サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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天使 Case6

 怒りというものは、便利だ。

 

 便利すぎる。

 

 身体を動かす燃料になるし、迷いを押し潰す理由にもなる。考えるより先に拳を握らせてくれるし、怖さや後悔を一時的に見えなくしてもくれる。

 

 だからこそ、使い方を間違える。

 

 昨日、絶花が巻き込まれた。

 

 狙われた、というほど直接的ではない。殺されかけた、というほど単純でもない。あれはもっと嫌なやり方だった。

 

 俺の周りにいる人間の不安を燃やし、俺がどう動くかを見ていた。

 

 ギャバン・キングが出るか。

 

 救助を優先するか。

 

 戦闘を優先するか。

 

 そして、絶花が何に気づきかけているか。

 

 敵はそれを見ていた。

 

 つまり、絶花は餌にされた。

 

 その事実だけで、胸の奥に冷たいものが溜まっていく。

 

 熱い怒りじゃない。もっと静かで、もっと重い。刃物を火で炙るのではなく、氷水に沈めて研いでいるような怒りだ。

 

 旧校舎の空き教室。

 

 俺は窓際に立っていた。外は昼前の光で白い。学校という場所は、どれだけ裏で怪物じみた事件が起きていようと、表向きは平然と日常を続ける。チャイムは鳴るし、授業は進むし、購買のパンは売り切れる。

 

 日常というのは、意外と図太い。

 

 その図太さに救われることもあれば、腹が立つこともある。

 

「絶花を餌にしやがった」

 

 俺が言うと、机の上の端末を操作していたレオルドが、ちらりとこちらを見た。

 

 椅子の上に座ったその姿は、どこからどう見ても犬だ。だが、目つきだけは現場の実務屋そのものだった。

 

「ああ。お前の反応を見るためにな」

 

「次は潰す」

 

「だから感情で突っ込むなって言ってんだろ。ネガエモルギア相手にそれは最悪だ」

 

「知るか」

 

「知れ。そこは知れ」

 

 レオルドの声が低くなる。

 

「相手は怒りも不安も燃料にするんだぞ。お前が頭に血を上らせたら、向こうの実験に協力してるのと同じだ」

 

 俺は言い返せなかった。

 

 正しいからだ。

 

 腹が立つほど正しい。レオルドの言葉はいつもそうだ。言い方は悪い。態度も悪い。時々、いや結構な頻度で余計な一言も多い。だが、現場で必要なことは外さない。

 

 だから余計に腹が立つ。

 

「やるなら証拠で詰める。反応の出どころ、術式の癖、次の標的。全部拾ってからだ」

 

「面倒だな」

 

「捜査ってのは面倒なんだよ。ぶん殴って終わりなら警察はいらねえ」

 

 レオルドは端末の画面を切り替えた。

 

 そこには昨日の中等部校舎、商店街、旧校舎周辺の反応が重ねられている。白く濁った聖光反応。黒いネガエモルギア反応。感情波の乱れ。

 

 線が、点を繋いでいく。

 

「分かった。お前が仕切れ」

 

「最初からそうしろよ。ほんと手間かけさせやがって」

 

「文句を言いながら仕切るの、好きだろ」

 

「好きじゃねえ。必要だからやってんだよ」

 

 そう言いながら、レオルドの手は止まらない。

 

 文句を言う。

 

 でも、やる。

 

 相棒としては厄介だが、実務担当としてはこれ以上ない。

 

 部室では、すでに共同捜査の会議が始まっていた。

 

 俺は出ない。

 

 イリナの前に唯我太郎として出るわけにはいかない。ギャバン・キングの中身と結びつけられる要素は、まだ増やすべきではない。

 

 だから、レオルドの通信越しに聞く。

 

『昨日の中等部襲撃は、殺傷目的じゃねえ。観測だ』

 

 レオルドの声が、部室の空気を押さえる。

 

『観測って……絶花ちゃんたちを巻き込んどいてかよ』

 

 兵藤の声には怒りがあった。

 

 当然だ。

 

 あいつは感情が真っ直ぐだ。だから強いし、だから危うい。

 

『だから性格が悪いんだよ。敵はネガエモルギアで不安を煽り、ギャバン・キングの反応速度、救助優先か戦闘優先か、その辺を見てた』

 

『つまり、敵は宇宙警察の対応を測っている……』

 

 イリナの声が沈む。

 

『ああ。ついでに、天使側がどう動くかも見てる。お前が怒るか、迷うか、聖光を撃つか。全部な』

 

 沈黙が落ちた。

 

 イリナが拳を握っている姿が、見なくても分かる。

 

 そこへ碧の声が入った。

 

『怒るな、とは言わんよ。怒るべきことだ。だが、その怒りを手綱なしで走らせれば、あの濁った光の餌になる』

 

『……はい』

 

 碧の声はいつもより落ち着いていた。

 

 杉浦碧。

 

 自称、正義の味方。実際、かなり正義の味方寄りの女。暑苦しい。うるさい。芝居がかっている。けれど、こういう時に感情を茶化さない。

 

 イリナには、そういう碧の方が届くのかもしれない。

 

『役割を決めましょう』

 

 リアスが言う。

 

『宇宙警察側は俺が解析と指揮。天使系術式の読み取りはイリナ。悪魔側の警戒と学校内の安全確保はグレモリー眷属。小猫は絶花の護衛を兼ねる。碧は外部反応の追跡だ』

 

『任せたまえ! 正義の味方は捜査もできる!』

 

『声量を下げろ。捜査は目立たねえ方がいいんだよ』

 

『む、捜査とは奥ゆかしい正義なのだな』

 

『何でも正義に変換すんな』

 

 部室に少しだけ笑いが生まれる。

 

 だが、それは長く続かなかった。

 

『……私は?』

 

 絶花の声。

 

 小さいが、はっきりしていた。

 

 部室の空気が止まる。

 

『お前は保護対象だ』

 

 レオルドが言う。

 

 きっぱりと。

 

 優しくはないが、誤魔化しもしない。

 

『何もしないの?』

 

『今は無事でいることが仕事だ』

 

 小猫の声が続く。

 

『絶花さんが無事でいることが、今は大事です』

 

『そうだ。守られることも、戦いの一部だぞ』

 

 碧が柔らかく言う。

 

 絶花はすぐには返事をしなかった。

 

 たぶん、納得はしていない。

 

 だが、今の絶花にできることは限られている。限られていることを受け入れるのは、戦うことより難しい場合がある。

 

 会議が終わったあと、俺は旧校舎の廊下で絶花と会った。

 

 いや、正確には待っていた。

 

 イリナたちから離れた、人気のない廊下。窓の外では、部活動へ向かう生徒たちの声が遠く聞こえる。こちら側だけ、少し空気が薄い。

 

「……昨日、どこにいたの」

 

 絶花は開口一番そう言った。

 

 責める声ではなかった。

 

 だからこそ、逃げにくい。

 

「見えないところ」

 

「また、それ」

 

「便利なんだよ、この答え」

 

「ずるい」

 

「否定はしねぇ」

 

 絶花はじっと俺を見た。

 

 無表情に近い。だが、完全に無表情ではない。目の奥に、昨日の不安がまだ残っている。

 

「巻き込んだのは悪かった」

 

 俺が言うと、絶花は少し目を丸くした。

 

「太郎が謝った」

 

「俺だって謝る時は謝る」

 

「珍しい」

 

「そこまで言うか」

 

 少しだけ空気が緩む。

 

 だが、絶花はすぐに視線を落とした。

 

「私、何も知らないのが嫌」

 

「知ったら戻れないこともある」

 

「もう、戻れてない」

 

 それは、刃物のような言葉だった。

 

 細くて、鋭くて、逃げ場がない。

 

 俺は黙るしかなかった。

 

 戻れていない。

 

 たしかにそうだ。

 

 絶花はもう、ただの日常側ではない。天使も悪魔も、喋る犬も、ギャバン・キングも見てしまった。ネガエモルギアに狙われ、校舎で巻き込まれ、俺の嘘にも気づきかけている。

 

 戻れない場所まで来てしまっている。

 

 けれど、全部を教えることが救いになるとは限らない。

 

「……全部は言えねぇ。でも、お前を雑に扱ってるわけじゃない」

 

「分かってる。でも、不安」

 

「だろうな」

 

 俺は目を逸らさなかった。

 

「その不安を使われた。だから、次は使わせねぇ」

 

 絶花は少しだけ黙り、それから小さく頷いた。

 

「……うん」

 

 その返事は、信用ではなく保留だった。

 

 今はそれでいい。

 

 いや、よくはない。よくはないが、それ以上を求める資格が今の俺にはない。

 

 調査は午後から始まった。

 

 商店街には、イリナと碧が向かった。レオルドは浮遊端末を飛ばし、俺は空き教室で通信だけを聞く。小猫は絶花の護衛を兼ねて学校内に残っている。

 

『天界の術式に似ています。でも、祈りの構造が歪んでいます』

 

 イリナの声が、商店街の雑音に混じって聞こえる。

 

『祈りが歪む、か。嫌な言葉だな』

 

 碧が応じた。

 

『碧さんは、以前もこういうものを?』

 

『似たものを見た。人の感情を燃料にする力だ』

 

『その時は、どうやって止めたんですか』

 

 少し間が空いた。

 

 碧は俺の名前を出さない。

 

 太郎の正体に繋がることは、三大勢力には言わない。そう約束している。

 

『協力者と共に、だ。怒りを怒りのままぶつけず、まず燃料を断つ。感情を否定するのではなく、利用されている回路を切る』

 

『感情を否定しない……』

 

『怒りも不安も、人間に必要なものだ。問題は、それを誰かが勝手に武器へ変えることだ』

 

 イリナはしばらく黙った。

 

 それから、静かに言う。

 

『私は、天使として正しくあろうとしすぎていたのかもしれません』

 

『正しくあろうとするのは良いことだ。ただ、正しさに目を奪われて、目の前の人を見失ってはいけない』

 

 碧の言葉は真っ直ぐだった。

 

 熱血ではある。

 

 だが、押しつけではない。

 

 あいつは、自分の正義が絶対だとは思っていない。だからこそ、正義を名乗る。自分が間違えないために、あえて声に出して掲げているのかもしれない。

 

 一方、校内の中庭では小猫と絶花が並んで歩いていた。

 

 小猫の声はいつも通り静かだった。

 

『……少し、落ち着きましたか』

 

『うん』

 

 絶花が答える。

 

 風が木の葉を揺らす音が通信に入る。

 

『小猫ちゃんは、太郎のこと知ってる?』

 

『……少しだけ』

 

『全部じゃない?』

 

『はい』

 

 嘘ではない。

 

 小猫は俺の正体を知っている。

 

 だが、俺のすべてを知っているわけではない。

 

『太郎は、危ないところにいる?』

 

 絶花の声が細くなる。

 

 小猫は少しだけ間を置いた。

 

『います』

 

『止められない?』

 

『止めても行くと思います』

 

『太郎らしい』

 

『でも、無意味に危ない場所へ行く人ではありません』

 

 小猫の声が少し柔らかくなる。

 

『文句を言いながら、必要なら前へ出る人です』

 

『……知ってる』

 

 絶花は小さく言った。

 

 知っている。

 

 そうだ。

 

 絶花は知っている。

 

 俺が何者かは知らなくても、俺がどう動くかは見てきた。

 

『だから、絶花さんが不安になるのも分かります』

 

 小猫のその言葉に、絶花は返事をしなかった。

 

 けれど、通信越しでも分かるくらい、呼吸が少し落ち着いていた。

 

 夕方近く、解析結果がまとまった。

 

 レオルドの端末に、商店街、中等部校舎、旧校舎周辺の反応が重ねられる。

 

 イリナと碧、小猫も戻ってきている。俺は空き教室側で通信だけを繋げていた。

 

『解析結果だ』

 

 レオルドが言う。

 

『ネガエモルギアは宇宙警察側の既知反応。ただし混ぜ込まれている術式は、天界の古い礼拝術式に近い』

 

『古い礼拝術式……』

 

 イリナの声が沈む。

 

『今の天界の標準術式とはズレてる。和平前の思想が強い時代の構文だな』

 

『悪魔や堕天使を明確に“裁くべき存在”として扱う祈祷形式……』

 

 イリナの声には嫌悪が混じっていた。

 

 自分の属する側の古い刃物を、自分の目の前に突きつけられたような声だ。

 

 俺は通信の向こうで呟く。

 

「つまり、懐古趣味の過激派か」

 

 その声はレオルドにだけ届く。

 

『言い方は悪いが、外してねえ』

 

 レオルドが小さく返し、それから部室側へ説明を続けた。

 

『敵は単なる暴走天使じゃねえ。古い教義を意図的に使ってる。つまり、思想で動いてる』

 

『思想にネガエモルギアを混ぜるか。最悪の合わせ技だな』

 

 碧が言う。

 

『最悪だな、ほんと』

 

 レオルドは端末を操作しかけた。

 

 その時、別の通信が割り込む。

 

 アザゼルだった。

 

『やあ、盛り上がってるな』

 

『盛り上がってねえ。燃えてるんだよ、嫌な方向に』

 

 レオルドが即座に返す。

 

『それは笑えねえな』

 

 通信越しのアザゼルの声は、いつもの軽さを残していたが、底の方は真面目だった。

 

『こっちにも天使系の古い術式反応が届いたぜ。和平協定に反発している一部の天使集団について、噂はあった。だが実行に移すほどとはな』

 

『天界内部で、正式に確認されているのですか』

 

 イリナが問う。

 

『正式には確認されてない。だから厄介なんだよ。表に出せば天界の面子にも関わる』

 

『面子より被害者だろ』

 

 レオルドの声が尖る。

 

『まったくだ。だからお前らが動いてるんだろ?』

 

『人任せみてえに言うな。情報を寄越せ』

 

『送るよ。古い天界派閥の候補リストだ』

 

 イリナが小さく息を呑んだ。

 

『天界の問題を、悪魔や堕天使、宇宙警察と一緒に調べることになるなんて……』

 

『それが和平というものではないかね』

 

 碧が言った。

 

 明るくはない。

 

 けれど、前を向いた声だった。

 

 レオルドが受け取った情報を地図へ重ねる。

 

 商店街。

 

 旧校舎。

 

 中等部校舎。

 

 三つの点を繋ぐと、その中心に一つの場所が浮かび上がった。

 

 駒王町外れの古い礼拝堂跡。

 

『……ここは』

 

 小猫が呟く。

 

『昔、教会関係者が使っていた小さな礼拝堂です。今は封鎖されているはずですが』

 

 イリナが答える。

 

『封鎖されてる場所ほど、悪い奴は使いたがる』

 

 レオルドが言う。

 

『実に分かりやすい悪党の習性だな』

 

 碧が続ける。

 

『笑いごとじゃねえ。ここから、昨日の結界反応と同じ波形が出てる』

 

『すぐ向かう?』

 

 リアスが問う。

 

『いや、今日は近づきすぎるな。敵は観測型だ。こっちが動けば、また誰かを餌にする』

 

 俺は画面を見ながら言った。

 

「先に結界の性質を読む」

 

『ああ。正面から入るのは危ない』

 

 レオルドが応じる。

 

 夜。

 

 礼拝堂跡への遠隔調査が始まった。

 

 現地へ近づくのはレオルドの浮遊端末だけ。イリナは安全圏から天使系反応を読む。碧は外周警戒。小猫は学校側に残り、絶花を見ている。

 

 画面に映った礼拝堂は、ひどく静かだった。

 

 古びた外壁。

 

 割れたステンドグラス。

 

 錆びた門。

 

 その全体を、白く濁った膜が覆っている。

 

 綺麗な光に見える。

 

 だが、底が黒い。

 

『これは……聖光結界に似ています。でも、内部構造が歪んでいます』

 

 イリナの声が震える。

 

『ネガエモルギアを混ぜて、聖光の皮を被せてる。外から聖光を当てれば増幅する。魔力を当てれば敵意として燃える』

 

 レオルドが解析結果を読み上げる。

 

『どちらで触れても悪化するわけか』

 

 碧が低く言う。

 

『そういう嫌な作りだ』

 

 浮遊端末が結界へ少し近づく。

 

 映像が歪んだ。

 

 音声に、祈りのようなノイズが混じる。

 

『悪しき者と結ぶ者もまた、裁かれるべきである』

 

 古い声。

 

 冷たい声。

 

 祈りの形をした呪い。

 

 イリナが顔をしかめた。

 

『これは……天使の祈りを、こんなふうに……』

 

『怒ってよい。だが、呑まれるな』

 

 碧が静かに言う。

 

 イリナは少し間を置いて、頷いた。

 

『……はい』

 

『端末を下げる。これ以上近づくと喰われる』

 

 レオルドが判断し、浮遊端末を後退させる。

 

 映像が戻る。

 

 礼拝堂は、また静かな姿に戻った。

 

 だが、もうただの廃墟には見えなかった。

 

 あれは罠だ。

 

 聖光の皮を被り、ネガエモルギアを内側に抱え、誰かが怒って触れるのを待っている。

 

 悪魔が触れれば燃える。

 

 天使が触れても燃える。

 

 正義で触れれば、正義ごと燃える。

 

 面倒な結界だった。

 

 旧校舎の空き教室で、俺とレオルドは礼拝堂の映像を見ていた。

 

「聖光で触れば増える。魔力で触れば敵意として燃える。物理で壊せば中の残滓が撒かれる」

 

 レオルドが端末を閉じかけて、また開く。

 

「嫌な結界だ」

 

「正面突破じゃねぇな」

 

「少なくともギャバン・キングの通常装備やウインスペクター向きじゃねえ。救助装備でどうにかする段階じゃない」

 

 俺は画面を見つめる。

 

 白く濁った礼拝堂。

 

 祈りを装った精神汚染。

 

 聖光の皮を被った罠。

 

「聖光の皮を被った精神汚染結界。怪奇、幻惑、異空間寄り……」

 

 少し間を置く。

 

 答えはもう出ていた。

 

「この場合は、あいつの領分か」

 

 レオルドが俺を見る。

 

「シャイダーか」

 

「ああ」

 

 宇宙刑事シャイダー。

 

 怪奇、幻惑、異空間。

 

 奇怪な術や空間支配に踏み込むなら、ただの剣や銃では足りない。

 

「次は、偽物の光を剥がす」

 

 レオルドは鼻を鳴らした。

 

「分かった。準備はこっちでやる。ただし、突っ込むなよ。次は罠の中に入ることになる」

 

「罠なら、壊せばいい」

 

「だからその発想を一回捨てろ。今回の敵は、壊した瞬間に燃え広がるんだよ」

 

「面倒だな」

 

「捜査も救助も結界解除も、全部面倒なんだよ」

 

 レオルドがうんざりしたように言う。

 

 だが、端末にはもう次の解析が走っていた。

 

 文句を言いながら、手は止めない。

 

 いつも通りだ。

 

 俺は白く濁った礼拝堂の映像を見つめる。

 

 面倒ごとらしく、丁寧に潰す。

 

 そうするしかない。

 

 怒りで殴れば、相手の餌になる。

 

 不安を放置すれば、周りが燃える。

 

 正義で突っ込めば、正義ごと腐る。

 

 だったら、こっちはこっちのやり方で行く。

 

 観測し、分析し、剥がし、封じる。

 

 そして最後に、犯人を引きずり出す。

 

「なら」

 

 俺は小さく息を吐いた。

 

「面倒ごとらしく、丁寧に潰すか」

 

 画面の中で、白い礼拝堂が静かに濁っていた。

 

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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