サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
「よし、戻るぞ」
ゼロの声と共に、俺の身体がふわりと浮き上がった。
「えっ? ちょっ、待て!?」
慌ててもがくが、足場はない。
重力が消えたのだ。
かつて味わったことのない浮遊感。
いや、浮遊なんて生易しい言葉じゃ足りない。
まるで、身体全体が巨大なエアキャスターに乗ったかのように、摩擦係数がゼロになったのだ。
「空を…飛ぶのか!? 俺が!?」
『当たり前だろ。ウルトラマンが空を飛んで何が悪いんだ?』
「いや、悪くないけどさ! でも、教えてくれよ! 心理的な準備が!」
文句を言いながらも、身体は勝手に動いていた。
身体の芯、あるいは背骨のあたりから、ジェットエンジンのような推進力が噴き出している感覚。
ドンッ!
音速の手前で加速する衝撃。
空気が膜になり、顔面を叩く。
痛い。風圧が、肌を引きちぎろうとしているようだ。
だが、俺たちは止まらない。
雲を突き抜け、大気の層を一気に駆け上がっていく。
「すっげぇ…!!」
思わず声が出た。
視界が、急激に遠ざかっていくのだ。
さっきまで見上げていたビル群が、いつの間にか足元のブロックの模型みたいに小さくなっている。
街灯は豆電球、車は米粒。
さっきまであそこで死にそうになっていた俺たちが、今、この街を見下ろしている。
『感心してる暇はねぇぞ。人間に戻るんなら、人目のないところがいい』
「わ、わかってるよ!」
俺は慌てて、路地裏を目指す。
飛ぶのは初めてだが、不思議と操作は直感的だ。
行きたい方向へ身体を傾けるだけで、まるで頭の中のナビゲーションシステムにリンクしたかのように、身体が滑っていく。
まるで、空を泳いでいるような気分だ。
王が空を統べる、なんて言ったら格好いいが、実際はもっと無様だ。
手足をバタつかせながら、俺は何とか路地裏の暗がりへと降下していった。
着地。
ドンッ。
地に足がついた瞬間、重力が元通り、俺の身体にのしかかってくる。
これが、地球の重さか。
巨大な身体から、一瞬で光の粒子が弾け飛ぶ。
「うわっ!?」
視界が白く染まり、身体が縮んでいく。
熱が引いていく感覚。
巨大な筋肉の鎧を脱ぎ捨てたかのような、圧倒的な「軽さ」と「寒さ」。
そして、俺は唯我太郎に戻った。
「はぁ…はぁ…っ」
膝から崩れ落ちる。
アスファルトの冷たさと粗い感触が、掌に痛いほど伝わってくる。
ゼロの時は感じなかった疲労が、今になって一気に押し寄せてきた。
全身の筋肉が悲鳴を上げ、肺は酸素を求めてヒューヒューと鳴いている。
まるで、マラソンを10本続けて走った後のような、極限の疲労感だ。
「…勝った、のか」
俺は震える手で、自分の身体を抱きしめた。
寒い。さっきまでの灼熱が嘘のようだ。
だが、胸の奥には、確かに熱い塊が残っている。
「…勝った、のか」
俺は震える手で、自分の身体を抱きしめた。寒い。さっきまでの灼熱が嘘のようだ。だが、胸の奥には、確かに熱い塊が残っている。
「太郎!!」
突然の呼び声。
振り返る間もなく、視界が黒と桃色の髪に覆われた。
ドスンッ。
衝撃。
いや、攻撃じゃない。
柔らかくて、温かくて、でもすごく重たい何かが、俺にぶつかってきたのだ。
「あ…絶花…?」
彼女が俺の胸に顔を埋めている。
押し付けられた感触から、サラシ越しでも分かる膨らみと、震える肩の骨組み。
あ、なんだこれ。
心臓が、変な音を立てている。
さっきの変身の時よりも、もっと止まらない鼓動だ。
「もう…もうっ…!」
絶花の声が、服越しにくぐもって聞こえる。
怒っているのか?泣いているのか?
いや、両方だ。
「いきなりいなくなるなんて…私を置いて…死ぬ気だったの…?」
「いや、あれは仕方なかっただろ。あそこで逃げたら、お前が食われてたかもしれん」
「そんなの…そんなの関係ないよ!」
絶花が顔を上げた。
その顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。
いつも鋭い切れ長の目が、今は充血して、まつ毛に涙の粒がぶら下がっている。
「怖かった…本当に…太郎くんがいなくなっちゃうって思ったら…」
ポロポロと涙がこぼれる。
彼女は剣士だ。最強の侍だ。
でも、今はただの、友達が心配でたまらない14歳の女の子だ。
俺の服を握りしめる指が、白くなるほど力がこもっている。
まるで、俺が逃げ出さないように、地面に錨を打ち込むみたいに。
その痛いほどの力が、俺の心臓を鷲掴みにする。
「…悪かった」
俺は、震える腕をゆっくりと彼女の背中に回した。
細い。折れそうだ。
でも、温かい。
さっきまでのオロチの粘液の冷たさや、宇宙の真空の寒さが、この体温で溶けていく気がした。
「心配かけたな、絶花」
「…うぅ…バカ…太郎のバカ…」
彼女はまた、俺の胸に顔を埋める。
そして、子供のように声を上げて泣き出した。
俺は、その頭をぽんぽんと撫でた。
王が家臣を守る。それは、命令することだけじゃない。
こうして、安心させてやることも、王の仕事のうちだ。
「俺は王になる男だ。そう簡単にくたばるかよ」
「…なら、もっと…大事にしてよ…」
「ああ。約束する」
俺は強く、彼女を抱きしめ返した。
「…うん。約束する」
俺は強く彼女を抱きしめ返した。
温かい。
やっと日常が戻ってきたような気がする。
俺の国の、最初の家臣の体温だ。
…だが、日常というやつは、俺に甘くないらしい。
「む?」
絶花の胸元が、急激に熱を帯びた。
まるでアイロンを押し付けられたかのような、焦げつくような熱量だ。
いや、熱いなんてもんじゃない。
彼女の身体の中から、マグマが噴き出してくるような暴力的な熱波だ。
「いっ!? 熱いって、絶花!?」
俺は思わず身体を離した。
絶花も驚いたように自分の胸を押さえる。
黒いブレザーの上からでも分かる。
サラシで厳重に封印されているはずのその部分が、ボッ! と黄金色に発光しているのだ。
まるで、深海魚が獲物を誘うように明滅する、不気味でいて荘厳な光。
『…おい、小僧』
脳内に直接響く声。
低く、威圧的で、それでいてどこか楽しげな響き。
間違いない。
あのおっぱい至上主義の変態神剣、天聖だ。
「天聖!? 何をいきなり…!」
絶花が慌てて胸を叩くが、天聖はお構いなしに喋り続ける。
『お主の中に…別の魂がおるな?』
その言葉に、俺の心臓が跳ねた。
バレたか!?
いや、そりゃそうだ。
こいつは神器だ。魂の輝きを読み取ることに特化した存在だ。
俺の中に宿った、あの銀色の巨人の気配に気づかないわけがない。
『ふむ…精気が混ざっておる。人間のそれとは別の、星のように遠くて強い光…』
天聖の声が、舌なめずりをするように湿り気を帯びる。
まるで、上質なステーキを見つけた肉食獣のような響きだ。
背筋を這うような悪寒が走る。
こいつ、俺の中のゼロを「乳気」の類だと勘違いしてねぇか?
『…悪くない』
「悪くあるよ! 何勝手に品定めしてんだよ!」
俺が心の中でツッコミを入れると同時に、俺の右腕に違和感が走った。
ズキリ、という痛みではなく、ギュッ、と締め付けられるような圧迫感。
視線を落とすと、そこにはあり得ないものが鎮座していた。
右腕の手首。
そこに、銀色のブレスレットが巻き付いていたのだ。
未来的な意匠が施されたメカニカルな装甲。
中心には青い宝石のような石が埋め込まれている。
それは明らかに、この世界のオカルト用品や神器とは異質な「科学」の匂いがした。
「これは…」
ウルトライズブレスレット。
変身後に残された、ゼロとの絆の証。
『よう、相棒。落ち着いたか?』
ブレスレットから声がした。
さっき脳内で聞いたのと同じ、若々しくて生意気な声だ。
「っ!? 腕から声が!?」
絶花が目を丸くして俺の手首を指差す。
そりゃ驚くだろう。
いきなり幼馴染みの腕から知らない男の声がしたんだからな。
『改めて自己紹介といこうか。俺はウルトラマンゼロ。お前と一緒にあの怪獣をブッ飛ばした光の戦士だ』
「光の…戦士…?」
絶花が呆然と呟く。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王