サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
旧魔王派の魔法使いたちを制圧し終えた直後、夜気の質が変わった。
さっきまで漂っていたのは、人の手で組まれた術式の匂いだった。焦げた魔力、砕けた詠唱、暴走寸前でねじ切られた魔法陣の残滓。そういう、まだ人間の意図が読める範囲の異常だ。
だが、今感じているのはそれとは違う。もっと大きく、もっと古く、もっと“生き物”として不快な圧だった。
足元の地面が、ゆっくりと呼吸を始める。
校庭の土が、まるで内側から脈打っているみたいに上下し、ひび割れの隙間から黒い光が滲み出した。
夜の空気が重く沈み、耳の奥で低い振動音が鳴り続ける。
何かが、下から来る。
「……まだあるのかよ」
思わずそう呟いた瞬間、地面が弾けた。
爆発ではない。
破砕と隆起が同時に起きたような衝撃だった。
校庭の中心が押し上げられ、土塊と石片が噴き上がり、その中心から黒い塊がゆっくりと姿を現す。
最初に見えたのは爪。
次に鱗。
そして、裂けた口のように見える頭部。
巨大な魔獣。
人型ですらない。
獣とも竜ともつかない異形の輪郭が、月明かりを背にして立ち上がる。
背中からは歪んだ棘が何本も突き出し、四肢は異様に長く、ひとたび振るわれれば校舎の壁くらい簡単に引き裂けそうだった。
首元から胸にかけては、まるで魔法陣そのものが肉と一体化したような紋様が脈打ち、そこから黒紫の煙が吹き出している。
召喚というより、災害の具現化だった。
会議室の奥から気配がざわつく。
悪魔側、天使側、堕天使側。
誰も声を荒げないが、その視線だけで十分に分かる。
これは、通常戦力で片づける相手じゃない。
その判断が全員の中で一致したのだ。
「旧魔王派の連中、ここまでやるか」
誰かが低く吐き捨てる。
俺はギャバリオンブレードを下げずに、魔獣の全高と四肢の長さ、口腔内の光、歩幅の癖をざっと見る。
一歩で校庭を削れる。
次の一撃で会議室ごと持っていかれてもおかしくない。
この場には三大勢力の代表がいる。
潰されたら被害はこの場だけで済まない。
会談そのものが破壊される。
魔獣が頭を持ち上げた。
顎の奥に黒い光が集まり、唸るような低音が膨張する。
撃ってくる。
しかも、狙いは俺じゃない。
後ろ。
会議室だ。
「下がれ!」
叫ぶと同時に、俺は一歩前へ出た。
ギャバリオントリガーを構えれば迎撃そのものはできる。
だが、できたとしても一撃限りだ。
この規模を何度も受け続けるのは無理がある。
ここで必要なのは、目の前の攻撃を止めることじゃない。
被害そのものを別のスケールへ引き上げて処理することだ。
つまり――巨大戦。
判断に、迷いはなかった。
俺はトリガーの構えを変え、呼吸を深く落とす。
ギャバリオン粒子が装甲の下で脈動し、キズナエモルギアが心拍と同じ速さで共鳴を始める。
自分の感情を無理に静める必要はない。
焦りも緊張もある。
だが、それごと使う。
守るべきものが明確な時ほど、ギャバンシステムは迷わない。
「来い――コスモギャバリオン!」
その声が夜空へ放たれた瞬間、空気の層が変わる。
上空の雲が一度だけ不自然に裂け、会議室と校庭の上へ巨大な影が差した。
最初に聞こえたのは、低い推進音だった。
次に、空間を震わせるほどの機関音。
そして最後に、月光を切り裂いて現れた鋼の船体。
コスモギャバリオン。
宇宙船であり、武装であり、戦場の盤面そのものを塗り替えるための支援戦力。
その機体は、ただ大きいというだけで場を支配した。
鈍重ではない。
鋭く、整っていて、兵器として洗練されている。
艦体の装甲面に走る光のラインが夜闇の中で脈打ち、機首の両脇から伸びるユニットが静かに展開していく。
出現の仕方が違う。
魔獣が“この場を壊す異物”なら、コスモギャバリオンは“この場を守るために整えられた理性”だった。
その姿を見た瞬間、会議室の空気が明らかに変わった。
今度のざわめきは、恐れと驚きが半々だった。
「……これが」
「ギャバンの、戦力……?」
「まだ隠していたのか……!」
誰かが言葉を失い、誰かが小さく声を漏らす。
魔力の探知では測れない。
だが、規模だけで理解できる。
この地球の巨大災害級案件に対して、即応できる戦力を持っている。
それが、一瞬で伝わった。
俺はその反応を横目で確認しつつ、視線を前へ戻す。
魔獣はコスモギャバリオンの出現に苛立ったのか、咆哮と共に頭を振り上げた。
黒い衝撃波が地面を抉りながら広がり、校庭の土と瓦礫を巻き上げる。
「さてっと、やるか、コスモギャバリオン!強襲モードに移行する!」
次回の王は
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