サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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剣の因子 Case2

 昼休み中に学校を抜け出すこと。

 本来なら校則違反だし、下手をすれば面倒な説教もついてくる。

 それでも、俺は少しでも情報が欲しかった。昼間の平和な顔をした駒王街の下で、何かが動き始めている匂いがしたからだ。

 

『お前な、普通にそれはサボりだぞ』

 

 耳元――正確には、端末の骨伝導スピーカーからレオルドの声が響く。

 姿はコーギーのままでも、言葉だけは相変わらず遠慮がない。

 

「そう言うなよ、レオルド。こういうのでしか手に入らない情報があるだろう」

 

『全く、これが本当に宇宙刑事かよ』

 

「まぁまぁって」

 

 俺は校門の死角を選んで、制服の襟を立てる。

 警備員がいるわけじゃないが、見られればそれだけ余計な説明が必要になる。

 盤面は静かに動かす。昼のうちに余計な波風を立てるのは得策じゃない。

 

 駒王街へ向かう通学路は、昼休みらしいのどかさで満ちていた。

 コンビニの前で笑っている学生、カフェのテラスでスマホをいじる大人、遠くで走る車の音。

 全部が「今日もいつも通り」を演じている。

 

 ――だけど、俺の中のキズナエモルギアだけは、演技をしない。

 

 歩いている最中、胸の奥がふっと熱を帯びた。

 次の瞬間、スーツの中にいるみたいな錯覚と一緒に、空気の味が一段変わる。

 

「……なんかあるのか?」

 

 俺が小さく呟くと、キズナエモルギアは言葉に反応するように、微かな振動で肯定を返してきた。

 頷く、というより「そっちだ」と示す感覚が、俺の足を自然に曲げていく。

 

『反応、出たか?』

 

「出た。しかも、近い」

 

 俺は人混みを避ける。

 わざと目立たない路地へ、日陰へ、視線の届きにくい方向へ進む。

 ここで見失うようなら、それはその程度の匂いだ。

 

 キズナエモルギアが導いた先は、やっぱり路地裏だった。

 観光地でもないし、特別な店もない。

 ただ古い塀と、ゴミ置き場と、昼なのに冷えた空気があるだけの場所。

 

「路地裏……ここに何が」

 

 俺は壁際へ寄り、地面をじっと見た。

 こういう痕跡は、派手に光ってくれない。

 “見つけられるやつだけが見つける”って顔で、足元に潜ってる。

 

 そして――あった。

 

 アスファルトの隙間に、布切れが挟まっている。

 色は白に近い、でも汚れがついて灰色っぽく見える。

 ほんの少しだけ、金属臭と焦げた匂いが混ざっていた。

 

「これは……欠片か?」

 

 俺は指先で摘まみ、光に透かす。

 布地の織り方は普通じゃない。

 軽いのに丈夫で、引っ張ってもあまり伸びない。

 

『……これは、先日の堕天使達の所で見かけた奴の衣服か』

 

 レオルドの声が低くなる。

 だらしない調子が一瞬で抜けて、現場の刑事の音になる。

 

「堕天使だと? また、面倒な奴が関わっている」

 

『まだ断定はするな。ただ、聖属性の匂いが混じってる。エモルギア単体じゃない』

 

 俺は布切れを握りしめる。

 堕天使。聖属性。学園。

 単語が揃うほど、嫌な予感は具体的な形を持ち始める。

 

 だが、ここで長居はできない。

 昼休みは短いし、戻ると小猫に言った約束もある。

 俺は布切れをポケットに仕舞い、歩調を上げた。

 

「手掛かりは回収した。戻る」

 

『お前、ほんとに戻るんだな?』

 

「約束したからな」

 

 それだけ言って、俺は学園へ引き返した。

 校門をくぐる瞬間、時計を確認する。

 ――間に合う。ギリギリだが、間に合う。

 

「セーフ!」

 

 勢いで言ってしまった。

 次の瞬間、背筋が冷える。教室の扉を開けた俺を待っていたのは、あの無表情な視線だったからだ。

 

「アウトギリギリですよ」

 

 子猫が席に座ったまま、こちらをじっと見つめている。

 怒っているかどうかは顔からは読めない。

 でも、圧がある。あれは間違いなく、圧だ。

 

「そんなに怒るなよ。もしかして先生にチクった?」

 

 冗談めかして言うと、小猫は瞬き一つだけして答えた。

 

「……別に。それよりも、そちらは街に何を」

 

 来た。

 同じクラスメイトの質問の顔をして、核心だけを狙ってくる。

 俺は堂々と、嘘を吐かずに誤魔化す準備をして、胸を張った。

 

「ふふんっ。限定カレーパンをね、一個、食べる」

 

 言いながら、俺は鞄から紙袋を取り出す。

 帰り道に買ったわけじゃない。行きに買った。

 でも「街で買った」ことは事実だし、食べるつもりもある。

 

 俺はそれを小猫に差し出した。

 

「はい、お詫び」

 

 小猫は受け取らないかと思った。

 けれど彼女は、視線をカレーパンに落としてから、ゆっくりと手を伸ばす。

 

「……頂きます」

 

 袋を開ける音が小さく響く。

 小猫は一口かじって、咀嚼して、また黙る。

 その無言が「許した」とも「まだ見てる」とも取れるのが、逆に怖い。

 

 俺は自分の席に戻りながら、内心で息を吐いた。

 事件はまだ起きていない。

 けれど、確実に“前兆”はある。ポケットの布切れが、その証拠だ。

 

 午後の授業は、平和な顔をしたまま進んだ。

 先生の声、ノートを取る音、窓の外の蝉の気配。

 日常は日常として続く。

 ただし俺は、机の下で指先を軽く動かしながら、さっきの布切れの感触を忘れないようにしていた。

 

 そして放課後。

 

 下校の流れが校門へ集まる中で、俺の視界の端に、違和感が引っかかった。

 白いフードを被った、怪しげな格好の二人。

 制服の学生とは歩き方が違う。

 周囲を見回す癖が、素人のそれじゃない。

 

 俺は小猫に視線を向けず、声だけ落とした。

 

「……なぁ小猫」

 

「……なんでしょうか」

 

「かなり、怪しい奴がいないか」

 

 小猫はパンの袋を畳みながら、視線だけを校門へ流した。

 無表情のまま、けれど判断は早い。

 

「……えぇ」

 

 白いフードの二人が、こちらへ向き直る。

 その瞬間、俺の胸の奥でキズナエモルギアが、さっきよりも明確に脈打った。

 聖属性の匂いと、エモルギアの異物感が、同じ線の上で重なる。

 

 ――昼の前兆は、もう放課後の現実になりかけている。

 

 俺は笑って誤魔化す顔のまま、足の指に力を入れた。

 蒸着は、まだ早い。

 けれど、逃げる選択肢は最初からない。

 

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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