サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
八坂は、ゆっくりと笑みを浮かべた。
その笑顔は、優雅でありながら、どこか小悪魔的な色気を帯びている。
九本の尾が、背後でゆらり、ゆらりと揺れる。
それは単なる体毛の動きじゃない。
まるで、九つの独立した臓器が呼吸するかのように、収縮と膨張を繰り返しているのだ。
金色の毛並みの一本一本が、細胞レベルで俺たちの情報を舐め取ろうとしているような、粘着質な視線を感じる。
「それで、おたくらが、ヤマタノオロチを倒した英雄さんたちやな?」
「ああ、そうだ」
俺は頷く。
ここで否定しても意味がない。彼女たちは俺たちがオロチを倒したことを知っている。
「で、何が聞きたい? オロチの正体か? それとも、俺たちの正体か?」
「両方やな」
八坂は扇子をパチリと閉じた。
「あのオロチは、スサノオ様に討たれたはずの古き神話の残滓や。それがなぜ現代に蘇ったのか。そして、それを倒したのが、人間でありながら人間でないおたくらや。気にならんわけないやろ?」
(……ヤバいか?)
俺は内心で冷や汗をかいた。
相手は見た目は美人だが、中身は数千年を生きる大妖怪だ。
嘘をついても見抜かれる可能性が高い。
かといって、正直に「俺の中には宇宙の英雄が憑依してます」なんて言っていいものか。
情報は武器だ。王たる者、安易に手札を晒すべきではない。
『太郎』
その時、右腕のブレスレットから、ゼロの声が響いた。
念話だ。俺にしか聞こえない。
『正直に話しちまえ』
(はぁ? 正直に? 素性の知れない化け物にか?)
『ああ。隠したところで、あの女にはバレてる。それに…』
ゼロの声が、ふっと柔らかくなった。
『俺のカンが言ってる。あの女は敵じゃない。信頼できるってな』
(カンだと? 悩ましいな、お前の直感は)
『俺はこれまで、色んな宇宙で戦ってきた。その中で、悪い奴らの目ってのは覚えたんだよ。欲に濡れた目も、狂気に歪んだ目もな。でも、あの女の目は違う。あれは、自分の縄張りを守る母親の目だ。ただ、自分の家族を守りたいだけなんだ』
ゼロの言葉に、俺はハッとした。
確かに、八坂の瞳は澄んでいた。
金色の瞳の奥には、揺るぎない意志と、どこか寂しげな光が宿っている。
それは、孤独に耐え、ただ守り抜いてきた者の目だ。
俺が目指す「王」の目にも、そんな光が宿るようになりたいものだ。
「…わかった」
俺は覚悟を決めた。
ゼロを信じる。それが、今の俺にできる最善の手だ。
「俺の名前は唯我太郎。こっちは宮本絶花。俺の家臣だ」
「ウチは宮本絶花です…あの…よろしくお願いします」
絶花はまだビクビクしているが、俺の後ろからペコリと頭を下げた。
「で、こいつが」
俺は右腕を突き出した。
ウルトライズブレスレットが、青白く明滅する。
「俺の中にいる相棒だ。ウルトラマンゼロ」
『よう、お姉さん。俺はウルトラマンゼロ。太郎と一緒に戦ってる光の戦士だ』
ゼロの声が、部屋に響き渡る。
八坂が、ピクリと眉を動かした。
九本の尾が一斉に逆立つ。
室内の空気が、サッと冷たくなった。
圧倒的な殺気、ではない。
驚愕と、そして警戒。
八坂の九本の尾が、一斉に逆立った。
フワリ、なんて生易しい動作じゃない。
バチンッ! と、空気が弾ける音がして、金色の毛並みが鉄の針のように鋭角に張り詰めたのだ。
毛一本一本が、独立した生物のように痙攣し、威嚇の色彩を放つ。
室内の温度が、一気に氷点下まで下がったような錯覚。
肌が粟立つ。鳥肌なんて可愛いもんじゃない。
細胞レベルで、俺の身体が「逃げろ」と叫んでいる。
だが、八坂は動かなかった。
ただ、その金色の瞳を限界まで見開き、俺の右腕のブレスレットを凝視している。
「…ウルトラマン、ゼロ…?」
八坂が、ゴクリと唾を飲み込んだ。
その喉の動きすら、ガタガタと音を立てているように聞こえる。
「ああ」
俺は頷いた。
「こいつは、宇宙から来た光の戦士だ。俺と一体化して、あのオロチを倒した。ただの人間に、あんな真似ができるわけないだろ?」
「宇宙…やと?」
八坂の声が、上擦った。
これまでの、あの余裕綽々たる京都弁のトーンが崩れている。
彼女は妖怪だ。数千年の昔から、人間に化け、人間を騙し、時には食らい、時には守ってきた。
悪魔も、堕天使も、妖怪も知っている。
だが、「宇宙」という概念は別だ。
この世界の理の外側。
空の上、星の彼方から来る存在。
それは、彼女らが棲む「裏京都」の地脈とも、神話の残滓とも、一切繋がりを持たない、完全なる異物なのだ。
「うちは…今まで、色んなモン見てきた。天狗も、河童も、鬼も、神も、悪魔もな。でも…」
八坂が、震える手で扇子を握りしめる。
「星から来る兵隊なんて、聞いたこともあらへんかったわ」
『ま、そうだろうな』
ブレスレットから、ゼロの声が響く。
『俺たちの世界じゃ、宇宙人は日常茶飯事だが、こっちじゃまだ未知の存在なんだろうよ』
ゼロの声が、部屋の空気を微細に振動させる。
ただの音波じゃない。
魂に直接響く、高エネルギーの共鳴だ。
その波動が、八坂の全身を舐め回すように走り抜ける。
彼女の顔が、苦渋に歪む。
まるで、全身の毛穴を逆さにこじ開けられているような、生理的な不快感に違いない。
だが、同時に。
彼女の瞳の中で、疑念が消え、深い納得の色が宿っていくのが見えた。
「…やっと、腑に落ちたわ」
八坂が、深く息を吐き出す。
逆立っていた尾が、ゆっくりと元のふにふにした状態へと戻っていく。
「何がだ?」
「あのオロチの気配や」
八坂が、扇子で俺を指し示す。
「あれは、この星のモンやなかった。地脈にも、霊脈にも属さへん。まるで、空から降ってきたような、理不尽な暴力の塊やった。うちら妖怪の力じゃ、歯が立たんのも無理ないわ。次元が違うねん」
八坂は、俺の右腕のブレスレットを、複雑な表情で見つめた。
「せやから、あんたらがそれを倒せたんやな。同じように、この星の理の外側から来た力やったからこそ、あの化け物を相殺できたんやね」
「ああ、そうだ」
俺はニヤリと笑った。
「俺たちは、未知のモンを未知のモンでブッ飛ばすのが得意でな」
『褒め言葉として受け取っておくぜ』
ゼロも軽口を叩く。
八坂は、フッと笑った。
その笑顔には、もう警戒の色はない。
あるのは、同じ「異物」としての共感と、そして安堵だ。
「宇宙人はんに、助けられるとはのぅ。世の中、まだまだ捨てたもんじゃないな」
次回の王は
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妖怪王
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