サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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蒼機龍 Case10

 巨大エモンズが消えた夜空は、妙に静かだった。

 

 ついさっきまで、そこには魔空空間の黒い亀裂が口を開けていて、廃墟の残骸みたいな怪物が暴れていて、蒼い機械龍が飛び回っていた。現実感というものが職場放棄したような光景だったのに、終わってしまえば、空はただの夜空に戻る。

 

 星が見えた。

 

 それが少しだけ腹立たしい。

 

 まるで、今までの騒ぎなど最初からなかったような顔をしている。こっちは巨大ロボに乗って、魔空瘴気ごと怪物を真っ二つにしてきたばかりだというのに、夜空は平然としていた。

 

『巨大エモンズ反応、完全消失。魔空瘴気の拡散なし。ネガエモルギア残滓も封印済みだ』

 

 レオルドの声が通信に響く。

 

「今度こそ終わりか」

 

『終わりだ。少なくとも戦闘はな』

 

「嫌な言い方だな」

 

『後処理が残ってる』

 

「最悪だな、ほんと」

 

 コスモギャバリオンK.I.は戦闘態勢を解除していた。

 

 ギャバリオンドルネードも蒼い光を残しながら待機状態へ移行している。さっきアザゼルが「蒼機龍」などと勝手に名づけたせいで、レオルドの機嫌は地味に悪い。報告書に新しい呼称が増えるのが面倒なのだろう。

 

 気持ちは分かる。

 

 分かるが、蒼機龍という響き自体は悪くない。そこが余計に面倒だった。

 

 俺はギャバン・キングの姿のまま地上へ降りた。

 

 ディオドラ・アスタロトは、宇宙警察の拘束具で完全に封じられていた。魔力回路、転移術式、眷属契約経路、ネガエモルギア残滓。逃げ道になりそうなものは全部潰してある。

 

 気絶したままの顔は、つくづく静かだった。

 

 喋らなければ、それなりに上級悪魔らしく見える。だが、中身が変わるわけではない。アーシアを攫い、精神を弄び、ネガエモルギアに酔い、最後には巨大な置き土産まで残した男だ。

 

 処理に手間がかかるタイプの犯罪者である。

 

「拘束術式、安定。逃走経路は塞いだ」

 

 風波駆無が淡々と言う。

 

 レオルドが端末を確認した。

 

「ディオドラ・アスタロト。ネガエモルギア所持、魔空空間違法生成、誘拐、精神干渉、宇宙警察捜査妨害。身柄は宇宙警察側で確保する」

 

 リアスが顔を上げた。

 

「悪魔社会への引き渡しは?」

 

「証拠保全後だ。アスタロト家がどう出るか分からねえ以上、こいつをそのまま渡すのは危険すぎる」

 

 そこでアザゼルが肩をすくめる。

 

「妥当だな。三大勢力側としても、今回の件は下手に揉み消されると困る」

 

「揉み消しなんざさせるかよ」

 

 レオルドの声が低くなる。

 

「こいつがやったことは記録も残ってる。魔空空間の痕跡、ネガエモルギア反応、誘拐時の空間転移ログ、全部こっちで押さえた」

 

 一誠は黙ってディオドラを睨んでいた。

 

 殴りたいのだろう。

 

 そりゃそうだ。

 

 俺だって、必要な手続きがなければ一発くらい入れていたかもしれない。だが、今それをやると話が面倒になる。

 

「こいつが宇宙警察に捕まるなら……ちゃんと裁かれるんだよな?」

 

 兵藤が言う。

 

 レオルドは短く頷いた。

 

「ああ。少なくとも、好き勝手に逃げられる場所じゃねえ」

 

「安心しろ」

 

 俺はディオドラを見下ろしたまま言った。

 

「こいつには報告書より面倒な手続きが待ってる」

 

「それ、怖いのか地味なのか分かんねぇな……」

 

「両方だろ」

 

 そういうのが一番効く。

 

 感情で殴られるより、手続きで縛られる方が、こういう手合いには堪えることもある。貴族だろうが何だろうが、逃げられない手順の中に押し込む。それもまた制圧の一種だ。

 

 アーシアは一誠とリアスに支えられていた。

 

 まだ顔色は悪いが、意識はしっかりしている。自分のせいだとまた言い出しそうな気配があったが、今は一誠が隣にいる。あれなら大丈夫だろう。少なくとも、俺が口を挟むよりはずっといい。

 

 そう思っていたら、アザゼルがこちらへ歩いてきた。

 

 嫌な予感がした。

 

 戦闘が終わった後、研究者の目をしたアザゼルが近づいてくる。これは大抵、厄介な質問の前触れだ。

 

「お前に聞きたい事があるんだが、良いか?」

 

 アザゼルが言った。

 

 俺は少しだけ首を向ける。

 

「なんだ?」

 

「以前から推測していたが……もしかして、お前は神器を持っているか?」

 

 場の空気が変わった。

 

 一誠が真っ先に反応する。

 

「神器!?」

 

 リアスも目を細めた。

 

「ギャバン・キングが……?」

 

 アーシアが戸惑うように俺を見る。

 

「えっと、あのギャバン・キングの神器、それって一体……」

 

 木場が考え込む。

 

「けれど、それを使った様子は……」

 

「神器なら、もう少し分かりやすい発動反応がありそうだが」

 

 ゼノヴィアが言う。

 

 俺は黙っていた。

 

 否定はしない。

 

 肯定もしない。

 

 だが、アザゼルはその沈黙を見て、少し笑った。

 

「何度か、他の姿へと変わるのが見えた。今回ならジライヤ。前の事件なら、ウィンスペクターやシャイダー、ソルブレイバーに近い反応もあった」

 

「え、あれって変身の種類じゃなかったのか?」

 

 一誠が驚いたように言う。

 

「変身ではある。だが、ただの装備換装じゃない。あれらを使用する際に、僅かに神器反応が見えた」

 

「あらあら。宇宙警察装備に神器ですか」

 

 朱乃が面白そうに微笑む。

 

 小猫がぽつりと言った。

 

「……混ざっていますね」

 

「混ざってるとか言うな」

 

 レオルドが露骨に嫌そうな声を出す。

 

「こっちも説明に困ってんだよ」

 

「俺の見立てだと」

 

 アザゼルは俺を見たまま続けた。

 

「あれは単に武装を呼んでいるわけじゃない。何らかの“駒”を媒介に、異なる英雄、異なる戦闘概念を上書きしている」

 

 場が静まる。

 

 アザゼルの目は、もう完全に研究者のものだった。

 

 好奇心と分析と警戒。

 

 その三つが混ざっている。

 

「王国の駒」

 

 その言葉が出た瞬間、リアスの表情が変わった。

 

「悪魔の駒の原型となった神器だな。まさか、こういう使い方があるとはな」

 

 沈黙。

 

 それから、一誠が遅れて声を上げた。

 

「悪魔の駒の原型……?」

 

 リアスも小さく息を呑む。

 

「それが神器として存在しているということですか」

 

 木場の声は落ち着いていたが、その目には明確な驚きがある。

 

「あくまで俺の推測だ」

 

 アザゼルはそう言った。

 

「だが、あの変化の仕方は普通じゃない。悪魔の駒が眷属を役割ごとに分類し、力を与えるものなら、王国の駒はもっと原初的な形で“役割そのもの”を扱っているのかもしれない」

 

「役割そのもの……」

 

 一誠が呟く。

 

「ギャバン・キングは、その駒を使って、自分自身に別の戦闘役割を投影している。そう考えれば、ジライヤや他の姿への変化にも説明がつく」

 

「つまり、あれは神器の応用なのか」

 

 ゼノヴィアが言う。

 

 アーシアはまだ不思議そうに俺を見ていた。

 

「でも、ギャバンさんは宇宙警察の方で……」

 

「宇宙警察案件と神器案件が混ざってるから、こっちも頭が痛いんだよ」

 

 レオルドが吐き捨てるように言う。

 

 まったくである。

 

 俺の人生は、どうも分類が下手だ。高校生で、宇宙刑事で、ギャバン・キングで、王国の駒の所有者。肩書きの渋滞どころではない。大事故だ。

 

 アザゼルがこちらを見つめる。

 

「どうだ? 外れているか?」

 

 少しだけ沈黙した。

 

 ここで完全に否定しても、アザゼルは納得しないだろう。戦闘を見られすぎている。反応も読まれている。下手な嘘をつく方が面倒だ。

 

 なら、最低限だけ認める。

 

 それ以上は話さない。

 

 俺は肩をすくめた。

 

「まぁ、当たりだな」

 

 ざわめきが広がった。

 

「当たりなのかよ!?」

 

 一誠が叫ぶ。

 

「本当に、王国の駒を……」

 

 リアスの声は小さかった。

 

「やっぱりか」

 

 アザゼルは笑う。

 

 俺は手を軽く振った。

 

「ただ、説明する気はねぇ。今はディオドラの後処理が先だろ」

 

「逃げる気だな」

 

 レオルドが言う。

 

「戦略的撤退だ」

 

「それを逃げるって言うんだよ」

 

「言葉の選び方だろ」

 

「違ぇよ」

 

 俺はギャバリオンドルネードへ視線を向けた。

 

 撤収準備はできている。ディオドラの身柄も転送可能。長居すればするほど質問が増える。質問が増えれば、答えないための労力も増える。

 

 つまり、帰るのが合理的だ。

 

「それじゃ、俺はこれでな」

 

「ちょ、待てよ!」

 

 一誠が一歩前へ出る。

 

「神器のこと、もう少し――」

 

「悪いな。質問タイムは有料だ」

 

「有料って何だよ!?」

 

 レオルドが端末を閉じながら言う。

 

「お前、後で報告書な」

 

「最悪だな、ほんと」

 

「逃げても送るからな」

 

「犬のくせに執念深い」

 

「犬じゃねえ」

 

 いつものやり取りを残して、俺は背を向けた。

 

 レオルド、風波駆無、ギャバリオンドルネード。宇宙警察側の撤収光が周囲に走る。ディオドラの拘束体も転送準備に入った。

 

 小猫だけが、少し離れた位置からこちらを見ていた。

 

 俺と目が合う。

 

 彼女は何も言わない。

 

 言わないまま、ほんの少しだけ頷いた。

 

 俺も、言葉にしない程度に返す。

 

 それで十分だった。

 

 転送光が視界を包む。

 

 残されたのは、静かな夜と、まだ消えきらない驚きだった。

 

 俺たちが去った後、アザゼルは夜空を見上げていた。

 

「ギャバン・キングが神器持ち……しかも、悪魔の駒の原型って……」

 

 一誠が呟く。

 

「王国の駒……そんな神器が実在しているなんて」

 

 リアスの声にも、まだ驚きが残っている。

 

「しかも、それを宇宙警察の力と組み合わせている」

 

 木場が言う。

 

「……規格外です」

 

 小猫の言葉は短い。

 

 アザゼルは小さく笑った。

 

「ギャバン・キング。王国の駒の所有者ではあるが、その正体は未だに謎」

 

 一拍置く。

 

「けれど、分かる事としては、あいつも地球出身という事だけか」

 

「地球出身……?」

 

 リアスが聞き返す。

 

「ああ。神器を持つなら、その可能性は高い。少なくとも、完全な宇宙人ってわけじゃなさそうだ」

 

「じゃあ、俺たちと同じ地球のどこかに……?」

 

 一誠が言う。

 

 アザゼルは少し楽しそうに笑った。

 

「いるんだろうな。普段は案外、普通の顔をして」

 

 その言葉に、小猫がわずかに目を伏せた。

 

 リアスはその反応に気づいたようだったが、何も言わなかった。今、追及する場面ではないと判断したのだろう。

 

 宇宙警察の転送光が、ディオドラの拘束体を完全に包み込む。

 

 光が消えた時、そこにディオドラの姿はもうなかった。

 

 夜空には、先ほどまで蒼機龍が飛んでいた軌跡が、まだ残っているように見えた。

 

「蒼機龍に、王国の駒。宇宙警察は本当に退屈させてくれねぇな」

 

 アザゼルが呟く。

 

「この件、三大勢力にも報告する必要があるわね」

 

 リアスが言う。

 

「だな。ただし、全部を報告するかは考えものだ」

 

「何でですか?」

 

 一誠が聞く。

 

「王国の駒なんてもんを持った地球出身の宇宙刑事。そんな情報を雑に流せば、欲しがる連中が出る」

 

 リアスの表情が引き締まる。

 

「守るべき情報、ということですね」

 

「ああ。少なくとも今はな」

 

 アザゼルは再び夜空を見上げた。

 

 黒い亀裂はもうない。

 

 魔空瘴気も消えた。

 

 ただ、蒼い光の残像だけが、誰かの記憶に残る。

 

「ギャバン・キング……お前は一体、どこまで見えてるんだ?」

 

 問いに答える者はいない。

 

 夜空は、また何も知らない顔で静かだった。

 

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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