サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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発覚 Case9

 百足の巣は、まだ死んでいなかった。

 操られた妖怪たちを気絶させても、壁の脈動は鈍く続き、床を走る無数の百足も、まるで何事もなかったみたいに流れを保っている。

 つまり俺たちが止めたのは、あくまで目の前へ押し出されていた駒だけで、この空間そのものを動かしている核は、まだ別の場所で息をしているということだ。

 

 ジスキーは後退しながらも、その事実に縋るように笑った。

 さっきまでの余裕は剥がれていたが、それでもなお、巣の主としての最後の支配だけは手放していないらしい。

 

「無駄ですよぉ……! いくら壁を剥がしても、根が残っている限り、この巣は止まりません……! あなたたちは結局、私の掌から出られないのです!」

 

 その笑い声は、強がりと本心が半分ずつ混じっている。

 追い詰められているのは事実だが、まだ勝ち筋が残っていると、自分自身へ言い聞かせている声だった。

 

 俺はビリットスティックを構えたまま、巣の奥を睨む。

 操られた妖怪たちはもう大半が倒れている。

 だったら、次にやるべきことは簡単だ。

 群れそのものを止めるんじゃない。

 その中心だけを引き抜けばいい。

 

「分かってるよ、そんなことは」

 

 俺が低く返した、その直後だった。

 横にいた小猫の呼吸が、不意に変わる。

 乱れたわけじゃない。

 むしろ逆だ。

 静かすぎるくらい静かになって、こいつの感覚だけが、この気味の悪い巣の奥へ深く沈んでいくのが分かった。

 

「……塔城?」

 

 呼んでも、すぐには返事がない。

 小猫の目は、もう目の前のジスキーを見ていなかった。

 壁でも床でもない、そのさらに奥。

 百足の流れそのものを、何か別の見え方で見ている目だった。

 

 巣を這い回る百足たちは、見た目だけならどれも同じだ。

 黒く細く、不快なくせに無駄に統一感がある。

 だが今の小猫には、その全部がただの群れには見えていないらしい。

 空間を走る脈動と、妖怪たちへ残る支配の残滓と、百足が通る流れの芯。

 それら全部が一本の線になって、小猫の意識の中へ流れ込んでいる。

 

 無意識の仙術。

 言葉にすればそういうことなんだろうが、実際に目の前で起きると、もっと静かで、もっと怖い。

 こいつ自身が気づかないまま、世界の輪郭だけが一段深く剥がれていく。

 

「……違う」

 

 小猫が、かすれるように呟いた。

 

「何がだ」

 

「流れが……全部、そこからです……」

 

 小猫の指先が、ゆっくりと左奥の暗がりを指す。

 大量の百足がうごめく中心。

 見た目では何の変哲もない群れの一角。

 だが、その一点だけ、百足の流れが逆らっていた。

 他の個体が巣の命令に従って動いているのに、そこだけが命令そのものを発している。

 

「……あれです」

 

 小猫の声は小さい。

 けれど、迷いはなかった。

 

「あれが、本体です」

 

 俺は一瞬だけその位置を見る。

 普通の目には、ただ百足が密集しているようにしか見えない。

 だが、今の小猫の声には確信がある。

 だったら、それで十分だ。

 ここまで来て、こいつの見たものを疑う理由なんてない。

 

「見えてるんだな」

 

 小猫は小さく頷く。

 その額には汗が滲み、呼吸も少し浅い。

 無理をしているのは明白だった。

 だが、それでも目だけは逸れない。

 

「だったら、そこだ」

 

 俺はビリットスティックを下ろす。

 カブタックで妖怪たちを止める役目はもう終わった。

 ここから先に必要なのは、群れの中から芯だけを抜き取るための精度と突破力だ。

 壁を殴るんじゃない。

 巣を支える釘だけを引き抜く。

 そのための投影へ切り替える。

 

 ギャバリオントリガーへ意識を集中させる。

 ギャバリオン粒子の重なりが切り替わり、装甲の輪郭が、今までより鋭く、細く、より生き物めいた方向へ組み替わっていく。

 

『投影! マーイッカ! アクティベート!』

 

 音声が響いた瞬間、空気そのものが変わった。

 カブタックの軽さとも、ギャバン・キングの正面性とも違う。

 もっと狭く、もっと鋭い。

 小さな隙間へ潜り込み、その奥の命だけを狩るための気配。

 

 ギャバン・アーマイゼ。

 

 蟻のギャバン。

 群体の中の一体を狙い抜くには、これ以上ない形だ。

 

 装甲の色調と輪郭が切り替わり、ギャバン系統の鋼の上へ、アリの昆虫捜査官らしい鋭さとしなやかさが重なる。

 肩や腕のラインは細く研がれ、ただ硬いだけではない、小ささを武器にするための完成度が全身へ宿った。

 ウイング型のギャバリオンブレードが展開し、その刃先が百足の群れの中心をぴたりと捉える。

 

「なっ……!?」

 

 ジスキーの声が裏返る。

 

「まだそんな投影を残していたのですかっ!? いえ、それよりなぜ、なぜ分かったのです!? 私の本体は、私自身すら見失わぬよう紛れ込ませていたというのに……!」

 

 余裕は完全に消えていた。

 自分の本体を見抜かれたこと。

 しかも、その本体を狩るために最適な投影へ、俺が迷わず切り替えたこと。

 その両方が、こいつの神経を一気に削っている。

 

 横で、小猫もまた息を呑んでいた。

 さっきカブタックを見せたばかりだというのに、今度はまた別の姿だ。

 しかも今回は、さっきまでの少し外れた明るさとは真逆の、静かで鋭い異質さがある。

 

「……また、違う」

 

 小猫の声は驚きに揺れていた。

 だが、それは怯えではない。

 知らない太郎を、また一つ見てしまったことへの驚きだ。

 

「太郎、本当に……どこまで……」

 

「後で説明する」

 

 俺は短く返す。

 

「今は、お前が見つけたあれを潰す方が先だ」

 

 小猫の視線が、俺から本体の位置へ戻る。

 そして、今度は迷いなく言った。

 

「右へ一歩。そこから、真っ直ぐです」

 

「了解」

 

 それだけでいい。

 こっちに必要なのは、長い確認なんかじゃない。

 見つけるやつがいて、届かせるやつがいる。

 今この場では、それで十分だ。

 

 俺は一気に踏み込む。

 百足の群れがざわめき、巣の脈動が強まる。

 ジスキーは本体を守ろうとして流れを変えようとするが、もう遅い。

 小猫の仙術が見抜いた位置は、ただの一点じゃない。

 支配の芯そのものだ。

 そこから発する違和感は、もう隠しきれない。

 

「や、やめろっ! 近づくなっ!」

 

 ジスキーが悲鳴混じりに叫ぶ。

 だが知るか。

 お前が今までやってきたことを考えりゃ、その程度の叫びに値引きの余地はない。

 

 ギャバン・アーマイゼの装甲が、巣の中を走る。

 大きく斬り払う必要はない。

 群れ全体を相手にする必要もない。

 必要なのは、中心だけだ。

 大量の百足の中で、ただ一体。

 そこへ、正確に届かせる。

 

 小猫の声が、また飛ぶ。

 

「そこです!」

 

 俺はウイング型ギャバリオンブレードを構え直し、群れの中でわずかに脈を乱した一匹へ、照準ごと意識を絞り込んだ。

 

 ジスキーはなおも喚いている。

 小猫はなおも驚きを隠せず、それでも俺の背中を見ている。

 そして俺は、その全部をまとめて前へ置き去りにしながら、本体へ向けて一気に加速した。

 

 次で終わらせる。

 そう断言できるだけの線が、もう目の前にはっきり見えていた。

 

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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