サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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蒼機龍 Case7

 見た目からして、まともじゃない。

 

 悪魔の翼。黒い鎖。廃墟のビル片。瘴気をまとった外殻。胸部に濁ったエモルギア核。

 

 ディオドラ本人は気絶しているのに、そいつの執着だけが巨大化して空に浮いている。人間性の残骸を怪獣にしたら、たぶんこうなる。

 

 夜空に、蒼い光が走った。

 

 コスモギャバリオンK.I.強襲フォーム。

 

 ギャバリオンドルネードの竜型ユニットを組み込んだその機体は、普通の巨大ロボというより、竜の骨格を鎧にした宇宙船に近かった。巨大な左腕には、ドルネード由来の竜頭と尻尾状の装甲が集まり、背面には大型推進ユニットが唸っている。

 

 コックピットの中で、俺は操縦桿を握っていた。

 

 視界には機体ステータス。

 同期率。

 外部瘴気濃度。

 エモンズ核反応。

 左腕出力。

 ドルネード系統の武装ロック。

 

 情報が多い。

 

 多すぎる。

 

「でけぇな。悪趣味が巨大化すると、こうも見苦しいのか」

 

『軽口叩けるなら余裕だな』

 

 レオルドの声が通信に入る。

 

「余裕じゃねぇ。現実逃避だ」

 

『どっちでもいい。核は胸部だ。だが外殻が厚い。まずは動きを止めろ』

 

「了解。強襲フォーム、初仕事だ」

 

 システム音声が響く。

 

『COSMO GAVARION K.I.』

『ASSAULT FORM ACTIVE』

 

 機体が前へ出る。

 

 巨大エモンズがこちらを見た。

 

 目があるのかどうかも怪しい。ただ、濁った核の奥で、こちらへ向けられる敵意だけは分かる。ディオドラの怒り、屈辱、支配欲。そういうものが、まとまりもなく膨れ上がっている。

 

 巨大エモンズが咆哮した。

 

 その背中と腕、翼の隙間から、無数の黒い鎖が伸びる。

 

 鎖は魔空瘴気をまとい、空間を引っ掻くように広がった。アーシアを縛っていた鎖よりも粗い。だが、その分、力任せで量が多い。精密な拘束具ではなく、巨大な網だ。

 

『太郎、絡まれるな! 魔空瘴気ごと拘束されるぞ!』

 

「分かってる」

 

 コスモギャバリオンK.I.は背面推進で横へ滑った。

 

 重い。

 

 だが鈍くはない。

 

 背面ユニットが蒼い推進光を噴き、巨体を空中で横へ振る。左腕のドルネードパーツが重いぶん、姿勢制御に癖がある。少しでも気を抜けば、機体の重心が左へ持っていかれる。

 

 だが、その重さは武器にもなる。

 

 鎖が追ってくる。

 

 曲がる。

 

 伸びる。

 

 左腕、肩、胴体を狙って、黒い線が空を埋めた。

 

 警告表示が赤く点滅する。

 

『CHAIN CONTAMINATION DETECTED』

『LEFT ARM LOCK RISK』

 

『距離を取れ! 空中で絡まれたら引きずり込まれる!』

 

 レオルドの指示は正しい。

 

 空中で鎖に捕まれば、巨体同士の引っ張り合いになる。しかも相手は魔空瘴気をまとっている。こちらの装甲が耐えても、姿勢を崩されればそのまま亀裂へ引きずり込まれる。

 

 普通なら逃げる。

 

 だが、普通に逃げても追ってくる。

 

 鎖は、エモンズ本体と繋がっている。

 

 なら。

 

「いや、逃げるより使う」

 

『何?』

 

「向こうが鎖を伸ばしてくるなら、こっちは綱引きにする」

 

『お前、まさか――』

 

「そのまさかだ」

 

 俺は操縦桿を倒した。

 

 コスモギャバリオンK.I.が急降下する。

 

 空ではなく、地面へ。

 

 魔空空間の残骸が散った校庭の外縁、巨大な瓦礫が積もった場所へ、機体が着地した。

 

 衝撃。

 

 地面が割れる。

 

 脚部が沈み込み、固定アンカーが展開された。

 

『GROUND ANCHOR DEPLOY』

 

 脚部から光のアンカーが地面へ打ち込まれる。背面推進ユニットが逆噴射し、機体を固定する。巨大な左腕を前へ出す。

 

『お前、引っ張り合う気かよ!』

 

「殴って再生するなら、まず引きずり出す」

 

『無茶だが、理屈は通ってる。左腕へドルネード出力を回せ!』

 

 黒い鎖がコスモギャバリオンK.I.へ絡みついた。

 

 左腕。

 

 肩。

 

 胴体。

 

 脚部。

 

 魔空瘴気が装甲表面を焼く。火花に似た黒い粒子が散る。警告音が増えた。

 

『SURFACE CONTAMINATION』

『FILTER OUTPUT RISING』

 

 外から見れば、捕まったように見えただろう。

 

 実際、リアスたちの驚く声が通信の端に混じった。

 

『絡まれた……!』

 

『おい、大丈夫なのかよ!』

 

 レオルドが低く言う。

 

『黙って見てろ。あれは捕まったんじゃねえ』

 

 俺は操縦桿を握り込んだ。

 

「捕まえさせたんだよ」

 

 左腕の竜頭が開く。

 

 内部で青白い光が渦を巻いた。

 

『DOLNADO VACUUM ARM』

『OUTPUT CHARGE』

 

『ドルネード・バキュームアーム起動。鎖の汚染ごと吸い返せ!』

 

「了解」

 

 左腕が唸った。

 

 ギャバリオンドルネード由来の吸引機構が起動する。

 

 空気が反転した。

 

 いや、空気だけではない。鎖にまとわりついていた魔空瘴気が、こちらへ逆流する。黒い粒子が左腕へ吸い込まれ、内部隔離フィールドで圧縮されていく。

 

 巨大エモンズが揺れた。

 

 自分が伸ばした鎖を、逆に引かれている。

 

「来いよ。そっちが伸ばした鎖だろ」

 

 コスモギャバリオンK.I.が両足で踏ん張る。

 

 地面に亀裂が走った。

 

 脚部アンカーがさらに深く刺さる。背面推進ユニットが唸る。左腕の竜頭が咆哮するように開き、吸引力を増した。

 

『VACUUM OUTPUT 60』

『70』

『85』

 

『出力上げすぎるな! 左腕が持たねえぞ!』

 

「持たせろ」

 

『無茶振りが過ぎるだろ!』

 

「いつものことだろ」

 

『開き直るな!』

 

 黒い鎖が張り詰める。

 

 巨大エモンズの巨体が、ほんのわずかに動いた。

 

 それが始まりだった。

 

 一度動けば、あとは引ける。

 

 鎖は相手の拘束手段であり、同時にこちらと相手を繋ぐ綱でもある。逃げるなら危険。だが固定して引けば、こっちの足場になる。

 

 風波駆無の声が入る。

 

『外側の鎖を切る。引き寄せる力を逃がすな』

 

 魔空空間の亀裂周辺で、駆無が黒い鎖を切断していく。ギャバン・ライヤの刃が風のように走り、余分な鎖を断つ。引く力が分散しないように、不要な支点を消しているのだ。

 

 リアスたちは結界を張っていた。

 

 黒い瘴気が周囲へ広がらないように、朱乃の雷とリアスの魔力が結界を補強する。小猫は落下する瓦礫を叩き落とし、木場とゼノヴィアが地上へ伸びる鎖を斬っている。

 

 戦場は俺ひとりのものではない。

 

 だから、引ける。

 

「もう少しだ」

 

 巨大エモンズが抵抗する。

 

 翼を広げ、腕を振り上げる。だが、鎖を引かれているせいで体勢が崩れていた。外殻の廃墟ビル片が剥がれ、黒い瘴気が吸い込まれていく。

 

 胸部の濁ったエモルギア核が、一瞬だけ見えた。

 

『核が見えた! だがまだ撃つな、外殻が戻る!』

 

「怯ませればいいんだろ」

 

『ああ。再生の流れを止めろ!』

 

 巨大エモンズが腕を振り下ろそうとする。

 

 遅い。

 

 無防備だ。

 

 左腕の吸引を維持したまま、ドルネードの火炎系統を起動する。

 

『DOLNADO BLAZE CHARGE』

 

 竜頭の奥で、青白い炎が渦巻く。

 

 火炎というより、蒼い光の奔流だ。魔空瘴気を焼き、ネガエモルギア粒子の再結合を阻害するための炎。

 

『ドルネード・ブレイズ、撃てる!』

 

「なら、焼き止める」

 

 俺は左腕を引き込んだ。

 

 エモンズの巨体がさらに近づく。

 

 鎖がきしむ。

 

 装甲が軋む。

 

 左腕の負荷表示が危険域へ近づく。

 

『太郎、長くは持たねえ!』

 

「長く使う気はねぇ」

 

 巨大エモンズの胸部外殻が開きかける。

 

 今だ。

 

「ドルネード・ブレイズバースト!」

 

 竜頭から、蒼い火炎放射が放たれた。

 

 炎は黒い鎖を伝い、巨大エモンズの外殻へ直撃する。廃墟ビル片が焼け、瘴気の膜が弾け、ネガエモルギア粒子が青白い炎に包まれて再結合を止められる。

 

 巨大エモンズが苦しげに咆哮した。

 

 黒い鎖が緩む。

 

 胸部の核が、よりはっきりと露出する。

 

『効いてる!』

 

 兵藤の声。

 

『核が見えたわ!』

 

 リアスの声も重なる。

 

『よし、怯んだ! 次で核を叩ける!』

 

 レオルドの声に、俺は小さく頷いた。

 

 巨大エモンズは焼けた外殻を再生しようとする。

 

 だが、蒼炎がそれを邪魔していた。再生の速度が落ちている。外殻を作ろうとするたびに、青白い火が黒い粒子を焼いてほどく。

 

 コスモギャバリオンK.I.は、まだ左腕の吸引を弱めない。

 

 鎖を保持する。

 

 逃がさない。

 

『太郎、今ので再生速度が落ちた。核を叩くなら今だ』

 

「分かった。鎖は離さねぇ」

 

『外側の侵食鎖は断った。進路は開いている』

 

 駆無の声。

 

『こちらも結界を維持するわ。撃つなら今よ』

 

 リアスの声。

 

 俺は操縦桿を握り直す。

 

 コスモギャバリオンK.I.の胸部と左腕に、光が集まっていく。

 

「引き寄せて、焼いて、核を出した。なら次は――」

 

 巨大エモンズが最後の抵抗のように、再び鎖を伸ばそうとする。

 

 だが、遅い。

 

 竜頭がその鎖を噛み砕くように吸い込んだ。

 

 黒い粒子が蒼い渦に呑まれていく。

 

 俺は核を見据えた。

 

「仕上げだ」

 

 コスモギャバリオンK.I.の全身が、蒼く燃え上がった。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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