サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

792 / 823
共鳴する力 Part1

八坂は、ゆっくりと笑みを浮かべた。

その笑顔は、優雅でありながら、どこか小悪魔的な色気を帯びている。

九本の尾が、背後でゆらり、ゆらりと揺れる。

それは単なる体毛の動きじゃない。

まるで、九つの独立した臓器が呼吸するかのように、収縮と膨張を繰り返しているのだ。

金色の毛並みの一本一本が、細胞レベルで俺たちの情報を舐め取ろうとしているような、粘着質な視線を感じる。

 

「それで、おたくらが、ヤマタノオロチを倒した英雄さんたちやな?」

 

「ああ、そうだ」

俺は頷く。

ここで否定しても意味がない。彼女たちは俺たちがオロチを倒したことを知っている。

 

「で、何が聞きたい? オロチの正体か? それとも、俺たちの正体か?」

 

「両方やな」

八坂は扇子をパチリと閉じた。

「あのオロチは、スサノオ様に討たれたはずの古き神話の残滓や。それがなぜ現代に蘇ったのか。そして、それを倒したのが、人間でありながら人間でないおたくらや。気にならんわけないやろ?」

 

(……ヤバいか?)

俺は内心で冷や汗をかいた。

相手は見た目は美人だが、中身は数千年を生きる大妖怪だ。

嘘をついても見抜かれる可能性が高い。

かといって、正直に「俺の中には宇宙の英雄が憑依してます」なんて言っていいものか。

情報は武器だ。王たる者、安易に手札を晒すべきではない。

 

『太郎』

その時、右腕のブレスレットから、ゼロの声が響いた。

念話だ。俺にしか聞こえない。

 

『正直に話しちまえ』

 

(はぁ? 正直に? 素性の知れない化け物にか?)

 

『ああ。隠したところで、あの女にはバレてる。それに…』

 

ゼロの声が、ふっと柔らかくなった。

 

『俺のカンが言ってる。あの女は敵じゃない。信頼できるってな』

 

(カンだと? 悩ましいな、お前の直感は)

 

『俺はこれまで、色んな宇宙で戦ってきた。その中で、悪い奴らの目ってのは覚えたんだよ。欲に濡れた目も、狂気に歪んだ目もな。でも、あの女の目は違う。あれは、自分の縄張りを守る母親の目だ。ただ、自分の家族を守りたいだけなんだ』

 

ゼロの言葉に、俺はハッとした。

確かに、八坂の瞳は澄んでいた。

金色の瞳の奥には、揺るぎない意志と、どこか寂しげな光が宿っている。

それは、孤独に耐え、ただ守り抜いてきた者の目だ。

俺が目指す「王」の目にも、そんな光が宿るようになりたいものだ。

 

「…わかった」

俺は覚悟を決めた。

ゼロを信じる。それが、今の俺にできる最善の手だ。

 

「俺の名前は唯我太郎。こっちは宮本絶花。俺の家臣だ」

 

「ウチは宮本絶花です…あの…よろしくお願いします」

絶花はまだビクビクしているが、俺の後ろからペコリと頭を下げた。

 

「で、こいつが」

俺は右腕を突き出した。

ウルトライズブレスレットが、青白く明滅する。

 

「俺の中にいる相棒だ。ウルトラマンゼロ」

 

『よう、お姉さん。俺はウルトラマンゼロ。太郎と一緒に戦ってる光の戦士だ』

 

ゼロの声が、部屋に響き渡る。

八坂が、ピクリと眉を動かした。

九本の尾が一斉に逆立つ。

室内の空気が、サッと冷たくなった。

圧倒的な殺気、ではない。

驚愕と、そして警戒。

八坂の九本の尾が、一斉に逆立った。

フワリ、なんて生易しい動作じゃない。

バチンッ! と、空気が弾ける音がして、金色の毛並みが鉄の針のように鋭角に張り詰めたのだ。

毛一本一本が、独立した生物のように痙攣し、威嚇の色彩を放つ。

室内の温度が、一気に氷点下まで下がったような錯覚。

肌が粟立つ。鳥肌なんて可愛いもんじゃない。

細胞レベルで、俺の身体が「逃げろ」と叫んでいる。

だが、八坂は動かなかった。

ただ、その金色の瞳を限界まで見開き、俺の右腕のブレスレットを凝視している。

 

「…ウルトラマン、ゼロ…?」

八坂が、ゴクリと唾を飲み込んだ。

その喉の動きすら、ガタガタと音を立てているように聞こえる。

 

「ああ」

俺は頷いた。

「こいつは、宇宙から来た光の戦士だ。俺と一体化して、あのオロチを倒した。ただの人間に、あんな真似ができるわけないだろ?」

 

「宇宙…やと?」

八坂の声が、上擦った。

これまでの、あの余裕綽々たる京都弁のトーンが崩れている。

彼女は妖怪だ。数千年の昔から、人間に化け、人間を騙し、時には食らい、時には守ってきた。

悪魔も、堕天使も、妖怪も知っている。

だが、「宇宙」という概念は別だ。

この世界の理の外側。

空の上、星の彼方から来る存在。

それは、彼女らが棲む「裏京都」の地脈とも、神話の残滓とも、一切繋がりを持たない、完全なる異物なのだ。

 

「うちは…今まで、色んなモン見てきた。天狗も、河童も、鬼も、神も、悪魔もな。でも…」

八坂が、震える手で扇子を握りしめる。

「星から来る兵隊なんて、聞いたこともあらへんかったわ」

 

『ま、そうだろうな』

ブレスレットから、ゼロの声が響く。

『俺たちの世界じゃ、宇宙人は日常茶飯事だが、こっちじゃまだ未知の存在なんだろうよ』

 

ゼロの声が、部屋の空気を微細に振動させる。

ただの音波じゃない。

魂に直接響く、高エネルギーの共鳴だ。

その波動が、八坂の全身を舐め回すように走り抜ける。

彼女の顔が、苦渋に歪む。

まるで、全身の毛穴を逆さにこじ開けられているような、生理的な不快感に違いない。

だが、同時に。

彼女の瞳の中で、疑念が消え、深い納得の色が宿っていくのが見えた。

 

「…やっと、腑に落ちたわ」

八坂が、深く息を吐き出す。

逆立っていた尾が、ゆっくりと元のふにふにした状態へと戻っていく。

 

「何がだ?」

 

「あのオロチの気配や」

八坂が、扇子で俺を指し示す。

「あれは、この星のモンやなかった。地脈にも、霊脈にも属さへん。まるで、空から降ってきたような、理不尽な暴力の塊やった。うちら妖怪の力じゃ、歯が立たんのも無理ないわ。次元が違うねん」

 

八坂は、俺の右腕のブレスレットを、複雑な表情で見つめた。

 

「せやから、あんたらがそれを倒せたんやな。同じように、この星の理の外側から来た力やったからこそ、あの化け物を相殺できたんやね」

 

「ああ、そうだ」

俺はニヤリと笑った。

「俺たちは、未知のモンを未知のモンでブッ飛ばすのが得意でな」

 

『褒め言葉として受け取っておくぜ』

ゼロも軽口を叩く。

 

八坂は、フッと笑った。

その笑顔には、もう警戒の色はない。

あるのは、同じ「異物」としての共感と、そして安堵だ。

 

「宇宙人はんに、助けられるとはのぅ。世の中、まだまだ捨てたもんじゃないな」

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。