サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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北欧旅行 Case8

ログから得た情報を元に俺達は既に次の目的地へと向かっていた。

ロスヴァイセの案内の元に俺達は、目的地に向かう為の案内をしてもらった。

 

「・・・それにしても、こうして見渡すと、さっきまでの観光地とは雰囲気が違うな」

 

呟きながらも、周囲の景色を見渡す。

 

先程までいた灯台から移動した場所への印象は、一言で言えば使われなくなった施設。

 

施設の周囲には黒い溶岩原の中にある低いコンクリート棟や使われなくなった観測アンテナ等が見えていた。

それに加えて、白い蒸気を吐き出す配管のような物も見える。

 

観光地というよりは、完全に関係者以外立ち入り禁止と言われる方がしっくり来る場所だった。

 

「こんな所に、そのエイリクというのはいるのか?」

 

「おそらくはですが」

 

「そのエイリクって言うのはどんな人なんですか?」

 

目的地へと向かいながらも、絶花は気になったのか、ロスヴァイセに問いかける。

 

ロスヴァイセは、それに対して少しだけ考えるようにゆっくりと口を開く。

 

「エイリク・グリムソンは、北欧圏の魔術師です。地脈や風、地熱の流れを術式に組み込む事に長けていた人物で、かつては北欧側でもそれなりに名の知られた者でした」

 

「へぇ、優秀な奴だったって事か」

 

「はい。ですが、近年は姿を消していました。オーディン様の方針に不満を持っていた、という話もあります」

 

「方針?」

 

「外部勢力との接触や協調です。三大勢力、そして……最近は宇宙警察という存在もありますから」

 

その言葉に、俺は一瞬だけ反応しそうになる。

 

だが、今ここで反応するのは不自然だ。

 

俺は何でもない顔で、施設の方へ視線を向けた。

 

「偉い連中が外と手を組むのが気に入らなかったって訳か。よくある話だな」

 

「よくあっては困るのですが」

 

「困るから事件になるんだろ」

 

ロスヴァイセは、それに対して否定しなかった。

 

絶花は少しだけ施設を見つめている。

 

「ここ、怖い」

 

「観光地じゃないからな」

 

「さっきの灯台より、ずっと静か」

 

「ああ。人の声がない場所ってのは、それだけで気味が悪くなる」

 

実際、ここには観光客の姿はない。

さっきまでの灯台や海岸では、風の音に混じって人の声があった。

 

だが、ここにあるのは風の音、配管から漏れる蒸気の音、遠くで何かの金属が軋む音だけだった。

 

『太郎、注意しろ』

 

耳元でレオルドの声が響く。

 

『施設内にネガエモルギア反応が薄く広がってる。濃度はそこまでじゃねえが、長くいると気分が荒れるぞ』

 

「空気の悪い職場みたいなもんか」

 

「何か言いましたか?」

 

ロスヴァイセがこちらを見る。

 

「いや、独り言だ」

 

「あなたの独り言は、時々妙に具体的ですね」

 

「観光客は独り言くらい言うだろ」

 

「最近の観光客は便利な言い訳ですね」

 

絶花が、小さく俺を見る。

 

「太郎、誤魔化し下手」

 

「お前は今日も俺に厳しいな」

 

そんな会話をしながら、俺達は施設の入口へと辿り着く。

 

入口の扉は古びていたが、完全に壊れている訳ではない。

ただ、長い間まともに使われていないのか、取っ手には細かい砂と塩のようなものがこびりついていた。

 

ロスヴァイセが扉の前で立ち止まり、淡青のルーンを展開する。

 

「施錠されていますが、物理的な鍵ではありません。簡易的な結界が重ねられています」

 

「観測施設にしては、ずいぶん魔術的だな」

 

「エイリクが関わっているなら、不自然ではありません」

 

ロスヴァイセの指先がルーンをなぞる。

 

淡青の光が扉に触れた瞬間、黒い筋のようなものが扉の表面に浮かび上がる。

それは少しだけ蠢いた後、ロスヴァイセの術式に押し負けるように消えた。

 

重い音を立てて、扉が開く。

 

中は薄暗かった。

 

古い制御盤。

埃を被った机。

壁に並ぶ観測モニター。

そして、床を這うように伸びる古いケーブル。

 

奥の方には、地下へ続く階段も見えている。

 

「ここ、入るの?」

 

絶花が少しだけ声を低くする。

 

「入らないと話が進まねぇだろ」

 

「太郎は、そういう時すぐ入る」

 

「無駄に待ってても何も出てこねぇからな」

 

「出てきそう」

 

「言うな。そういうのは大体当たる」

 

ロスヴァイセがこちらを見る。

 

「不用意な行動はしないでください。ここは既に敵の術式の内側です」

 

「分かってる。勝手に触らない、勝手に進まない、勝手に壊さない」

 

「最後が不穏です」

 

「壊す必要がある時は言う」

 

「言われても困ります」

 

俺達は施設の中へと足を踏み入れた。

 

内部の空気は、外よりも少し重かった。

 

地熱の蒸気と金属の匂いが混ざっている。

それに加えて、胸の奥をざらつかせるような嫌な気配があった。

 

ネガエモルギアの薄い膜。

 

人の感情を汚すには十分ではないが、不安や苛立ちを少しだけ強くするには十分な濃さだ。

 

「……ちょっと、嫌な感じ」

 

絶花が袖を掴む。

 

「深呼吸はするな。嫌な空気を律儀に吸う必要はねぇ」

 

「分かった」

 

ロスヴァイセは施設内を見渡しながら、探査術を展開する。

 

「反応は地下へ続いています。ですが、まずは制御室を確認しましょう。エイリクがこの施設を使っていたなら、何らかの記録が残っているはずです」

 

「律儀な犯罪者ならな」

 

「エイリクは、記録を残す人物でした。自分の術式への執着が強かったので」

 

「なるほど。自分の凄さを残したいタイプか」

 

「そこまで単純ではありませんが……否定もしきれません」

 

ロスヴァイセの案内で、俺達は制御室へ向かう。

 

廊下の壁には、古い地熱井の観測図らしきものが貼られていた。

配管の系統図。

地脈の流れ。

温度変化の記録。

 

その中に、手書きでルーンのような印が書き加えられている物もあった。

 

「地熱の観測データに魔術式を書き足してるのか」

 

「……やはり、エイリクの手法です」

 

ロスヴァイセの表情が険しくなる。

 

「自然現象を術式に組み込む。彼はそういう形を好んでいました。地熱、風、地脈、波。全てを一つの流れとして扱う」

 

「土地そのものを道具にする魔術師か。面倒だな」

 

「はい。とても」

 

制御室へ入ると、奥に古い端末が残っていた。

 

電源は落ちているように見える。

だが、ロスヴァイセが近づくと、端末の画面が黒く揺れた。

 

まるで、待っていたかのように。

 

「動くのか?」

 

「いえ、通常の電源ではありません。魔術式で記録を保存しているようです」

 

ロスヴァイセが慎重に術式を展開する。

 

『太郎、気をつけろ。端末の裏に黒い反応がある。ログに触れたら何か起きるぞ』

 

レオルドの声がする。

 

「まあ、罠だろうな」

 

「また分かったような事を」

 

ロスヴァイセが俺を見た。

 

「勘だ」

 

「その勘は、もう信用していいのか分からなくなってきました」

 

「信用しなくていい。警戒だけしてろ」

 

「それはします」

 

ロスヴァイセが端末へルーンを重ねる。

 

黒い画面に、文字が浮かび上がった。

 

古い記録。

断片的な文章。

北欧式の文字と、魔術式の図。

 

ロスヴァイセがそれを読み取っていく。

 

「……北欧の地脈は、外の者に踏み荒らされるべきではない。大神は外へ媚び、古き秩序を手放そうとしている」

 

「拗らせてんな」

 

「続きます。人間社会の感情は、神々の争いの導火線となる。ならば、その導火線をこちらが制御すればいい」

 

「随分と物騒な考え方だな」

 

「ですが……」

 

ロスヴァイセの声が少し止まる。

 

「この先の記述だけ、文体が違います」

 

「文体?」

 

「はい。ネガエモルギアに関する記述です。エイリクの術式理論に似せてはいますが、根本が違います」

 

『つまり、誰かが後から混ぜたか、教えたってことだ』

 

レオルドが低く言う。

 

「利用された魔術師って線が濃くなったな」

 

「その可能性はあります」

 

ロスヴァイセは画面を睨む。

 

「彼の思想は危険です。ですが、ネガエモルギアを扱う技術は、彼だけでここまで組み上げられるものではありません」

 

「背中を押した奴がいるって事か」

 

「はい」

 

その瞬間、端末の文字が黒く滲んだ。

 

制御室の扉が、重い音を立てて閉まる。

 

絶花が振り向く。

 

「閉じた」

 

「分かりやすい罠だな」

 

「感心している場合ではありません!」

 

ロスヴァイセがすぐに封印術を展開する。

 

部屋の壁に黒いルーンが浮かび上がる。

それはまるで血管のように壁を走り、床のケーブルへ繋がっていく。

 

空気が重くなる。

 

胸の奥に、ざらつく感情が入り込んでくる。

 

苛立ち。

不安。

焦り。

 

それらを無理やり押し込まれるような感覚。

 

「絶花、壁際から離れろ。ケーブルも踏むな」

 

「うん」

 

「ロスヴァイセ、扉を開けるより先に流れを止めろ。この部屋全体が中継器になってる」

 

ロスヴァイセがこちらを見る。

 

「なぜ、そこまで」

 

「見りゃ分かる」

 

「普通は分かりません!」

 

「今は突っ込むな。手が遅れる」

 

ロスヴァイセは唇を噛み、すぐに術式を組み替えた。

 

「ルーン遮断、展開。室内の感情波を分断します!」

 

淡青の光が床を走る。

 

黒いルーンと淡青のルーンが、制御室の中でぶつかる。

空気が震え、古いモニターが明滅する。

 

『太郎、地下だ。地熱井の点検通路に、別の空間がある。ここは入口を隠すための罠だ』

 

「本命は下か」

 

「地下……?」

 

ロスヴァイセが反応する。

 

「地熱井の点検通路か?」

 

「はい。ですが、この施設の構造図では地下区画は既に閉鎖されているはずです」

 

「閉鎖された場所ほど、犯罪者は好きだろ」

 

「嫌な説得力がありますね」

 

黒い感情波が、さらに強くなる。

 

絶花が少しだけ顔をしかめる。

 

「太郎、頭がざわざわする」

 

「俺の声だけ聞け。嫌な考えが来ても相手にするな」

 

「うん」

 

俺は周囲を見渡す。

 

閉まった扉。

制御盤。

床のケーブル。

壁のルーン。

古い観測アンテナへ繋がっているらしい回線。

 

この部屋は罠だ。

だが、同時に通路でもある。

 

罠は相手を閉じ込めるだけではない。

相手の行動を誘導する為にもある。

 

「ロスヴァイセ、あの制御盤の右側。黒い線が細い」

 

「右側?」

 

「あそこだけ流れが薄い。多分、地下へ繋がる回路を切られたくないんだろ」

 

ロスヴァイセが探査術を向ける。

 

「……確かに。そこだけ干渉が弱い」

 

「なら、そこを突け」

 

「あなたの指示を聞くのが自然になってきている自分が怖いです」

 

「後で反省しろ。今は使え」

 

「……分かりました!」

 

ロスヴァイセが淡青のルーンを一点に集中させる。

 

黒い線が弾ける。

 

同時に、閉じていた扉のロックが一瞬緩む。

 

俺は近くの椅子を掴み、扉の隙間へ滑り込ませる。

完全に閉まる前に、物理的に止めた。

 

「椅子が挟まっただけだ」

 

「誰に言っているのですか!」

 

「言い訳の練習だ」

 

「練習しなくていいです!」

 

ロスヴァイセが術式で扉のロックを押し返す。

 

淡青の光が走り、制御室の扉が開いた。

 

黒い感情波が一気に外へ逃げようとするが、ロスヴァイセがすぐに封印の壁を張る。

 

「封鎖します!」

 

光が広がり、黒い波は制御室の中で薄れていく。

 

完全に消えた訳ではない。

だが、俺達が動ける程度には収まった。

 

絶花が小さく息を吐く。

 

「出られる?」

 

「ああ。とりあえずはな」

 

『地下の反応、かなり濃いぞ。観光客ごっこはそろそろ限界かもしれねえ』

 

レオルドの声が、少しだけ重い。

 

「限界ってのは、越える直前まで限界じゃねぇんだよ」

 

「それは無茶をする人の理屈です」

 

ロスヴァイセが呆れたように言う。

 

「よく言われる」

 

「でしょうね」

 

制御室を出た俺達は、地下へ続く階段の前に立つ。

 

階段の奥からは、黒い感情の鼓動のような音が響いていた。

 

どくん、どくん、と。

 

まるで、地下に大きな心臓でもあるみたいに。

 

ロスヴァイセは、その階段を見つめながら表情を引き締める。

 

「ここから先は、危険です。あなた方を連れて行けません」

 

「さっきも似たようなこと言ってたな」

 

「今回は本気です」

 

「俺も本気で言うが、今さら引く気はねぇよ」

 

「あなたは……」

 

絶花が俺の横で、小さく呟く。

 

「太郎は、こういう時、行く」

 

「勝手に解説するな」

 

「事実」

 

「便利に事実を使うな」

 

ロスヴァイセは、困ったように俺を見る。

 

「本当に、あなたは一体何者なのですか」

 

俺は階段の奥を見る。

 

黒い鼓動は、まだ続いている。

 

「さぁな」

 

「また、それですか」

 

「答えると面倒になる」

 

「今も十分面倒です」

 

「じゃあ、これ以上増やす必要はねぇだろ」

 

ロスヴァイセは言葉を返さなかった。

 

その代わりに、階段の奥へ視線を向ける。

 

地下から、黒い感情の気配が上がってくる。

 

エイリク・グリムソン。

消えた北欧魔術師。

そして、その背後でネガエモルギアを与えた何者か。

 

観光地巡りは、もう完全に終わっていた。

 

「行くぞ」

 

俺が言うと、ロスヴァイセが少しだけ目を細める。

 

「あなたが先導するのですか?」

 

「嫌ならあんたが前でいい」

 

「……いえ。今回は、あなたの判断を見ます」

 

「信用したのか?」

 

「監視です」

 

「便利な言葉だな」

 

そう言って、俺達は地下へ向かう階段を見下ろした。

 

黒い鼓動が、一つ大きく鳴った。

 

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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