サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
「やるぞ、ゼロ! 王の突撃だ!」
俺は叫び、地を蹴った。
目指すは胴体。首が8本あろうが、頭があろうが、心臓があるとすればそこしかない。
ゼロの身体が加速する。
建物の屋根を足場に、一気に間合いを詰める。
オロチが反応した。
7つの首が、まるで独立した巨大な蛇のように襲い掛かってくる。
「シュワァッ!」
俺は気合を込め、オロチの懐へと滑り込む。
そこは、異質な空間だった。
小林泰三の小説に登場する、論理の崩壊した宇宙そのものだ。
生臭い熱気が、食堂の換気扇が壊れた時のように噴き出している。
鱗の一枚一枚が、まるで生き物のように呼吸しているのだ。
グチュリ、グチュリ。
筋肉の収縮音が、렌ガ積みの壁が崩れるような重低音となって鼓膜を揺らす。
鱗の隙間からは、ヘドロのような体液が泡立ち、プシュウゥゥ…と漏れ出している。
それが俺のボディに飛び散り、ジュワジュワと音を立てて蒸発する。
「うげっ、なんだこのリアクション! 硫酸かよ!」
思わず苦情が漏れるが、止まらない。
右から首が一本、鞭のようにしなって叩きつけられてくる。
「遅い!」
俺は倒れ込むように体勢を低くし、首の腹側をスレスレで潛り抜ける。
蛇の腹。平たく発達した鱗が、走るタイルのように視界を掠めた。
ドガァン!
背後でビルが粉砕される音がするが、振り返っている暇はない。
左から二本。
同時に絡みつこうとする口。
「かわせるか!?」
『足元だ!』
ゼロの声に従い、俺は瓦礫の山を踏み台にして跳躍する。
空中で二つの首が交差し、互いの歯が噛み合う嫌な音が響く。
ガギンッ!
自分の首同士を噛み合うなんて、正気の沙汰じゃない。
だが、こいつは狂っている。細胞レベルで狂っているんだ。
胴体が近い。
近づくほどに、その異様さが際立つ。
まるで、巨大な臓物の束を革袋に詰め込んだような胴体。
表面が脈打っている。心臓が一つじゃない。
全身がポンプなんだ。
グググ、ドプン、グググ、ドプン。
生体反応というよりは、石油タンクが沸騰しているような不快なリズムだ。
「あと少し…!」
俺はゼロスラッガーを逆手に持ち直す。
迫りくる4本目の首。
まともにぶつかれば吹き飛ばされる質量だ。
だが、受けない。
斬るんじゃない、いなすんだ。
刃を滑らせ、軌道をズラす。
キィィン!
鱗に刃が食い込み、火花と体液が散るが、首は俺の肩を砕くことなく外へ逸れた。
ドスンッ!
足が着地した。
そこはもはや道路じゃない。
オロチの胴体のすぐ脇。蛇の「懐」だ。
熱すぎる。
息苦しい。
視界は黄金の鱗に埋め尽くされ、鼻をつくのは腐臭と火薬の匂い。
ここは王の玉座なんかじゃない。
巨大な怪物の胃袋の入り口だ。
だが、これで懐に入った。
ここからなら、外への被害を気にせず――
「ここだッ!」
俺は叫んだ。
目の前には、脈打つ黄金の臓物の壁。
オロチの胴体だ。
グチュリ、ドプン、と不快なリズムを刻む肉の塊からは、腐った卵と硫黄を煮詰めたような悪臭が立ち昇っている。
まるで、生きたまま巨大な胃袋の中に放り込まれたかのような閉塞感。
吐き気がする。
だが、これこそが狙いだった。
ここで奴を撃てば、その衝撃は真上へ向かう。
街への被害は最小限に抑えられるはずだ!
『やるぞ、太郎!これが最後の一撃だ!』
「おうよ!王の下知だ、空へ行けェ!!」
俺は両腕を十字に交差させる。
右腕が上、左腕が下。
ゼロの身体が、内側から沸き立つような熱に包まれていく。
血管の中を溶岩が駆け巡るような、灼熱の奔流。
全身の毛穴という毛穴から光が漏れ出し、周囲の空気を白く染め上げていく。
カラータイマーの警告音が、心臓の鼓動と重なって早鐘のように鳴り響く。
「ワイドゼロショット!!」
十字の隙間から、解放。
ドォォォォォン!!
暴発した恒星のような、極太の破壊光線。
青と白が混ざり合ったプラズマの嵐が、至近距離からオロチの胴体に叩き込まれた。
ズガアアアアァァァッ!!
音が遅れてくるほどの衝撃波。
光線はオロチの鱗をミキサーにかけるように粉砕し、その肉体を容赦なく貫いていく。
オロチの口から、悲鳴とも吐瀉ともつかない空気が漏れるのが見えた。
だが、それだけじゃない。
俺は「押し上げた」のだ。
光線の推進力を、ビルを持ち上げるクレーンのように、奴の巨体を地面から引き剥がす方向へ一点集中させる。
「おおおおおおぉぉッ!!」
全身の筋肉が悲鳴を上げる。
肩の関節が外れそうだ。
背骨がミシミシと軋み、踵が地面にめり込んでいく。
反動が凄まじい。
まるで、マッハで走るトレインに全身でしがみついているような暴力に、肉体が耐えきれずに削れていく。
だが、構うものか。
これが王の拳だ。これが侍の一撃だ!
オロチの足が、地を離れた。
一メートル、十メートル、百メートル。
凄まじい光の柱に押し上げられ、八つの首を持つ怪物が、風船のように宙に浮く。
まるで、金色の蝉が空へ返っていくかのような、奇跡的な光景だ。
地上のコンクリートが剥がれ、アスファルトが捲れ上がるほどの風圧が、俺の足元から吹き荒れる。
だが、街は壊れない。
光線のベクトルは真上。
街を焼き尽くすはずだった熱線の雨は、今や、宇宙へと向かう喧嘩船のエンジンに変わったのだ。
やがて、オロチは点になった。
大気圏の果て、星空の彼方へ。
その瞬間――。
カァァァァンッ!!
乾いた音が、夜空に響いたような気がした。
次いで、ボンッ、という間の抜けた音と共に、空の一角が極彩色に染め上がった。
花火だ。
それも、國際花火大会のフィナーレを一瓶まとめてぶちまけたような、ド派手な爆発。
黄金の粒子が、カーテンのように降り注ぐ。
八つの首が、別々の方向へ弾け飛び、尾が千切れ、胴体が粉々に砕け散る。
その全てが光となり、夜空を焦がし、そして消えていった。
まるで、悪夢そのものが夜露に溶けていくかのように。
「はぁ…はぁ…っ」
俺は膝から崩れ落ちそうになった。
ゼロの身体が、ふぅ、と熱を失っていくのが分かる。
勝った。
俺たちは、この理不尽な侵略者を打ち倒したのだ。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王