サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
「うわ…」
俺は思わず声を漏らした。
人、人、人。
黄金週間の渋谷スクランブル交差点を、さらに濃縮して真空パックにしたような密度だ。
観光客、ビジネスマン、学生。
色とりどりの服を纏った個体たちが、それぞれの目的という名のフェロモンを撒き散らしながら、意味もなく蠢いている。
個々の意思なんてない。
ただ、圧倒的な数の細胞が、一つの巨大な臓器として呼吸している。
その吐息が、熱気となって俺たちの皮膚を舐め回してくる。
酸素が薄い。
二酸化炭素と、安っぽい香水と、汗の匂いが混ざり合い、粘度を増した空気が肺にへばりつく。
「あ…あぅ…」
俺の隣で、絶花が金縛りにあったように硬直した。
その顔色は、真っ白だ。
目が泳いでいる。口がパクパクと開閉しているが、音が出ていない。
発作か? いや、違う。
あれは「人見知り」の極地だ。
彼女にとって、他人は天敵だ。
特に、これほどの数の敵に囲まれたら、その防御本能が過剰に働く。
彼女の身体が、プルプルと小刻みに震え出す。
まるで、捕食者の群れに放り込まれた小動物だ。
「あの…すみません…通して…」
絶花が蚊の鳴くような声で呟くが、そんな微弱な信号、この群体のノイズにかき消されてしまう。
誰も彼女を見ていない。
いや、見えていない。
彼女は風景の一部として処理され、押し流されようとしている。
ダメだ。
このままじゃ、踏み潰される。
彼女の華奢な肩が、波のような人混みに揉まれて揺れている。
俺は無意識に、一歩前に出た。
「おい」
俺は振り返り、絶花の手を掴んだ。
冷たい。氷のように冷え切っている。
ビクリと彼女が反応し、上目遣いで俺を見る。
その瞳には、涙が滲んでいた。
「太郎…」
「ほら、来い。俺の背中に隠れろ」
俺は彼女の手を引いた。
自分の背中に彼女を隠すように、前に立つ。
俺の背中は広くない。
俺は軽口を叩きながら、人波をかき分けて進む。
群衆という名の巨大な生命体。その臓器の中を泳ぐように、俺たちは出口を目指した。
それにしても、だ。
新幹線のチケットを送りつけたのは誰だ?
オロチの関係者か? それとも、タルタロス本人か?
いや、違う。もしそうなら、もっと直接的な罠を仕掛けるはずだ。わざわざ新幹線に乗せて京都まで呼び出す理由がない。
『太郎』
ブレスレットから、ゼロの声が響いた。
その声は、先ほどまでの軽い調子とは違う。警戒している。
『気配を感じる』
「気配?」
俺は足を止めた。
絶花が背中に顔を埋めたまま、不安そうに俺の服を掴む。
『人間じゃない。でも、オロチみたいな悪意もない。敵意もない』
「敵意がない?」
『ああ。でも、明らかに俺たちを待ってたんだよ。この気配…向こうから近づいてきてる』
俺は周囲を見回した。
人混みは相変わらずだ。
だが、その中に異物が混じっている。
視覚では捉えられない。匂いでもない。
第六感とでも言うべき何かが、警鐘を鳴らしている。
『あっちだ』
ゼロの指示に従い、俺は視線を向ける。
改札口の向こう。駅の構内ではなく、外へと続く通路の先。
観光客の群れの中に、ぽっかりと空いた空白地帯があった。
まるで、そこだけ空間が切り取られたかのように、誰もいない。
「…見えてきたな」
俺は絶花の手を握ったまま、そちらへ歩き出す。
「た、太郎くん? どこ行くの…?」
「気になる奴がいるんだ。悪意はないらしいから、お前も一緒に来い」
人混みを抜け、その空白地帯へと足を踏み入れる。
瞬間、空気が変わった。
さっきまでの蒸し暑い熱気が嘘のように、ひんやりとした清涼感。
まるで、神社の境内に足を踏み入れた時のような、神聖な冷たさだ。
肺の奥まで洗われるような、純度の高い空気。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王