サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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宇宙な暴露 Case7

 影は、窓の向こうにいるはずなのに、どこか距離の概念そのものが狂っているように見えた。

 近い。

 だが、手を伸ばして届く近さではない。

 ただ視界へ入った瞬間に、「こちら側へ干渉してくる」と分かる種類の近さだった。

 

 次の瞬間、世界が凍りつく。

 

 いや、冷えたわけじゃない。

 止まった。

 

 会議室の中で揺れていた灯りの反射が、その角度のまま固まる。

 誰かが息を吸いかけた気配も、椅子に体重を預けるわずかな軋みも、途中で切り取られたように動きを失う。

 窓の外で揺れていたはずの木の葉も、夜風の流れも、空を流れる雲さえ、その形を残したまま静止していた。

 

 周囲の時間が止まる。

 

 だが、全員が止まったわけじゃない。

 俺は動ける。

 そして、この場にいる中で何人かもまた、完全には止まっていないらしい。

 視界の端で、アザゼルがわずかに顔を上げるのが見えた。

 あの人の目だけが、止まった空間の中でもやけに生々しく光っている。

 

 窓の向こうにいた影が、今度は明確な輪郭を持つ。

 一人じゃない。

 二人でもない。

 複数。

 黒い衣装に身を包んだ、いかにも“こちらの平穏を壊しに来ました”という顔をした連中が、会議室の外に立っていた。

 静止した夜の中で、そいつらだけが時間から切り離されたように自然に動いている。

 怪しげ、なんて生ぬるい。

 あれは最初から、襲撃するために来た集団だ。

 

「……ずいぶん、趣味の悪い入り方だな」

 

 俺が低く言うと、静止した空間の中でアザゼルが鼻で笑った。

 軽いようでいて、その目はまったく笑っていない。

 

「なるほどな。そう来るか」

 

 その声だけが、この止まった会議室の中で妙に鮮明に響く。

 俺は窓の外から視線を外さないまま問いかけた。

 

「知ってるのか」

 

 アザゼルは肩をすくめる。

 まるで厄介な知人の名前を言う時みたいな、嫌そうな仕草だった。

 

「ああ。あの連中は禍の団だ」

 

 その名が落ちた瞬間、場の空気がまた別の意味で重くなるのを感じた。

 禍の団。

 名前だけで、今ここにいる悪魔側の何人かが内心で舌打ちしたのが分かる気がした。

 俺はその名の細かい来歴までは知らない。

 だが、“旧”なんて頭に付いた時点でろくでもない。

 過去の権威を引きずった連中か、今の秩序を認めない連中か、その両方だろう。

 少なくとも、会談を潰しに来るには十分な名前だ。

 

 止まった時間の中で、外の集団はゆっくりとこちらを見ていた。

 窓越しなのに、視線だけが肌へ触れるみたいな不快さがある。

 会議室の中には、三大勢力の要人がいる。

 宇宙警察の存在を正式に明かした直後。

 ここで襲撃が入る意味は、分かりやすすぎるくらい分かる。

 対話を潰す。

 新しい均衡が生まれる前に、全部壊す。

 そういうやり口だ。

 

 俺はギャバリオントリガーへ指をかけた。

 説明は終わった。

 なら次は、守る番だ。

 

「会談を止める気か」

 

 誰に向けたわけでもなく呟く。

 だが、答えは向こうの顔に書いてあった。

 止めるどころか、最初からそのつもりで来ている。

 

 俺は一歩だけ前へ出る。

 会議室の床に響いた足音が、この止まった世界の中でやけに大きく聞こえた。

 後ろには三大勢力。

 

 前には禍の団。

 

 立つ場所としては、分かりやすい。

 

「悪いが、ここから先は通さない」

 

 俺はギャバンとして、集団の前に向かう。

 窓の外へ飛び出すつもりで重心を落とすと、静止した空間の中でギャバリオン粒子が皮膚の下を走る感覚がわずかに強まった。

 世界が止まっても、俺が止まる理由にはならない。

 この場を守る。

 それだけで十分だ。

 

 窓の外で、禍の団の一人がわずかに笑った。

 挑発か、歓迎か、そのどちらでもあるような笑み。

 なら好都合だ。

 相手がこちらを見てくれているなら、その間に守れるものが増える。

 

 俺は視線をまっすぐ前へ固定したまま、静止した夜へ踏み出した。

 

 静止した夜の中で、旧魔王派の魔法使いたちは、こちらが踏み出した瞬間に一斉に動いた。

 黒いローブの裾が翻り、杖と指先と魔法陣が、まるで訓練された兵みたいに同時に持ち上がる。

 躊躇いはない。

 この場にいるのが何者であれ、まずは力で押し潰す。

 そういう連中の動きだった。

 

 詠唱の断片が夜へ散り、次の瞬間には、幾筋もの光弾と呪力の槍が俺へ向かって走る。

 ただ派手なだけの魔法じゃない。

 数で潰し、逃げ場を奪い、通ればそのまま肉も骨も焼き飛ばすつもりの実戦型だ。

 会談の場を襲撃するだけあって、最初から加減の気配はなかった。

 

 だが、俺は慌てない。

 肩で息をする必要も、ここで無理に前へ出る必要もない。

 攻撃が来ると分かっているなら、取るべき手はもう決まっている。

 

 俺は落ち着いた動作でエモルギアを取り出す。

 指先で確かめるように握り込み、ギャバリオントリガーへ滑らせる。

 装填機構が噛み合う音が、止まった世界の中でも不思議なくらい鮮明に響いた。

 

『投影!ジャンパーソン!』

 

 音声が鳴った瞬間、全身の感覚が切り替わる。

 ギャバン・キングの装甲の上へ、さらに別の“重さ”が重なる。

 ただ硬いだけじゃない。

 対弾、防爆、対特殊攻撃。

 そういうものを前提に組み上げられた、戦うためではなく“受け止めるための鋼”の感触。

 ジャンパーソンへの投影。

 圧倒するためではなく、まずは潰されないための一手だ。

 

 魔法が、俺へ到達する。

 

 火球が胸へ叩きつけられる。

 雷撃が肩を這う。

 呪いを帯びた槍が胴を貫こうと迫り、風の刃が首筋を薙ぐ。

 だが、その全部が、装甲の上で弾けるだけだった。

 

 火花。

 爆風。

 閃光。

 校庭の土が巻き上がり、地面へ裂け目が走る。

 それだけ派手に暴れているのに、俺の足は一歩も下がらない。

 衝撃はある。

 装甲の上を走る熱も、振動も、確かにある。

 けれど、それだけだ。

 通らない。

 止まらない。

 壊れない。

 

 俺は無傷で、魔法使い達の攻撃を受け止める。

 

 爆煙の向こうで、魔法使いたちの動きが止まった。

 杖を構えたまま、次の詠唱へ入るのを一瞬忘れたみたいに。

 それほどまでに、今の光景は連中の想定から外れていた。

 

「なっ……」

 

「馬鹿な、直撃したはずだ!」

 

「傷一つ、ない……!?」

 

 驚愕が、ようやく声になる。

 そりゃそうだ。

 さっきまでのギャバンとは、纏っている気配そのものが違う。

 同じ人間に見えて、同じ相手に見えない。

 力押しで崩れると思っていた相手が、むしろ“受ける前提”で前に立っている。

 そう理解した時には、もう遅い。

 

 爆煙の中から、俺は一歩前へ出る。

 ジャンパーソンの投影が乗った装甲が、魔法の残光を弾きながら静かに軋む。

 痛みも、焦りも、今は表へ出す必要がない。

 連中が驚いた、その一瞬が、次の攻めの起点になる。

 

 守るために立つ時、派手な一撃よりもまず必要なのは、

 “この程度では止まらない”と見せつけることだ。

 爆煙がまだ晴れきらない中、俺は止まらなかった。

 ジャンパーソンの投影が乗った装甲の重さを、そのまま前進するための安定へ変えて、一歩、また一歩と魔法使いたちの懐へ詰めていく。

 向こうはまだ、俺が直撃を受けて無傷でいる現実を飲み込みきれていない。

 その一瞬の遅れだけで、勝負はもう決まっていた。

 

 右手にはギャバリオントリガー。

 そして左手には、投影によって追加されたもう一丁――ジャンデジック。

 二丁拳銃。

 ただ乱射するためじゃない。

 制圧するための、無駄のない二つの銃口だ。

 

 最初の魔法使いが、ようやく次の呪文を組み上げようと杖を持ち直す。

 だが、その指先が印を切り切るより早く、俺は右のギャバリオントリガーを弾いた。

 乾いた発射音。

 撃ち抜いたのは胸でも頭でもない。

 肩口、鎖骨の少し下。

 衝撃を一点へ通し、呼吸と集中をまとめて奪う位置だ。

 魔法使いの身体が後ろへ跳ね、白目を剥いたままその場へ崩れ落ちる。

 

 続けざま、左のジャンデジックが火を噴く。

 二人目の太腿を撃ち抜くように見えて、実際には神経の走る外側を叩く。

 悲鳴を上げる暇もなく膝が折れ、そのまま額から地面へ落ちた。

 

 右、左、右。

 リズムは一定。

 狙いは急所ではなく、確実に意識を刈り取れる場所だけ。

 手首、肩口、脇腹、脚の付け根、顎先の少し下。

 どれも殺すための射撃じゃない。

 立たせないための射撃だ。

 

 魔法使いたちはようやく恐怖を理解したらしい。

 詠唱が乱れ、魔法陣の光が不揃いになり、誰かが後ろへ下がろうとする。

 だが遅い。

 数が多いほど、互いの逃げ道を塞ぎ合っている。

 狭い陣形の中で慌てれば慌てるほど、俺にとっては狙いやすいだけだった。

 

 一人が火球を放つ。

 その瞬間に右のトリガーで手首を撃ち抜き、火球は天へ逸れて消える。

 別の一人が雷撃を起こそうと杖を掲げる。

 左のジャンデジックが杖の柄ごと握りを叩き、痺れた指先から武器が滑り落ちる。

 さらに踏み込み、至近距離から二連射。

 胸骨の上、鳩尾の脇。

 相手は息を詰まらせたまま意識を失った。

 

 誰一人、死なせない。

 けれど誰一人、立たせもしない。

 

 それが、今この場で見せるべき実力差だった。

 

 魔法使いたちの数は多い。

 だが、こちらには迷いがない。

 殺してしまう方が簡単な場面でも、そうしないと決めている。

 その上で、全員を一方的に制圧する。

 それこそが、本当の意味での差だ。

 

 俺は二丁を交差させるように撃ちながら前へ進む。

 右が倒し、左が詰ませる。

 左が崩し、右が落とす。

 まるで最初から二丁で戦うために訓練されてきたみたいに、銃口は迷いなく次の標的へ滑っていく。

 

 五人。

 七人。

 十人。

 

 数える意味もなくなる頃には、夜の地面へ転がっているのは気絶した魔法使いたちだけになっていた。

 杖は散らばり、未完成の魔法陣は宙で砕け、さっきまであったはずの包囲網は跡形もなく潰れている。

 

 最後の一人が震える手でこちらへ何かを向けた。

 俺はその視線の先を読んで、半歩だけ角度を変える。

 放たれた光弾が肩を掠めるより先に、右のギャバリオントリガーが短く吠えた。

 額の直前を避け、頬骨の横へ正確に衝撃を叩き込む。

 身体が糸の切れた人形みたいに崩れ、静かに動かなくなった。

 

 沈黙。

 

 さっきまで数で押し潰そうとしていた魔法使いたちは、全員が地面へ伏している。

 死者はいない。

 血も最小限。

 だが、反撃の余地もない。

 

 俺は二丁の銃口をゆっくり下ろし、足元へ転がる魔法使いたちを見渡した。

 圧倒するっていうのは、ただ強く倒すことじゃない。

 相手が何もできないまま、自分たちの敗北だけを突きつけることだ。

 

 ジャンパーソンの投影が静かに脈打つ中、俺は装甲越しに短く息を吐いた。

 これで、少なくともこの場の連中はもう終わりだ。

 そして次に進むための道は、誰の命も奪わずに開いた。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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