サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
――ギャバンとは何か。
その問いは、まだ誰の口からも明確には出ていなかった。
けれど、この場にいる全員が同じ場所を見ているのは分かる。
宇宙警察。
宇宙人。
地球所属。
そこまで明かされた以上、次に問われるのは当然、その中心に立っている“ギャバン”そのものだ。
会議室の空気は、少しだけ静かになっていた。
いや、静かになったように見えるだけで、実際は張り詰めた糸の本数が増えただけかもしれない。
悪魔も、天使も、堕天使も、それぞれの理屈で理解しようとしている。
理解できなければ、次は測る。
測れなければ、警戒する。
そういう連中だ。
だからこそ、ここで曖昧な説明はできない。
俺はギャバリオントリガーに触れないまま、ただ背筋だけを伸ばした。
この場で俺が話すべきことは、強さの自慢でもなければ、秘密の暴露でもない。
何を守るための力か。
その一点を間違えないことだけが、今は大事だった。
「……なら、聞こう」
低い声が会議室の奥から落ちる。
重みのある、しかし感情を抑えた問いだった。
「ギャバンとは何だ」
真正面から来た。
ごまかしの余地がないくらい、綺麗に。
俺は一度だけ息を整え、それから答える。
「ギャバンは、銀河連邦警察によって宇宙にただ一人選ばれる称号だ」
会議室の空気が、また少しだけ揺れた。
称号。
役職でも、兵科でもなく、称号。
その響きだけで、向こうも“単なる変身戦士ではない”と理解する。
俺は続ける。
言葉を選びながら、けれど濁さずに。
「誰でもなれるわけじゃない。選ばれること、そのものが条件になる。ギャバンシステムを起動できる者だけが、その名を名乗れる」
「ギャバンシステム……」
誰かが繰り返した。
初めて聞く単語を、そのまま舌の上で転がすみたいに。
「ああ」
俺は頷く。
「エモルギーと自身の感情を完全に共鳴させることで起動するシステムだ。起動すれば、専用のコンバットスーツが装着される」
言葉にすると簡潔だ。
けれど、本当はそんなに綺麗なものじゃない。
感情を力に変えるなんて、綺麗事のようでいて、実際は怖い。
怒りも、不安も、願いも、迷いも、全部が触媒になる。
だからこそ、選ばれる。
誰でもいいわけじゃない。
会議室の向こう側で、いくつかの視線がギャバン・キングの装甲を改めて測り直しているのが分かった。
魔力でも聖力でもない。
けれど、感情と共鳴する。
この星の理と、まったく無関係とも言い切れない。
そこが、余計に厄介なのだろう。
「感情を、力に変えるというのか」
今度の声には、警戒と興味が半分ずつ混ざっていた。
「正確には、感情を媒介にしてエモルギーと同期する」
俺は言い直す。
そこは大事だ。
感情そのものを燃やすわけじゃない。
感情から生まれたものと、こちらが呼応する。
「エモルギアは、感情から生まれるエネルギー生命体“エモルギー”が込められた小型アイテムだ」
その説明に、今度は雷が少しだけ横へ視線を流した。
続きを任せる、というより、必要なら補足するぞという立ち方だ。
俺はそれを感じながら言葉を継ぐ。
「ただの道具じゃない。反応する。持ち主を選ぶし、相手を見て、場合によっては拒む」
ここで、部屋の中の空気がわずかに変わる。
神器。
そういう“選ばれる力”に近い概念を、この場の連中はみんな知っている。
「……では、そのキズナエモルギアもまた、選ばれた者にしか扱えないのか」
問いが来る。
やはり、そこへ目が向くか。
俺は少しだけ視線を落とし、自分の内側にある鼓動を意識した。
キズナエモルギア。
今も、装甲の奥で静かに脈打っている。
「ああ」
短く答える。
そして、今度は迷わず言い切った。
「キズナエモルギアは所有者を選ぶ。この場にいるギャバン・キングは、その適合者だ」
言った瞬間、自分で少しだけ可笑しくなる。
適合者。
まるで他人事みたいな響きだ。
けれど、今この場で太郎として話すより、ギャバンとして言う方が正しい。
この力は、俺の意志だけで手に入れたものじゃない。
選ばれたから、ここにある。
誰かが椅子の背に触れた音がした。
おそらく、その“選ぶ”という性質に引っかかったのだろう。
自分の意志だけでは制御できない力。
所有者に依存する道具ではなく、道具の側が所有者を決める力。
この場の者たちにとって、それは聞き捨てならないはずだ。
「神器と、似ているな」
ぽつりと落ちたその言葉に、俺は頷いた。
「近いところはある」
否定はしない。
実際、俺もそう思っている。
神器の持ち主に、エモルギアが反応しやすいことも、もう分かっている。
「特に神器の持ち主には反応が強い。互いに共鳴して、力が増幅することもある」
会議室のあちこちで、視線が静かに動く。
神器持ちの面々はもちろん、自分たちの戦力構造とエモルギアが噛み合う可能性を考えれば、黙っていられない話だ。
俺はその緊張を感じながら、最後の線だけははっきり引いた。
「だから危険なんだ」
言葉は自然と重くなる。
「この星には神器がある。悪魔も、天使も、堕天使も、感情や信仰や因子に関わる力を持ってる。エモルギアはそういうものと共鳴しやすい。だから、放っておいたら増幅する」
自分の声が、会議室の壁へ静かに当たって返ってくる。
説明しているはずなのに、どこかで宣告みたいな響きになっていた。
「それが、俺たちが今ここにいる理由だ」
沈黙。
今度の沈黙は、単なる警戒だけではない。
理解が少し進んだぶんだけ、厄介さの規模も共有された沈黙だ。
エモルギアは未知の道具ではある。
けれど、この星の理から完全に浮いているわけではない。
むしろ、この星の構造に深く食い込み得る。
その事実が、この場の全員へようやく届いた。
俺は装甲越しに、ゆっくりと息を吐いた。
ここまでは言った。
ギャバンとは何か。
キズナエモルギアとは何か。
エモルギアがなぜ危険か。
必要な説明は、ひとまず終わった。
このまま次の質問が来る。
そう思った、その時だった。
会議室の奥、最も高い位置にある窓の向こうで、何かが動いた。
ほんの一瞬。
夜の闇に紛れるような黒。
けれど、ただの影ではない。
視線を向けた瞬間に、ぞわりと背筋を撫でるような異物感がある。
俺は反射的に顔を上げる。
そして、理解した。
来る。
説明が終わった、その直後を狙うように。
三大勢力の会議室、そのものを見下ろす位置に、確かに“影”がいた。
次回の王は
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妖怪王
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幻想王