サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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剣の因子 Case5

 黒いスポーツカーは、駒王街の表通りから少し外れた静かな道へ入っていた。

 外から見れば、ただ流れているだけの車だ。けれど車内の空気は、昼休みに抜け出してきた学生が乗るには重すぎる。

 モニターにはまだ聖剣の画像が残っていて、そこに映る刃先が、これから起きる何かの輪郭を無言のまま示していた。

 

 俺は視線をモニターから外し、運転席にいるオールマイトへ向き直る。

 この人がわざわざ地球まで来た以上、ただの注意喚起で終わる話じゃない。

 胸の奥では、嫌な予感がもう答えに近い形を取り始めていた。

 

「オールマイト、調査の結果は分かった?」

 

 俺がそう問うと、オールマイトは少しだけ表情を引き締めた。

 普段はどこか飄々として見えるその人が、目だけを静かに細める。

 それだけで、次に出てくる話が軽くないと分かった。

 

「あぁ、それもかなり厄介な事が分かった」

 

 その声に、俺は自然と背筋を伸ばす。

 オールマイトは片手でハンドルを押さえたまま、もう片方の手で車載端末を操作し、複数のウィンドウを呼び出した。

 そこに並んだのは画像、報告書、古い記録、そして教会の紋章が入った資料だった。

 

 それと共にオールマイトが見せたのは、資料。

 

「これは」

 

「この惑星にある教会。そこで行われた研究だよ」

 

 淡々とした説明だった。

 けれど、その内容は淡々と受け止められるものじゃない。

 

 俺は表示された資料へ目を走らせる。

 最初は断片的にしか理解できなかった。

 聖剣。適合者。因子。移植。成功例。失敗例。

 文字はただ並んでいるだけなのに、その一つ一つが生臭い。

 

 次第に全体像が見えてきて、胃の奥が嫌なふうに捩れた。

 

 それは、聖剣を使うために集められた子供たちの記録だった。

 教会という守るべき場所で、守られるはずの年齢の連中が、選別され、測られ、切り分けられている。

 使い手を選ぶため、確保しただけでは意味が薄い聖剣を、適合者を人工的に作り上げることによって解決しようとした計画。

 そのために、人体に存在するある種の因子が一定値以上必要だと判明し、それを複数の人間から取り出して一人へ移植するという、人として最低の答えに辿り着いている。

 分割されたエクスカリバーなら複数本扱える水準にまで到達した、なんて書き方までしてあって、そこには苦しんだ子供たちの姿が、一文字たりとも記録されていない。

 

「・・・本当にこんな事が行われていたのか」

 

 思わず口から漏れた。

 問いかけたというより、否定したかったんだと思う。

 こんなものが本当に現実なら、この街にまた似た気配が立っていること自体が、もう許し難かった。

 

 オールマイトはすぐには答えない。

 代わりに、さらに資料を切り替える。

 主任の名。研究責任者。事故報告。処分記録。

 その中に、一つの名前があった。

 

 バルパー・ガリレイ。

 

 名前を見た瞬間、背中の奥が冷えた。

 単なる研究者じゃない。

 研究という言葉を隠れ蓑にして、子供を材料としか見なかった手合いだ。

 

 資料には、当時の主任だったバルパーの暴走によって、多くの犠牲者が出たことが記されていた。

 研究自体は成功した。だが、その成功の下に積み上がっているのは、戻ってこない命だ。

 教会側も、後年はバルパーのように因子を抜き出した側を殺すような真似はしていないらしい。

 だが、それでも移植された側が因子に耐えきれず死んでしまうことは避けられなかった。

 結局、やり方が少し整えられた程度で、やっていることの根っこは同じだ。

 

 命を、都合のいい条件に変えている。

 

 俺は唇を噛んだ。

 胸の奥にあるのは嫌悪だけじゃない。

 怒りだ。

 ただ、怒鳴って済む種類の怒りじゃない。

 自分の中に沈み込んで、代わりに拳へ力を込めさせる怒りだ。

 

「・・・このバルパーが今回の1件と関わっていると」

 

「あぁ、エモルギアの反応も、この街から再びあった。偶然とは思えない」

 

 偶然。

 そんな言葉で片づくものじゃない。

 聖剣の因子。子供を使った実験。適合者の人工生成。

 そこへエモルギアなんて外部の増幅手段が混ざれば、何が起きるかは想像したくもなかった。

 

 聖剣を扱う資格がないなら、資格を捻じ曲げる。

 命が足りないなら、命を足す。

 適合しないなら、無理やり活性化する。

 そういう発想を平然と選ぶ奴が、今またこの街の近くで動いている。

 

 それは、見過ごしていい話じゃない。

 子供が巻き込まれる可能性があるとか、学園が危ないとか、そんな理由だけじゃ足りない。

 もっと根本的に駄目だ。

 誰かの命を材料扱いしてまで力を手に入れようとする時点で、その手はもう止めなきゃいけない。

 

「・・・とにかく止めよう。こんな事を平気で行う奴の好きにさせてはいけない」

 

 自分でも、驚くほどはっきりした声が出た。

 怒鳴っていないのに、喉の奥は熱い。

 俺は言葉と一緒に、右手を強く握り締める。

 

 守るっていうのは、ただ目の前の敵を殴ることじゃない。

 こういう“平気で線を越える奴”に、次の犠牲者を出させないことだ。

 子供を材料にした時点でそいつは終わっているし、その先でまた同じことをやろうとしているなら、今ここで止めるしかない。

 

 オールマイトは、そんな俺を横目で一度だけ見た。

 何も言わない。

 ただ、その視線には少しだけ肯定の色があった。

 新人が勢いで怒っている、という見方じゃない。

 現場に立つ人間として、その怒りを理解している目だ。

 

 車は静かに速度を上げる。

 モニターの光が、資料の文字を青白く照らし続けている。

 聖剣、因子、移植、実験、犠牲者。

 どれも胸糞の悪い言葉ばかりだ。

 

 でも、そのどれもが“過去の汚点”で終わらない。

 エモルギア反応が再びこの街で出た以上、連中は今の技術と結びつけて、また同じか、それ以上にろくでもないことを始めようとしている。

 しかも、それが学園の近くで、昼の街の裏で、平然と進んでいる。

 

 俺は窓の外へ視線を向ける。

 信号待ちの自転車。

 買い物袋を抱えた主婦。

 部活帰りらしい学生たち。

 何も知らない顔で、街はいつも通りに呼吸している。

 

 だからこそ、守らなきゃならない。

 知らなくていいやつらに、こんな汚い話を踏ませるわけにはいかない。

 実験台にされる未来も、巻き込まれる未来も、ここで切る。

 

 俺は拳を解かず、そのまま低く言った。

 

「……絶対に、止める」

 

 それはオールマイトに向けた言葉でもあったし、自分自身への命令でもあった。

 どれだけ面倒で、どれだけ根が深くても関係ない。

 正しいとか正しくないとか、そんな綺麗な言い方をする前に、まず守らなきゃならない線がある。

 

 子供を泣かせる研究も。

 命を道具として数える思想も。

 平然と次を作ろうとする手も。

 

 ――全部、俺が叩き潰す。

 

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
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