サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
ゼロとの出会い Part1
「それは、俺とゼロが出会う少し前の出来事だ」
俺――唯我太郎は、語ろう。
あの口の堅い光の戦士が、決して自分からは語ろうとしない、遥か彼方の宇宙での一幕を。
いまや俺の魂に寄り添う相棒であり、最強の戦士とも言える存在、ウルトラマンゼロ。
彼がなぜ、あんなに傷だらけの状態で俺の世界に流れ着いたのか。
その理由こそが、眼前に広がるこの冷酷な宇宙劇の真実なのだ。
デブリの雨。
小惑星帯の無数の岩塊が、すれ違っては砕け散る、殺伐とした空間。
そこへ、一つの銀色の流星が突き刺さった。
いや、流星じゃない。あれは、背中から小惑星へと激突した巨人の姿だ。
「ぐっ……!」
苦悶の声が、真空の宇宙に響くはずもない。だが、俺には聞こえた。
一体化したことで共有した感覚、あるいは魂の共鳴とでも言うべきか。
ゼロの背中が、小惑星の岩盤をえぐりながらスライドする感触が、ドスン、ドスンと内臓を揺らす重い衝撃となって伝わってくるのだ。
(いてぇな、おい……! これ、俺だったら即死だろ……!)
零れ落ちる星々の光を背に、ウルトラマンゼロは膝をつく。
ボロボロだ。
青と赤の筋肉繊維とも言えるボディには、無数の亀裂が走り、そこから白い蒸気のようなエネルギーが漏れ出している。
まるで、オーバーヒート寸前のエンジンだ。
カラータイマーは、赤く点滅を始めている。
それでも、ゼロは顔を上げた。
鋭い眼光の先にいるのは、彼をここまで追い詰めた“敵”だ。
「へっ、まさか、アブソリューティアンがこんな奴まで用意しているとはな」
ゼロは口元の血――あるいはエネルギーの漏出を拭うように拳を握りしめ、ふらつく足で真っ直ぐと構える。
その姿は、まさに負けず嫌いの塊。
(いや、お前、休めよ。王たるもの、無駄な怪我は避けるもんだろ?)
などと、俺は後からツッコミを入れるわけだが、この男に休むという選択肢はないらしい。
そして、その視線の先に浮かび上がったのは――黄金の亡霊だった。
ギラリ。
宇宙の闇を切り裂くような、圧倒的な黄金の輝き。
黒と金のコントラスト。
鋭角なアーマーが、王者の威圧感を撒き散らしながら、虚空に立ち尽くしている。
細身でありながら、まとわりつくような質量感。
ただそこにいるだけで、周囲のデブリが引力に引かれるように軌道を歪めていく。
「…………」
無言の威圧。
黄金の巨人は、ゼロを見下ろすように腕組みをしている。
その眼には、冷徹な光と、どこか哀れむような色が混じっていた。
「……似てるな」
ゼロが低く呟く。
(似てる? 誰にだ?)
俺の疑問には答えず、ゼロはゼロスラッガーに手を伸ばす。
まだ、やる気か。
この絶望的なパワーバランス。
だが、ゼロの背中は、決して折れない。
「答えろ! お前は誰だ! ただのアブソリューティアンの兵士ってわけじゃなさそうだぜ!」
ゼロの怒号が響く。
黄金の巨人が、ゆっくりと腕を解く。
その動作ひとつひとつに、全身の毛が逆立つような“質量”を感じる。
例えるなら、暴走した機関車が目前で急制御をかけたような、あるいは大海原が渦を巻き始めたような、物理法則をねじ曲げる異質な重圧。
「……俺は、すべての争いを終わらせる者だ」
黄金の巨人が口を開いた。
低く、重い声。ゼロの言葉と似ているようで、どこか昏い響きを持つ声だ。
「終わらせる? ふざけるな! お前らがやってるのは侵略だろうが!」
「違うな。管理だ。自由に振る舞えば、必ず争いが生まれる。弱い奴が踏みつけられる世界を、俺は許さない」
「勝手なこと抜かしやがって! 俺の仲間や、守るべき人々を傷つけておいて、何が管理だ!」
ゼロが地を蹴る。
小惑星の岩盤が、彼の踏み出した力だけで粉々に砕け散った。
だが、それは逆説的にゼロの焦りを表している。
真正面からぶつからなければ、この黄金の壁は越せないと本能が告げているのだ。
ゼロスラッガーを構え、回転しながら突撃するゼロ。
必殺のゼロスラッガーアタック!
だが。
カキンッ!
乾いた音がした。
黄金の巨人は、迫り来るスラッガーを、指先一つで弾き飛ばしたのだ。
まるで、ゆっくり飛んでくるボールを払いのけるように。
(嘘だろ……!? ゼロスラッガーをあんな軽く……!)
「遅い」
影が消えた。
物理的にあり得ない加速。黄金の巨人が、一瞬でゼロの背後に回る。
ゼロの視界から消えたのではない。
単純に、認識速度を凌駕したのだ。
ドガァァァァン!
背中からの強打。
まるで小型の惑星が直撃したような衝撃が、ゼロのカラータイマーを激しく点滅させる。
「がはっ……!」
吹き飛ばされるゼロ。
だが、黄金の巨人は許さない。
さらに追撃。ゼロの首根っこを掴み上げると、無造作に小惑星へと叩きつける。
ズシンッ!
「ぐ、あ……っ!」
「無駄だ。お前の力では、俺を止められない」
黄金の巨人が、無感情に告げる。
その表情には、怨嗟の色はない。
ただ、圧倒的な事実として、ゼロの無力さを突きつけているだけだ。
「くそっ……!」
ゼロは血反吐を吐きながらも、睨みつける。
その瞳には、未だ炎が残っている。
(こいつ、本当に諦めないな……)
呆れると同時に、胸の奥が熱くなるのを感じる。
これだ。このだから、俺はこいつを放っておけなかったのかもしれない。
「なあ……」
黄金の巨人が、少しだけ声のトーンを落とす。
まるで、親友に語りかけるような、あるいは過去の自分に言い聞かせるような響き。
「お前には仲間がいた。師匠がいた。親父がいた。だから、そうやって立っていられるんだろう?」
「……何が言いてぇんだ」
「何もなかったら、お前はどうだった? 孤独の闇の中で、それでも光を信じられたか?」
その言葉に、ゼロの動きがピタリと止まる。
黄金の巨人の拳が、ゼロの顔の前で止まる。
だが、それは慈悲ではない。
とどめを刺す前の、宣告のようだった。
「俺は信じなかった。だから、すべてを終わらせる。お前の自由も、希望も、ここでだ」
黄金の光が、巨人の拳に収束していく。
アブソリューティアンの力。万物を灼く黄金のエネルギー。
絶体絶命。
カウントダウンは、ゼロの命の灯火と同じだ。
だが、ゼロは笑った。
「へっ……上等だ」
「……何がおかしい」
「お前のその目、やっぱり見た事があるな」
「黙れ!」
激昂した黄金の巨人の拳が振り下ろされる。
「互いの必殺の一撃が激突する」
そう聞けば、勇ましいものだと想像するだろう。
だが、現実はもっと残酷で、もっと無様だ。
小林泰三的な表現を借りるなら、それは「物理法則が嘔吐している」光景だった。
ゼロが腕をクロスさせる。
L字型に組んだ両腕から、青白い破壊光線が撃ち放たれる。
熱線というよりは、空間を削り取って進む高エネルギーの奔流。
肌が焼けるような焦燥感が、俺の精神まで焦がす。
対する黄金の巨人も、また。
全く同じに見える動作で、腕をクロスした。
同じ角度。同じフォーム。
まるで鏡に映った自分を見ているような、あるいは教則の手本と見比べているような、おぞましい既視感。
そこから放たれるのは、万物を灼き尽くす黄金の閃光。
ドォォォォォン!!
二つの光が、宇宙の真ん中で食い合う。
青と金。
混ざり合うことのない二色が、互いの存在を食い破らんと境界線を荒らしまわる。
空間が軋む。
目に見えない重力波がデブリを粉砕し、光の粒子となって散らばっていく。
その境界線は、まるで傷口だ。
宇宙という巨大な身体に刻まれた、ふさがることのない潰瘍のように、そこだけ時間がねじ曲がっている。
「ぐっ、ぐぅぅぅ……!」
ゼロの呻きが、脳内に響く。
押されている。
いや、押し返されているのではない。
両者の光が干渉し合い、臨界点を超えたのだ。
カッ!!
視界が白く染まる。
爆発?
いや、次元そのものが内側から裏返ったような衝撃。
真空の宇宙で、鼓膜が破れるほどの轟音が脳髄を直接震らす。
肉体が引き裂かれるようなGが、ゼロの身体を、そして俺の意識を容赦なくハサミにかける。
吹き飛ぶ。
制御不能。
まるでストローに吸い込まれる水滴のように、ゼロの身体は無慈悲な暴風に弄ばれた。
そして、爆発の余波の中に、さらなる異常が生じる。
ゼロの後ろ。
虚空に、亀裂が走った。
亀裂という言葉はあまりに生易しい。
それは、空間そのものが「解雇」されたかのような、黒いノイズーの壁だ。
次元の裂け目。
世界と世界の境界が、物理学の許容量を超えて引き千切られた傷口だ。
強烈な吸引力。
ブラックホールなどという生易しいものではない。
まるで巨大な肺が、ゼロという異物を「排出」しようとしているかのような、猛烈な吸い込みだ。
「うおぉぉぉぉっ!」
ゼロは必死に耐えようとする。
だが、足場などない。
引力に逆らうアンカーもない。
ボロボロの身体は、糸の切れた凧のように黑洞へと引きずり込まれていく。
その時だ。
黄金の巨人もまた、爆発の衝撃で制御を失っていた。
同じように次元の裂け目へと引き寄せられていく。
だが、その眼は、まだゼロを見ている。
哀しみと、憎悪と、それでいてどこか懐かしむような、歪んだ感情を宿して。
ゼロは、その瞳を見た。
同じ構え。
同じ光線。
そして、言葉にできないほどに「似ている」そのソウル。
ゼロの中で、確信が音を立てて組み上がったのだ。
「やっぱり強ぇ、けど、負けるかよ。アブソリューティアンになった俺なんかによぉ!!」
叫んだ。
次元の穴へと吸い込まれながら、皮肉にも「真実」に辿り着いたゼロは、もう一人の自分に向かって怒号を放つ。
それは否定だった。
光を信じ、仲間を信じ、孤独を乗り越えた自分だからこそ、孤独に呑まれて力に溺れた自分への、最大限の拒絶。
「俺は、お前にはなれない! 俺は、俺だ! ウルトラマンゼロだぁぁぁ!!」
その叫びと共に、ゼロは漆黒の淵へと消えていく。
黄金の巨人もまた、同じ淵へと飲み込まれていった。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王