サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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発覚 Case7

 ジスキーが姿を現したことで、巣の空気は変わった。

 追い詰めた、という感覚はある。

 だが、完全に追い込んだわけじゃない。

 あの野郎は前へ引きずり出された今でも、百足の巣そのものを手放していない。

 壁の脈動は止まっていないし、裂け目の奥ではまだ黒い群れが蠢いている。

 その証拠みたいに、俺たちとジスキーの間へ、またしても操られた妖怪たちが割り込んできた。

 

 さっきまでよりも数が多い。

 しかも、寄生具の食い込みが深い。

 首だけじゃない。

 肩、背中、腕、腰。

 あちこちへ百足型の蟲具が食らいつき、理性と痛みをまとめて縛り上げている。

 地獄みてえな絵面だ。

 見てるだけで、胸糞が悪くなる。

 

「まだ出してくるかよ」

 

 俺はギャバリオンブレードを下げずに吐き捨てる。

 ジスキーは息を乱しながら、それでも笑おうとしていた。

 だが、さっきまでの余裕はもうない。

 声の端が震えている。

 

「当然でしょう……! こちらは私の巣だ! あなたたちは、所詮この中で踊らされる獲物に過ぎない!」

 

「はっ、追われて飛び出してきたやつの台詞じゃねえな」

 

 俺が返すと、ジスキーの顔が引きつった。

 図星だ。

 効いてる。

 なら、あと一歩だ。

 

 だがその一歩を踏み込む前に、操られた妖怪たちが一斉に動く。

 爪が閃き、牙が剥き出しになり、百足の寄生具が脈打つたびに身体が引き攣る。

 こいつらも被害者だ。

 だから殺せない。

 けれど、その縛りを抱えたままジスキーへ届くのは、さすがに骨が折れる。

 

「太郎!」

 

 小猫が俺の横で声を上げる。

 寄生具の位置は見えている。

 だが数が多すぎる。

 普通のギャバンの制圧でも、ここで一体ずつやっていたら間に合わない。

 

 だったら、ここで一気に眠らせる。

 傷つけすぎず、戦線だけを剥がす。

 そのための一手を切る。

 

「投影!」

 

 ギャバリオントリガーへ意識を集中し、ギャバリオン粒子の重なりを切り替える。

 今回呼ぶのは、真っ向から切り裂くための鋼じゃない。

 止めるための手だ。

 弾むような色彩と、少し外れたテンポを持つ、小さな一番星。

 

 投影が完了した瞬間、俺はその場で固まった。

 

「・・・しまった! この姿の通常はこれだった!」

 

 目の前の空間に、妙に丸っこいシルエットが映る。

 カブタック。

 そう、カブタックだ。

 だが、スーパーチェンジ前の通常形態。

 ビリットスティックも、制圧向きの動きも、こっちじゃまだ半端だ。

 

 横で小猫が一瞬だけ無言になって、それからじとっとした目を向けてきた。

 

「いや、なんですか、巫山戯ているんですか」

 

「巫山戯ていないけどっ、仕方ない、子猫! これを!」

 

 俺は腰元から友情コマンダーを取り出し、そのまま小猫へ放る。

 小猫は反射的にそれを受け止め、手の中の奇妙な装置を見下ろした。

 

「・・・これは」

 

「友情コマンダーだ! それにスーパーチェンジと叫んでくれ!」

 

 言いながら、自分でもだいぶ無茶を言ってる自覚はある。

 だが今は説明してる暇がない。

 妖怪たちはもう目前まで迫っている。

 

 小猫が友情コマンダーと俺を交互に見る。

 その無表情がほんの少しだけ険しくなった。

 

「すっスーパーチェンジ?」

 

「良いから!」

 

 俺が叫ぶ。

 次の瞬間には、一体目の妖怪が飛びかかってきた。

 通常形態のカブタック投影のまま、それを受け流しながら、小猫の声を待つ。

 ここで躊躇われたら終わる。

 でも小猫は、少しだけ言いにくそうに唇を動かしながら、それでもちゃんと起動させた。

 

「・・・すーぱーちぇんじ」

 

 友情コマンダーが反応する。

 空気が弾けた。

 カブタックの投影が一段深く重なり、形が変わる。

 装甲のラインが伸び、色彩が跳ね、スーパーモードへ切り替わる。

 よし、これだ。

 

 俺は反射的に、原典通りの起動台詞を口にしていた。

 

「君の勇気がこの胸に、熱く響いてイイ感じ! ビーロボの一番星・カブタック!!」

 

 沈黙。

 

 小猫が真顔でこっちを見ている。

 妖怪たちですら一瞬だけ間を置いた気がする。

 この百足の巣の中で、その台詞はさすがに温度差がひどい。

 

「・・・」

 

 俺は軽く咳払いした。

 

「・・・台詞は気にするな」

 

 小猫はまだ真顔だった。

 だが、その口元がほんの少しだけ動いた。

 呆れたのか、安心したのか、もはや分からない。

 

 でも次の一言は、ちゃんと前を向いていた。

 

「分かりました。今は、強いなら何でもいいです」

 

「はっ、賢い判断だ」

 

 だったら行く。

 この姿の役目は明快だ。

 倒すんじゃない。

 止める。

 

 ビリットスティックが展開される。

 頭部から変形した電撃棒は、妙にコミカルな見た目のくせに、仕事はきっちりできる。

 俺は最初の一体へ踏み込み、その肩口へビリットスティックを叩き込んだ。

 

 電撃。

 

 青白い火花が散る。

 寄生具ごと身体が痙攣し、妖怪は悲鳴を上げる前に白目を剥いて崩れ落ちた。

 効く。

 しかも、本体を壊しすぎない。

 だったら、あとは作業だ。

 

「右から二体、寄生具深いです!」

 

「見えてる!」

 

 小猫の指示が飛ぶ。

 俺はそのまま身を捻り、二体目の足を払う。

 倒れ込む勢いのまま、腰に食い込んだ百足具へビリットスティックを叩き込む。

 痺れが走り、寄生が緩み、そのまま失神。

 

 三体目は早かった。

 壁を蹴って頭上から飛びかかってくる。

 普通のギャバンなら切り払うところだが、今は違う。

 俺は一歩だけ踏み込み、下からビリットスティックを顎の下へ突き上げた。

 衝撃と電撃がまとめて入る。

 身体が空中で反り返り、そのまま床へ落ちて動かなくなる。

 

 テンポが出る。

 いい。

 この手応えなら、一気に剥がせる。

 

「……本当に、何でもありですね」

 

 小猫が低く言う。

 その声には呆れも混じっていたが、ちゃんと俺の動きを追えている落ち着きもあった。

 

「便利だろ」

 

「今は認めます」

 

「今は、な」

 

 言いながら四体目へ踏み込む。

 百足の巣の中で、俺たちの呼吸だけが妙に合っていた。

 小猫は寄生具の位置を読む。

 俺はそこへ届く。

 前みたいに、疑う側と誤魔化す側の距離じゃない。

 戦場の中だけだとしても、今はちゃんと並んでいた。

 

 ジスキーの声が苛立ちを含み始める。

 

「何なんですか、そのふざけた姿は……! なぜそんなもので、そんなに的確にっ……!」

 

「ふざけて見えるなら、てめえの目が腐ってんだよ」

 

 俺は五体目の寄生具を叩き割りながら返す。

 

「見た目で舐めた瞬間に負ける。基本だろ」

 

「黙れっ! 黙れ黙れ黙れっ!」

 

 ジスキーの叫びに合わせて、巣の奥の百足がざわめく。

 だが、もう流れは変わっていた。

 操られた妖怪たちは次々と気絶し、床へ倒れていく。

 傷は最小限。

 命も落ちていない。

 こいつが積み上げた“盾”は、今この場で一枚ずつ剥がれている。

 

 最後の一体が俺へ飛びかかった。

 俺はそれを正面から受けず、半身でかわしながらビリットスティックを背中の寄生具へ叩き込む。

 電流が走る。

 寄生が弾け、妖怪はその場で崩れた。

 

 静かになる。

 さっきまで俺たちの前を塞いでいた壁は、もうない。

 

 残ったのはジスキーだけだ。

 

 外套の裾を震わせ、後ずさりしながら、巣の中核を背にしてこちらを見ている。

 呼吸が荒い。

 仮面の奥の目が、明らかに焦っている。

 観察者ぶっていた余裕は、もうどこにもなかった。

 

「今度こそ終わりです」

 

 小猫が隣で言う。

 短い。

 だが、その一言で十分だった。

 

 俺はビリットスティックを肩へ担ぎ、ジスキーを真っ直ぐ見据えた。

 巣の中核は、まだ脈打っている。

 つまり、完全には終わっていない。

 だが、ここから先はもう分かりやすい。

 てめえを止めて、巣を壊す。

 順番に片づけるだけだ。

 

「逃げ場はねえぞ、ジスキー」

 

 俺が言うと、ジスキーの喉がひくりと鳴る。

 

「はっ、ここからが本番だ。百億%、てめえをブチ込む」

 

 百足の巣の奥で、中核がどくん、と一度だけ強く脈打った。

 次の一手を打つなら、もう今しかない。

 

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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