サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
空を飛べるというのは、単純に強い。
逃げられる。回り込める。上を取れる。距離を選べる。戦場の形を自分で決められる。だから飛行能力というのは、ただの移動手段ではなく、戦術そのものだ。
逆に言えば。
飛べない相手は、地面に縛られる。
巨大エモンズは、さっきまで空にいた。
黒い翼を広げ、廃墟の残骸をまとい、魔空瘴気を撒き散らして、現実の空を食い破ろうとしていた。だが、ドルネード・ブレイズバーストで翼と外殻を焼き、吸引で鎖を引き戻した結果、その巨体は地上へ落ちかけている。
完全に倒れたわけではない。
だが、もう自由には飛べない。
『エモンズの飛行制御、落ちてるぞ。翼と鎖の推進反応が死にかけてる』
レオルドの声が通信に入る。
俺は操縦席で、巨大エモンズの動きを見ていた。
黒い翼は再生しようとしている。だが、蒼炎の残滓がそれを邪魔していた。骨組みだけが膨らみ、途中で崩れる。瘴気が噴き出す。鎖で空間に引っかかろうとしても、さっき切った支点が足りない。
「つまり、もう空には逃げられねぇってことか」
『ああ。今なら地上に釘付けにできる』
巨大エモンズが咆哮した。
翼を広げようとする。
だが、広がらない。
黒い肉と鎖が形を作りかけ、青白い炎に焼かれてほどける。空へ上がろうとするたび、巨体が重力に負けて沈む。
なら、次の手だ。
「戦い方を変える」
『何をする気だ』
「空を使う」
『お前は今、地上にいるだろ』
「俺じゃない」
俺は左腕側の制御を切り替えた。
コスモギャバリオンK.I.の巨大な左腕。その中心に組み込まれているギャバリオンドルネードが、低く唸る。竜頭の内部に蒼い光が走り、接続部が順に解除されていく。
『太郎、ドルネードを分離する気か?』
「ああ」
『分離中は左腕火力が落ちるぞ』
「その分、手数は増える」
『理屈は合ってるが、相変わらずぶっつけだな』
「最近、ぶっつけじゃない戦闘あったか?」
『……ないな』
「なら今さらだ」
操縦桿横の分離レバーへ手をかける。
システム音声が響いた。
『DOLNADO UNIT SEPARATION』
『AUTONOMOUS FLIGHT MODE STANDBY』
コスモギャバリオンK.I.が左腕を前へ突き出す。
次の瞬間、ギャバリオンドルネードが手から離れた。
蒼い機械竜が、空へ舞い上がる。
翼が展開する。長い尾がしなる。竜頭が大きく開き、龍の咆哮を夜空へ響かせた。
『GAVARION DOLNADO』
『AUTONOMOUS MODE ACTIVE』
コックピットの画面に、ドルネード側の視界が共有される。
上空から見下ろす巨大エモンズ。
地上に立つコスモギャバリオンK.I.
空と地上。
二つの視点が重なり、戦場の形が一気に広がった。
「行け、ドルネード。上は任せた」
ギャバリオンドルネードが蒼い軌跡を描き、巨大エモンズの上空へ回り込んだ。
左腕が軽くなる。
機体のバランスが変わった。
重心が戻り、背面ユニットの姿勢制御が安定する。俺はすぐに兵装ラックを開いた。
『GAVARION TRIGGER RIFLE』
『TARGETING LINK ONLINE』
コスモギャバリオンK.I.が、大型銃を手に取る。
ギャバリオントリガー系統の巨大銃。銃身に蒼いラインが走り、照準補助が起動した。空中のギャバリオンドルネードから送られる視界情報が、俺の照準に重なる。
『ドルネードの空中視界を射撃補正に回す。上から見た核の位置を、お前の照準へ送る』
「空の目と地上の銃か」
『そうだ。撃てる時に撃て。外すなよ』
「注文が雑だな」
『当てろって意味だ』
「知ってる」
巨大エモンズは、地上で身を起こそうとしていた。
黒い鎖が再び伸びる。翼は使えない。なら、鎖で身体を支えようとしているのだろう。地面に根を張り、空間亀裂へ爪をかけ、自分を持ち上げようとしている。
させるか。
ギャバリオンドルネードが先に動いた。
上空を旋回し、口から短い蒼炎弾を連射する。狙いは翼の再生部分。巨大エモンズの背中に生えかけた黒い翼が、蒼炎を受けて焼け落ちる。
『ドルネード、翼部再生を妨害しろ。エモンズを飛ばせるな』
ドルネードが咆哮で応えた。
急降下。
背中から伸びた黒い鎖を、竜頭が噛み砕く。鎖の破片が黒い粒子となって散り、吸引渦に呑まれる。
巨大エモンズが上を向いた。
腕を振り上げる。
「上を見たな」
『撃て』
俺はトリガーを引いた。
「ギャバリオンショット!」
大型銃から蒼い光弾が放たれる。
地上から斜め上へ、一直線。
光弾は巨大エモンズの胸部外殻を撃ち抜き、濁った核の周囲に亀裂を走らせた。
巨大エモンズがよろめく。
だが、まだ倒れない。
怒ったように咆哮し、今度は地上のコスモギャバリオンK.I.へ向かって突進してくる。翼が使えない分、力任せだ。巨体が地面を砕き、瘴気が吹き上がる。
上空のドルネードが反応した。
尾をしならせ、巨大エモンズの頭部へ叩きつける。
進路が逸れる。
「助かる」
ドルネードは返事の代わりに、空中で旋回した。
背後へ回り込む。
蒼炎弾で、エモンズの背中の鎖を焼く。
俺は地上から銃を連射した。
外殻の弱点。鎖の根元。核周辺の亀裂。
ドルネードが剥がし、俺が撃つ。
空が撹乱し、地上が制圧する。
『いいぞ。ドルネードが外殻を剥がして、お前が核周辺を撃つ。再生が追いついてねえ』
「二対一で文句は言うなよ。先に人質使ったのは向こうだ」
『怪物相手に倫理の帳尻合わせしてる場合かよ』
「こういうのは気分の問題だ」
巨大エモンズが地面へ黒い鎖を突き立てた。
そこから瘴気が広がる。
黒い霧が地表を這い、結界の端を侵食しようとする。
『瘴気が広がるわ!』
リアスの声が入る。
『ドルネード、吸引!』
レオルドの指示で、ギャバリオンドルネードが上空から吸引渦を発生させた。黒い瘴気が竜の口へ吸い上げられていく。俺はその隙に、鎖の根元へ照準を合わせた。
「地面に根を張るな。迷惑だ」
撃つ。
蒼い光弾が鎖の根元を撃ち抜き、瘴気の噴出が止まる。
巨大エモンズが上空のドルネードを睨むように頭を上げた。
どうやら、そちらを厄介だと判断したらしい。
背中から槍状の黒い鎖が複数放たれる。
鎖は空を裂き、ギャバリオンドルネードへ殺到した。
『ドルネードが狙われてる!』
兵藤の声。
『太郎、援護しろ!』
「分かってる」
コスモギャバリオンK.I.が地上で膝をつく。
銃を安定させる。
ドルネード側から送られる位置情報を照準へ重ねる。鎖の速度、角度、根元。全部が線になって見える。
『LINK TARGETING』
『CHAIN ROOT LOCK』
「根元を撃てば止まる」
連射。
蒼い光弾が、鎖の根元を次々と撃ち抜いた。
空中へ伸びていた槍状の鎖が崩れる。ギャバリオンドルネードは、その隙間を滑るように抜け、巨大エモンズの顔面へ蒼炎弾を撃ち込んだ。
巨大エモンズが怯む。
ドルネードが上を取る。
俺が下から射線を通す。
単純だが、効く。
飛べない相手に対して、空と地上から挟む。逃げ道を削り、再生材料を吸い、外殻を剥がす。
レオルドが解析を続ける。
『胸部外殻、あと二層だ。ドルネード、上から外殻を剥げ。太郎、お前は銃で核周辺を固定しろ』
「了解」
ギャバリオンドルネードが急降下した。
竜爪のような機構が展開され、巨大エモンズの胸部外殻へ食い込む。エモンズが抵抗し、黒い鎖が胸部外殻を締め付ける。
俺は、その鎖の根元を撃つ。
「そこだ」
蒼い光弾が命中。
鎖が砕ける。
ドルネードが外殻を引き剥がした。
廃墟ビル片と瘴気の膜が剥がれ、胸部の濁ったエモルギア核が完全に露出する。
『核が完全に見えた!』
リアスの声。
『よし、決定打の準備に入れ!』
レオルドの声が続く。
巨大エモンズは咆哮し、最後の抵抗を始めた。
黒い瘴気が核の周囲に集まる。外殻を再生しようとしている。鎖を伸ばそうとしている。だが、もう遅い。
ギャバリオンドルネードは上空で旋回。
コスモギャバリオンK.I.は地上で銃を構えたまま、核へ照準を合わせる。
巨大エモンズは飛べない。
外殻は剥がれた。
鎖は削られた。
核は露出している。
『太郎、核への射線は開いた。だが通常射撃じゃ砕けねえ。決定打がいる』
「だろうな。あのしぶとさなら、ただ撃っただけじゃ再生する」
『外側の鎖はこちらで抑える。決めろ』
駆無の声。
『こちらの結界も持たせるわ。今のうちに』
リアスの声。
俺は操縦桿を握り直した。
空中のギャバリオンドルネードが咆哮する。
地上のコスモギャバリオンK.I.の銃口に、蒼い光が集まり始める。
「地上から撃つ。空から抑える。悪くねぇ連携だ」
『自画自賛してる暇があるなら、必殺シーケンスに入れ』
「分かってる」
照準を核へ合わせる。
巨大エモンズの濁った核が、脈打つ。
ディオドラの置き土産。
悪趣味の残骸。
人の痛みを食い物にした感情の塊。
それがまだ、現実にしがみつこうとしている。
「次で終わらせる」
銃口の蒼い光が、一段強くなった。
次回の王は
-
妖怪王
-
機械王
-
怪獣王
-
幻想王