サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

773 / 775
キング case2

俺と絶花は、薄暗い廊下を抜け、巨大な扉の前に立っていた。基地の最深部。禍の団の中心。そこから漏れ出る魔力の圧力は、これまで戦ってきたどんな敵よりも濃密で、そして悍ましいものだった。

 

「ここか」

 

「ええ」

 

絶花が二刀の柄を握り直す。白い仮面の下で、彼女もまた、この先にいる敵の異様さを感じ取っているはずだ。

 

俺はギャバリオン・トリガーを構え、扉を蹴り開けた。

 

そこは、玉座の間だった。

 

広大な空間の中央に、まるで王が座るかのような椅子が据えられている。その背には漆黒の翼が飾られ、周囲には魔力の結晶が無数に浮かんでいた。そして、その玉座に――リゼヴィム・リヴァン・ルシファーは、だらしなく凭れかかっていた。

 

「いやあ、よく来たねぇ!」

 

リゼヴィムは、まるで旧友を迎えるかのように両手を広げた。その顔には、あの時と変わらぬ悪戯好きの子供のような笑みが貼り付いている。

 

「待ちくたびれたよ、キング君。それに、そっちの仮面の子も。いやあ、実に面白い。君たちの絶望は退屈しない」

 

「巫山戯た態度だな」

 

俺はトリガーを構えながら、一歩前に出た。

 

「ここがお前の終着点だ、リゼヴィム」

 

「おやおや、怖いなあ」

 

リゼヴィムは玉座から立ち上がり、ゆっくりと俺たちの方へ歩み寄ってくる。その一歩ごとに、空間が歪み、魔力が脈打つ。

 

「でもね、キング君。おじいちゃんとしては、もう少し遊んでほしいんだよ。せっかく君たちが来てくれたんだ。楽しまなきゃ損だろ?」

 

「遊びでやってるわけじゃねえんだよ」

 

俺の隣で、絶花が二刀を抜き放った。静かな刃音が、玉座の間に響く。

 

「私たちは、あなたを止めるために来ました」

 

「正義? 愛? そういう綺麗な言葉ほど、壊すといい音がするんだよねぇ」

 

リゼヴィムが手を掲げる。瞬間、玉座の間全体が黒い魔力に包まれ、無数の魔法陣が床に浮かび上がった。アザ・ゾルスの力だ。

 

「さあ、始めようか。私のユートピアのための、最後の障害を取り除く宴をね」

 

俺はギャバリオン・トリガーを構え、絶花と背中合わせに立った。

 

「絶花、無理はするなと言ったが――」

 

「大丈夫です。私は、太郎と一緒に戦うと決めましたから」

 

「なら、行くぞ」

 

俺はトリガーの引き金に指をかけ、リゼヴィムを見据えた。

 

「これで終わりだ、リゼヴィム。お前の悪戯も、ここまでだ」

 

俺はギャバリオン・トリガーを手に、キズナエモルギアを装填した。いつも通りの動作だ。仲間たちとの絆を力に変え、ギャバン・キングへと蒸着するための儀式。これまで何度も繰り返してきた、俺にとっては呼吸と同じくらい自然な手順だった。

 

「蒸着!」

 

引き金を引いた。

 

しかし、何も起こらない。

 

「なに……?」

 

俺は手元のトリガーを見つめた。エモルギアは確かに装填されている。キズナの輝きも失われてはいない。なのに、蒸着が発動しない。ギャバン・キングの装甲が、俺の身体を覆うことはなかった。

 

「あれぇ? もしかして、蒸着できないのかい?」

 

リゼヴィムが、まるで面白い玩具を見つけた子供のように目を輝かせた。

 

「残念だなぁ、キング君。この部屋はね、私の神器無効化の力が最大限に発揮されるように調整してあるんだよ」

 

神器無効化。セイクリッド・ギア・キャンセラー。あの時もそうだった。王国の駒を無効化され、投影を封じられた。だが、今度はそれだけじゃない。ギャバリオン・トリガーそのものの機能が、完全に封じられている。

 

「くそっ……!」

 

俺はとっさに後退し、絶花の前に立った。

 

「太郎!」

 

「下がってろ、絶花!」

 

だが、リゼヴィムの動きは速かった。いや、速いのではない。空間そのものが歪み、距離という概念が無視されているのだ。次の瞬間には、リゼヴィムの手が俺の胸元に迫っていた。

 

「まずは一発、もらっておくれ」

 

黒い魔力を纏った掌底が、俺の胸に叩き込まれた。

 

「がっ……!」

 

衝撃が全身を貫き、俺の身体は後方の壁へと叩きつけられた。背中から崩れた石壁に埋もれながら、俺は必死に意識を繋ぎ止める。蒸着できない今の俺は、ただの生身の人間だ。ギャバン・キングの装甲がなければ、リゼヴィムの一撃にすら耐えられない。

 

「おやおや、随分と脆くなっちゃって」

 

リゼヴィムがゆっくりと歩み寄ってくる。その顔には、心からの愉悦が浮かんでいた。

 

「さあ、もっと怒りなよ。その方が楽しい」

 

「太郎!」

 

絶花が二刀を抜き、リゼヴィムとの間に割って入った。白い仮面の下で、彼女の瞳が怒りに燃えている。

 

「おや、仮面の子がお相手かい? いいねえ、そういう自己犠牲も」

 

俺は瓦礫の中で歯を食いしばった。蒸着できない。投影も封じられている。だが、それで諦めるわけにはいかない。絶花を一人で戦わせるわけにはいかないのだ。

 

「考えろ……何か手は……」

 

俺はギャバリオン・トリガーを握りしめながら、必死に思考を巡らせた。神器無効化の及ばない力。リゼヴィムの想定外を突く方法。まだ、何かあるはずだ。

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。