サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
夜の駒王学園は、昼間とはまるで別の場所みたいだった。
校舎の窓に残るわずかな明かりと、校庭を薄く照らす月光だけが、広い敷地の輪郭をどうにか浮かび上がらせている。
静かで、張り詰めていて、それでいて今にも何かが破裂しそうな空気。
足元の土は乾いているのに、肌に触れる夜気は妙に湿っていて、術式の気配が地面の下を這っているのが、装甲越しにもはっきり分かった。
俺が相対しているのは、両腕がエクスカリバー化したエモンズ。
その背後には、今回の元凶であるバルパー。
そして上空には、巨大な黒い翼を広げ、夜そのものを背負ったみたいに見下ろしている堕天使――コカビエル。
スポーツカーから降りたオールマイトは、俺の少し前へ出て、空を見上げていた。
細く、骨ばっていて、正直に言えば、リアスたちと比べても“強者の圧”という意味では見劣りする。
けれど、その立ち方だけは揺るがない。
赤を基調にしたジャケットの背中には宇宙警察のマークが大きく入っていて、夜風に揺れるたびに、それがこの人の背負ってきたものを無言のまま示していた。
コカビエルが、そのオールマイトを見下ろし、口元を歪める。
傲慢で、愉快そうで、相手を値踏みすることに一片の遠慮もない顔。
「くくっ……なるほど。面白い格好はしているが、感じる力は弱いな」
その一言に、リアスたちの緊張がわずかに強まるのが分かった。
こいつは間違っていない。
純粋な出力だけを見れば、オールマイトはコカビエルどころか、今この場にいる部長たちよりも低い。
だが、それで勝敗が決まらないことを、俺は知っている。
コカビエルが片腕を掲げる。
空間の一点へ光が集まり、凝縮し、伸び、瞬く間に巨大な槍の形を取った。
ただの発光体じゃない。
“貫く”ための意味を持った光だ。
見るだけで、あれが校舎でも人でも区別なく貫く種類の攻撃だと理解できる。
「ならば、この程度で十分だろう」
次の瞬間、光の槍が落ちてきた。
空気が裂け、音が遅れて追いかけてくる。
校庭全体を串刺しにするつもりで投げ込まれたそれは、避ける暇すら与えない。
だが、オールマイトは一歩も動かなかった。
代わりに、校庭脇へ停められていた黒いスポーツカーが、低く電子音を鳴らした。
ボディラインに沿って隠されていたパネルが一斉に展開し、トランク、側面、フロント内部の格納部が解放される。
内部から飛び出したのは、増加装甲、拘束ケーブル、推進ユニット、電流制御モジュール、巨大ガントレット。
車そのものが武装庫だった。
いや、もっと正確に言うなら、あのスポーツカーはオールマイトが“立ち続ける”ための身体の一部なんだろう。
オールマイトは振り返りもしないまま、声を張る。
「――Red Riot!!」
叫びと同時に、スポーツカーから射出された増加装甲がオールマイトの胸部、肩、前腕へ重なり、何層もの防御板を形成した。
その直後、光槍が真正面から激突する。
轟音。
白熱した爆光が夜を裂き、衝撃波で土と小石が周囲へ吹き飛ぶ。
普通の人間なら、その場で吹き飛ばされる。
だが、オールマイトは踏み止まった。
足元の土が抉れ、靴底がわずかに後ろへ滑っても、身体の芯は崩れない。
受けた。
しかも、ただ耐えたんじゃない。次へ繋げるために、真正面から受け切った。
「ほう……」
コカビエルが初めて感心を声に滲ませる。
その一瞬の“感心”が、もう遅い。
スポーツカーの後部ハッチが開き、黒い拘束ケーブルが弾かれるように射出された。
補助ユニットが空中でオールマイトの腕部へ接続され、うねるようにコカビエルへ伸びる。
「――Blackwhip!!」
ケーブルは生き物みたいに空を裂き、コカビエルの翼の根元と腕へ絡みついた。
ただ縛るためじゃない。
逃げる軌道そのものを切り取る角度で、関節の流れを読んで食いついている。
「小癪な!」
コカビエルが翼を打ち鳴らし、引き千切ろうと力を込める。
だが、その“力の流れ”を待っていたかのように、さらにスポーツカーから背部・脚部用の推進ユニットが飛び出した。
ロック音と共にオールマイトの装甲へ噛み合い、青白い火を噴く。
「――Thrusters!!」
漆黒のヒーローが、信じられない速度で空へ躍り上がる。
正面からではない。
斜めに、円を描くように、コカビエルの死角へ回る軌道。
重装甲のはずなのに、機動は鋭い。
“鈍重な機械”だと思っていたコカビエルの認識が、この瞬間に崩れ始めた。
「速い、だと……?」
リアスたちより力は下。
その判断は合っている。
けれど、戦闘経験は別だ。
オールマイトの動きには、一切の無駄がない。
どこへ逃げるか、どこで力を込めるか、どこを縛れば相手が“嫌がる”かを、身体が先に知っている。
争いそのものに酔う戦士じゃない。
守るために積み重ねてきた現場の数が、そのまま動きになっている。
コカビエルが二本目の光槍を生成しかけた瞬間、スポーツカーのフロント内部から電流制御モジュールが射出され、ブラックウィップの基部へ接続された。
紫電がほとばしる寸前、オールマイトは短く息を吸い込む。
「――Chargebolt!!」
電流が拘束ケーブルを走り、コカビエルの翼と肩を一気に駆け抜ける。
大ダメージではない。
だが、武器生成のための集中を切るには十分だった。
形成途中だった光槍が歪み、そのまま空中で弾け飛ぶ。
「貴様……!」
コカビエルの顔から、傲慢な余裕が少しずつ剥がれ落ちていく。
ここでようやく理解したのだろう。
力では勝っている。
だが、詰められている。
目の前の男は、自分より弱いはずなのに、その弱さを埋めるだけの経験と判断で、着実に距離を殺してくる。
俺は地上からそれを見ながら、歯を食いしばる。
正義感っていうのは、綺麗な言葉じゃない。
勝てるかどうか分からなくても、守るために前へ出ることだ。
オールマイトはまさにそれを体現していた。
弱いから退くんじゃない。
弱いと分かっていて、それでも立つ。
それが、この人の戦い方だ。
コカビエルが黒い翼を大きく広げる。
その周囲に、今度は数え切れないほどの光の剣が形成され始めた。
一本一本が大型で、斬るというより“空間ごと圧殺する”ための凶器だ。
どうやら、ようやく本気を出す気になったらしい。
「人間風情が……! ならば、この場ごと切り裂いてくれる!」
だが、遅い。
その本気は、あまりにも遅かった。
オールマイトは笑みを崩さず、ただ事実として言い放つ。
「遅いぞ。君は、戦いそのものに執着しすぎた」
「黙れッ!」
コカビエルが吼える。
光剣の群れが一斉に完成へ向かう。
その瞬間、スポーツカーのトランクが大きく跳ね上がった。
内部に固定されていた巨大ガントレットが補助アームに押し出されるように宙へ飛び出し、黒い装甲の隙間から赤橙色の起爆ラインが脈打つ。
切り札。
あれが、最後の一撃になる。
オールマイトが右腕をわずかに引く。
飛来したガントレットがその腕へ吸い込まれ、外装が噛み合い、重厚な拳を構築する。
その瞬間だけ、校庭の空気が張り詰める。
「――Great Explosion Murder God Dynamight!!」
叫びと同時に、オールマイトが踏み込んだ。
背部スラスターが爆ぜ、右腕のガントレット内部で推進爆発が連続起動する。
拳はただの殴打じゃない。
覚悟ごと押し込むための、正面からの一撃。
コカビエルは咄嗟に巨大な光剣を前へ出した。
だが、防御は間に合わない。
いや、間に合っていても止められなかった。
爆発加速で押し出された漆黒の拳が、光剣ごとコカビエルの防壁を叩き割る。
閃光。
轟音。
夜空が一瞬だけ昼間みたいに白く染まり、次の瞬間にはその中心から黒い影が弾き飛ばされた。
「馬鹿な……この私が……!」
コカビエルの声には、もう余裕も愉悦もなかった。
あるのは驚愕だけだ。
争いにしか執着しなかった歴戦の戦士が、守るために立ち続ける男に押し負けた。
その事実を、受け入れられない顔だった。
「争いに酔うだけでは、最後には届かん」
短く言い切るオールマイトの声に、勝者の驕りはなかった。
ただ、そうあるべきだと知っている人間の確信だけがあった。
次の瞬間、コカビエルの身体が校庭へ叩き落とされた。
土煙が高く噴き上がり、衝撃で地面がひび割れる。
上空を支配していた圧が一気に崩れ、重苦しかった夜気が少しだけ軽くなる。
土煙の向こうで、コカビエルはもう起き上がらない。
空を支配していた堕天使は、地に落ちた。
その前に、オールマイトはまだ立っている。
装甲の一部は焼け、追加ユニットはいくつか砕け散り、肩口からは火花まで散っている。
それでも立つ。
スポーツカーから供給された武装を繋ぎ、壊し、使い潰しながら、最後まで前線を離れない。
それが、この人の強さなんだと俺は思った。
力の総量じゃない。
正義感と、守るために積み重ねてきた長年の経験で、格上を押し切る。
その在り方そのものが、オールマイトという男の本質だ。
けれど、俺たちの戦いはまだ終わっていない。
上空が落ちた今、次に片づけるべきは地上だ。
俺はギャバリオンブレードを握り直し、両腕がエクスカリバー化したエモンズと、その背後にいるバルパーを睨み据える。
先輩が空を落とした。
なら次は、俺がこの地上を終わらせる。
次回の王は
-
妖怪王
-
機械王
-
怪獣王
-
幻想王