サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
「良かろう! ならば、俺が行く!」
俺は叫んだ。
同時に、目の前に浮かんでいた十字型のアイテム――ウルトライズアイを、強く握りしめる。
掌に食い込む硬質な感触。
だが、それは冷たい金属の冷たさじゃない。
脈打つ、熱のような温かみだ。
まるで、ゼロの心臓そのものを掴んだかのような錯覚。
「ッ!!」
叫びと共に、ウルトライズアイを天にかざす。
その瞬間、世界が裏返った。
光。
圧倒的な光の奔流。
網膜を焼き尽くすような眩暈の中で、俺の身体は「溶けた」。
皮膚が、骨が、筋肉が、原子レベルで分解され、再構築されていく。
人間であることをやめる感覚。
恐怖か? いや、これは解放だ。
魂が、枠から解き放たれ、無限の容器に注ぎ込まれていくような高揚感。
そして――重力が、変わった。
ドンッ!
足裏に、信じられないほどの「重み」が戻ってきた。
いや、重みじゃない。足裏が地球を押し返している感覚だ。
地面が、ゴムマットのように弾力を持って俺を受け止めている。
視界が、ぐらりと揺れる。
いや、揺れているのは視界じゃない。俺の「重心」が、あまりにも高すぎる場所にあるのだ。
目を開く。
いや、もともと開いていたのだが、感覚が追いついていなかった。
見えたのは、夕焼けに染まった商店街の屋根……じゃない。
ビルの屋上だ。
しかも、見下ろす位置じゃないか?
あの五階建てのマンションの屋上旗竿が、俺の腰のあたりで風に揺れている。
(……え?)
思考が停止する。
俺は今、何をしている?
立っている。ただ立っているだけだ。
なのに、周囲の風景が全部「ミニチュア」に見える。
逃げ惑う人々は小さな蟻。
パトカーのサイレンは、高い音の蝉時雨のように聞こえる。
そして、目の前には。
さっきまで俺と絶花を殺そうとしていたあの怪物――ヤマタノオロチがいる。
だが、その見え方が全然違う。
さっきは見上げるほどに巨大で、空を覆う闇そのものだったあいつが。
今は、正面にいる。
俺と、同じ「目線」だ。
「マジかよ……」
俺の口から、ゼロと同じ声質の低い声が漏れる。
驚きを隠せない。
当たり前だ。さっきまで近所の駄菓子屋でうまい棒を食っていたただの高校生が、今、神話の怪物とダイヤの目線で対峙しているのだから。
足を一歩踏み出す。
ズシンッ!
地震か?
いや、俺が踏み出しただけで、アスファルトがひび割れ、周囲のガラスが共鳴して砕け散った。
足の裏から伝わるのは、街そのものを踏みつけている嫌な感触。
瓦礫が、小石のように足元で弾ける。
(デカい。俺、こんなにデカいのかよ!)
心の中で絶叫する。
指を動かそうとすると、ビルの骨組みよりも太い腕が、空気を引き裂いて動く。
拳を握る。グッ、と力を込めると、風圧が手のひらで渦を巻く。
『おいおい、呆けてる暇はねぇぞ、王様!』
脳内に響く声。
ゼロだ。
『驚くのは後にしろ。あいつは待ってくれねぇ!』
「わ、わかってるよ!」
俺は思わず声に出して返す。
声が響く。雷のような轟音が街に木霊する。
これだけで、近くのオロチの首がギロリとこちらを向いた。
八つの瞳が、俺を捉える。
恐怖は……不思議とない。
さっきまでの、あの圧倒的な質量に対する恐怖が消えている。
それどころか、全身の血管に電流が走るような興奮がある。
これが、ウルトラマンゼロの身体か。
これが、俺とゼロの力か。
「へぇ……」
俺は自然と口角を上げていた。
ウルトラマンゼロの口は動かない。だが、俺の意志は全身から溢れ出ているようだ。
「確かにデカいな。だが、これくらいの方が都合がいい」
オロチの首が一本、音速に近い速度で迫ってくる。
だが、俺にはその軌道が止まって見える映画のワンシーンのように見えた。
「王として、上から目線で叩き潰してやるよ!」
俺は拳を振り抜いた。
ドガァァン!!
黄金の鱗が砕け、オロチの首が弾き飛ばされる。
その衝撃が肩から腕へ、そして足裏まで突き抜ける。
痛い。だが、最高だ。
「行くぞ、ゼロ!」
『おうよ!二万年早いんだよ、化け物が!』
黄金の瞳が、八つ。
それが一斉に俺を睨む。まるで世界の悪意が全部、俺一人に集中したかのような重圧だ。
だが、今の俺は違う。
世界を相手にできる。ゼロと共にある限り、たとえ神話の怪物でも怖くはない。
「来るぞ!」
ゼロの声と同時に、ヤマタノオロチの口が大きく開かれた。
違う。全部だ。
八つの口が、まるで地獄の釜のように同時に開き、その奥で黄金の光が収束していく。
鼓膜を破るような低周波のうなり。
空気が熱に歪み、光の粒子が大気を焦がしていく。
『避けろ!数が…』
「いや!」
俺はゼロの助言を遮った。右腕を頭部へと伸ばす。
指先が触れる、硬質でありながら温かい金属の感触。
ゼロスラッガー。
父から子へ受け継がれた、二本の宇宙ブーメラン。
手にした瞬間、電流のような衝撃が走る。これは武器じゃない。ゼロの魂そのものだ。
「王たる者が、正面から受けもせずに逃げられるか!」
スラッガーを引き抜く。二本の短剣が、俺の両手で銀色の軌跡を描く。
同時に、オロチの放った八筋の光線が、一斉に放たれた。
一本目。真っ直ぐに俺の顔面を狙う熱線。
それを、右のスラッガーで弾き上げる。まるで熱されたバターをナイフで切るみたいに、光の奔流が二つに裂かれて、俺の左右で爆ぜた。火花が散り、背後のビルが溶ける。
二本目、三本目。左右から挟み込むように、湾曲した光線が迫る。
俺は左のスラッガーを逆手に持ち、体を回転させる。
「ゼロの身体はこんな無茶も出来るのかよ!」
そう思いながらも、身体は勝手に動いていた。スラッガーの刃が、光の弾丸を切り裂く。
キン、キン、と金属音のような甲高い音が響き、切断された光が金色の花火のように散った。
「まだだ!」
四本目。やや低い軌道で足元を狙う一撃。
俺は跳んだ。
数十メートルの巨体が、まるで羽根のように跳躍する。
「うおっ!?」
自分の軽さに驚きながら、真下を通過する光線を回避する。
跳躍したことで視界が開け、夕日に染まる街が一望できた。いつもの見慣れた景色が、足の下にある。
だが、感慨に浸る暇はない。
五本目が、空中の俺目掛けて火を噴いた。
「避けきれん!」
「任せろ、相棒!」
ゼロの声が脳裏に響き、俺の意思とは別に、スラッガーが動いた。
右手の一振りが、自動的に俺の前面で盾のように回転する。
キィィン!!
火花が散る。衝撃が腕を突き抜け、肩の関節がギシリと軋む。
だが、光線はスラッガーに阻まれ、四散した。
まるで、ホースの水を板で防いでいるような、そんな乱暴な理屈だ。
六本目、七本目。
もはや俺はスラッガーを投げていた。
「行けぇ!!」
俺の意志で、スラッガーは流星のように飛び、光線を正面から迎え撃つ。
空中で交錯する、二つの光。
スラッガーはただの刃物じゃない。空間ごと断つ、概念武装だ。
光線は切断され、制御を失い、大気中で無意味な熱と光へと還元される。
「八本目ぇ!!」
最後の一筋。
それは太く、遅かった。他の光線で俺の動きを止め、この一撃で仕留めるつもりだったのだろう。
戦略などない、獣の本能的な狩りの仕方だ。
だが、甘い。
「俺は、王だぞ!」
呼び戻したスラッガーを順手に持ち替え、俺は地を蹴った。
地面が陥没し、衝撃波が瓦礫を舞い上げる。
だが、その時にはもう、俺の身体は光線すれすれの位置で低く構えていた。
光線の熱で背中が灼ける。
痛い。だが、楽しい。
スラッガーを二本、クロスさせて構える。身体全体を一本の弾丸にして、光の奔流へと突っ込んだ、その瞬間。
交差した二本のスラッガーが、光線を縦横無尽に切り裂く。
視界が金色に染まり、火花が全身を叩く。
そして――俺は、光線を突破した。
熱線の尾を切り裂きながら、ヤマタノオロチの、その八本目の首の真下へと肉薄する。
「もらったぁ!!」
スラッガーを横一文字に振り抜く。
銀色の弧が、黄金の鱗を深々と切り裂き、オロチの首が一つ、悲鳴を上げて仰け反る。
その首の付け根から、体液ともエネルギーともつかぬ光が噴き出した。
「どうだ!」
俺は吠える。
肺が焼ける。
身体中がバラバラになりそうだ。
でも、生きている。戦っている。
絶望的だったあの光線の雨を、俺とゼロなら、切り拓ける。
『よくやった、太郎! だが、気を抜くな!』
ゼロの声で、眼前に注意を戻す。
残りの七つの首が、怒りに鎌首をもたげている。
首を一つ斬り飛ばしたぐらいじゃ、こいつは死なない。
むしろ、俺たちの抵抗が戈になったのか、残りの七つの首が一斉に矛を収め、弧を描くように俺を包み込もうと動き出した。
黄金の鱗が擦れ合い、キシキシと耳障りな音を立てる。
それは金属音というより、まるで巨大な臼で骨を挽かれているような、生理的嫌悪を催す音だ。
それぞれの口から漏れ出すのは、酸性の唾液か、それとも怨念そのものの黒い霧か。
物理法則を無視して、七つの首が七つの別の意思を持って俺を締め上げようとしている。
空間そのものが、こいつの胃袋の中に取り込まれたかのような錯覚に陥る。
「くそっ、しぶとい野郎だ!」
俺はスラッガーを構え、牽制するように刃を閃かせる。
だが、牽制したところで、どうする?
俺の脳裏に、ゼロツインシュートの発射シーンがフラッシュバックする。
あれほどの高エネルギー砲。直撃させれば、このオロチといえど一撃で消し炭だろう。
だが、同時に俺の脳裏に、別の光景もフラッシュバックした。
宇宙でのあの爆発。
互いの光線が激突し、次元が砕けたあの衝撃波。
あれをここ、地上で撃つ?
カラータイマーが点滅するような余裕はない。
もしも、もしもオロチがそれ以上のエネルギーで迎え撃ったり、あるいは撃ち漏らして背後に飛んだりしたら?
あるいは、オロチが爆発したそのエネルギーが、周囲にどう影響するか?
……街が、消える。
この商店街、避難しきれていない人々、絶花。
それは、「守る」ための力が「壊す」結果を招く、最悪の皮肉だ。
『…太郎』
脳内に、ゼロの声が響く。真剣なトーンだ。
「わかってる、ゼロ。今の俺たちが最大火力をぶっ放せば、オロチごとこの街を更地にしちまう」
『ああ。出力を絞ればいいが、今のこいつの生命力じゃ、トドメを刺すには全力が必要だ。中途半端に撃って、怒らせるだけじゃ嘘泣きもいいとこだ』
「嘘泣きは趣味じゃねぇんでな」
七つの首が、ジリジリと間合いを詰めてくる。
オロチは学習したのだろう。迂闊に飛び込まず、包囲網を狹め、光線の死角から俺を締め上げるつもりだ。
まるで、七つの首を持つ巨大な蛇が、獲物を骨ごと砕くためにコイルを巻くように。
俺は真っ直ぐと構え続ける。
膝は笑っていない。だが、頭の中はフル回転だ。
王は、ただ力でねじ伏せるだけじゃない。
盤面を読み、最善の手を打つ者だ。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王