サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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蒼機龍 Case9

# 第9話 蒼機龍、エモンズを断つ

 

 巨大な敵というのは、倒れかけてからが面倒だ。

 

 人間でもそうだが、追い詰められたものはだいたい雑になる。理屈も戦術もなくなって、最後に残った力を全部まとめてぶつけてくる。勝つためではない。逃げるためでもない。ただ壊すために壊す。

 

 巨大エモンズも、まさにその状態だった。

 

 翼は焼け落ちている。

 

 黒い鎖は削られている。

 

 廃墟ビル片でできた外殻は剥がれ、胸部の濁ったエモルギア核が露出していた。ギャバリオンドルネードが空から剥がし、コスモギャバリオンK.I.が地上から撃ち抜いた結果だ。

 

 だが、まだ終わっていない。

 

 核の周囲に、黒い瘴気が集まっていく。

 

 残った鎖が胸部へ巻きつき、まるで心臓を守る肋骨みたいに絡み合う。守っているだけではない。あれは溜めている。爆ぜるために、周囲の魔空瘴気を集めている。

 

『エモンズの再生速度、さらに低下。飛行制御も完全に死んだ。もう空には上がれねえ』

 

 レオルドの声が通信に響く。

 

「限界ってわけか」

 

『ああ。だが油断するな。ああいう暴走体は、最後に残った力を全部ぶつけてくる』

 

 その通りだった。

 

 巨大エモンズが咆哮する。

 

 黒い瘴気が、胸部核へさらに吸い込まれていく。空気が歪む。夜空に残った魔空空間の亀裂が、じりじりと広がろうとしていた。

 

『核を守ろうとしているわ』

 

 リアスの声。

 

『いや、守りではない。自爆に近い』

 

 駆無が低く言った。

 

『まずいな』

 

 レオルドの声が硬くなる。

 

『魔空瘴気を核に集中させてる。このまま破裂すれば、周辺に次元汚染が広がる』

 

「倒すだけじゃなく、散らさず断つ必要があるってことか」

 

『そうだ。撃ち抜くだけじゃ駄目だ。核が割れた瞬間に瘴気が散る』

 

 コスモギャバリオンK.I.の右手には、ギャバリオントリガーライフルがあった。照準は核に合っている。撃てる。今なら当てられる。

 

 だが、撃てば散る。

 

 散れば、こちらの負けだ。

 

「なら、撃たない」

 

『何をする気だ』

 

「斬る。核ごと、瘴気の流れを真っ二つに断つ」

 

 俺は銃を収納した。

 

 空中で旋回していたギャバリオンドルネードが、こちらの呼びかけに反応して咆哮する。

 

 蒼い竜が夜空を走る。

 

「ドルネード、戻れ」

 

『DOLNADO UNIT RECALL』

『WEAPON LINK STANDBY』

 

 ギャバリオンドルネードが急降下した。

 

 蒼い機械竜が、空から落ちるように迫る。巨大エモンズが反応して鎖を伸ばすが、遅い。駆無が外側から鎖を切り、リアスたちの結界が瘴気を押し返す。

 

 地上から兵藤の声が聞こえた。

 

『また合体するのか!?』

 

 続いて、別の声。

 

 いつの間に来ていたのか、アザゼルだった。

 

『いや、あれは……武器として構える気か』

 

 さすがに目ざとい。

 

 研究者はこういう時だけ勘がいい。いや、こういう時だからこそ勘がいいのかもしれない。

 

 ギャバリオンドルネードが、コスモギャバリオンK.I.の左腕へ再接続する。

 

 ただの合体ではない。

 

 竜頭が開き、翼が折り畳まれ、尾が伸びる。装甲が重なり、蒼い光が刃の形を作った。左腕全体が、巨大な竜を宿した剣になる。

 

『GAVARION DOLNADO』

『BLADE ASSAULT MODE』

 

 重い。

 

 操縦桿越しに分かる。

 

 巨大竜一体を刃にしているのだから当然だが、左腕の負荷が跳ね上がった。機体の軸が左へ持っていかれる。背面推進ユニットで姿勢を修正しないと、構えるだけで傾く。

 

『ドルネード出力、左腕へ再集中。斬撃用フィールド展開』

 

「重いな」

 

『そりゃ巨大竜一体を刃にしてんだからな。振り回すなよ。軸を合わせて、一発で決めろ』

 

「分かってる。二発目はなさそうだしな」

 

 ギャバリオンドルネードの竜頭が低く唸る。

 

 刃に蒼い炎と吸引渦がまとわりついた。斬るだけではない。瘴気を巻き込み、外へ散らさず、断面ごと封じるための刃。

 

『外側の鎖はこちらで止める。進路を作る』

 

 駆無の声。

 

『結界で瘴気の拡散を抑えるわ』

 

 リアス。

 

 その背後で、朱乃の雷が結界を補強し、小猫たちが地上へ伸びる鎖を叩き折っている。兵藤はアーシアを庇いながら、飛んでくる瓦礫を赤龍帝の力で弾いていた。

 

 巨大エモンズが最後の抵抗を始める。

 

 残った黒い鎖を全方向へ伸ばし、コスモギャバリオンK.I.の進路を塞ぐ。網だ。黒い、悪意の網。そこへ魔空瘴気が絡まり、近づくものを汚染しようとする。

 

『来るぞ! 残った力を全部防御と妨害に回してやがる!』

 

「分かってる」

 

 駆無が飛び出した。

 

「風波流――風裂き道!」

 

 風が走る。

 

 鎖の網に細い隙間ができた。

 

 その隙間を、リアスの結界が広げる。朱乃の雷が焼き、小猫の拳が地上の鎖を砕き、木場とゼノヴィアの剣が進路を切り開く。

 

『行け、ギャバン! こいつを終わらせろ!』

 

 兵藤の声が飛ぶ。

 

「言われなくても」

 

 コスモギャバリオンK.I.が前傾姿勢を取る。

 

 背面推進ユニットが蒼い光を噴いた。

 

 コックピット内の視界に、胸部核への一直線のルートが表示される。

 

 細い。

 

 ほんの少しでも軸がずれれば、核を砕くだけで瘴気を散らす。斬撃の軌道と吸引フィールドの流れを完全に合わせる必要がある。

 

『核の中心へ軸を合わせろ。少しでも逸れたら瘴気が散る』

 

「注文が細かい」

 

『細かくしねえと世界が汚染されるんだよ!』

 

「分かったよ」

 

 システム音声が響く。

 

『ASSAULT BLADE CHARGE』

『DOLNADO CUTTING FIELD MAX』

 

 ギャバリオンドルネードの刃が蒼く燃える。

 

 刃の周囲に吸引フィールドが発生し、周囲の瘴気を巻き込んでいく。まるで竜巻をまとった刃だ。

 

「散らすな。巻き込め」

 

 俺は操縦桿を握り込んだ。

 

 コスモギャバリオンK.I.が地面を蹴る。

 

 巨大な機体が、蒼い軌跡を描いて突撃した。

 

 巨大エモンズが最後の黒い咆哮を放つ。

 

 胸部核から瘴気の奔流が噴き出す。黒い波が真正面から押し寄せてくる。触れれば装甲ごと削られる。だが、止まらない。

 

 ギャバリオンドルネードの刃が、その瘴気を吸い込みながら進む。

 

 蒼い炎が黒を裂く。

 

 吸引渦が瘴気を巻き取る。

 

 刃が核へ届く。

 

『今だ!』

 

 レオルドが叫ぶ。

 

「コスモギャバリオンK.I.――」

 

 ギャバリオンドルネードの竜頭が咆哮した。

 

 俺は最後まで軸をずらさず、刃を振り下ろす。

 

「ドルネード・アサルトスラッシュ!」

 

 巨大な蒼い斬撃が、縦に走った。

 

 ギャバリオンドルネードの刃が、巨大エモンズの胸部核を中心から捉える。

 

 核。

 

 外殻。

 

 鎖。

 

 瘴気の流れ。

 

 全部をまとめて両断する。

 

 巨大エモンズの身体が、縦に真っ二つへ裂けた。

 

 黒い瘴気が外へ散ろうとする。だが、その前に刃にまとった吸引フィールドが巻き込み、蒼い炎が焼き、封じ込める。

 

 巨大エモンズが断末魔を上げた。

 

 それは声というより、壊れた感情が空へ漏れる音だった。

 

 ディオドラの執着。

 

 支配欲。

 

 屈辱。

 

 それらが形を保てなくなり、蒼い光の中で崩れていく。

 

 最後に濁ったエモルギア核が割れた。

 

 だが、破片は散らない。

 

 ギャバリオンドルネードの吸引フィールドに呑み込まれ、封印光の中へ圧縮される。

 

 夜空にあった黒い亀裂が、ゆっくり閉じていく。

 

 魔空瘴気が薄れていく。

 

 コスモギャバリオンK.I.は、片膝をついた。

 

 左腕の刃が蒼い光を失い、ギャバリオンドルネードが通常状態へ戻る。

 

『巨大エモンズ反応、消滅。ネガエモルギア残滓、封印確認。魔空瘴気の拡散なし』

 

 レオルドの声が、ようやく少しだけ緩んだ。

 

「終わったか」

 

『今度こそ、な。多分』

 

「多分をつけるな」

 

『現場で断言するとろくなことにならねえんだよ』

 

 それは否定できない。

 

 地上では、リアスたちが夜空を見上げていた。

 

 兵藤はアーシアの肩を支えたまま、ぽかんとしている。

 

「すげぇ……」

 

 アーシアも小さく呟いた。

 

「蒼い、龍……」

 

 その視線の先で、ギャバリオンドルネードがコスモギャバリオンK.I.から分離し、蒼い光をまとって宙を旋回していた。

 

 アザゼルが腕を組んでいる。

 

 研究者としての興味。

 

 堕天使総督としての警戒。

 

 その両方が、顔に出ていた。

 

「赤龍帝でもない。白龍皇でもない。神滅具でも、二天龍でもない」

 

 アザゼルは夜空を見上げたまま言う。

 

 ギャバリオンドルネードが蒼い軌跡を描く。

 

「だが、あの存在感は龍だ。人工の機械龍。宇宙警察の蒼い龍」

 

「アザゼル先生?」

 

 リアスが問いかける。

 

 アザゼルは笑った。

 

「赤龍帝、白龍皇に並ぶと言うつもりはねぇ。あれは系統が違う。神話じゃない。神器でもない。だが、三大勢力が無視できる存在でもない」

 

 一拍。

 

 そして、彼は告げた。

 

「蒼機龍」

 

 兵藤が反応する。

 

「蒼機龍……?」

 

「ああ。二天龍とは異なる、新たな天龍。神話の龍じゃない。神器の龍でもない。宇宙警察が持ち込んだ、青い機械の龍だ」

 

 通信の向こうで、レオルドが心底嫌そうな声を出した。

 

『勝手に二つ名を増やすな。報告書が面倒になる』

 

「いい名だろ?」

 

『そこが問題なんだよ』

 

 俺にも、その会話は届いていた。

 

 コックピット内で、俺は息を吐く。

 

「蒼機龍ねぇ」

 

『気に入るなよ。定着したらこっちの書類に書く羽目になる』

 

「俺は別に気に入ったとは言ってねぇ」

 

『その間は気に入りかけてる間だろ』

 

「青い機械龍。まあ、赤龍帝と間違われるよりはマシだろ」

 

『少しマシなだけで、十分面倒なんだよ』

 

 ギャバリオンドルネードが、コスモギャバリオンK.I.の周囲を一周した。

 

 蒼い光が夜空に残る。

 

 赤龍帝でもない。

 

 白龍皇でもない。

 

 神話でも、神器でもない。

 

 宇宙警察が持ち込んだ、蒼い人工竜。

 

 アザゼルの命名は、たぶん広がる。

 

 そして広がれば、また面倒が増える。

 

 だが。

 

「ま、悪くはねぇな」

 

 俺は小さく呟いた。

 

 レオルドが通信越しに唸る。

 

『聞こえてるぞ』

 

「聞かせたんだよ」

 

『最悪だな、ほんと』

 

 それはこっちの台詞だった。

 

 巨大エモンズは消えた。

 

 ディオドラは確保した。

 

 アーシアは救出した。

 

 夜空から魔空瘴気は消え、黒い亀裂も閉じていく。

 

『巨大エモンズ撃破。ディオドラ確保。アーシア救出。今回は、これで本当に終わりだ』

 

「今度こそ信じていいんだな?」

 

『報告書が終わるまでは終わりじゃねえ』

 

「最悪だな、ほんと」

 

 地上で、アザゼルが空を見上げている。

 

「蒼機龍、か。こいつはまた、三大勢力がざわつくな」

 

 蒼い機械龍は、夜空を静かに旋回した。

 

 その名は、この夜から広がり始める。

 

 面倒な名前として。

 

 厄介な抑止力として。

 

 そしてたぶん、誰かを守るための新しい龍として。

 

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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