サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
外では風が電線を鳴らし、遠くを走る車の音がときおり窓越しに届く。
リビングの照明は少しだけ落としてあって、テーブルの上には開きっぱなしの資料と、飲みかけのコップと、まだ片づけきれていない今日の痕跡が散らばっていた。
平和な家の風景に見えるのに、頭の中だけはまるで落ち着いてくれない。
オールマイトは、さっき自分の惑星へ戻っていった。
今回の件に関する協力要請で一時的に地球へ来ていただけで、長期間の滞在はできない。
だから、必要な情報を渡し、必要な戦力として動き、必要なところだけを押さえて、あの黒いスポーツカーと一緒に夜の向こうへ去っていった。
あの人がいる間は、どれだけ面倒でも「まだ何とかなる」という感覚があった。
けれど、いざ帰ってしまうと、残された問題の輪郭だけがやけにはっきり見えてくる。
今回の一件。
コカビエル。
バルパー。
エモンズ。
そして、デス・ギャバン。
問題は山ほどあるが、その中でも一番目の前にあるのは――宇宙人の存在が、地球側にばれる可能性だ。
いや、もう“可能性”の段階ですらないのかもしれない。
リアス先輩たちは、間違いなく何かを掴んだ。
学園の校庭で、あれだけ堂々と戦って、正体も所属も何もかも隠しきれるはずがない。
しかも相手はただの学生じゃない。
悪魔、堕天使、教会関係者、聖剣。
この星の裏側で動いている連中にとって、「説明のつかない未知」は放置できるものじゃない。
ソファにもたれながら、俺は額を押さえる。
頭が痛い。
戦いの疲れもある。
だけど、それ以上に“これからどうするか”を考える方が厄介だった。
「さて、どうするか」
独り言みたいにこぼす。
すると、テーブルの近くに寝そべっていたレオルドが、コーギーの姿のまま片耳だけをこちらへ向けた。
「どうするも何も、かなりヤバいだろう」
言い方は雑だが、その通りだ。
優しい慰めが欲しいわけじゃない。
問題が問題のままそこにある以上、曖昧に濁す意味もない。
「だよなぁ……」
俺は背もたれへ深く沈み込む。
こういう時、宇宙刑事って肩書きは便利でもあるけど、同時に面倒の中心でもある。
守る側に立つってことは、誰かに知られちゃいけないものまで背負うってことだ。
それを改めて思い知らされる。
キッチンの方では絶花が湯を沸かしていて、電気ケトルの低い音が家の静けさに混じっていた。
彼女は俺が考え込んでいると、無理に口を挟まない。
ただ、家の中の気配だけは普段通りに保ってくれる。
それがどれだけありがたいか、こういう夜ほど分かる。
――ピンポーン。
その時、不意にインターホンが鳴った。
時間にしては少し遅い。
絶花と俺がほぼ同時に顔を上げる。
レオルドも耳を立てた。
「この時間に?」
絶花が小さく呟く。
俺はソファから立ち上がり、反射的に気配を探る。
敵意はない。
少なくとも、殺気みたいなものは感じない。
だが、だからこそ逆に嫌な予感もする。
俺の知り合いで、この時間に平気な顔で来るやつなんて、ろくなもんじゃない。
玄関の方へ向かい、扉を開けた。
次の瞬間、明るい声が飛び込んでくる。
「久し振り!太郎」
「んっ、雷?」
そこに立っていたのは、見覚えのある顔だった。
人懐っこい笑みと、けれど現場の人間らしい油断のなさを同時に持った、青い髪の少年。
宇津美雷。
宇宙警察機構の新米刑事で、サンダーライ。
俺と同じく、まだ“若い側”の現場人員で、だからこそ妙に気が合うやつだ。
雷は俺の顔を見るなり、少しだけ肩の力を抜いた。
たぶん、連絡なしに来たことへの遠慮は一応あるんだろう。
けれど、そういう遠慮を押してでも来なきゃいけない理由がある時の顔も、俺は知っている。
背後から絶花がそっと顔を出す。
知らない男が突然家に入ってきたのだから当然だ。
雷はその視線に気づいて、あっ、という顔をした。
「えっと、太郎、この人は」
絶花が俺を見る。
説明しろ、という意味だ。
まったくその通りで、俺は軽く頭を掻いた。
「まぁ、俺の同期みたいな宇宙警察のサンダーライこと宇津美 雷だ。けれど、なんでお前がここにいるんだ?」
“同期みたいな”と言おうとして、疲れていたせいか変な言い回しになった。
だが雷はそこに突っ込まず、家の中へ一歩だけ入ったところで表情を引き締める。
さっきまでの軽い再会の空気が、一瞬で仕事のものへ変わる。
「実は、太郎に伝えなきゃいけない事があるんだ」
「何だ?」
俺が問い返すと、雷は少しだけ息を吸った。
こういう時のこいつは、わりと正直だ。
顔にも、声にも、迷いが出る。
けれど、だからこそ“隠してない”ことは伝わる。
少し緊張した声で、雷は俺の方へ告げた。
「実は、少し先で行われる三大勢力会議にて、我々宇宙警察に関してを伝えることになったんだ」
「・・・マジかぁ」
思わず、心の底から出た声だった。
レオルドがテーブルの下で「うわぁ」という顔をしている。
絶花は事情を完全に理解できていないはずなのに、それでも“面倒なことになった”という空気だけは掴んだらしく、静かにこちらを見ていた。
三大勢力会議。
悪魔、天使、堕天使。
この星の裏側を支配している連中が、一つの場へ集まる会議。
そこへ宇宙警察の存在を伝えることになる。
つまり、“ばれそう”だった問題が、もう隠して済む段階を越えたということだ。
俺はその場でしばらく動けなかった。
頭の中では、今日まで起きたことが一気に繋がっていく。
学園での戦闘。
エモルギアという未知。
デス・ギャバンの出現。
そして、三大勢力会議。
盤面が広がるどころじゃない。
これまで“駒王の一件”として見ていたものが、一気にこの星全体の勢力図へ繋がってしまった。
俺は玄関脇の壁へ軽く頭を預け、深く息を吐く。
正直、面倒だ。
いや、面倒なんて言葉で済む規模じゃない。
けれど、逃げる選択肢が最初からないのもまた事実だった。
守る側に立った時点で、いずれこういう話は来る。
宇宙警察がこの星へ関わり続けるなら、どこかで向こうの事情とも繋がる。
むしろ、今まで表に出なかった方が幸運だったのかもしれない。
「……で、どこまで決まってる」
俺が低く聞くと、雷はすぐに答えた。
やっぱりこいつも、ただ知らせに来ただけじゃない。
もう次の段取りまで考えている顔だ。
家の中に、さっきまでとは別の緊張が満ちていく。
戦いの後の疲れはまだ残っている。
なのに、次の局面はもう目の前だった。
俺は目を閉じて、一瞬だけだけど気持ちを切り替える。
学園での事件は終わった。
でも、宇宙警察としての厄介事は、ここからが本番だ。
次回の王は
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