サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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宇宙な暴露 Case10

 巨大魔獣が崩れたあとの夜は、妙に静かだった。

 ついさっきまで空を裂いていた雷も、地面を揺らしていた咆哮も、今はもうどこにもない。

 残っているのは、抉れた校庭と、吹き飛ばされた土の匂いと、熱を失いかけた空気だけだ。

 コスモギャバリオンSの右腕を走っていた残光も、ゆっくりと薄れていく。

 勝った、と思うには後味が悪く、負けた、と思うには守れたものが多すぎる。

 そういう終わり方だった。

 

 俺は機体の制御を落ち着かせながら、会議室の方へ視線を戻した。

 窓の向こうにいた人影はまだ動いている。

 つまり、守れた。

 少なくとも会談の場そのものは。

 それだけで十分だと、自分に言い聞かせる。

 

 コスモギャバリオンSの同期を切り、装甲の内側でひとつ深く息を吐く。

 機体の重さが遠のいていく感覚は、いつだって少しだけ心許ない。

 巨大戦の最中には確かに噛み合っていた感覚が、終わった瞬間に現実へ戻ってくる。

 俺は地面へ降り立ち、砕けた校庭を踏みしめた。

 土はまだ熱を持っていて、靴底越しにじわりと伝わってくる。

 

 会議室へ足を向けると、そこでもまた別の戦いの終わりが残っていた。

 壁は裂け、床には焼け跡が走り、空気の中には俺の知らない種類の戦闘の名残が漂っている。

 光の擦過痕。

 魔力の残滓。

 そして、誰かの強烈な意思がぶつかったあとにだけ残る、妙な空白。

 こっちでも、ただの迎撃では済まなかったのだと、言葉がなくても分かる。

 

 俺が一歩中へ入ると、視線が集まった。

 さっきまで向けられていた警戒とも、驚きとも少し違う。

 それぞれが別の戦線を終えて、今ようやく“全体”を見ようとしている目だ。

 

「戻ったか」

 

 低く声をかけたのはアザゼルだった。

 あの人は相変わらず飄々としているようでいて、今日はさすがに冗談を言う気分ではないらしい。

 袖口や肩に傷みたいな乱れがあって、そこに今の激戦が残っている。

 

「そっちも終わったみたいだな」

 

 俺がそう返すと、アザゼルはわずかに肩をすくめた。

 その仕草には、勝利の軽さはなかった。

 

「一応な。だが、綺麗には終わってない」

 

 その言い方で、大体の察しはつく。

 俺は周囲を見た。

 誰かが欠けている。

 誰かというより、一人。

 ここにいて当然のはずの気配がない。

 

 ヴァーリ。

 

 あの名前が頭をよぎった瞬間、部屋の空気がまた少しだけ冷たく感じた。

 

「……裏切ったのか」

 

 口に出したのは確認のためじゃない。

 そうとしか思えない状況を、自分の中で現実として受け入れるためだ。

 

 答えたのはアザゼルではなく、少し離れた位置にいた別の声だった。

 感情を強く乗せない、けれど無視もできない声音。

 

「ええ。すでにね」

 

 短い言葉だった。

 それだけで十分だった。

 

 ヴァーリはもう、この場で何かを言い訳する段階を終えている。

 戦闘の最中に、迷いながら揺れたわけでもない。

 最初から向こう側だった。

 その事実だけが、部屋の静けさの底に沈んでいる。

 

「だが、今さら追っても無駄だ」

 

 今度はアザゼルが続けた。

 その目は、諦めというより割り切りに近い。

 

「撤退を始めてる。あいつも、残りの連中もな」

 

 俺は小さく舌打ちしそうになるのを、喉の奥で止めた。

 悔しい。

 そう思うのは自然だ。

 ここまでやって、まだ全部を叩き切れない。

 しかも、裏切りの中心にいたやつは、自分の足で先に逃げ始めている。

 

 けれど、それでも。

 今この場で追いかけるべきかと問われれば、答えは違う。

 

 今回の目的は、ヴァーリを捕まえることじゃなかった。

 三大勢力会議を守ること。

 会談そのものを成立させること。

 宇宙警察の存在開示を、襲撃で潰させないこと。

 それが今回の役目だ。

 

 そして、それは終わっている。

 少なくとも、俺の分は。

 

 窓の外へ目を向ける。

 崩れた校庭の向こうでは、夜の雲がゆっくり流れ始めていた。

 止まっていた時間が、ようやくまた動き出したみたいに。

 ヴァーリの裏切りも、その撤退も、ここから先は別の段階の話になる。

 今この場で、俺がさらに踏み込む理由は薄い。

 いや、踏み込みすぎればむしろ境界を壊す。

 

 俺はそれを理解して、装甲の中で静かに息を整えた。

 役目を終えた者がいつまでも前に残ると、戦場は必要以上に濁る。

 そういう場面がある。

 今が、それだった。

 

「……会談は続けられるんだな」

 

 俺がそう聞くと、今度は悪魔側から落ち着いた声が返る。

 

「ええ。少なくとも、ここで止める理由はなくなったわ」

 

 その言葉で十分だった。

 無事に終了する。

 それなら、もういい。

 ここで俺がやるべきことは、これ以上増えない。

 

 会議室の空気はまだ重い。

 戦闘の痕跡も、ヴァーリの離反も、何も片付いてはいない。

 それでも、この場に残った者たちは前へ進むつもりでいる。

 なら、そのための余白を残すべきだ。

 

 俺は一歩だけ引いた。

 誰かを見回して別れを言うほどの関係でもない。

 だが、完全に無言で消えるのも違う。

 だから、必要なだけを口にする。

 

「俺の役目は終わった。後は、そっちでやってくれ」

 

 静かな声だった。

 命令でもなければ、突き放しでもない。

 ただ事実として言う。

 

 誰かが何か言いかけた気配がした。

 けれど、俺はその前に踵を返した。

 ここで説明を重ねるより、去る方が自然な夜もある。

 外へ出ると、壊れた校庭の向こうで、まだわずかに熱の残る風が吹いた。

 その風は、巨大魔獣の残骸の匂いと、戦場の終わりの冷たさを一緒に運んでくる。

 

 俺は歩きながら、一度だけ夜空を見上げた。

 ヴァーリは逃げた。

 敵はまだ残っている。

 デス・ギャバンも、旧魔王派も、エモルギアの流れも、何一つ終わったわけじゃない。

 それでも、今夜ここで守るべきだったものは守れた。

 それだけは、ちゃんと胸の中で重みを持っている。

 

 勝った、とはまだ言えない。

 だが、間に合った。

 そう思うことだけは許していい気がした。

 

 足元で砕けた石が転がる。

 背後では、会議室の方から再び人の声が動き始める気配がした。

 三大勢力会議は、たぶんこのまま続く。

 無事に終わるだろう。

 そして、そのこと自体が、今夜の最大の成果になる。

 

 俺は振り返らなかった。

 役割を終えたら、あとは静かに引く。

 その方が、格好いいとかじゃない。

 そうするべきだと分かっているからだ。

 

 夜の駒王の空気は冷えていて、火照った身体にちょうどよかった。

 俺はその冷たさを胸いっぱいに吸い込みながら、ゆっくりと戦場の外へ歩いていった。

 

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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