サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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蒼機龍 Case6

# 第6話 強襲認可、コスモギャバリオン

 

 事件が終わったと思った瞬間ほど、ろくでもないことは起きる。

 

 これは経験則だ。

 

 事件というものは、だいたい終わり際にもう一度足を引っかけてくる。最後の罠。最後の爆発。最後の置き土産。逃げる犯人。増える報告書。どれもこれも、現場の人間からすれば迷惑でしかない。

 

 だから俺は、魔空空間から戻った時点で、油断はしていなかった。

 

 していなかったが。

 

 それでも、少しくらいは終わったと思いたかった。

 

 黒い裂け目を抜け、元の空間へ戻る。瘴気に焼かれたような感覚が装甲の表面に残っていた。隣には風波駆無。俺の肩には、拘束されたディオドラ・アスタロト。

 

 気絶している男は、さっきまでの醜悪な笑みを失っていた。

 

 人間、というか悪魔だが、意識を失えば案外静かなものだ。喋らないディオドラは、多少は見られる顔をしている。もっとも、やったことが帳消しになるわけではない。

 

 俺はディオドラを床へ下ろした。

 

 レオルドが即座に端末を展開する。

 

「ディオドラ・アスタロト、拘束確認。ネガエモルギア残滓封印。魔空空間崩壊反応、縮小中」

 

「なら、ひとまず終わりか」

 

「その言い方をした時点で、だいたい終わってねえんだよ」

 

「不吉なこと言うな」

 

「事実だろ」

 

 嫌な事実だった。

 

 部室側では、ギャバリオンドルネードの保護区画からアーシアが搬出されていた。

 

 黒い鎖は隔離フィールドの中に封じられている。アーシアの顔色は悪い。だが、意識はある。息もある。身体も保たれている。

 

「アーシア!」

 

 兵藤が駆け寄った。

 

「イッセーさん……部長……」

 

 アーシアの声は細かった。

 

 リアスが膝をつき、彼女の肩に手を添える。

 

「よかった。本当に……」

 

「ごめんなさい、私……」

 

「謝るなよ!」

 

 兵藤が叫ぶ。

 

 怒鳴っているのに、泣きそうな声だった。

 

「悪いのはあいつだ! アーシアが謝ることなんか何もねぇよ!」

 

 アーシアは目を伏せる。

 

 リアスが静かに頷いた。

 

 俺は少し離れて、その様子を見ていた。

 

 近づく必要はない。

 

 俺が行って、気の利いた慰めを言えるわけでもない。そもそも、そういう役回りではない。ああいう時に真っ先に手を伸ばすのは、兵藤の仕事だ。リアスの仕事だ。俺が割り込むと、場の温度が妙になる。

 

「行かなくていいのか」

 

 駆無が横から言った。

 

「俺が行く場面じゃねぇだろ」

 

「そうか」

 

「ああいうのは兵藤の仕事だ」

 

「役割を分けるのは悪くない」

 

「忍者っぽい言い方だな」

 

「宇宙刑事でもある」

 

「肩書きが渋滞してんだよ」

 

 駆無は少しだけ笑ったように見えた。

 

 レオルドはディオドラへ拘束フィールドを重ねていた。駆無も風波流の封印術をかける。ディオドラの魔力回路に、逃走防止と暴走防止の二重の枷が入った。

 

「ネガエモルギア所持、誘拐、精神干渉、魔空空間の違法生成。宇宙警察案件として身柄を押さえる」

 

「アスタロト家への報告も必要になるわね」

 

 リアスが言う。

 

「分かってる。だが、こいつをそのまま悪魔側へ渡すのは証拠保全が終わってからだ。揉み消し防止もある」

 

「ええ。それで構わないわ」

 

 リアスの声は硬かった。

 

 怒っている。

 

 当然だ。

 

 自分の眷属を攫われ、心を踏みにじられたのだ。冷静に話しているだけでも大したものだった。

 

 兵藤はディオドラを睨みつけていた。

 

「こいつ……アーシアにあんなことして……」

 

「殴るなよ。気持ちは分かるが、今殴れば処理が面倒になる」

 

「……分かってる」

 

「今は殴るより、捕まってる方が効くだろ」

 

 俺が言うと、兵藤は拳を握ったまま黙った。

 

 納得したわけではない。

 

 だが、飲み込んだ。

 

 それで十分だ。

 

 その時、レオルドの端末が鋭く鳴った。

 

 嫌な音だった。

 

 警告音というのは、どうしてああも人の神経を逆撫でするようにできているのか。もう少し穏やかにできないものかと思うが、穏やかな警告音では危機感が足りないのだろう。

 

「……おい、待て」

 

「何だよ」

 

「封印したネガエモルギア残滓の反応が落ちてねえ。むしろ上がってる」

 

 空気が変わった。

 

 駆無がディオドラを見る。

 

「ディオドラの意識は?」

 

「落ちてる。だから余計におかしい。本人が制御してる反応じゃねえ」

 

 ディオドラの胸元。

 

 装飾品の奥で、黒い欠片が脈打った。

 

 さっき封印したものとは別の反応。

 

 俺は舌打ちする。

 

「隠し持ってたのか」

 

「こいつ、別のエモルギア片を体内か装飾品に仕込んでやがった!」

 

 レオルドが叫ぶ。

 

「逮捕されても置き土産かよ」

 

 黒い光が膨張した。

 

 魔空空間の裂け目に残っていた瘴気が、その黒い欠片へ吸い寄せられていく。まるで餌を見つけた獣のように、残滓がうねり、絡み、増えていく。

 

「まずい。魔空空間の残り滓を食っている」

 

 駆無の声が低くなる。

 

「全員下がれ! 暴走するぞ!」

 

 レオルドが怒鳴った。

 

 黒い光が天井を突き抜けた。

 

 校舎が揺れる。

 

 空間が軋む。

 

 魔空空間の残滓、ネガエモルギア、ディオドラの執着。そういうものが混ざり合い、押し固められ、巨大な影を作っていく。

 

 駒王学園の上空に、黒い亀裂が開いた。

 

 そこから、巨大な怪物が姿を現す。

 

 悪魔の翼。

 

 黒い鎖。

 

 廃墟のビル片。

 

 瘴気をまとった異形の身体。

 

 胸部には、濁ったエモルギア核が脈打っている。

 

 巨大エモンズ。

 

 ディオドラ本人ではない。

 

 だが、間違いなくディオドラの悪意から生まれたものだった。

 

「何だよ、あれ……!」

 

 兵藤が呟く。

 

「ディオドラ本人ではない……?」

 

 リアスも上空を見上げる。

 

「あいつが使っていたネガエモルギアの暴走体だ。魔空空間の残滓を食って巨大化してる」

 

 レオルドの声に、焦りが混じる。

 

「つまり、ディオドラの悪趣味の置き土産か」

 

「放置すれば、魔空空間の瘴気を現実側へ撒く」

 

 駆無が言った。

 

 巨大エモンズが咆哮する。

 

 黒い亀裂が空へ広がった。裂け目から漏れる瘴気が、現実の空気を侵食しようとしている。

 

 リアスが魔力を展開した。

 

 兵藤も赤龍帝の籠手を構える。

 

「今度こそ俺も行く!」

 

「待て」

 

 レオルドが即座に止めた。

 

「あれは魔空空間の残滓をまとってる。近づけばさっきの瘴気と同じ危険がある」

 

「遠距離攻撃は?」

 

 リアスが聞く。

 

「表層は削れる。だが核まで届かねえ。外殻が廃墟ビル群の残骸と空間歪曲で覆われてる」

 

「……物理で殴るには大きすぎます」

 

 小猫が冷静に言う。

 

「雷でも表層止まりですわね」

 

 朱乃の声にも余裕は少なかった。

 

 巨大エモンズから黒い鎖が伸びる。

 

 校舎へ。

 

 空の亀裂へ。

 

 現実側へ根を下ろすように、黒い鎖が伸びていく。

 

「小型戦闘では間に合わない」

 

 駆無が言う。

 

「ギャバン・キングで斬るにはデカすぎるな」

 

「ギャバリオンドルネードを戻す。だが、ドルネード単体だと抑え込みが限界だ」

 

 レオルドが端末を叩く。

 

 空間の裂け目から、蒼い機械竜が再出現した。

 

 ギャバリオンドルネード。

 

 アーシアを回収した時と同じく、龍の咆哮を響かせながら、今度は巨大エモンズへ向かっていく。

 

「ドルネード、再出撃! まずは鎖の侵食を止めろ!」

 

 ギャバリオンドルネードが翼を広げた。

 

 尾がしなり、黒い鎖を叩き切る。蒼いエネルギーが口から放たれ、巨大エモンズの外殻を削った。

 

 だが、削れた端から再生する。

 

 廃墟の破片が集まり、瘴気が固まり、ネガエモルギアが肉の代わりになる。

 

「再生が早い! ドルネード単体じゃ出力が足りねえ!」

 

「つまり、次の形態か」

 

「ああ。ただし通常起動じゃ足りねえ」

 

 駆無が空を見上げる。

 

「強襲フォームか」

 

 レオルドが一瞬だけ黙った。

 

 その間が嫌だった。

 

「何だ、その嫌な間は」

 

「コスモギャバリオンK.I.の強襲フォームは、現場判断だけじゃ使えねえ。銀河連邦警察最高会議の認可が要る」

 

「今から上にお伺いかよ」

 

「そういう装備だ。出力も責任も桁が違う」

 

 警察組織というものは面倒だ。

 

 現場で怪物が暴れていても、使っていい力と駄目な力がある。書類と責任と認可の壁がある。理屈は分かる。無制限の力を現場判断だけで振り回す方が危ない。

 

 だが、今それをやるのか、とは思う。

 

 レオルドが緊急通信を開いた。

 

 端末に銀河連邦警察の認証画面が浮かび、複数の承認コードが走る。

 

「銀河連邦警察緊急管制へ。こちら現場管制レオルド。多元地球現地座標、駒王学園上空。魔空空間残滓とネガエモルギア融合による巨大エモンズ発生」

 

 解析データが送信される。

 

「通常ドルネードでは制圧不能。コスモギャバリオンK.I.、強襲フォームへの移行認可を申請する」

 

 通信ノイズ。

 

 場が静まる。

 

 巨大エモンズは待ってくれない。咆哮し、鎖を広げ、空の亀裂をさらに押し広げている。

 

「認可って……まだなのか!?」

 

 兵藤が叫ぶ。

 

「黙って待て。通すために必要なんだよ」

 

 レオルドの声は荒い。

 

 だが、指は止まっていない。

 

 俺は空を見た。

 

「上の返事待ちで世界が壊れるとか、笑えねぇな」

 

「だが、認可なしで使えば別の問題が起きる」

 

 駆無が言う。

 

「警察ってのは本当に面倒だな」

 

「面倒だから警察なんだよ」

 

 レオルドが低く返した。

 

 次の瞬間、通信画面にホログラムが浮かんだ。

 

 銀河連邦警察最高議長。

 

 威圧的ではない。

 

 だが、声に重みがある。長く上に立つ者の声だった。

 

『現場状況、確認した』

 

 レオルドが姿勢を正す。

 

「巨大エモンズは現実側へ魔空瘴気を拡散中。このままでは周辺区域へ次元汚染が及びます」

 

『操縦者は』

 

「ギャバン・キング運用者。エモルギア同期適性あり。ギャバリオンドルネードとの一時接続経験も確認済み」

 

 通信が一瞬、俺へ向いた。

 

 周囲には聞こえない秘匿回線が開く。

 

『唯我太郎。聞こえるか』

 

 俺は少しだけ眉を動かした。

 

 最高議長とやらに本名で呼ばれるのは、正直気分がいいものではない。秘密というものは、上の方では案外書類になっているのかもしれない。

 

「聞こえてる。随分と急な面接だな」

 

『口が悪いな』

 

「よく言われる」

 

 レオルドが別回線で唸った。

 

『口を慎め』

 

 最高議長は構わないと言うように、わずかに息を吐いた。

 

『現場の人間はそれくらいでいい』

 

 一拍。

 

『コスモギャバリオンK.I.、強襲フォームへの移行を認可する』

 

 認可音。

 

 端末に赤い承認印が走った。

 

『ASSAULT FORM AUTHORIZATION APPROVED』

 

『巨大エモンズを制圧し、魔空瘴気の拡散を阻止せよ』

 

 俺は短く返す。

 

「了解。面倒なのは嫌いだが、放っておく気はねぇ」

 

『ならば行け、宇宙刑事』

 

 通信が切れた。

 

 レオルドが息を吐く。

 

「認可は下りた。これで使える」

 

「認可待ちの必殺ロボって、現場からすると心臓に悪いな」

 

「だから失敗するな」

 

「言われなくても」

 

 搭乗前に、俺はアーシアの方を見た。

 

 彼女は兵藤とリアスに支えられている。まだ消耗しているが、意識ははっきりしていた。

 

「ギャバンさん……」

 

「無事ならいい。休んでろ」

 

「助けてくださって、ありがとうございます」

 

「礼は後だ。まだ残業がある」

 

「残業って……」

 

 兵藤が呆れたように言う。

 

「言い方は雑だが、その通りだ。まだ終わってねえ」

 

 レオルドが言った。

 

 アーシアは空の巨大エモンズを見る。

 

「あれは……私のせいで……?」

 

 俺は即座に返した。

 

「違う。ディオドラの置き土産だ。お前の責任じゃねぇ」

 

 アーシアが目を見開く。

 

「責任を背負うなら、本人に背負わせる。被害者が勝手に荷物を増やすな」

 

 少し乱暴な言い方だったかもしれない。

 

 だが、今のアーシアにはそれくらいでいい。

 

 優しく包む言葉より、余計な責任を切り落とす言葉の方が必要な時もある。

 

 リアスが静かに頷いた。

 

 兵藤がアーシアの手を強く握る。

 

 レオルドが端末を操作した。

 

 上空でギャバリオンドルネードが旋回している。その横へ、ギャバリオントリガーのスペースシップ形態が呼び出された。

 

「ギャバリオントリガー、スペースシップ形態で射出。ドルネードとドッキング準備」

 

 空に二つの光が並ぶ。

 

 蒼い竜。

 

 宇宙警察のスペースシップ。

 

 どちらも、地球の空にはあまり似合わない光景だった。

 

「外側の鎖はこちらで切る」

 

 駆無が言う。

 

「助かる。忍者は便利だな」

 

「宇宙刑事でもある」

 

「肩書きの渋滞だな」

 

「お前もだ」

 

「否定はしねぇ」

 

 レオルドが俺を見る。

 

「コスモギャバリオンK.I.は、ドルネードの機動、ギャバリオントリガーの制御、エモルギア同期を全部要求する。負荷は高いぞ」

 

「負荷が低い案件なんか最近あったか?」

 

「ないな」

 

「なら今さらだ」

 

 俺は地面を蹴った。

 

 ギャバン・キングの装甲が光を受ける。ジライヤ投影は解除し、今はコスモギャバリオン搭乗に必要な同期へ意識を切り替える。

 

 ギャバリオンドルネードが咆哮した。

 

 背部ハッチが開く。

 

「コスモギャバリオンK.I.、起動準備!」

 

 レオルドの声が飛ぶ。

 

「行くぞ、ドルネード」

 

 俺は機械竜の内部へ飛び込んだ。

 

 コックピット内に着地する。

 

 制御パネルが展開された。視界いっぱいに、ギャバリオントリガーとギャバリオンドルネードの同期率が表示される。エモルギアの波形が走る。心拍と機体反応が重なり、背骨に金属の冷たさが流れ込むような感覚があった。

 

 外では巨大エモンズが迫っている。

 

 黒い鎖が空を裂き、魔空瘴気が現実を汚そうとしていた。

 

『太郎、同期率上昇。ギャバリオントリガー接続。ドルネード変形シーケンス開始』

 

 レオルドの声。

 

「弩城さん、どんだけ詰め込んだんだよ……」

 

『文句は後で本人に言え。今は動かせ』

 

 システム音声が響く。

 

『COSMO GAVARION K.I.』

 

 続いて、重い認証音。

 

『ASSAULT FORM STANDBY』

 

 操縦桿がせり上がる。

 

 俺はそれを握った。

 

 機体の奥で、竜が唸る。

 

 ギャバリオントリガーが接続し、ギャバリオンドルネードの翼が展開する。蒼い竜の装甲が変形を始め、スペースシップの光と重なっていく。

 

 巨大なシルエットが、空に形成される。

 

 俺は息を吐いた。

 

「了解。コスモギャバリオンK.I.、強襲フォーム――起動だ」

 

 蒼い光が、夜空を裂いた。

 

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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