サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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修羅場 Case5

 冥界の空気は、地上より少しだけ重い。

 けれど、コスモギャバリオンのハッチから降りた瞬間に向けられる視線の重さは、それとは別種だった。

 鋼の足が冥界の大地へ触れる。

 ギャバン・キングの装甲越しに感じるのは、警戒、観察、それから探り合いだ。

 まあ当然だろう。

 宇宙警察の一員として、しかも地球所属のギャバンとしてここへ来た以上、曖昧な態度で済ませる気は最初からない。

 

 俺の正面には、リアス先輩。

 その少し後ろ、腕を組んでこっちを見ているのがアザゼルだ。

 塔城小猫は二人の近くに立っていたが、俺がギャバンの姿で降りた時点で、いつもの無表情のまま一歩だけ視線を強くしていた。

 たぶんもう察している。

 いや、察しているどころか、確信している顔だ。

 それでも今は何も言わない。

 そこは助かる。

 助かるが、後で追及される予感しかしない。

 

「……わざわざその姿で来るのね」

 

 最初に口を開いたのは、リアス先輩だった。

 声音は落ち着いているが、完全に気を抜いているわけじゃない。

 この人はこういう時、相手を正面から見ながらも、同時に盤面全体を見ている。

 王ってのはそういうもんだ。

 だから俺も、変に取り繕う気はない。

 

「話が話だからな。普通の学生の顔で来るより、こっちの方が早い」

 

「その“話”というのは、塔城小猫を一日預かりたい、という件かしら」

 

「ああ。それで合ってる」

 

 言い切ると、リアス先輩の赤い瞳がわずかに細くなる。

 怒っているわけじゃない。

 ただ、理由を見極めようとしている顔だ。

 

「理由を聞いてもいいかしら」

 

「当然だな」

 

 俺は短く頷く。

 ここで濁す方がよっぽど怪しい。

 ついでに言えば、リアス先輩相手に曖昧な言い方をすると、後で百倍面倒になる。

 だったら最初から切り込む。

 

「塔城小猫を連れて行く理由は二つある。一つは特訓のため。もう一つは――」

 

 そこで少しだけ、小猫の方を見る。

 小猫はじっとこっちを見返していた。

 逃げない。

 いい目だ。

 

「こいつが俺の正体を暴いたからだ」

 

 リアス先輩が、ほんの一瞬だけ目を丸くした。

 その反応は珍しい。

 たぶん予想の範囲にはあったが、俺がそこを真正面から口にするとは思っていなかったんだろう。

 

「……それが理由になるの?」

 

「なる。少なくとも俺の中ではな」

 

「普通は口封じとか、警戒とか、そういう方向へ行くものじゃないのか?」

 

 横から挟んできたのはアザゼルだ。

 相変わらず、面白がっているのか試しているのか分からない顔をしている。

 けれど、目だけは妙に鋭い。

 この人はこういう時、会話の中身よりも、その奥にある理屈を見てくる。

 

「口封じでどうにかなる相手じゃねえだろ、こいつは」

 

 俺が言うと、小猫が横で少しだけ目を細めた。

 たぶん褒められてるのか雑に扱われてるのか、微妙なラインだと思ってる顔だ。

 まあ、どっちも半分正解だ。

 

「それに、暴いたって言っても、悪意で剥がしたわけじゃない」

 

 俺は続ける。

 

「見て、考えて、辿り着いた。それだけの観察眼と根性があるなら、褒美くらいはやっていいだろ」

 

 リアス先輩が、そこでわずかに眉を上げる。

 

「褒美、ね」

 

「ああ。だから連れて行く。塔城小猫本人も強くなりたいって言ってるしな」

 

 小猫の肩が、小さく揺れた。

 今の話題が自分の願いに繋がると分かったからだろう。

 こいつは自分のことになると、妙に静かなまま空気だけ変わる。

 分かりやすいんだか分かりにくいんだか、ほんと不思議なやつだ。

 

 リアス先輩は小猫を見る。

 今度は俺じゃなく、完全に部長としての視線だ。

 

「小猫。あなたも、それでいいのね」

 

 小猫は短く頷いた。

 

「……はい。私からお願いしました」

 

「そう」

 

 その一言で、リアス先輩の中でだいぶ整理がついたらしい。

 保護者としての警戒は残っている。

 でも、本人の意思があるなら、それを無視して止める人でもない。

 そこはこの人の強さだ。

 

 ただ、もう一人。

 まだ何か言いたそうなやつがいる。

 アザゼルだ。

 

 こいつは腕を組んだまま、俺の装甲をじっと見ていた。

 いや、見ているのは見た目じゃない。

 装甲の奥を流れるエネルギーそのものを探っている。

 そういう目だ。

 

「なるほどな」

 

 アザゼルが低く言う。

 

「前から妙な反応があるとは思っていたが、今のでだいぶ繋がった」

 

「何がだよ」

 

「お前、王国の駒を持ってるな」

 

 リアス先輩の視線が、今度は俺へ戻る。

 ああ、そう来るか。

 だが、ここは別に驚くところでもない。

 アザゼルくらいの観察眼があれば、ギャバンシステムのエネルギーの中に混じる異質な反応を拾ってもおかしくはない。

 

「探知したのか」

 

「ギャバンシステム由来のものだけじゃない。悪魔の駒に近い、だが完全には同一じゃないエネルギーが混じっている。王国の駒を持つやつ特有の反応だ」

 

「さすがに目ざといな」

 

「はっ、こっちは伊達に長く生きてないんでな」

 

 リアス先輩が少しだけ考え込む。

 

「つまり、あなたは宇宙警察側の存在であると同時に、こちらのシステムとも接点を持っているのね」

 

「そういうことになる」

 

「……本当に、規格外ね」

 

 その呟きは呆れ半分、納得半分だった。

 まあ否定はしない。

 俺自身、普通の学生の枠に収まってない自覚くらいはある。

 ただ、それを今ここで長々と反省する趣味もない。

 

「で、アザゼル。その話は今掘るか?」

 

「いや、今はいい。面白いが、本題はそこじゃない」

 

「助かる」

 

「その代わり、いずれ聞くぞ」

 

「面倒だな」

 

「安心しろ。俺はそういう面倒を楽しめる側だ」

 

「最悪だ」

 

 リアス先輩が小さく息を吐く。

 それから、俺と小猫を順番に見た。

 

「一日、なのよね」

 

「ああ。今回はまず一日だ」

 

「危険は?」

 

「ゼロとは言わねえ。けど、こっちで管理できる範囲に抑える」

 

「曖昧ね」

 

「特訓ってのはそういうもんだ。ぬるま湯で強くはならねえ」

 

「……そういう言い方をすると、余計に心配になるのだけれど」

 

「分かる」

 

 横からアザゼルが頷く。

 お前が同意すると余計面倒なんだよ。

 

 俺は肩をすくめた。

 

「けど、やる価値はある。塔城小猫が置いていかれたくないって本気で思ってるなら、今ここで止まらせる方がつまらねえ」

 

 その言葉に、小猫が少しだけ目を伏せる。

 けれど、すぐにまた顔を上げた。

 もう迷ってる顔じゃない。

 決めたやつの顔だ。

 

「……私は行きます」

 

 短いが、十分だ。

 リアス先輩も、それを聞いてようやく覚悟を決めたらしい。

 

「分かったわ。小猫を一日、あなたに預ける」

 

「助かる」

 

「ただし」

 

「条件付きか」

 

「当然でしょう。必ず無事に帰しなさい」

 

 そこで俺は、小さく笑った。

 その条件は嫌いじゃない。

 むしろ、最初からそのつもりだ。

 

「はっ、言われなくてもだ」

 

 アザゼルがそこで口笛でも吹きそうな顔をした。

 実際には吹かなかったが、だいぶ面白がっているのは見え見えだった。

 

「じゃあ話はまとまったな。ギャバン、小猫、ついでにそこのコーギーも」

 

『ついでって何だ、ついでって』

 

 今まで黙っていたレオルドが、そこでようやく挟んできた。

 犬の姿で文句を言うのもだいぶ絵面がおかしいが、この場ではもう誰もそこに驚かない。

 慣れって怖いな。

 

「お前も行くんだろ」

 

『そりゃ行くに決まってんだろ。お前だけで小猫嬢の面倒見られるなら、俺様はいらねえってことになるじゃねえか』

 

「そこまでは言ってねえよ」

 

『言ってなくても空気で分かるんだよ』

 

「便利な犬だな」

 

『刑事犬と呼べ』

 

「誰がだ」

 

 リアス先輩が、そのやり取りを見てほんの少しだけ口元を和らげた。

 たぶん、こういう軽口がある方が安心するんだろう。

 俺も同じだ。

 真面目な話だけで終わると、余計に重くなる。

 だからこのくらいでちょうどいい。

 

 話は終わった。

 だったら、もう動くだけだ。

 

 俺は小猫へ視線を向ける。

 

「塔城、行くぞ」

 

「……はい」

 

 小猫が一歩前へ出る。

 迷いはない。

 その後ろで、リアス先輩が静かに頷いた。

 アザゼルは相変わらず腕を組んだままだが、止める気配はない。

 これで盤面は整った。

 

 俺はコスモギャバリオンへ向かって歩き出す。

 小猫も、その隣へ並ぶ。

 今度は“ただ見送られる側”じゃない。

 自分の意志で乗り込む側として、ちゃんと歩いている。

 それが分かるだけで、今回ここへ来た意味はあった。

 

 ハッチが開く。

 内部の光が冥界の地面へ落ちる。

 俺は先に乗り込み、それから振り返った。

 

「乗れ」

 

「……はい」

 

 小猫がコスモギャバリオンへ足を踏み入れる。

 その瞬間、リアス先輩の視線が少しだけ強くなったのを感じた。

 当然だ。

 預けると決めたからって、心配が消えるわけじゃない。

 だから、そこにはちゃんと応える。

 

「一日で返す」

 

 俺がそう言うと、リアス先輩は短く答えた。

 

「お願いするわ」

 

 ハッチが閉まる。

 冥界の空気と、外からの視線が一枚隔てられる。

 その中で、小猫は静かに前を見ていた。

 ここから先は、もう言い訳も誤魔化しもいらない。

 強くなりたいなら、やるだけだ。

 

 コスモギャバリオンの駆動音が低く響く。

 俺は前方モニターを開きながら、小さく息を吐いた。

 

「さて、始めるか」

 

 小猫はその言葉に、短く、けれどはっきりと頷いた。

 そしてコスモギャバリオンは、そのまま冥界を離れて飛び立った。

 

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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