サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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剣の因子 Case10

 戦いの終わりは、勝利の静けさと同じ顔をしていなかった。

 校庭に残るのは、抉れた土、焼けた空気、壊れた術式の残滓、それからようやく立っていられる程度に張り詰めた俺たちの呼吸だけだ。

 夜風が吹くたびに、光の残骸みたいな粒子が地面の上を滑っていく。

 さっきまで空を支配していた圧も、両腕聖剣のエモンズが放っていた殺意も、もうそこにはない。

 けれど、だからといって全部が片付いたわけじゃなかった。

 

 むしろ、本当の意味で“知られてはいけないもの”が、今まさに校庭の真ん中へ出てしまっている。

 

「・・・あなた達は、一体何者なのかしら」

 

 戦いが終わりを告げた後、リアス先輩達がこちらを見つめる。

 月明かりの下で、彼女の赤い髪だけが妙に鮮やかだった。

 感謝もある。警戒もある。

 助けられた事実を認めながら、その正体が不明な以上、見過ごせない。

 当然だ。

 俺だって逆の立場ならそうする。

 

 けれど、その問いに答えるのは俺じゃなかった。

 俺が一歩引くより先に、オールマイトが前へ出る。

 赤いジャケットの背中に刻まれた宇宙警察のマークが、校庭の灯りを受けてぼんやり浮かぶ。

 

「私達の事に関しては詳しくは教えられない。組織の方針もあってね」

 

 言葉は柔らかい。

 だが、一歩も譲る気のない声音だった。

 隠していることを隠さず、それでも線は越えさせない。

 そういう話し方をする人だ。

 

「助けてくれた事には感謝します。けれど、その未知の脅威を知る者を放っておく事は出来ないわ」

 

 リアス先輩の言う“未知の脅威”が何を指しているのかは、考えるまでもなかった。

 エモルギア。

 この星の理に混ざれば、どれだけ危険な形で増幅されるか、さっきまでの戦いで十分すぎるほど見せられた。

 放置なんてできない。

 回収して、調べて、必要なら封じる。

 その判断自体は間違っていない。

 

 俺も同じことを考えた。

 危険性が広がる前に、証拠も情報も全部こちらで押さえるべきだ。

 そう結論づけかけた、その瞬間だった。

 

「「っ」」

 

 俺とオールマイト。

 同時に感じた殺気に対して、瞬時に構えた。

 

 それは、今までこの場にいた誰とも違う。

 コカビエルのような大きく開いた殺意じゃない。

 エモンズみたいな命令で動く兵器の冷たさでもない。

 もっと研ぎ澄まされていて、一直線で、静かなのに深い。

 “殺すためにだけ研がれた刃”が、いきなり背後へ出現したみたいな気配だった。

 

「あっがぁぁぁ」

 

 誰かの喉から、濁った悲鳴が上がる。

 反射的に視線を向けた先で、赤黒い飛沫が夜気に散っていた。

 バルパー。

 その身体が、まるで紙みたいに斜めへ切り裂かれている。

 悲鳴の形すら整わないまま、肉が裂け、骨が断たれ、研究者としての醜い執着だけを残して崩れ落ちる。

 

 そこに立っていたのは、影。

 いや、影じゃない。

 黒い装甲。

 月光の下でも光を返さない、闇をそのまま金属へ固めたみたいな姿。

 

「ギャバンがもう1人」

 

 誰かの声が震える。

 その言葉が一番近い。

 そこに立つのは黒いギャバン。

 その輪郭は、俺の知る怜慈さんのギャバン・インフィニティと酷似している。

 けれど決定的に違う。

 黒を基調にした装甲。

 所々の塗装は剥げ落ち、内部の金属が剥き出しになっている。

 頭部の半分は破損していて、そこから露出した基板が青白く瞬き、胸部も装甲板が割れて、内部構造が生々しく見えていた。

 完成されたヒーローじゃない。

 壊れながら、それでも動いている異物だ。

 

「この世界で手に入れるエモルギア、とても興味深いな」

 

 声は低く、乾いていて、何より感情の置き方がおかしい。

 人を殺した直後の声じゃない。

 珍しい標本を見つけた研究者みたいな興味だけがそこにある。

 

「・・・お前は」

 

 俺の口から出た問いに、そいつはわずかに口元を歪めた。

 

「デス・ギャバンと覚えておけ」

 

 その名が空気に落ちた瞬間、校庭の温度がまた一段下がった気がした。

 デス・ギャバン。

 ギャバンという名を汚すみたいに、平然と乗るつもりか。

 胸の奥に、怒りが小さく火を点ける。

 だが、怒るのは後だ。

 今この瞬間の動きのほうが、もっと厄介だった。

 

 デス・ギャバンはその手に持つ、ギャバリオントリガーによく似た銃を持ち上げる。

 形は似ている。

 けれど印象が違う。

 俺たちのトリガーが蒸着や制圧のための機能を持つなら、あれはもっと“侵食”や“接続”のために作られたような気配があった。

 

 その銃口が、誰にも向かないまま虚空へ上がる。

 

「待て!」

 

 叫んだときには、もう遅い。

 引き金が引かれる。

 

 乾いた発射音。

 弾丸そのものは見えない。

 だが、撃たれた空間が歪む。

 夜の空気が捻じれ、黒いひびが走り、そこから開いたのは門だった。

 黒い怪物の顔をそのまま巨大化させたみたいな、異様な外見のゲート。

 開いた“穴”というより、向こう側からこちらを喰いにきている口だ。

 

「これは一体っ」

 

 驚く一同を余所に、俺はすぐに走り出す。

 理屈より先に身体が知っていた。

 怜慈さんから聞いたことがある。

 あの嫌な歪み、あの空気の裂け方。

 魔空空間。

 開かせたら終わる。

 この場の主導権どころか、戦場のルールそのものを持っていかれる。

 

 だから迷う理由がない。

 

「やらせるかよ!」『エモーショナル・バースト!』

 

 俺は瞬時にギャバリオントリガーを構えて、引き金を弾く。

 装甲の内側でキズナエモルギアが激しく脈打ち、引き金と同時に感情の出力が一気に跳ね上がる。

 トリガー先端から放たれた光は、ただの弾丸じゃない。

 押し込むように、断ち切るように、空間の歪みそのものへ叩き込むための一撃だ。

 

 黒いゲートが、口を開いたまま痙攣した。

 次の瞬間、中心からひび割れ、光と闇が互いを打ち消し合うみたいに崩壊していく。

 怪物じみた輪郭が歪み、悲鳴のような音もなく消えていった。

 魔空空間は、成立する前に消滅した。

 

「今のは」

 

 誰かが呆然と呟く。

 だが説明している暇はない。

 ゲートを潰した時点で、デス・ギャバンの目がわずかに細くなったのが見えた。

 興味。

 あるいは観察対象を見つけたときの、嫌な納得。

 

「・・・どうやら、これは厄介な事になったな」

 

 オールマイトの言葉に対して、俺もまた頷くしかなかった。

 バルパーやコカビエルで終わる話じゃない。

 別の線が、別の次元からもう伸びてきている。

 しかも、ギャバンの名を騙るような存在がいる。

 面倒どころの騒ぎじゃない。

 最悪だ。

 

 だが、ここで全部を話すわけにもいかない。

 リアス先輩たちの視線が、俺たちと、消えたゲートのあった空間と、デス・ギャバンの残した余韻を行き来している。

 説明を求められるのは当然だ。

 けれど、今はその情報自体が危険だ。

 

「さて、それじゃ、私達はここで失礼するよ」

 

 オールマイトがさらりと言う。

 その口調の軽さに反して、判断は早い。

 長居すれば、それだけ質問も、追跡も、余計な接触も増える。

 この場ではもう、それを受けるべきじゃない。

 

「えっ、ちょっ」

 

 引き留める声が後ろで上がる。

 けれど俺はもう動いていた。

 オールマイトの言葉に合わせて、スポーツカーの方へ走る。

 車体はまだ温かく、さっきまでの戦闘の名残みたいな微かな振動が残っていた。

 助手席へ滑り込み、ドアを閉める。

 同時にオールマイトも運転席へ収まり、何の躊躇もなくエンジンを回した。

 

 低い唸りが夜の校庭に戻る。

 バックミラーの向こうで、リアス先輩たちの姿が遠ざかり始める。

 土埃の残る校庭。

 倒れたコカビエル。

 崩れたバルパー。

 そして、消えたはずなのにまだ嫌な気配だけが残っている黒い空間の痕。

 

 スポーツカーが学園を離れていく。

 俺は窓の外を見たまま、装甲越しに息を吐いた。

 事件は終わった。

 少なくとも、今夜の戦いは。

 けれど、もっと厄介なものが確実に顔を出した。

 

 デス・ギャバン。

 あいつの名と姿だけが、今も頭の奥にこびりついて離れない。

 

 オールマイトがハンドルを切りながら、小さく言う。

 

「まずは整理しよう、太郎少年。今夜は、片付いたようでいて何一つ終わっていない」

 

 俺は苦く笑った。

 まったく、その通りだ。

 守れたものもある。

 救えたものも、たぶんある。

 それでも、次の厄介事はもう始まっている。

 

 黒いスポーツカーは、夜の駒王街へ溶け込むように走っていった。

 平和な街の灯りが窓の外を流れていく。

 その下で、俺たちはまた一つ、知らなくていいはずの脅威を知ってしまった。

 

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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