サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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天使 Case3

 正義という言葉は便利だ。

 

 便利すぎる。

 

 人を助ける時にも使えるし、人を殴る時にも使える。誰かを守るためにも掲げられるし、誰かを踏みつけるためにも掲げられる。便利な道具ほど使い方を間違えやすいとはよく言うが、正義ほどその筆頭に立てる言葉もそうないだろう。

 

 包丁は料理にも殺傷にも使える。

 

 火は暖を取るにも家を焼くにも使える。

 

 正義は人を救うにも、人を裁くにも使える。

 

 まあ、包丁や火と違って、正義は持ち主が自分を危険物だと思っていないぶん、余計に厄介だが。

 

 昨夜、商店街で起きた濁った聖光事件。

 

 ネガエモルギアが混ざった天使系の術式。悪魔への敵意を煽る言葉。屋上に残された、黒く焦げた羽根。

 

 朝になっても、事件は終わっていなかった。

 

 事件というものは、だいたい現場が片づいてからが本番だ。燃えた家を消すのは消防の仕事だが、なぜ燃えたかを調べるのは別の仕事である。火が消えれば終わり、ではない。むしろ火が消えたからこそ、残った焦げ跡を見なければならない。

 

 俺は旧校舎の空き教室で端末を開いていた。

 

 今日も俺は、表に出ない。

 

 少なくとも、唯我太郎としては。

 

 イリナの前に俺が出れば怪しまれる。小猫と同じクラスの高校一年生が、なぜか宇宙警察の実務に詳しく、なぜか現場判断に口を出し、なぜかギャバン・キングが出る直前直後に姿を消す。そんなもの、怪しんでくださいと名札をぶら下げているようなものだ。

 

 だから俺は裏にいる。

 

 裏方。

 

 通信係。

 

 待機要員。

 

 言い方はいくらでもあるが、要するに見えないところにいる面倒担当だ。

 

『太郎、聞こえるか』

 

 端末からレオルドの声がした。

 

「ああ」

 

『昨日の商店街、追加調査に入る。天使側からイリナ、小猫は外周補助。俺が現場指揮。お前は出るな』

 

「朝の挨拶みたいに言うな」

 

『毎朝言ってやろうか。お前は出るな。お前は喋るな。お前は勝手に動くな』

 

「三つ目が無理だな」

 

『最初の二つも怪しいだろうが』

 

 レオルドはうんざりした声で言った。

 

『いいか。ギャバン・キングの存在は周知されてる。だが中身が誰かは別だ。必要ならキングで出ろ。太郎としては出るな』

 

「分かってる」

 

『お前の“分かってる”は信用しねえ』

 

「昨日も聞いたぞ、それ」

 

『毎日言う必要があるからだよ。面倒くせえな、ほんと』

 

 文句を言いながら、レオルドはもう資料を送ってきていた。

 

 ネガエモルギア残滓の分布。

 

 聖光反応の濃度。

 

 人の感情を煽った痕跡。

 

 黒く焦げた羽根の解析結果。

 

 仕事が早い。口が悪く、態度も悪く、見た目は犬だが、仕事だけは本当に早い。

 

 いや、見た目は犬という事実は仕事の速さとは関係ないが、毎回言っておかないと本人が勘違いするので言っておく。

 

『あと、妙な反応がある』

 

「妙な反応?」

 

『ネガエモルギアじゃねえ。天使でも悪魔でもない。だが現場周辺に残ってる。武装痕に近いな』

 

「武装痕?」

 

『でかい刃物で地面を押さえた跡がある。ついでに、質量のある獣型の駆動反応みたいなのも一瞬だけ拾ってる』

 

 俺は目を細めた。

 

 でかい刃物。

 

 獣型。

 

 正義を名乗りそうな騒がしい女。

 

 候補は一人しかいない。

 

「……面倒なのが来たな」

 

『知り合いか?』

 

「多分な」

 

『多分でその嫌そうな声になるなら、ほぼ確定だろ』

 

「うるさい、暑苦しい、芝居がかった正義バカだ」

 

『お前の知り合い、何でそういう濃いのばっかなんだよ』

 

「知らねぇよ。向こうから来る」

 

『災害みたいに言うな』

 

「似たようなもんだ」

 

 通信の向こうで、レオルドがため息を吐いた。

 

『まあいい。現場で接触したら俺が対応する。お前は黙ってろ』

 

「俺に挨拶してくる可能性がある」

 

『イリナの前で名前を出されたら面倒だな』

 

「だろ」

 

『だったら先に釘を刺せ。いや、無理か。そういうタイプじゃねえな』

 

「理解が早くて助かる」

 

『助かってねえよ。こっちの仕事が増えてるだけだ』

 

 通信が切り替わる。

 

 現場の音声が入った。

 

 商店街。

 

 昨夜の騒ぎがあった場所は、表向きには軽い事故と集団ヒステリーとして処理されている。もちろん、本当にそう信じている人間は少ない。だが、そういうことにしておくのも現場処理の一部だ。

 

 真実とは、時に公開するより隠す方が被害が少ない。

 

 嫌な話だが、これも現実である。

 

『ここが昨日の中心地点ですか』

 

 イリナの声。

 

『ああ。濁った聖光反応が最初に濃くなったのはこの周辺だ』

 

 レオルドが答える。

 

『小猫、そっちの路地はどうだ』

 

『……薄い反応が残っています。でも、昨日より弱いです』

 

『弱いが消えてねえ。つまり、残り火だな。踏み抜くなよ』

 

『了解です』

 

 その時だった。

 

 通信に、聞き慣れたような、できれば聞き慣れたくなかったような声が割り込んできた。

 

『やあやあ諸君! 朝から実に勤勉だな! 正義の味方・杉浦碧、現場検証中だ!』

 

 声が大きい。

 

 朝の商店街に響く声ではない。体育館でマイクなしに後列まで届かせる声だ。相変わらず、存在の音量が高い。

 

『……また濃いのが増えたな。勘弁しろよ』

 

 レオルドが低く呟く。

 

『おお、喋る犬!』

 

『犬じゃねえ』

 

『なるほど。喋る犬ではなく、喋る協力者か!』

 

『訂正になってねえよ』

 

『では、喋る実務担当!』

 

『それでいい。最初からそう言え』

 

『うむ、理解したぞ、喋る実務担当くん!』

 

『名前で呼べ。レオルドだ』

 

『レオルドくんだな!』

 

『くん付けすんな。調子狂う』

 

 俺は端末の前で額を押さえた。

 

 この温度差。

 

 この無駄な圧。

 

 間違いない。杉浦碧だ。

 

 以前、俺が解決した事件で関わったHiME。ハルバートのエレメントを振るい、チャイルド・愕天王を使う、熱血正義お姉さん。自称正義の味方。実際にも、まあ、正義の味方寄りではある。

 

 ただしうるさい。

 

 致命的にうるさい。

 

『あの……あなたは?』

 

 イリナが戸惑いながら問う。

 

『杉浦碧だ。通りすがりの正義の味方、兼、少しばかり事情を知る協力者だよ』

 

『協力者?』

 

『うむ。以前、似たような負の感情を燃料にする力と遭遇したことがあってね。今回の濁り方は、その時の匂いに近い』

 

 碧は俺の名前を出さなかった。

 

 そこは空気を読んだらしい。

 

 いや、碧に空気を読む能力があることに驚くのは失礼か。あいつは騒がしいが、馬鹿ではない。むしろ現場判断は早い。騒がしいことと、状況が見えていないことは別問題だ。

 

『負の感情を燃料にする力……ネガエモルギアのことか?』

 

 レオルドが問う。

 

『名は知らなかったが、似たものは見た。人の怒りや悲しみを正当化し、膨らませる力だ。あれは危険だぞ。正しいと思っている人間ほど、自分が踏み外したことに気づかない』

 

 その言葉に、イリナが黙った。

 

 碧は続ける。

 

『今回のものは、さらに悪い。正義の形をしている。天使の光に似ているなら、なおさらだ。善意の顔をした悪意ほど、始末に負えないものはないからな』

 

『……あなたは、天使でも悪魔でもないんですよね』

 

 イリナが言った。

 

『どうしてそこまで関わるんですか』

 

『困っている人がいる。正義を名乗る力が人を傷つけている。なら、私が見過ごす理由はないだろう?』

 

 即答だった。

 

 迷いがない。

 

 迷いがないというより、迷った上でそこに立っている声だ。

 

 碧はふざける。芝居がかる。大声で名乗る。だが、正義という言葉を茶化してはいない。むしろ本気で使っているからこそ、暑苦しくなる。

 

 イリナの正義は、天使としての正義だ。

 

 碧の正義は、個人としての正義だ。

 

 組織に属する正義と、個人が勝手に背負う正義。

 

 どちらが正しいかという話ではない。どちらも危うい。どちらも必要だ。だから面倒なのである。

 

『お前ら、何で正義を名乗る奴ほど声がでけえんだよ』

 

 レオルドが疲れた声を出した。

 

『小声で語る正義も奥ゆかしくてよいが、やはり届かねば意味がないからな!』

 

『届きすぎて鼓膜に来るんだよ』

 

『はっはっは! それはすまんな!』

 

『謝る気ないだろ』

 

『あるぞ! 大声で!』

 

『もういい、黙って現場を見ろ』

 

 レオルドのツッコミに、碧はようやく少しだけ声を落とした。

 

『ふむ。中心はこの辺りか。羽根の焦げ跡が残っているな』

 

『触るなよ。ネガエモルギアの残滓がある』

 

『承知している。正義の味方は、証拠品を雑に扱わない』

 

『その割には登場が雑だったけどな』

 

『演出だ』

 

『現場で演出するな』

 

 会話だけ聞いているとふざけているようにしか思えない。だが、端末に送られてくる映像では、碧はちゃんと現場を見ていた。

 

 ハルバートを肩に担いでいる。

 

 軽い仕草だが、刃の位置は通行人に向かない。足元の焦げ跡を踏まない。イリナの邪魔になる場所には立たない。小猫の避難導線も塞がない。

 

 騒がしいが、邪魔ではない。

 

 ここが碧の厄介なところだ。

 

『……レオルドさん』

 

 小猫が小さく言う。

 

『何だ』

 

『この人、太郎さんの知り合いですか』

 

 俺は思わず端末を睨んだ。

 

 こいつ、鋭い。

 

 いや、知っていた。知っていたが、こういうところで正確に刺してくる。

 

『否定したいが、否定材料がねえ』

 

 レオルドがぼやく。

 

『太郎の周りには、こういう人が多いのでしょうか』

 

『残念ながら、否定材料がねえ』

 

 おい。

 

 否定しろ。

 

 いや、否定材料は確かにないかもしれないが、努力くらいはしろ。

 

『ん? 太郎?』

 

 イリナが反応しかける。

 

 レオルドが即座に割り込んだ。

 

『現地協力者の話だ。今はそれより反応を見ろ。小猫、そっちの残滓が動いてる』

 

 うまい。

 

 雑だが、うまい。

 

 実際、画面上の反応が揺れた。

 

 ネガエモルギアの残滓が、路地の奥で薄く膨らんでいる。昨日の残り火。それが、通りかかった青年の感情に触れた。

 

 青年の顔つきが変わる。

 

「悪魔と和平……? 馬鹿げてる……」

 

 呟きは小さい。

 

 だが、そこに濁った光が絡みつく。

 

「正しいのは、裁きだ。罪ある者は、隣にいるべきじゃない……!」

 

 イリナが一歩踏み出す。

 

「待ってください! あなたは今、感情を――」

 

 青年が振り返った。

 

「天使がなぜ止める! お前たちが裁かないから、世界が濁るんだろう!」

 

 イリナの足が止まった。

 

 天使として。

 

 その言葉は、彼女の内側に触れたのだろう。

 

 否定したい。だが、完全に無視できない。和平を選んだ天界。悪魔と手を取り、堕天使と並ぶ現在。そこに迷いが一切ないと言えば嘘になる。

 

 そして、ネガエモルギアはそういう迷いを嗅ぎつける。

 

 青年の背中から、濁った光が広がった。

 

 小猫が動こうとする。

 

 その前に、碧が出た。

 

 ハルバートが空気を裂く。

 

 刃は青年を斬らない。足元の影を縫うように、濁った光だけを地面へ押さえつけた。

 

「正義を叫ぶのは構わん!」

 

 碧の声が響く。

 

「だが、その拳が誰かを傷つけるなら、まず私が止める!」

 

 青年が呻く。

 

「邪魔をするな……! これは正しい怒りだ!」

 

「怒ることと、傷つけることは違う!」

 

 碧はハルバートの柄を捻った。

 

 刃に光が走る。HiMEのエレメント。悪魔の魔力とも、天使の聖光とも違う、別系統の力。感情に根差しながら、感情に溺れないよう研ぎ澄まされた刃。

 

 濁った光が剥がれる。

 

 だが、完全には消えない。

 

 残滓が蛇のように跳ね、近くにいた子供へ向かう。

 

 俺は椅子を蹴った。

 

 次の瞬間、空き教室の窓から外へ出る。

 

 エモルギアが鳴る。

 

 銀と金の装甲が身体を覆う。

 

 ギャバン・キング。

 

 商店街まで、最短で。

 

『キング、出るなって言う暇もねえか』

 

 レオルドの声。

 

「――」

 

 俺は返事をしない。

 

 通信信号だけ返す。

 

『分かってる。子供優先だ。やれ。ただし喋るな』

 

 命令されるまでもない。

 

 俺は建物の影から飛び出し、濁った光の前に割って入る。

 

 掌で受ける。

 

 ネガエモルギアが装甲に絡みつこうとした。

 

 エモルギアが低く唸る。

 

 弾く。

 

 潰すのではなく、分離する。子供に触れる前に、感情の棘だけを引き剥がす。

 

 白い光が砕けた。

 

 子供は何が起きたか分からない顔で、母親に抱き寄せられる。

 

 碧がこちらを見た。

 

 ほんの一瞬だけ、目が笑う。

 

「ほう」

 

 その声は、ぎりぎり周囲に聞こえない程度に落とされていた。

 

「噂通り、無愛想な正義だ」

 

 名前は呼ばない。

 

 さすがに分かっているらしい。

 

 イリナもこちらを見る。だが、彼女の視線にあるのは詮索ではなく、驚きと確認だった。

 

「ギャバン・キング……!」

 

『キング、残滓はそっちで抑えろ。碧、だったな。お前は暴走者を傷つけずに押さえられるか』

 

「任せたまえ、レオルドくん! 正義の味方は力加減も心得ている!」

 

『その声量の力加減も覚えろ』

 

「善処しよう!」

 

『絶対しねえ返事だな』

 

 碧は笑いながらも、青年の腕を取り、無理なく動きを封じた。ハルバートの刃は、まだ濁った光だけを地面に押さえている。器用なものだ。

 

 イリナが青年の前に膝をつく。

 

「大丈夫です。深く息をしてください。今あなたが感じている怒りは、利用されています」

 

「俺は……俺は、ただ……」

 

「怒ることは間違いではありません。でも、それで誰かを傷つけたら、あなた自身も傷つきます」

 

 イリナの声は震えていた。

 

 だが、逃げてはいなかった。

 

 青年の背中から、最後の濁った光が剥がれる。

 

 俺はそれを掌で捕捉し、レオルドへデータを送る。

 

『サンプル確認。昨日の残滓が再活性化したタイプだな。敵本体はいねえ。仕掛けだけ残してやがる』

 

 レオルドの声が苦い。

 

『嫌らしいやり方だ。人の感情を地雷にしてる』

 

 俺は短く信号を返す。

 

『ああ。分かってる。撤収しろ、キング。これ以上いるとまた目立つ』

 

 俺は頷き、建物の影へ入る。

 

 去り際に、小猫と目が合った。

 

 小猫は何も言わない。

 

 ただ、ほんの少しだけ頷いた。

 

 分かっている。

 

 お互いに、分かっている。

 

 俺はそのまま姿を消した。

 

 装甲を解除したのは、旧校舎の裏手だった。

 

 制服へ戻ると、急に世界の温度が近くなる。ギャバン・キングの装甲越しに見ていた街は、どこか一枚隔てた現場だった。制服姿に戻ると、そこは急に俺の通う学校と俺の暮らす町になる。

 

 どちらも同じ場所だ。

 

 違うのは、俺の立場だけ。

 

 夕方、部室には入らなかった。

 

 太郎は今日も、表の現場にはいなかったことになっている。そういう嘘は、重ねれば重ねるほど形が崩れやすい。だが、今はまだ必要だった。

 

 中等部の昇降口近くで、絶花に捕まった。

 

「……太郎」

 

「何だ」

 

「昨日も今日も、どこにいたの?」

 

 来た。

 

 やっぱり来た。

 

 絶花は無表情に見えて、こういう時だけ真っ直ぐ逃げ道を塞いでくる。

 

「見えないところ」

 

「それ、答えじゃない」

 

「答えではある。納得できる答えじゃないだけだ」

 

「ずるい」

 

「否定はしねぇ」

 

 絶花はじっと俺を見る。

 

「危ないこと、してる?」

 

「してないとは言わん」

 

「太郎」

 

「必要なことをしてる」

 

 俺は短く言った。

 

 それ以上言うと、たぶん嘘になる。だから言わない。

 

 絶花はしばらく黙っていた。

 

「……今は、それで勘弁してあげる」

 

「上からだな」

 

「でも、あとで聞く」

 

「だろうな」

 

 絶花は頷き、中等部の校舎へ戻っていった。

 

 俺は息を吐く。

 

 秘密というものは、守る側にも、知らされない側にも負担をかける。きれいごとでは済まない。だが、全部明かせば楽になるというものでもない。

 

 そういう面倒な均衡の上で、俺たちは立っている。

 

 夜。

 

 旧校舎の屋上。

 

 俺はそこに呼び出されていた。

 

 呼び出したのは、言うまでもない。

 

「久しぶりだな、唯我くん!」

 

 声がでかい。

 

 夜の屋上で出していい音量ではない。

 

「声がでけぇ。近所迷惑だ、正義バカ」

 

「再会一言目がそれかね! 実に君らしい!」

 

 杉浦碧は、ハルバートを肩に担いで笑っていた。

 

 相変わらずだ。

 

 年長者の落ち着きと、年長者とは思えない暑苦しさが同居している。黙っていれば頼れる大人。喋ると熱血ヒーローショー。そんな女だ。

 

「イリナの前で名前を出さなかったのは褒めてやる」

 

「私を何だと思っているのかね」

 

「うるさい正義バカ」

 

「評価が一貫している!」

 

「褒めてる部分もある」

 

「どこにだね?」

 

「一応、正義」

 

「そこは大いに褒めてくれていいところだぞ」

 

 碧は笑い、ハルバートの刃先で小さなケースを示した。

 

「これを持ってきた。昨夜の羽根の欠片と、今日の残滓だ。レオルドくんにも渡したが、君にも見せておこうと思ってね」

 

「余計な気を回すな」

 

「必要な気だ。君は表に出られんのだろう?」

 

 俺は黙った。

 

 碧の目は笑っていなかった。

 

 騒がしいが、見えている。

 

 こいつはそういう奴だ。

 

「あの光は危ない」

 

 碧は夜の町を見る。

 

「正義を名乗る者ほど呑まれるぞ。怒りを正しいものだと信じた瞬間、あの濁りは足元から入ってくる」

 

「だろうな。正義って言葉は便利だ。人を助けるのにも、人を殴るのにも使える」

 

「だからこそ、使い方を間違えた者は止めなければならない」

 

「相変わらず暑苦しいな」

 

「相変わらず口が悪いな」

 

 碧は楽しそうに笑った。

 

 それから、少しだけ真面目な声になる。

 

「私も同行しよう。正義の味方として、この事件は見逃せん」

 

「面倒なのが増えた」

 

「断らないのかね?」

 

「断って帰るなら断る」

 

「帰らんな!」

 

「だろうな」

 

 俺はケースを受け取った。

 

 中で、黒く焦げた羽根の欠片が小さく震えた気がした。

 

 天使の正義。

 

 宇宙警察の実務。

 

 HiMEの正義の味方。

 

 役者が増えると、話はだいたい複雑になる。

 

 だが、複雑になった話ほど、単純な力だけでは解けない。

 

 俺はケースをポケットにしまい、夜風の中で息を吐いた。

 

「役に立てよ、正義バカ」

 

 碧は胸を張った。

 

「任せたまえ。正義の味方・杉浦碧、ここに再び参上だ!」

 

「だから声がでけぇんだよ」

 

 夜の屋上に、碧の笑い声が響いた。

 

 濁った正義を追うには、少し騒がしすぎる正義が、案外ちょうどいいのかもしれなかった。

 

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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