サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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堕天使事件 Case10

 事件から数日が過ぎた。街は何事もなかったように日常を取り戻している。教会は封鎖され、森の焦げ跡も立入禁止の札が立っただけで、もう誰も騒いでいない。けれど、俺の中では終わっていなかった。

 

 放課後の屋上に出ると、乾いた風が制服の裾を揺らした。フェンス越しに見える街並みは穏やかで、どこにも巨大兵器の残像はない。けれど、あの結界の内側で起きた出来事は、確かに現実だった。

 

「難しい顔してんな、王様」

 

 足元から低い声が聞こえる。段ボール箱の中に収まったレオルドが、こちらを見上げていた。見た目は愛嬌のあるコーギーそのものだが、瞳の奥は完全に刑事のそれだ。

 

「ヴァルグレイはどうなってる」

 

 フェンスにもたれたまま尋ねると、レオルドは鼻を鳴らした。

 

「宇宙警察本部で取り調べ中だ。最高議長直轄の監視下にある。逃げ道はない」

 

 あの男が拘束されている光景を想像する。冷静な目をしていた。捕まることさえ、どこかで想定していたような顔だった。

 

「口は割ったか?」

 

「いや。だが妙な証言をしている」

 

 レオルドは段ボールの縁に顎を乗せる。

 

「自分は“試験担当者”に過ぎない、と言っているらしい」

 

 試験。あの教会が、実験場だったということか。

 

 胸の奥がわずかにざらつく。巨大戦で強襲モードが承認された時点で、単なる地球事件ではないと分かっていた。最高議長が動くというのは、宇宙規模の問題だ。

 

「エモルギアの流入経路は?」

 

「複数の惑星で同時期に反応が確認されている。地球だけじゃない」

 

 レオルドの声は低いままだが、その内容は重い。

 

「偶然で説明するには、数が合わねぇ」

 

 俺は空を見上げる。雲がゆっくり流れている。その向こうに、本部がある。

 

「つまり、誰かが意図的に撒いてる」

 

「その可能性が高い」

 

 宇宙警察を各地に分散させるための策。守るべき世界を同時に揺らせば、対応は薄まる。盤面を広げて、守りを裂く。

 

 王を目指すと言っておきながら、俺はまだ目の前の敵を倒すことに集中していた。だが本当の戦いは、その先にある。

 

「フェイト先輩は?」

 

「本部に残っている。多次元経由の流通も視野に入れて調査中だ」

 

 多次元。ギャバンインフィニティの世界で起きている事件と、地続きかもしれない。

 

 風が強まる。フェンスが軋み、街の音が遠くに聞こえる。

 

「レオルド」

 

「なんだ」

 

「今回の事件、終わったと思うか?」

 

 少しの沈黙の後、レオルドは短く答えた。

 

「始まりだな」

 

 即答だった。

 

 俺も同じ考えだ。ヴァルグレイは駒だった。あれほどの準備と実験を、単独でやるはずがない。エモルギアを多次元に流している組織がいる。地球はその一つに過ぎない。

 

 王になると決めた以上、守る範囲は広がる。目の前の街だけじゃない。盤面そのものを読む必要がある。

 

「面倒な相手になりそうだな」

 

 口では軽く言うが、胸の奥は静かに熱い。

 

「王様が逃げるか?」

 

「逃げねぇよ」

 

 フェンスから背を離し、空を見上げる。夕焼けがゆっくりと色を変え、街を赤く染めていく。

 

 エモルギアはまだ流れている。黒幕は姿を見せていない。ヴァルグレイは捕まったが、盤面は動き続けている。

 

 静かな予感が胸に沈む。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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