サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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宇宙な暴露 Case5

 三大勢力の会議室には、表向きの静けさと、裏側の警戒が同時に満ちていた。

 高い天井の下、長机を挟んで向かい合う者たちは、誰一人として気を抜いていない。

 悪魔、天使、堕天使。

 それぞれがそれぞれの秩序と矜持を背負い、この星の裏側を支えてきた者たちだ。

 その中心へ、俺はギャバンの姿で立ち、隣にはサンダーライの姿をした雷がいる。

 

 部屋の中を漂うのは、既知の力の気配ばかりだった。

 魔力。

 聖なる力。

 堕ちた翼の冷たい圧。

 だが、そのどれとも違う俺たちの存在が、場の均衡を目に見えない形で崩している。

 

 向こうからすれば当然だ。

 俺たちからは、彼らの知る既存のエネルギーが感じられない。

 それなのに、ただの一般人とも思えない。

 魔力も、聖力も、邪気もない。

 けれど戦力として無視できない。

 そういう未知が目の前に立っている。

 会議室の空気が重いのは、その異物感のせいでもあった。

 

 さっきまで交わしていた短いやり取りの余韻が、まだ室内に残っている。

 宇宙刑事。

 宇宙人。

 その二つの単語だけで、この場の理屈はすでに一段ひっくり返っていた。

 

 しばらくの沈黙のあと、最初に前へ出てきたのは追及だった。

 当然の流れだ。

 この手の場で、最初に問題になるのは「何者か」より「なぜ今まで黙っていたのか」だ。

 

「では、聞かせてもらおう」

 

 落ち着いた声。

 だが、その声音の下にははっきりとした不満がある。

 

「宇宙警察、と君たちは名乗った。宇宙人の存在も、地球外の組織の存在も、今まで秘匿していたことになる。なぜそれを伏せていた?」

 

 問いは真正面から飛んできた。

 責める意図を隠していない。

 むしろ、ここで曖昧な答えをしたらその時点で終わりだと告げてくるような圧がある。

 

 俺は答えようと一瞬思ったが、その前に雷が一歩だけ前へ出た。

 こういう場での温度の作り方は、俺よりこいつの方が上手い。

 軽く見せつつ、必要な線は踏み越えない。

 

「理由は単純だよ」

 

 サンダーライの姿でも、雷の口調には独特の親しみやすさが残る。

 だが、今はそれがふざけて見えない程度にきちんと抑えられていた。

 

「宇宙人の存在をこの星の住人に急に明かせば、混乱になる可能性が高い。だから、これまでは秘匿していた。それだけの話だ」

 

 簡潔だった。

 言い訳めいた言葉も、過剰な弁明もない。

 ただ理由だけを置く。

 

 だが、その答えに、すぐさま別の声が返る。

 

「混乱、か。それは随分と都合の良い理屈だな」

 

 皮肉が混じっている。

 こちらの秘匿を、外部勢力の身勝手と見るなら当然の反応だ。

 

 雷はそこで肩をすくめた。

 やはり軽い。

 けれど、その軽さが逆に揺るがない。

 

「そうかな。少なくとも、僕たちはそう判断した」

 

 少しだけ間を置いてから、今度は俺が口を開く。

 ここは雷の言葉だけでは足りない。

 向こうが本当に引っかかっているのは、“秘匿の理由”ではなく、“その判断をする資格”の方だ。

 

「……そっちだって同じだろ」

 

 会議室の視線が、いっせいにこちらへ向いた。

 俺はその全部を受け止めたまま、続ける。

 

「悪魔も、天使も、堕天使も、人間にはその存在を隠してる。理由は色々あるんだろうが、少なくとも“混乱になるから”って理屈は、あんたらにも覚えがあるはずだ」

 

 静かだった部屋が、今度は別の意味で揺れた。

 誰もすぐには返さない。

 返せない。

 なぜなら、図星だからだ。

 

 人間社会の表側へ、自分たちの存在を全面的に晒していない。

 その一点において、彼らもまた俺たちと同じ側に立っている。

 だから、“秘匿それ自体”だけを一方的に責めることはできない。

 

 数秒の沈黙のあと、ようやく低く息を吐く音が聞こえた。

 反論ではない。

 苦い納得の音だ。

 

 俺はそこでさらに言葉を重ねる。

 押し返すためじゃない。

 話を前へ進めるために。

 

「隠してたことを正当化したいわけじゃない。ただ、俺たちもこの星の住人を無駄に混乱させたくなかった。それは本当だ」

 

 その本音だけは、誤魔化さずに置く。

 宇宙警察が万能な正義だなんて、俺は思っていない。

 だが、地球に生きる人間の生活を、余計な恐怖や混乱で壊したくないという判断は、本当にあった。

 それだけは譲れない。

 

 また少しの沈黙。

 今度は否定ではなく、整理のための沈黙だった。

 

 やがて、別の側から声が上がる。

 

「……なら、なぜ今それを明かす」

 

 これも当然だ。

 今まで隠していたなら、なぜ今になって開示するのか。

 そこの理由がなければ、ただの気まぐれになる。

 

 雷が今度は真顔で答えた。

 

「エモルギア案件があるからだよ」

 

 場の空気がまた少しだけ冷える。

 すでにこの会議室にいる者たちは、その単語の危険性を知っている。

 コカビエル、バルパー、エモンズ、そしてデス・ギャバン。

 全部が、既存の枠組みだけでは対処しきれないことを、彼らも理解し始めているはずだ。

 

「このまま秘匿を優先して、連携や共有が遅れる方が危険だと判断した。だから明かした。それだけだ」

 

 雷の言葉は、やはり説明しすぎない。

 短く、だが必要な芯だけを置く。

 会議室にいる誰もが、その意味を理解する。

 “秘密を守る”段階から、“危険を止めるために公開する”段階へ移った。

 それが今だ。

 

 そして、ここで話の焦点はもう一つ移る。

 宇宙警察が今後どうするのか。

 そして、ギャバンが何者なのか。

 

「では、君たちは今後もこの地球で活動を続けるということか」

 

 問いは静かだった。

 しかし、そこには重さがある。

 短期滞在の外部戦力なのか、それとも継続的に関与する存在なのかで、意味が大きく変わるからだ。

 

 俺はそこで、はっきり答えた。

 

「続ける」

 

 短く。

 曖昧さを入れない。

 

「宇宙警察は今後も地球で活動する。エモルギア案件がある以上、それは止めない」

 

 誰かがわずかに眉を動かした。

 予想していた者もいれば、言い切るとは思っていなかった者もいるのだろう。

 

 そして、次の一言が本番だった。

 

「それと、ギャバンは――この地球所属だ」

 

 会議室の空気が、またしても止まる。

 ここでの“所属”は、ただの勤務先の意味じゃない。

 ギャバンが外から来た侵入者ではなく、地球案件を受け持つ戦力であることを意味する。

 つまり、こいつはこの星の外部者でありながら、同時にこの星の守り手でもある。

 その矛盾した立場が、一言で場へ叩きつけられた。

 

 向こうの視線が少しだけ変わる。

 警戒が消えるわけじゃない。

 だが、“未知の侵入者”一色だった認識に、別の色が混ざった。

 地球に属する防衛戦力。

 少なくとも、そう見る余地が生まれた。

 

 もちろん、それで信用されるほど甘くはない。

 この場にいる連中は、そういう単純な存在じゃない。

 それでも、今の一言は大きい。

 敵か味方かも分からない異物から、警戒しながらも扱いを考える対象へ、一段だけ位置が変わった。

 

 やがて、会議室の奥から低い声が返ってくる。

 

「……なるほど。つまり、君たちは外宇宙の存在でありながら、地球の案件へ継続的に関与する立場にある。そう理解してよいのだな」

 

「そうだ」

 

 俺は頷いた。

 

 この答えに、誰ももう“あり得ない”とは言わなかった。

 不満はある。

 警戒もある。

 だが、完全否定はできない。

 秘匿の理屈に覚えがあるから。

 そして、今は連携しない方が危険だと、彼ら自身も薄々分かっているからだ。

 

 会議室の空気は、相変わらず重いままだ。

 友好的な場には程遠い。

 けれど、少なくとも交渉の土台はできた。

 それだけでも、今は十分だ。

 

 俺は会議室の面々を見回しながら、次に来る言葉を考える。

 ギャバンという称号。

 その意味。

 蒸着。

 エモルギア。

 太郎としての俺が、なぜここに立っているのか。

 

 だが、それは今話すべきことじゃない。

 今回必要なのは、宇宙警察の存在を明かし、ギャバンが地球所属であることを伝えるところまでだ。

 個の説明は、その次でいい。

 

 つまり、次の話題はもう決まっている。

 

 ――ギャバンとは何か。

 

 会議室の空気が一段落したところで、俺は装甲の内側で小さく息を吐いた。

 まだ終わっていない。

 けれど、ここまでは辿り着いた。

 宇宙警察として、宇宙人の存在を明かす。

 その最初の一歩は、たしかに踏めた。

 

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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