サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
コスモギャバリオンの影が、会談の場を覆った瞬間、夜の色が一段深くなった。
ただ大きいだけではない。
上空に現れたその艦体は、巨大魔獣が持つ“災害の質量”に対して、まったく別種の圧をもたらしていた。
向こうが理性を持たない暴威なら、こちらは意志を持った鋼だ。
暴れるためではなく、止めるために空から降りてきたもの。
それが分かるだけで、呼吸の仕方まで少し変わる。
俺は地上からその姿を見上げながら、ギャバリオントリガーを強く握り直した。
艦体表面を走る発光ラインが、夜空の闇を切り裂くように脈打っている。
腹部ハッチはすでに開き、機体制御と俺の感覚が同期し始めていた。
言葉で命じる前に、互いの意思が噛み合っていく。
この感覚にはまだ慣れない。
けれど、嫌いじゃない。
守れるものが増えるたびに、俺の中で“王になる”という言葉の意味は少しずつ形を持っていく。
目の前の巨大魔獣は、そんなこちらの都合なんて知るはずもなく、黒い喉奥へ光を溜めていた。
口腔の奥で渦を巻く黒紫の輝きは、炎でも雷でもない。
もっと粘ついていて、もっと底冷えがする。
あれが放たれれば、会議室ごと後ろの敷地まで持っていかれる。
「来るぞ!」
誰かが叫ぶより早く、魔獣が吠えた。
音というより圧力の塊みたいな咆哮で、空気そのものが震える。
次の瞬間、黒い奔流が正面から吐き出された。
コスモギャバリオンが先に動く。
艦首がわずかに傾き、腹部と側面の砲門が一斉に展開した。
白銀の砲光が、夜の中へ幾筋も走る。
撃ち抜くというより、面で押し返すための斉射。
艦砲と呪力砲が真正面から衝突した瞬間、上空で巨大な爆光が弾けた。
白と黒が互いを喰い合い、遅れてきた衝撃波が校庭の土を根こそぎ巻き上げる。
地面が揺れる。
窓ガラスがびりびりと震え、止まっていた時間の残滓みたいに空気がきしむ。
だが、それでも魔獣は止まらない。
前脚を振り上げ、まるで山が動くみたいな勢いで踏み込んでくる。
一歩ごとに地面が陥没し、巨大な体躯から散る呪力が夜空に煤のような筋を引く。
胸部の魔法陣めいた紋様は赤黒く脈打ち、そこが中核だと嫌でも分かるのに、届かせるには高すぎる。
しかも外殻が硬い。
ただ厚いだけじゃない。
魔力や聖力を流されることを前提に組まれたみたいな、嫌な弾き方をしている。
こいつは最初から、広域破壊と対拠点殲滅のために呼ばれたんだ。
誰かと決闘するための怪物じゃない。
最初から“全部まとめて潰す”ための災害だ。
コスモギャバリオンの砲撃が、再び夜を裂く。
今度は点で撃ち抜く狙撃寄りの射撃だ。
艦体の左右から収束光が走り、魔獣の胸部と喉元を正確に捉える。
命中。
黒い外殻が削れ、火花と血とも煙ともつかないものが吹き出す。
けれど、足が止まらない。
中核へ届く前に、呪力の流れがその損傷を拡散している。
思った通りだ。
単独では抑えられる。
けれど、押し切るには一歩足りない。
「くそっ……」
思わず歯を鳴らす。
この場にいる三大勢力の連中も、それぞれに攻撃の間合いを測っているのが分かる。
ただ、手を出しづらい。
規模が大きすぎる。
ここで下手に出力をぶつければ、魔獣ごと会議室も吹き飛ばしかねない。
それに、今この場はまだ“互いを信用しきっていない会談”の延長にある。
連携が完成しているわけじゃない。
だから結局、最初に前へ出た戦力に期待が集中する。
つまり、俺とコスモギャバリオンだ。
魔獣が咆哮と共に棘のような黒い弾を背中から撒き散らす。
空中で枝分かれしたそれは、会議室のある方向と、俺の立つ校庭の両方へ雨のように降り注いだ。
「散開しろ!」
叫びながら、俺はギャバリオントリガーを上空へ向ける。
短く連射し、降り注ぐ弾の軌道をいくつか撃ち落とす。
コスモギャバリオンも迎撃火線を広げ、空を埋める黒い弾を片っ端から爆散させていく。
だが、弾幕が厚い。
校庭全域を飲み込むつもりでばら撒かれたそれは、一つ二つの迎撃じゃ追いつかない。
守る範囲が広すぎる。
まただ。
また“一歩足りない”。
コスモギャバリオンは強い。
災害級を正面から止められるだけの火力と防御もある。
だが、それだけではこの戦場を完璧には支え切れない。
抑え込む手。
こじ開ける手。
そして、右側からねじ込むような突破力。
そういう別の色が必要だ。
その時、俺の耳に、よく知った声が飛び込んできた。
「太郎! 右を空けろ!」
反射的に顔を上げる。
サンダーライ――雷が、会議室の外縁から一気に走り込んでくるところだった。
黄色を基調にした装甲は夜の中でも妙に映えて、黒い魔獣や銀の艦体とはまるで違う“生きた速度”を持っている。
こいつはこういう時、迷わない。
いや、迷ってても前に出る。
それが雷だ。
「何する気だ!」
「見れば分かる!」
短いやり取りの間にも、雷は止まらない。
地面を蹴るたびに細い雷光が足元へ散り、走る軌跡そのものが発火しているみたいに見える。
魔獣の影が大きく覆いかぶさる中、雷はまっすぐ前を見る。
怖くないはずがない。
けれど、それでも前へ出る。
その無茶を見ていると、妙に腹が立って、同時に信頼できる。
雷は勢いのまま片手を上げた。
掌の先で、空気が一瞬だけ明るく歪む。
「来い、サンダーバイク!」
その声に応えるように、遠くの夜道の向こうで稲光が走った。
最初はただの雷鳴かと思った。
だが違う。
直線的に、意志を持って近づいてくる。
地面を這うように伸びる光の線の先で、エンジン音が一気に膨れ上がった。
次の瞬間、道路の向こうから飛び出してきたのは、青白い電光を纏った一台のバイクだった。
サンダーバイク。
車体は低く鋭く、ただ速く走るためだけに磨かれたみたいな形をしている。
なのに、ただの乗り物の質感じゃない。
雷の意志に応じて走り、戦場の空気を読んで軌道を選んでいる。
前輪が地面を擦るたびに電光が花火みたいに散り、その軌跡が黒い校庭の上へ白い筋を刻んでいく。
三大勢力の視線がまた揺れるのを感じた。
コスモギャバリオンだけでも驚いていた連中が、さらに別系統の専用機まで現れたんだ。
無理もない。
“まだ増えるのか”という顔が、言葉にならないまま空気の中で膨らんでいる。
魔獣はその新しい介入を敵として認識したのか、首を振って雷へ狙いを変えた。
口腔の奥で再び黒紫の光が膨張する。
だが雷は減速しない。
真正面から突っ込んでくる。
正気かと思う。
けれど、あいつの戦い方は昔からそうだ。
危ないと分かっているところへ、必要なら平然と飛び込む。
「よそ見するな!」
俺は叫ぶと同時にコスモギャバリオンの砲火を一点へ集中させる。
魔獣の頭部の向きを強引にずらし、雷へ向かいかけた呪力砲の照準を外す。
咆哮と一緒に吐き出された黒い奔流が、雷のすぐ脇を掠めて地面を抉り取った。
土と石が爆ぜる。
それでもサンダーバイクは速度を落とさず、そのまま跳ね上がるように校庭へ滑り込んだ。
雷が片手でハンドルを押さえながら、もう片方をこちらへ向ける。
その視線の先は俺じゃない。
上空のコスモギャバリオン、その右腕の空間だった。
「太郎、次で行ける!」
その一言で全部分かる。
抑えるだけの艦じゃ足りない。
なら、こじ開ける腕が要る。
雷はそれを持ってきた。
ここから先は、もう“介入”なんて軽い言葉じゃ済まない。
こいつは戦場の形そのものを変えに来たんだ。
俺はギャバリオントリガーを握り込んだまま、魔獣を睨み据える。
胸部の紋様が脈打つ。
右側の外殻、その継ぎ目の歪み。
狙う場所は見えている。
夜の校庭に、コスモギャバリオンと巨大魔獣、そして雷を乗せたサンダーバイクの影が重なる。
サンダーバイクの前輪が校庭の土を切り裂き、電光が線になって走る。
その軌跡は、まるで夜そのものへ傷を刻んでいるみたいだった。
巨大魔獣の咆哮が空気を震わせるたび、校舎の窓ガラスがびりびりと鳴る。
それでも雷は一度も減速しなかった。
怖さを知らないわけじゃない。
ただ、必要な時にそれを脇へ置ける。
そういうやつだ。
「合わせろ、太郎!」
「分かってる!」
俺はギャバリオントリガーを握りしめたまま、コスモギャバリオンとの同期をさらに深くする。
上空の艦体がわずかに傾き、右腕側の接続スロットが外殻を展開し始めた。
装甲板が左右へ滑り、内部のロック機構が青白い光を帯びる。
受け入れる準備。
ただの接続じゃない。
異なる戦い方を、一つの形へ統合するための開口だ。
サンダーバイクは真上を見ていた。
いや、雷がそうさせていた。
進路に迷いがない。
跳ねる石、巻き上がる土、魔獣の影、落ちてくる瓦礫、その全部を無視して、一直線に“そこ”だけを目指してくる。
次の瞬間、雷が立ち上がるように腰を上げた。
「行くぞ――サンダーバイク!」
バイクのエンジン音が一段高くなる。
電光が車体を包み込み、前輪からフレームの端まで一気に走った。
車体が跳ぶ。
物理的に飛び上がるというより、雷に押し上げられるみたいに空へ持ち上がった。
そのままコスモギャバリオンの右腕側へ吸い込まれる。
空中で車体が分解し、前輪、カウル、フレーム、推進ユニットがそれぞれの役割を持ったパーツへ展開する。
そして右腕へ。
ただ付くんじゃない。
喰い込むように、食い合わせるように、鋼同士が一つの目的のためだけに噛み合っていく。
右腕が肥大化する。
通常の左右対称が崩れ、コスモギャバリオンの右半身だけが別の機体みたいに変貌した。
サンダーバイク由来の前輪意匠が肩から肘にかけて残り、腕部全体が“殴るための機械”へ塗り替えられていく。
外装の縁には雷紋が走り、各部の隙間から細い電光が漏れ、右腕だけが明確に異形。
だが、それが不格好ではなく、むしろ凶暴なほどに理にかなって見える。
砲撃と制圧の艦に、雷撃打突の腕が追加された。
コスモギャバリオンS。
その姿が完成した瞬間、会議室側の空気がもう一段ざわついたのを感じた。
巨大戦力を持っているだけじゃない。
現場で換装し、連携し、形態すら変える。
それがどれほどの意味を持つか、この場の連中なら分かる。
だが、驚いている時間は短い。
巨大魔獣が、明らかに怒り狂った。
胸部の紋様が赤黒く膨張し、口腔だけでなく背中の棘まで光り始める。
喉奥から漏れる低い音が地面を通して足裏に伝わり、校庭の土が波打つ。
全方位。
あれは一点集中じゃない。
周囲全部を巻き込む破滅の準備だ。
「広域攻撃か……!」
俺の呟きに、雷の声が上空から返ってくる。
「止めるなら今だ!」
その通りだった。
あれを撃たせたら、会議室も、結界も、ここまで残してきた秩序も、全部まとめて吹き飛ぶ。
止める。
それも“受ける”んじゃない。
撃たれる前に、胸部中核ごと潰す。
俺は魔獣の胸を睨みつけた。
黒い外殻に守られた中心。
だが、右側だけわずかに継ぎ目が浅い。
呪力の循環が走る脈動も、右側から左へ流れている。
あそこだ。
サンダーバイクの右腕強化が必要だったのは、その一点をこじ開けるためだ。
「右を抉る! 雷、電流を流し込め!」
「任せろ!」
コスモギャバリオンSが動く。
左腕と推進系で全身を支え、巨大な右腕を前へ押し出す。
艦体由来の重量感と、サンダーバイク由来の鋭い加速が同時に乗る。
鈍重な一撃じゃない。
重いのに速い。
そのアンバランスさが、逆に“避けられない”という印象を作る。
魔獣もそれを本能的に危険と見たらしい。
前脚を振り上げ、巨大な爪で迎撃してくる。
その一撃だけで、普通のビルくらいなら簡単に砕けるだろう。
「受けるぞ!」
俺は叫ぶと同時に左側のスラスターを噴かし、機体の軸を微妙にずらす。
真正面から受けない。
角度を作って、ぶつかる瞬間に右腕へ力を集中させる。
衝突。
金属と外殻と呪力が、まとめて悲鳴を上げる。
コスモギャバリオンSの右腕と魔獣の爪が噛み合った瞬間、電光が一気に炸裂した。
雷がサンダーバイクの回路を通して、打突の内部へ流し込んでいる。
黒い外殻が焦げる。
魔獣の爪の先から、紫色のひびが胸部へ走る。
効いている。
だがまだ浅い。
魔獣が咆哮し、もう片方の前脚を振り下ろしてきた。
それを左腕で受ければ、姿勢が崩れる。
なら――。
「コスモギャバリオン、左砲門、至近斉射!」
俺の命令に応じて、艦体左側の砲門が一斉に火を噴いた。
至近距離からの収束砲撃が、魔獣の肩口と首元を連続で撃ち抜く。
殺すためではなく、体勢を崩すための砲撃。
頭がわずかに振れる。
その一瞬で十分だった。
「今だ、雷!」
「うおおおおおっ!!」
サンダーバイク由来の右腕が、さらに一段深く唸る。
前輪意匠の中心で電光が圧縮され、拳の先端から稲妻が槍みたいに伸びた。
ただ殴るんじゃない。
内部へ雷を“通す”ための一撃だ。
巨大魔獣の胸部中核へ、右腕が突き刺さる。
鈍い音。
次いで、ガラスが内側から砕けるみたいな破裂音。
魔法陣めいた紋様の中心に亀裂が走り、その中へ雷撃が容赦なく流れ込んでいく。
魔獣の身体全体が痙攣した。
背中の棘が明滅し、口腔に溜まっていた広域破壊のエネルギーが不安定に揺らぎ始める。
「そのまま押し込む!」
俺は叫びながら、全推進を前へ回した。
コスモギャバリオンSが、巨体ごと魔獣へ食い込む。
足元の校庭が耐え切れずに陥没し、土煙が壁のように立ち上がる。
会議室の窓から漏れる光すら、その煙に一瞬隠された。
魔獣が最後の抵抗を見せた。
胸部中核が赤黒く膨張し、暴走したエネルギーが逆流する。
ここで押し負ければ、爆散に巻き込まれる。
だが、引く気はなかった。
俺の脳裏に浮かぶのは、守るべきものだけだ。
会議室。
三大勢力の連中。
この場で結ばれかけている新しい線。
絶花。
小猫。
駒王の街。
全部ひっくるめて、ここで吹き飛ばさせるわけにはいかない。
「終わらせるぞ!」
「当然だっ!」
雷の声が重なる。
右腕全体を走る電光がさらに増幅し、コスモギャバリオン本体の出力と噛み合う。
宇宙刑事の鋼と、サンダーライの雷。
別々の戦い方だったものが、一つの拳にまとめられていく。
そして。
胸部中核が、砕けた。
光が弾ける。
今度は黒紫ではなく、汚れた光が内側から無理やり解放されるような爆ぜ方だった。
魔獣の全身にひびが走り、鱗と外殻が内側から持ち上がる。
咆哮はもう叫びにならない。
音になりきれないまま、身体そのものが崩壊へ向かっていく。
「上へ!」
俺の声に応じて、コスモギャバリオンSが一気に上昇する。
胸を貫いた右腕を引き抜き、爆散の範囲から離脱。
次の瞬間、巨大魔獣は自壊した。
轟音。
巨体が崩れ、黒い外殻が空中で砕け散り、呪力の残滓が火の粉みたいに夜空へ舞う。
地上へ落ちる前に、それらは光を失い、灰のように散っていった。
まるで最初から“存在してはいけないもの”だったみたいに、綺麗に消えていく。
校庭には、大きく抉れた地面だけが残った。
空気はまだ熱く、焦げた匂いと魔法の残り香が混じっている。
それでも、終わったのだと分かる静けさがあった。
コスモギャバリオンSを上空で安定させながら、俺はゆっくり息を吐く。
装甲の内側では心臓がまだ早い。
だが、それでいい。
守れた。
少なくとも、この会談の場は。
視線を下ろすと、会議室の窓辺に小さく人影が並んでいた。
三大勢力の代表たちだ。
誰も言葉を発してはいない。
でも、分かる。
さっきとは違う目でこちらを見ている。
警戒はまだある。
当然だ。
だがそれだけではない。
理解。
あるいは、認識の更新。
ギャバンと宇宙警察は、もう“説明を聞くだけの相手”じゃない。
この星で、実際に巨大災害へ対処できる戦力として、今この瞬間に刻まれた。
右腕の追加ユニットを通して、雷の気配がまだ残っている。
同期の余韻みたいなものだ。
俺はそれを感じながら、小さく呟いた。
「……助かった」
すると、通信越しに雷が笑った気配がした。
「だろ?」
軽い返事だった。
けれど、その軽さに救われる。
王だの、宇宙刑事だの、大層な名前を背負っていても、こうして一緒に戦えるやつがいるだけで、背負う重さは少し変わる。
夜空の中、コスモギャバリオンSはゆっくりと降下を始める。
もう戦闘は終わった。
だが、本当の意味での余波はここからだ。
三大勢力は、俺たちをどう見るのか。
宇宙警察の存在を、どこまで受け入れるのか。
答えはまだ出ない。
次回の王は
-
妖怪王
-
機械王
-
怪獣王
-
幻想王