サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
俺は瓦礫から這い出し、絶花の隣に立った。胸の痛みはまだ引かない。肋骨が何本かイカれたかもしれない。だが、立っていられないほどのダメージじゃない。まだ戦える。
「絶花、大丈夫か」
「大丈夫だけどっ」
絶花が右手を見つめている。そこには、天聖の刀身が現れていなかった。
「天聖が……出せないっ」
俺は歯噛みした。そういうことか。リゼヴィムの神器無効化は、この部屋全体を覆っている。俺の蒸着だけじゃない。絶花の天聖も、神器の一種として封じられているのだ。
「おやおや、お嬢さんの武器も出てこないみたいだねぇ」
リゼヴィムがわざとらしく首を傾げる。その顔には、これ以上ないほどの愉悦が浮かんでいた。
「せっかくの二刀流が台無しだ。でもまあ、おじいちゃんとしては、君たちが苦しむ顔を見られるなら、それだけで十分楽しいんだけどね」
「くそっ……」
俺はギャバリオン・トリガーを握りしめる。蒸着はできない。投影も封じられている。絶花の天聖も使えない。ならば、残された手段はただ一つ。この生身の身体と、手にした武器だけで戦うしかない。
「絶花、天聖がなくても戦えるか」
「もちろん」
「だったら」
その言葉と共に、俺は瞬時にギャバリオン・ブレードを取り出して、絶花に投げ渡す。
「宮本武蔵の子孫として、刀一本あれば十分です」
「いい心がけだ。なら、俺もやるしかねえな」
俺はギャバリオン・トリガーを構え直す。蒸着はできなくても、これは武器として使える。光弾は封じられているかもしれないが、打撃武器としては十分だ。
リゼヴィムが笑いながら両手を広げた。
「さあ、もっと足掻いて見せてよ。その方が壊し甲斐がある」
「言ってろ」
俺は絶花と視線を交わした。言葉はいらない。何年も一緒に過ごしてきた幼馴染だ。互いの考えていることくらい、目を見れば分かる。俺が右から、絶花が左から。挟撃する。タイミングは俺が作る。絶花がそれに合わせる。
「行くぜ!」
俺は床を蹴り、右方向からリゼヴィムへと突っ込んだ。ギャバリオン・トリガーを振り上げ、その側頭部を狙って打ち下ろす。
「おっと」
リゼヴィムが軽く身を捻り、俺の一撃をかわす。だが、それでいい。俺の役目は囮だ。
「はあっ!」
絶花が左から斬り込んだ。鋭い踏み込み。無駄のない太刀筋。天聖がなくとも、彼女の剣は本物だ。刀身がリゼヴィムの左腕を浅く斬り裂いた。
「おや」
リゼヴィムが一瞬だけ眉を上げる。その隙を逃さず、俺はさらに踏み込んだ。今度は足を狙い、トリガーのグリップで膝を打つ。
「効かないねぇ」
リゼヴィムが黒い魔力を爆発させた。衝撃波が俺と絶花を同時に吹き飛ばす。俺は床を転がりながら、なんとか体勢を立て直した。絶花もまた、壁を蹴って衝撃を逃れ、着地する。
「大丈夫か、絶花」
「ええ。でも、このままじゃ……」
分かっている。俺たちの攻撃はかすり傷程度にしかならない。それに対して、リゼヴィムの一撃はこちらの戦闘力を確実に削っていく。ジリ貧だ。
「それで終わりかい? まだまだ遊び足りないよ」
リゼヴィムがゆっくりと歩み寄る。その背後で、黒い魔力が無数の槍の形を取り始めた。次は本気で潰しにくるつもりだ。
俺は絶花の前に立ち、ギャバリオン・トリガーを構え直した。
「絶花、まだ立てるか」
「もちろん、太郎こそ、無理しないで!!」
「無理はお前の専売特許だろ」
俺は口元を歪め、リゼヴィムを見据える。
「さて、どうしたもんかな」
蒸着はできない。天聖も使えない。だが、まだ諦めるわけにはいかない。俺たちには、まだ守るべきものがある。そして、この窮地を切り抜ける方法も、必ずあるはずだ。
俺はギャバリオン・トリガーを連射する。光弾がリゼヴィムの周囲を埋め尽くし、絶花がその隙に斬り込む。刃が空気を裂き、リゼヴィムの防御をかいくぐって肉薄する。俺たちは、互いに言葉を交わさなくても呼吸を合わせられる。長年の幼馴染として培ってきた、阿吽の呼吸だ。
だが、それでも届かない。
「いいねえ、その連携。息が合ってるじゃないか」
リゼヴィムは笑いながら、右手で俺の射撃を弾き、左手で絶花の斬撃を受け流す。まるで子供の遊びに付き合う大人のような余裕だった。
「でもね、それだけじゃ私には届かないんだなぁ」
黒い魔力が膨れ上がり、俺と絶花を同時に弾き飛ばす。俺は床を転がりながら、すぐに体勢を立て直した。絶花もまた、壁を蹴って衝撃を逃れている。
「太郎、このままじゃ……!」
「分かってる」
俺は歯を食いしばった。攻撃は当たっているはずなのに、まるで効いていない。いや、効いていないんじゃない。リゼヴィムはこちらの攻撃をすべて見切った上で、最小限の動きで対処しているのだ。こいつ、俺たち二人を同時に相手にしながら、まだ本気を出していない。
「どうしたどうした! さっきまでの勢いはどこに行ったんだい? おじいちゃん、ちょっと退屈してきちゃったよ」
リゼヴィムが両手を広げ、大仰な仕草で俺たちを挑発する。その背後で、黒い魔力が無数の槍を形成し始めた。今度は数を増やして、俺たちの退路を完全に塞ぐつもりらしい。
「絶花、下がるなよ」
「下がらないよ!太郎こそ」
俺たちは背中合わせに立ち、互いの死角を補い合う。蒸着はできない。投影も封じられている。絶花の天聖も使えない。だが、まだ手はある。リゼヴィムの神器無効化は、神器そのものと神器由来の力にしか効果がない。ならば、神器ではない力で攻めるしかない。
「考えろ……何かあるはずだ……」
俺はギャバリオン・トリガーを握りしめながら、必死に思考を巡らせた。リゼヴィムの能力、この部屋の特性、そして俺たちに残された手段。それらを組み合わせて、突破口を見つけ出す。
「ねえ、キング君。そんなに考え込んじゃって、楽しいかい?」
リゼヴィムが、まるで俺の思考を見透かしたかのように笑った。
「考えれば考えるほど、絶望は深まるだけだよ。君たちに残された道は、私に屈服するか、それとも――」
「うるせえ」
俺は短く言い放ち、ギャバリオン・トリガーを構え直した。
「俺はまだ諦めてねえ。絶花も、俺の仲間たちも、まだ戦ってる。なら、俺が諦める理由は一つもねえ」
「太郎……!」
絶花の声に、わずかな熱が宿る。俺は彼女の背中に言った。
「絶花、お前は俺の相棒だ。なら、信じろ。俺たちにはまだ、打つ手がある」
俺は、リゼヴィムの神器無効化の範囲外から攻撃する方法を考え始める。必ずあるはずだ。この悪魔の想定外を突く方法が。
次回の王は
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