サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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剣の因子 Case4

 黒いスポーツカーの助手席に身体を沈めると、ドアが閉まる音だけで外の喧騒が遠くなった。

 さっきまで聞こえていた生徒たちの笑い声も、部活の掛け声も、今は薄い膜の向こう側に押しやられている。

 車内には革張りの匂いと、わずかに機械油のような硬質な香りが混じっていて、いかにも“現場へ向かうための車”という空気を作っていた。

 

 運転席には、骨ばった痩身の金髪男。

 見た目だけ切り取れば、長年の実戦を潜り抜けてきた宇宙刑事というより、無理やり線だけで描いた落書きみたいなアンバランスさがある。

 なのに、ハンドルを握る手つきも、前方を読む視線も、一瞬で“只者じゃない”と分からせてくる。

 

 オールマイト。

 宇宙刑事の中でも、かなりのベテラン。

 しかも、ただ長く現場にいたというだけじゃない。危険な星系、面倒な案件、厄介な組織犯罪、その全部を踏み越えてきたやつだけが持つ空気が、この人にはあった。

 

 車は学園の脇道を静かに抜け、駒王街の通りへ滑り出す。

 外から見れば、ただの高級スポーツカーが流れているだけだ。

 だが俺の中では、校門前で見かけた白いフードの二人と、旧校舎へ向かった小猫の背中がまだ残っていて、気持ちは落ち着かなかった。

 

 そんな俺を見透かしたみたいに、オールマイトは前を向いたまま口を開いた。

 スポーツカーの中にいながら、オールマイトは話し始めた。

 

「近年、この星で多くの犯罪が行われているのは、君も知っているだろ」

 

 問いかけの形をしているが、確認というより導入だった。

 俺は窓の外を見ながら、小さく肩をすくめる。

 

「まぁ、この地球では俺が担当ですからね」

 

 言いながら、自分でも少しだけ苦笑する。

 地球担当。言葉にすると大きいが、実際にやっていることは、駒王の街を走り回って、痕跡を拾って、面倒事に首を突っ込み続けることの繰り返しだ。

 けれど、その積み重ねの先に今の俺がいる。

 

「あぁ、宇宙警察でも重点的に調査している。その結果、分かった事としては、この星が狙われやすい理由だ」

 

「理由?」

 

 俺が聞き返すと、オールマイトはわずかに口元を上げた。

 スポーツカーは交差点を曲がり、街路樹の影がフロントガラスの上を流れていく。

 

「君は知らないと思うが、この惑星の生態系はあまりにも異常だ」

 

 異常。

 その一言に、思わず眉が寄る。

 地球に住んでいると、それが基準になる。悪魔も、堕天使も、妖怪も、少なくとも俺にとっては“現場で遭遇する可能性のあるもの”として認識の中に入っていた。

 だが、外から見れば違うらしい。

 

 それと共にオールマイトは、運転を続けながら言う。

 

「人という基礎の姿をしながらも、天使、悪魔、堕天使、妖怪という多種多様過ぎる生態系は、私はこの星以外には見た事がない。そして、その中で神器という感情が大きく関連するシステムは多くがある」

 

 車内の空気が、少しだけ重くなった気がした。

 “人の形をしている”という共通点の下に、これだけ多様で、しかも感情や信仰や因子まで絡み合う存在がひしめいている。

 外宇宙の目線で見れば、確かにこの星は異常だ。

 混沌としている上に、利用価値が高すぎる。

 

「・・・つまり、犯罪者からしたらこの惑星は興味深い対象という訳か」

 

 俺がそう言うと、オールマイトは頷きもせず、ただアクセルの踏み加減だけをわずかに変えた。

 それだけで、肯定だと分かる。

 

「あぁ、それは犯罪者だけではなく、我々のような外部の存在もね。故に、それに興味を持つ者達は後を絶たない」

 

「そうだな」

 

 短く返しながら、俺はポケットの中に入れていた布切れの感触を思い出す。

 堕天使のものらしき衣服の破片。

 それに混じっていた、聖属性ともエモルギアとも言い切れない妙な匂い。

 点と点が、ゆっくり繋がり始めていた。

 

「・・・だからこそ、防がなければならない。ここで起きるだろう事件を」

 

 オールマイトの声は穏やかだった。

 だが、その穏やかさの奥にあるものは重い。

 経験で知っているからこそ、起こる前に止める必要を言っている声だ。

 

 次の瞬間、ダッシュボードの中央に埋め込まれたモニターが青白く点灯した。

 車載端末が起動し、幾つかのデータウィンドウが流れ、その中心に一つの画像が映し出される。

 細長く、装飾的で、それでいて刃としての威圧を隠そうともしない一本の剣。

 

「これは?」

 

 思わず訊く。

 見ただけで分かる。普通の刀剣じゃない。

 “意味”を帯びている武器だ。

 

「聖剣、その中でエクスカリバーと呼ばれる代物だ」

 

「エクスカリバーって、確か、あの伝説の」

 

 口にした瞬間、頭の中で昔聞いた物語の断片が浮かぶ。

 王、伝説、湖、選ばれた剣。

 子供でも知っているくらい有名な名前だ。

 

「その通り、実は、このエクスカリバーに関してだが、最近の調査で一つ、判明した事がある」

 

「判明した事?」

 

 俺はモニターから視線を外せなかった。

 伝説の剣と、宇宙警察の調査。

 その二つが並ぶだけで、嫌な話になる予感しかしない。

 

「あぁ、このエクスカリバーの材料に使われた金属に関してだが、ボクデン星に大きく関連している事が最近になって判明した」

 

「ボクデン星?」

 

 初めて聞く名だった。

 だが、オールマイトの口ぶりからして、ただの鉱山惑星じゃない。

 

「あぁ、あの星にある金属は水のような性質を持っており、金属を加工する際に込められた力によって、変化すると判明した。故に、ボクデン星における銀河一刀流を扱う者に合わせた性質を持つ剣になるとされる」

 

 水のような金属。

 加工時に込められた力で性質が変わる。

 つまり、それは単なる素材じゃない。感情や技術や意志を“写す”鉱物だ。

 そう考えると、キズナエモルギアの性質とも、どこか嫌な繋がり方をしそうで背筋が冷える。

 

「・・・確かエクスカリバーは湖の巫女から貰ったとか言う話を聞いた事はあるが」

 

 俺が思い出すように言うと、オールマイトはそこで初めて、少しだけ楽しげに笑った。

 伝説と科学と宇宙が交差する、そういう話を何度も現場で見てきた人の笑い方だった。

 

「おそらくは、その湖の中にボクデン星の金属が入った可能性がある。そういう意味では、もしかしたら、この惑星にある聖剣や魔剣は宇宙から来た金属にこの惑星特有の力が融合して誕生したかもしれない」

 

 その仮説は、妙に説得力があった。

 この星は異常だ。

 そして異常な星ほど、外から来たものを独自の形に変えてしまう。

 宇宙由来の金属に、地球特有の信仰や因子や感情のシステムが噛み合ったなら、聖剣だの魔剣だのが生まれてもおかしくはない。

 

「真実は未だに謎ですけどね、だけど、その話を聞く限りだと」

 

 自分で言いながら、答えはもう見えていた。

 利用価値が高い。

 しかも、人の心や適性や感情と結びつきやすい。

 そんなものを、外部の犯罪者が放っておくはずがない。

 

「そう、そのエクスカリバーを狙う動きが見えた」

 

 オールマイトのその一言で、全部が一気に現実の輪郭を持った。

 旧校舎へ向かった白いフードの二人。

 路地裏で見つけた堕天使の衣服の破片。

 レオルドが拾ったエモルギア反応。

 そして今、モニターに映っている伝説の聖剣。

 

 点が線になる。

 線が、事件の形を作り始める。

 

 スポーツカーは赤信号で一度だけ止まった。

 フロントガラスの向こうで、駒王の街は相変わらず平和な顔をしている。

 学生が笑っている。買い物袋を提げた人が横断歩道を渡る。

 誰も知らない。

 この街の水面下で、伝説の剣と宇宙由来の技術と、この星の異常な生態系が、一つの火種になりかけていることを。

 

 俺はシートに深く座り直し、静かに息を吐いた。

 厄介だ。

 思っていた以上に、今回の事件は根が深い。

 

 そして、その根はたぶん――もう学園のすぐそばまで伸びてきている。

 

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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