サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
「さて、だ」
俺は湯飲みをコトリと机に置いた。
さっきまでの雑談は終わりだ。
ここからは、王としての政(まつりごと)だ。
「これからどうするか。方針を決めないとな」
『ああ、そうだな。まず確認しておきたいことがある』
ブレスレットから、ゼロの真剣な声が響く。
さっきまでの軽口は鳴りを潛め、歴戦の戦士としての響きが帯びている。
『この世界には、防衛隊はあるのか?』
「防衛隊?」
絶花が首を傾げる。
「自衛隊のことですか? それとも警察の…」
『いや、そうじゃない。俺が言ってるのは、さっきのオロチみたいな巨大生物と戦う専門の組織だ。宇宙人や怪獣から地球を守るための、特殊な装備と科学力を持ったチームだよ』
俺と絶花は、顔を見合わせた。
そして、同時にため息をつく。
「ねぇよ、そんなもん」
『ないのか?』
「ない。絶対にない」
俺はきっぱりと断言した。
「自衛隊はある。戦車も戦闘機もある。でもな、ゼロ。あいつらは『人間同士の戦争』をするための組織だ。オロチみたいな化け物相手に想定なんてしてない」
『だが、兵器は…』
「無駄だ」
俺は即答する。
脳裏に浮かぶのは、さっきの戦闘の感触だ。
あの鱗の硬さ、質量、そして生命力。
小林泰三的な表現を借りるなら、あれは「物理法則が嘔吐した存在」だ。
オロチの皮膚に戦車砲が当たったところで、どうなる?
鉄板ごとチューインガムのように咀嚼され、ミキサーにかかったトマトみたいに赤い霧を吹き出すのがオチだ。
90式戦車だって、オロチから見ればただのスチール缶。
蓋を開けて中身を舐めるために、爪先で軽くペチャンと潰される運命にあるだけだ。
「この世界に、科学特捜隊もZATもMACもない。オロチが暴れれば、自衛隊はなす術もなく蹴散らされ、街は壊される。それが現実だ」
『…過酷な世界だな』
「だろうよ。お前の世界じゃ、当然のように防衛隊が支援してくれてたんだろ?」
『ああ。俺がピンチの時は、彼らが盾になってくれた。囮になってくれた。俺が光線を撃つための隙を作ってくれた。俺は一人じゃない、といつも思わせてくれた相棒たちだ』
ゼロの声が、少し寂しげに響く。
俺は、右腕のブレスレットをグッと握りしめた。
「悪かったな。この世界には、お前を支える組織なんてない。あるのは、逃げ惑う民だけだ」
『…いや』
ブレスレットの宝石が、青く明滅する。
『組織がなくても、お前がいるだろう、太郎?』
「あ?」
俺は素っ頓狂な声を上げた。
『お前が王になるんだろ? なら、お前がその民を守るんだ。俺が光線を撃つための隙を作るのは、防衛隊じゃなくて、お前だ。俺たちは一心同体だ。お前の意思が俺を動かすなら、お前の判断が俺の戦術になる』
「…ハッ、面倒なことを言いやがる」
俺は笑ってしまった。
そうだ。
組織がないなら、俺が作ればいい。
「防衛隊がないなら、俺がその役を務めればいい」
俺はそう言い放ったものの、じゃあ具体的にどうするんだ、という話になる。
オロチは倒した。だが、タルタロスとかいう金ピカの野郎がまた別の怪獣を拾ってくるかもしれない。
俺たちは待ち伏せされる側だ。
王として、どう迎え撃つ?
砦はない。兵隊は俺と絶花だけ。
ゼロは強い。最強だ。
だが、ゼロがいれば勝てるというものでもない。
さっきの戦闘だって、街を壊さないように加減しながらだった。
次はもっとタチの悪いのが来るかもしれない。
そうなった時、俺はどう動く?
「…難しいもんだな、政治ってのは」
俺は頭を抱えた。
はぁ、と息を吐く。
王の道は険しい。
コツン。
乾いた音が、リビングに響いた。
小さく、しかし明確な音。
まるで、誰かが窓ガラスを爪で弾いたような。
「ん?」
絶花も気づいたらしい。
彼女の視線が、リビングの窓へと向く。
カーテンの閉め切られた窓。
だが、そのレースのカーテンの隙間から、何かが覗いている。
白い、四角い何かが。
「手紙…?」
絶花が呟く。
俺は立ち上がり、窓に近づく。
滑らせて開ける。
夜風が入り込む。
冷たい風が、火照った俺の顔を撫でていく。
だが、それ以上に俺の注意を引いたのは、窓枠に挟まれたその物体だ。
白い封筒。
だが、ただの紙じゃない。
手に取った瞬間、俺は思わず「うっ」と呻いた。
生温かい。
まるで、爬虫類の腹のような、不気味な体温を感じるのだ。
紙質もおかしい。
ザラザラとしていて、指先で撫でると、プニプニとした弾力がある。
まるで、剥製に失敗したカエルの皮膚そのものだ。
細胞レベルで、俺の指紋を舐め取ろうとしているような、生理的嫌悪を催す感触。
「なんだこれ…」
俺は眉をひそめ、封を開ける。
中には、折り畳まれた紙と、硬いカードのようなものが入っていた。
紙を広げる。
そこには何も書かれていない。
真っ白だ。
いや、待て。
よーく見ると、紙の繊維の奥に、まるで毛細血管のように細かい文字が這っている。
極小の文字。
目を凝らして読むと、ただ一言。
『来い』
それだけ。
脈打つような、黒いインクの文字。
「なんだよ、脅迫状か? 随分とキザな…」
俺は舌打ちし、次にカードを取り出した。
「これは…」
絶花が横から覗き込む。
新幹線のチケットだ。
東京駅発、京都駅行き。
明日の、朝一番ののぞみ号。
席はグリーン車。
二人分。
「は?」
俺は素っ頓狂な声を上げた。
「なんで、こんな時に新幹線のチケットなんだよ!?」
「しかも、京都ですか?」
絶花も困惑している。
『… 京都か』
ブレスレットから、ゼロの低い声が響く。
『太郎、お前の国の古都だろ? そこに、何かあるのか?』
「知るかよ! 俺はただの高校生だぞ! 京都なんて修学旅行以来だ!」
『修学旅行で京都か。平和でいいな』
「平和じゃねぇよ! 今、怪獣騒ぎの直後なんだぞ!」
『妾には分かる』
天聖が口を開いた。
その声は、珍しく真剣だ。
『この手紙…ただの招待状じゃない。命令状じゃ』
「命令? 誰から?」
『分からぬ。だが、この気配…先程のオロチと同じ根を持つ』
「オロチと? じゃあ、タルタロスか?」
『かもしれん。だが、何故京都なのじゃ? あそこには何もないはず…』
「何もないから行くんだろ」
俺はチケットを握りしめた。
生温かい感触が、掌に粘りつく。
気持ち悪い。
だが、無視はできない。
「王は、招かれたら行くものだ。それが罠だとしてもな」
「太郎くん…行くの?」
絶花が不安そうに俺を見る。
「行くに決まってるだろ」
俺はニヤリと笑った。
「チケットは二枚だ。お前も来い、絶花。最強の侍がいないと、心許ないからな」
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王