。空気を裂く音が耳を打つ。
後方へ跳び、地面を転がるように回避する。土が舞い、折れた枝が砕ける。立ち上がる動作と同時に、腰へ手を伸ばす。ギャバリオンブレードが閃光を放ちながら抜き放たれる。
再び襲い掛かる鎌を、刃で受け止める。衝撃が腕を震わせ、火花が散る。外殻の装甲は硬い。だが、節の隙間までは覆えない。
踏み込み、刃を滑らせる。甲羅の重なり合う境目へと刃先を押し込む。装甲の隙間から内部へ電撃が流れ込み、黒い靄が揺らぐ。エモンズが低く唸り、後退する。
追撃をかける。横薙ぎに振るった刃が、肩部の節を裂く。硬質な外殻が割れ、内部の暗い核が一瞬露出する。そこへさらに踏み込み、縦一閃。電光が走り、内部構造を焼き焦がす。
エモンズが大きく仰け反る。装甲が再生を試みるが、先ほどまでの速度はない。隙間を的確に狙われ、修復が追いついていない。
その様子を見ていたヴァルグレイの表情が、わずかに変わる。冷静さを装っていた瞳が見開かれ、計算を超えた事実に直面した色を宿す。
「……解析以上だと?」
エモンズが再び吼える。だが、その動きは先ほどよりも鈍い。
刃を構え直す。足元の土を踏み締め、呼吸を整える。
「外殻が硬いなら、中を狙うだけだ」
エモンズが再び立ち上がる。裂けた装甲の隙間から黒い靄が噴き出し、傷口を塞ごうと蠢く。だが再生は遅い。ヴァルグレイの視線が鋭くなり、指先が空間に魔法陣を描き始める。森の空気が重く沈み、足元の土がわずかに震える。
ここで終わらせる。
ブレードを一度引き、距離を取る。左手でギャバリオントリガーを引き抜き、腰のエモルギアホルダーへ指を滑らせる。冷たい感触のチップを一枚、素早く装填する。内部機構が回転し、低い駆動音が鳴る。
続けざまに二枚、三枚。間を置かず連続で差し込むたび、トリガー内部のギャバリオン粒子が唸りを上げ、青白い光が銃身の縁を走る。負荷が増していくのが、装甲越しにも伝わる。
照準を定め、深く息を吸う。
『投影!ギャバン!シャリバン!シャイダー!』
音声と同時に、視界が切り替わる。最初に重厚な光が装甲を包み、斬撃の軌道が鋭く補正される。次の瞬間、機動が一段跳ね上がる。森の木々の間を縫うように、身体が滑る。さらに感覚が研ぎ澄まされ、敵の動きがわずかに遅く見える。
エモンズが腕を振り下ろす。だが、すでにそこにはいない。横へ回り込み、裂け目に刃を叩き込む。装甲の内側で火花が散り、黒い靄が揺らぐ。間髪入れず背後へ跳躍し、縦一閃。続く横薙ぎ。連撃が隙間を縫うように刻まれる。
ヴァルグレイが魔法陣を展開するが、足元の根を蹴り、枝を踏み台にして軌道を変える。高速で移動する残像が森に幾つも生まれ、エモンズは狙いを定められない。
最後の一撃のために、地面を強く踏み込む。刃に集束した光が脈打つ。再生を試みる核が、月明かりの下で露出している。
踏み込み、振り抜く。
最初の一歩で地面を抉るほど踏み込み、上段から振り下ろす。重い一閃がエモンズの胸部を縦に裂く。次の瞬間、残像が赤く滲み、軌道が斜めに走る。横へ滑るように移動し、裂け目へ鋭い斬撃を叩き込む。さらに青い光が弧を描き、回転と共に横薙ぎの刃が走る。
だが、それらは連続しているはずなのに、森に立つ影は四つに見えた。
銀の斬撃。
赤の閃光。
青の軌跡。
そして深紅と夜色を纏った最後の一閃。
時間が引き伸ばされたかのように、四人の宇宙刑事が同時に刃を振るった錯覚が生まれる。月光の下で、ブレードの光が交差し、十字に重なる。
エモンズは動けない。装甲が開き、内部の核が露出する。そこへ最後の振り下ろしが叩き込まれる。刃が核を断ち、電撃が内部を駆け巡る。
森に風が止まる。
次の瞬間、黒い靄が弾け、外殻が崩れ落ちる。裂け目が四方向へ広がり、エモンズの躯体が静かに分断される。
離れた位置でそれを見ていたヴァルグレイが、思わず一歩後ずさる。
「……馬鹿な。今のは……」
視線が揺れる。確かに見えたのだ。四人が同時に駆け、同時に斬りつけたように。
「同時に、四人……?」
だがそこに立っているのは一人だけだ。ギャバン・キングが、ブレードを静かに下ろす。
「残像だよ。目が追いつかなかっただけだ」
低く告げると同時に、エモンズの核が音もなく崩壊する。闇が霧散し、森に月明かりが戻る。
ヴァルグレイの顔から、余裕が消えていた。
次回の王は
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妖怪王
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幻想王