サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
見た目からして、まともじゃない。
悪魔の翼。黒い鎖。廃墟のビル片。瘴気をまとった外殻。胸部に濁ったエモルギア核。
ディオドラ本人は気絶しているのに、そいつの執着だけが巨大化して空に浮いている。人間性の残骸を怪獣にしたら、たぶんこうなる。
夜空に、蒼い光が走った。
コスモギャバリオンK.I.強襲フォーム。
ギャバリオンドルネードの竜型ユニットを組み込んだその機体は、普通の巨大ロボというより、竜の骨格を鎧にした宇宙船に近かった。巨大な左腕には、ドルネード由来の竜頭と尻尾状の装甲が集まり、背面には大型推進ユニットが唸っている。
コックピットの中で、俺は操縦桿を握っていた。
視界には機体ステータス。
同期率。
外部瘴気濃度。
エモンズ核反応。
左腕出力。
ドルネード系統の武装ロック。
情報が多い。
多すぎる。
「でけぇな。悪趣味が巨大化すると、こうも見苦しいのか」
『軽口叩けるなら余裕だな』
レオルドの声が通信に入る。
「余裕じゃねぇ。現実逃避だ」
『どっちでもいい。核は胸部だ。だが外殻が厚い。まずは動きを止めろ』
「了解。強襲フォーム、初仕事だ」
システム音声が響く。
『COSMO GAVARION K.I.』
『ASSAULT FORM ACTIVE』
機体が前へ出る。
巨大エモンズがこちらを見た。
目があるのかどうかも怪しい。ただ、濁った核の奥で、こちらへ向けられる敵意だけは分かる。ディオドラの怒り、屈辱、支配欲。そういうものが、まとまりもなく膨れ上がっている。
巨大エモンズが咆哮した。
その背中と腕、翼の隙間から、無数の黒い鎖が伸びる。
鎖は魔空瘴気をまとい、空間を引っ掻くように広がった。アーシアを縛っていた鎖よりも粗い。だが、その分、力任せで量が多い。精密な拘束具ではなく、巨大な網だ。
『太郎、絡まれるな! 魔空瘴気ごと拘束されるぞ!』
「分かってる」
コスモギャバリオンK.I.は背面推進で横へ滑った。
重い。
だが鈍くはない。
背面ユニットが蒼い推進光を噴き、巨体を空中で横へ振る。左腕のドルネードパーツが重いぶん、姿勢制御に癖がある。少しでも気を抜けば、機体の重心が左へ持っていかれる。
だが、その重さは武器にもなる。
鎖が追ってくる。
曲がる。
伸びる。
左腕、肩、胴体を狙って、黒い線が空を埋めた。
警告表示が赤く点滅する。
『CHAIN CONTAMINATION DETECTED』
『LEFT ARM LOCK RISK』
『距離を取れ! 空中で絡まれたら引きずり込まれる!』
レオルドの指示は正しい。
空中で鎖に捕まれば、巨体同士の引っ張り合いになる。しかも相手は魔空瘴気をまとっている。こちらの装甲が耐えても、姿勢を崩されればそのまま亀裂へ引きずり込まれる。
普通なら逃げる。
だが、普通に逃げても追ってくる。
鎖は、エモンズ本体と繋がっている。
なら。
「いや、逃げるより使う」
『何?』
「向こうが鎖を伸ばしてくるなら、こっちは綱引きにする」
『お前、まさか――』
「そのまさかだ」
俺は操縦桿を倒した。
コスモギャバリオンK.I.が急降下する。
空ではなく、地面へ。
魔空空間の残骸が散った校庭の外縁、巨大な瓦礫が積もった場所へ、機体が着地した。
衝撃。
地面が割れる。
脚部が沈み込み、固定アンカーが展開された。
『GROUND ANCHOR DEPLOY』
脚部から光のアンカーが地面へ打ち込まれる。背面推進ユニットが逆噴射し、機体を固定する。巨大な左腕を前へ出す。
『お前、引っ張り合う気かよ!』
「殴って再生するなら、まず引きずり出す」
『無茶だが、理屈は通ってる。左腕へドルネード出力を回せ!』
黒い鎖がコスモギャバリオンK.I.へ絡みついた。
左腕。
肩。
胴体。
脚部。
魔空瘴気が装甲表面を焼く。火花に似た黒い粒子が散る。警告音が増えた。
『SURFACE CONTAMINATION』
『FILTER OUTPUT RISING』
外から見れば、捕まったように見えただろう。
実際、リアスたちの驚く声が通信の端に混じった。
『絡まれた……!』
『おい、大丈夫なのかよ!』
レオルドが低く言う。
『黙って見てろ。あれは捕まったんじゃねえ』
俺は操縦桿を握り込んだ。
「捕まえさせたんだよ」
左腕の竜頭が開く。
内部で青白い光が渦を巻いた。
『DOLNADO VACUUM ARM』
『OUTPUT CHARGE』
『ドルネード・バキュームアーム起動。鎖の汚染ごと吸い返せ!』
「了解」
左腕が唸った。
ギャバリオンドルネード由来の吸引機構が起動する。
空気が反転した。
いや、空気だけではない。鎖にまとわりついていた魔空瘴気が、こちらへ逆流する。黒い粒子が左腕へ吸い込まれ、内部隔離フィールドで圧縮されていく。
巨大エモンズが揺れた。
自分が伸ばした鎖を、逆に引かれている。
「来いよ。そっちが伸ばした鎖だろ」
コスモギャバリオンK.I.が両足で踏ん張る。
地面に亀裂が走った。
脚部アンカーがさらに深く刺さる。背面推進ユニットが唸る。左腕の竜頭が咆哮するように開き、吸引力を増した。
『VACUUM OUTPUT 60』
『70』
『85』
『出力上げすぎるな! 左腕が持たねえぞ!』
「持たせろ」
『無茶振りが過ぎるだろ!』
「いつものことだろ」
『開き直るな!』
黒い鎖が張り詰める。
巨大エモンズの巨体が、ほんのわずかに動いた。
それが始まりだった。
一度動けば、あとは引ける。
鎖は相手の拘束手段であり、同時にこちらと相手を繋ぐ綱でもある。逃げるなら危険。だが固定して引けば、こっちの足場になる。
風波駆無の声が入る。
『外側の鎖を切る。引き寄せる力を逃がすな』
魔空空間の亀裂周辺で、駆無が黒い鎖を切断していく。ギャバン・ライヤの刃が風のように走り、余分な鎖を断つ。引く力が分散しないように、不要な支点を消しているのだ。
リアスたちは結界を張っていた。
黒い瘴気が周囲へ広がらないように、朱乃の雷とリアスの魔力が結界を補強する。小猫は落下する瓦礫を叩き落とし、木場とゼノヴィアが地上へ伸びる鎖を斬っている。
戦場は俺ひとりのものではない。
だから、引ける。
「もう少しだ」
巨大エモンズが抵抗する。
翼を広げ、腕を振り上げる。だが、鎖を引かれているせいで体勢が崩れていた。外殻の廃墟ビル片が剥がれ、黒い瘴気が吸い込まれていく。
胸部の濁ったエモルギア核が、一瞬だけ見えた。
『核が見えた! だがまだ撃つな、外殻が戻る!』
「怯ませればいいんだろ」
『ああ。再生の流れを止めろ!』
巨大エモンズが腕を振り下ろそうとする。
遅い。
無防備だ。
左腕の吸引を維持したまま、ドルネードの火炎系統を起動する。
『DOLNADO BLAZE CHARGE』
竜頭の奥で、青白い炎が渦巻く。
火炎というより、蒼い光の奔流だ。魔空瘴気を焼き、ネガエモルギア粒子の再結合を阻害するための炎。
『ドルネード・ブレイズ、撃てる!』
「なら、焼き止める」
俺は左腕を引き込んだ。
エモンズの巨体がさらに近づく。
鎖がきしむ。
装甲が軋む。
左腕の負荷表示が危険域へ近づく。
『太郎、長くは持たねえ!』
「長く使う気はねぇ」
巨大エモンズの胸部外殻が開きかける。
今だ。
「ドルネード・ブレイズバースト!」
竜頭から、蒼い火炎放射が放たれた。
炎は黒い鎖を伝い、巨大エモンズの外殻へ直撃する。廃墟ビル片が焼け、瘴気の膜が弾け、ネガエモルギア粒子が青白い炎に包まれて再結合を止められる。
巨大エモンズが苦しげに咆哮した。
黒い鎖が緩む。
胸部の核が、よりはっきりと露出する。
『効いてる!』
兵藤の声。
『核が見えたわ!』
リアスの声も重なる。
『よし、怯んだ! 次で核を叩ける!』
レオルドの声に、俺は小さく頷いた。
巨大エモンズは焼けた外殻を再生しようとする。
だが、蒼炎がそれを邪魔していた。再生の速度が落ちている。外殻を作ろうとするたびに、青白い火が黒い粒子を焼いてほどく。
コスモギャバリオンK.I.は、まだ左腕の吸引を弱めない。
鎖を保持する。
逃がさない。
『太郎、今ので再生速度が落ちた。核を叩くなら今だ』
「分かった。鎖は離さねぇ」
『外側の侵食鎖は断った。進路は開いている』
駆無の声。
『こちらも結界を維持するわ。撃つなら今よ』
リアスの声。
俺は操縦桿を握り直す。
コスモギャバリオンK.I.の胸部と左腕に、光が集まっていく。
「引き寄せて、焼いて、核を出した。なら次は――」
巨大エモンズが最後の抵抗のように、再び鎖を伸ばそうとする。
だが、遅い。
竜頭がその鎖を噛み砕くように吸い込んだ。
黒い粒子が蒼い渦に呑まれていく。
俺は核を見据えた。
「仕上げだ」
コスモギャバリオンK.I.の全身が、蒼く燃え上がった。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王