サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
「ただいま」
誰もいない家に声をかける。
俺の城だ。
だが、今はいつもより少し、冷えている気がする。
オロチの熱線が、空気ごと焼き尽くした余韻か。
それとも、俺の体温がまだ完全に元に戻っていないのか。
絶花は、当然のように俺の後ろからついてきた。
幼馴染みの特権だ。
玄関で靴を脱がせ、リビングへ直行。
ソファに沈み込むと、全身の筋肉が悲鳴を上げた。
ゼロの時は感じなかったダメージが、今になってジンジンと主張してくる。
まるで、細胞一つ一つが「無理すんなボケ」と罵声を浴びせてくるようだ。
「お茶、入れるね」
絶花が台所へ向かう。
その背中は、まだ少し震えているかもしれない。
だが、家臣が王に茶を淹れる。
いい心がけだ。
「で?」
湯飲みを前に、絶花が座った。
その視線は、俺の顔ではなく、右腕に釘付けになっている。
銀色のブレスレット。
ウルトライズブレスレット。
室内灯の下でも、鈍く、しかし確かな光を放っている。
異物だ。
この日常にはありえない、未来の遺物。
「それ…何なの?」
絶花が低い声で聞いた。
「さっきの巨人…ウルトラマンゼロ、だっけ? 彼と関係があるんでしょう?」
『話が早いな、嬢ちゃん』
ブレスレットから声がした。
ゼロだ。
絶花がビクリと肩を跳ねさせる。
『俺はウルトラマンゼロ。別の宇宙から来た光の戦士だ。さっきの怪獣と戦ってた最中、次元の裂け目に落ちちまってな。で、こいつ――太郎と出会ったってわけだ』
「別の宇宙…」
絶花がオウム返しに呟く。
理解が追いつかない、という顔だ。
無理もない。
俺だって、ついさっきまで信じてなかった。
宇宙人がいて、巨大化して、光線を撃つ。
ある意味、今の天聖の存在よりも常識外れかもしれない。
「で、どうなってるんだ? ゼロ」
俺は問うた。
「俺とお前は、今どういう状態なんだ?」
『一体化してるんだよ。俺とお前の魂が、今は混ざり合ってる。あのウルトライズアイを使った時、俺の体にお前の意識が宿った。だから、あの怪獣を倒せた。お前の勇気が、俺の力を引き出したんだ』
「魂が…混ざり合ってる…?」
俺は自分の右手を握る。
確かに、さっきまで俺の中にいた「熱い塊」。
あれは、ゼロの魂だったのか。
「つまり、どういうこと?」
絶花が怪訝そうな顔で聞き返す。
俺は少し考え、彼女の胸元を指差した。
「要するに、お前と天聖の関係と同じだ」
「えっ?」
絶花が目を丸くする。
『ほう?』
天聖の声が、絶花の胸から響く。
「だから、たぶんだが、ゼロは後天的に入った神器みたいな感じだな?」
「神器ってのはよく分からないが、そんな感じだな」
「で、そのオロチなんだが」
俺は淹れたての緑茶を啜る。日常の象徴だ。だが、話題は最悪の怪物についてだ。
「お前の言う通りなら、あれは日本神話のヤマタノオロチでいいんだな?」
『うむ、間違いない』天聖が重々しく答える。『あの気配、腐臭、怨念の波長。まぎれもなく八岐大蛇じゃ』
「だが、違和感がある」
「違和感?」絶花が首を傾げる。
『そうじゃ。八岐大蛇は、スサノオノミコトによって滅ぼされたはずなのじゃ』
歴史の矛盾。存在論的なバグ。小林泰三の小説で描かれるような、細胞が拒絶する違和感。
「滅ぼされたのに、なんでいるんだ?」
『だから言っておるのじゃ! 「滅んだはず」のモノが、なぜそこにおるのか、と! あれは死骸じゃ。あるいは…存在そのものが「借り物」なのじゃ!』
「借り物の怪獣か」
俺は右腕のブレスレットに語りかける。「なぁ、ゼロ。お前はどう思う?」
『俺も予感がしてた。あの黄金の巨人…アブソリューティアンの奴らとの戦いで見た気配。共通点があるとすれば、一つだけだ』
「共通点?」
『並行同位だ』
聞き慣れない単語に、俺と絶花は顔を見合わせた。
『別の宇宙、別の可能性の世界から来た「同位体」だ。同じ存在でありながら、違う運命を辿ったもう一人の自分。俺が戦ったあの巨人は、もし俺が光を信じなかったらどうなってたか、っていう「もしもの俺」だったのかもしれない』
「マジかよ。ドラえもんのパラレルワールドか?」
『そんなお気楽なもんじゃねぇぞ。俺の知ってるタルタロスっていう金ピカの野郎は、時空を行き来できる能力を持ってる。本来なら、そこで倒されるはずだった奴を、時空を歪めて引っ張り出し、自分の兵隊にしちまう。さっきのオロチも、それと同じ手口だ』
「時空を超えて、死んだはずの怪獣を回収する…? 反則だろ」
「そんな…また来るんですか?」絶花が震える。
『可能性は高いな。あのオロチは、テストだったのかもしれない』
スケールがデカすぎる。だが、俺は笑う。
「王たる者、盤面如何に関わらず最善の手を打つまでだ。それに、最強の家臣が手に入った。やれるだろ、ゼロ?」
『フン、言われなくてもな。俺はウルトラマンゼロだ。どんな相手が来ようが、ぶっ飛ばすだけだぜ!』
次回の王は
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妖怪王
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