サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
「どうしようか。明らかに不審者だな」
俺は校門の向こう、白いフードを被った二人組から目を離さないまま、小さく息を吐いた。
放課後の喧騒の中でも、あいつらだけ空気の密度が違う。周囲に溶け込もうとしているのに、溶け込めていない。
視線の動きが“探している”というより、“確認している”。目的地が最初から決まっている歩き方だ。
「……確かに」
小猫の返事は短い。
けれど、その短さには「同意」だけじゃなく、もう一段踏み込んだ警戒が混じっていた。
こういうときの小猫は、声が静かな分だけ危ない。俺の中の直感がそう言っている。
白いフードの二人は、校門で一度だけ立ち止まり、周囲を見回した。
それから、迷いのない足取りで敷地内へ入ってくる。
教師に声をかけるでも、職員室に向かうでもなく、一直線に旧校舎の方角へ――。
「なんか旧校舎に向かったな。これは警察に通報するべきか」
口に出してから気づく。
通報って言葉は、俺が一番避けたい手段だ。
大事にしたくないというより、表の手段で触れた瞬間に、相手が引き金を引く可能性がある。
「……たぶん、大丈夫だと思いますよ」
小猫が言う。
その声は落ち着いているのに、言い切れていない。
いつもの「断定」じゃない。
「そんな自信がなさそうに言われても」
俺が軽く突っ込むと、小猫は一拍置いて、視線だけを旧校舎へ固定した。
「とにかく、私も行きますので。それで太郎さん」
呼ばれ方が少しだけ変わる。
名字ではなく、太郎さん。
俺はその違いが、ただの言い回しじゃないと分かってしまった。
「大丈夫なのか?」
思わず聞いた。
同級生に言う言葉としては過保護かもしれない。
でも、あの二人は“普通の不審者”の匂いじゃない。
「……まぁなんとかしますよ」
小猫は相変わらず無表情で、無責任みたいなことを言う。
けれど、その足取りには迷いがない。
何かを知っている。
あるいは、知っている側にいる。
「はぁ」
俺はため息をついて、頭の中で盤面を組み替えた。
旧校舎の方向に向かった白フード二人。
追う小猫。
俺は――俺はどうする。
いや、答えは最初から決まっている。
放っておけるわけがない。
ただ、今の俺は“学生”としてここにいて、しかも“帰らなきゃいけない理由”を持っている。
小猫がとぼとぼと旧校舎の方へ歩き出す。
その背中が小さく見えるのに、妙に頼もしいのが腹立たしい。
「……なんというか、こっちの事件もそうだけど、面倒な事が起きそうだな。とりあえずは帰らなきゃなって」
俺は独り言みたいに呟きながら、校舎の裏手へ回った。
旧校舎へ直行しないのは、逃げるためじゃない。
先に“帰るための理由”を回収するためだ。
自宅に戻る、という意味じゃない。
俺が本当に帰る場所は――宇宙刑事としての現場に直結している。
校舎の影を抜けた瞬間、視界の端に黒が滑り込んだ。
駒王学園の駐車スペースに、場違いなほど艶のある黒いスポーツカーが停まっている。
この学園に教師の車はある。けれど、こういう“走るために生まれた”形の車は似合わない。
俺の足が止まる。
キズナエモルギアが、ほんの少しだけざわついた。
敵意じゃない。
緊張とも違う。
――懐かしい、に近い感覚。
黒い車のドアが、内側から開いた。
スッと空気が変わる。
まるで舞台の幕が上がるみたいに、視界の中心がそこへ吸い寄せられる。
「やぁ、久し振り。太郎少年」
軽い挨拶。
なのに、言葉の奥には長年の現場が積み上げた重さがある。
車の影から現れたのは、金髪の人物だった。
――骨ばっている。
肉が薄いというより、輪郭がどこか“作り物”みたいに鋭い。
笑みの形すら、子供の落書きの線みたいに単純で、妙に歪んでいる。
でも、目だけは冗談じゃない。
俺は驚きを隠せず、思わず声を漏らした。
「えっ……マジかよ。久し振りですね」
脳内で、名前が走る。
宇宙警察。
宇宙刑事。
ベテラン。
そして――コードネーム。
オールマイト。
こんなタイミングで、こんな場所に。
いや、だからこそ来たのか。
あいつが動くときは、大抵「現場が想像以上にやばい」ときだ。
「この事件、思った以上に厄介な事が起きてそうだな」
オールマイトは車のドアに片手を置いたまま、周囲を見回し、そして俺の顔に視線を戻した。
その視線が旧校舎の方角へ一瞬だけ流れたのを、俺は見逃さなかった。
つまり。
こっちの不審者騒ぎも、偶然じゃない。
俺は喉の奥で笑いそうになるのを堪えて、代わりに短く息を吐いた。
放課後の空気が、急に戦場の匂いに近づいていく。
「……やっぱり、来てましたか」
言ってから、俺は自分の拳を軽く握り直した。
小猫が旧校舎へ向かった。
白いフードの二人もいる。
そして、宇宙刑事のベテランが目の前に立っている。
盤面が一気に広がった。
しかも、俺が思っていたよりずっと早く。
オールマイトは、落書きみたいな笑みを崩さないまま、さらりと言った。
「まずは状況確認だ、太郎少年。君は今、この街で何を嗅いだ?」
俺は答える前に、旧校舎の方角を見た。
胸の奥でキズナエモルギアが、嫌な鼓動を刻み始めている。
――放課後は、もう放課後じゃない。
次回の王は
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