サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
下層通路の奥から現れた連中は、海辺で俺を攫った商人たちよりもずっと無機質な目をしていて、こちらを人間としてではなく、運搬中の荷物ごと奪う対象として見ていた。
赤い警報灯が天井の金属板を濡らしたみたいに照らし、その下で黒い装甲服の輪郭だけが鈍く浮かぶたびに、この戦艦のどこにも逃げ場なんて残っていないんじゃないかという嫌な想像が胸の奥へ広がっていく。
『正面は塞がれた、右手の貨物区画へ回るぞ、搬送ラインの非常路ならまだ生きている可能性がある。』
レオルドの声は低く落ち着いていたが、その中に焦りが混じっていないわけではなかったし、俺もその響きだけで、今の状況がまずい方向へ傾いていることを嫌でも理解した。
ケースの取っ手を両手で握り直し、腕が抜けそうな重さに歯を食いしばりながら、レオルドの小さな背中を追って横の搬送通路へ飛び込むと、床の格子の下を青い冷却光が流れていた。
通路はさっきまでいた場所よりさらに冷えていて、壁面には整理番号と意味の分からない符号がびっしり並び、ここが人を運ぶ場所ではなく、物を仕分ける場所だと一目で分かる気味の悪さがあった。
遠くの隔壁越しに銃声らしい乾いた音が響き、そのたびに怜慈さんが一人で時間を稼いでいる光景が勝手に頭へ浮かぶせいで、俺は足を止めるどころか、転ばないようにするので精一杯だった。
「レオルド、こっちって本当に逃げ道なのか、どう見ても嫌な場所にしか見えないんだけど。」
『逃げ道というより迂回路だ、そして犯罪者は大抵、商品を逃がさない構造を好む。』
言い方は妙に冷静だったが、その意味は最悪だったし、角を曲がった瞬間に視界へ飛び込んできた光景が、その言葉の続きを全部代わりに語っていた。
広い貨物室の中央に、背の高い透明カプセルが何本も並んでいて、その内側には俺と同じくらいか、少し上に見える子どもたちが、目を閉じたまま静かに眠らされていた。
眠っていると言うには静かすぎたし、眠らされていると言うには整いすぎていた。
手首には細い拘束具が巻かれ、胸元には番号札みたいな板が貼られ、冷却ガスの薄い白がカプセルの内側でゆっくり回っているせいで、まるで誰かの都合で保存されている商品みたいにしか見えなかった。
「……まだ、生きてるのか。」
自分でも驚くくらい小さな声だったが、レオルドは一番近いカプセルの足元へ走ると、首輪の発光板から細い光を伸ばして内部の生体反応を走査した。
『生体反応はある、深い拘束睡眠に落とされているが、少なくともこの区画の個体はまだ間に合う。』
その言葉を聞いても、胸のつかえが軽くなることはなかった。
助かると分かったのに安心できないのは、ここにいるのが俺だけじゃなかったことと、こいつらがずっとこんなふうに並べられていた時間を想像してしまったからだと思う。
カプセルの中の一人は、俺よりずっと小さかった。
寝顔はただ眠っている子どもと何も変わらないのに、その胸に貼られた管理札だけが妙に冷たく光っていて、誰かの名前じゃなく値段でも書いてありそうに見えた瞬間、喉の奥が熱く痛んだ。
「こんなの、駄目だろ……こんなふうに置いといていいわけ、ないだろ。」
言ったあとで、それが誰に向けた言葉なのか自分でも分からなかった。
攫った連中に向けた怒りでもあったし、今すぐ全部壊して連れ出せない自分への苛立ちでもあったし、何より、ここまで来るまで何も知らなかったことへの悔しさが強かった。
その時、俺が引きずってきたケースが、ごくわずかに震えた。
最初は床の振動かと思ったが、取っ手に触れた手のひらへ返ってきたのは、外側から叩かれる硬い揺れではなく、内側で何かが脈打つような細い共鳴だった。
『……今の反応は何だ、坊主、お前そこから離れるな、ケースが微弱に応答している。』
レオルドが振り返ったが、俺はすぐには動けなかった。
カプセルの中の子どもたちを見たまま、さっきまで自分が助かりたいと思っていた気持ちが、別の形へ変わっていくのを、はっきりと感じていたからだ。
怖いのは怖い。
今すぐここから逃げろと言われたら、足が勝手にそっちへ向くかもしれない。
それでも、このままこの人たちを置いていったら、たぶん俺は、海辺へ戻っても前みたいに息を吸えない。
「レオルド、俺、こいつらを置いていきたくない。」
自分の声なのに、さっきまでより少しだけ低く聞こえた。
子どもっぽい意地じゃなくて、胸の真ん中に刺さったものをそのまま口にした時の音だった。
『気持ちは分かる、だが今のお前一人で、全員を連れて出るのは無理だ。』
レオルドの返事は厳しかったが、突き放す冷たさではなかった。
無理だと知っている大人の声で、それでも本当は見捨てたくないのが分かるから、余計に悔しい。
貨物室の外で、金属靴が床を打つ音が近づいてくる。
追ってきた別働隊が、この区画へ回り込んできたのだと分かる気配だった。
赤い警報灯がカプセルの列を順番に染め、そのたびに眠っている顔が浮かび上がって、俺の中で何かがもう戻れないところまで進んでいく。
「じゃあ、無理じゃないようにしないと駄目だろ。」
その言葉が落ちた直後、貨物室の上部ハッチが鋭い音を立てて開いた。
赤い光とは違う、もっと真っ直ぐで強い色がそこから差し込み、冷え切った区画の空気を一瞬で塗り替える。
見上げた先には、さっきの赤い装甲を解いたままの怜慈さんが立っていて、その静かな目だけが、まっすぐこちらとカプセルの列を見下ろしていた。
俺はその姿を見た瞬間、自分でも驚くほどはっきりと思った。
助かりたいじゃない。
あの人みたいに、助けに行ける側へ立ちたい。
次回の王は
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