サムライガールの幼馴染みは王様を目指す   作:ボルメテウスさん

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共鳴する力 Part5

俺は叫んだ。

ウルトライズアイのトリガーを親指で弾く。

その瞬間、世界が裏返った。

 

キィィィィン!!

 

耳鳴りじゃない。

空間そのものが悲鳴を上げているのだ。

京都の夜空が、まるで漆塗りの盆のようにひっくり返り、その裏側に広がる無限の宇宙が露わになる。

星だ。

無数の星々。

それらが一斉に俺に向かって墜落してくるような、猛烈な落下感。

だが、俺は落ちていない。

浮いているのだ。

光の海に。

 

『いくぞ太郎! ウルトラコスモレコード、展開だ!!』

 

ゼロの怒号と共に、左腕のブレスレットが激しく発光した。

そこに刻まれたレコード――歴代ウルトラヒーローの戦闘記録が、青白い光の帯となって空中へ舞い上がる。

それが次々とウルトライズアイへと吸い込まれていく。

情報の奔流。

単なるデータじゃない。

歴代戦士たちの魂の叫びが、俺の脳髄を直接ハンマーで叩きつけるように流れ込んでくる。

 

熱い!

熱い熱い熱い!!

身体の細胞が一つ一つ分解され、星屑の粒子へと置換されていく感覚。

血管の中を流れるのは血液じゃない。銀河の光だ。

筋繊維が紅蓮の炎のように燃え上がり、骨格がダイヤモンドよりも硬い結晶へと再構築されていく。

痛い。だが、心地いい。

自分が「宇宙」そのものになれるような、圧倒的な高揚感!

 

俺のボディから、青い色が剥がれ落ちていく。

代わりに赤いラインが、猛スピードで全身を駆け巡る。

情熱の色。戦士の色。そして、王の色だ。

胸の中央。

カラータイマーの形が変わっていく。

丸から、星へ。

五つの頂点を持つ星型のカラータイマーが、俺の核に刻み込まれる。

 

ドォォォォン!!

 

地響きのような轟音と共に、光が収束した。

俺の足が、石畳に着地する。

ズシンッ!!

さっきまでとは比べ物にならない、圧倒的な質量感。

地面が俺を受け止め、そして畏怖するように震えた。

 

「成った…か」

 

俺は自分の両手を見た。

赤と銀の装甲。

どことなく神々しい、研ぎ澄まされたフォルム。

ウルトラマンゼロ コスモライズ。

歴代ヒーローの光を束ねし、星の海を統べる新たな姿。

 

「あ…ああ…」

目の前の怪異どもが、初めて怯んだ。

宿那鬼の前後の顔が同時に引きつり、戀鬼の霊体が風前の灯火のように揺らぎ、ガンQの巨大な眼球が瘧のように震えている。

本能が告げているのだろう。

目の前の存在が、さっきまでのそれとは「次元」が違うことを。

小林泰三的な表現を借りるなら、彼らは今、免疫系を無視して暴れ回っていたウイルスが突然、全体を統御する中枢神経と直面したような絶望を感じているのだ。

 

「感謝するぜゼロ。この力、いただいた」

 

『へっ、お前の覚悟が引き出したんだろ。遠慮はいらねぇぞ!』

 

俺はスラッガーを構えるのをやめた。

素手だ。

だがこの拳には、星の重さが宿っている。

 

「おい怪異共」

俺は告げた。

声が響く。夜の京都に、いやこの世界の理そのものに干渉するような重低音だ。

 

「俺は唯我太郎。王になる男だ」

星型のカラータイマーが、青く力強く明滅する。

「そしてこいつはウルトラマンゼロ。お前らのその鬱陶しい怨念、この星の光で断ち切ってやる」

 

宿那鬼が震える手で大太刀を構え直す。

やる気か。

上等だ。

 

「かかってこい!!」

 

俺は地を蹴った。

夜空を背に、赤き流星となって三体の怪異へと突撃する。

「かかってこい!!」

 

俺は地を蹴った。

コスモライズの身体は、さっきよりもずっと速くずっと重い。

加速した自分自身の勢いに、自分が付いていけない。

いや、付いていく必要なんてない。

 

「うおおおおぉッ!!」

 

まずは一番厄介なあの目玉野郎、ガンQを潰す。

俺は上空に浮かぶ巨大眼球に向かって飛び上がる。

ガンQが避けようとするが、それよりも速く、俺はコイツの視神経の束を掴んだ。

空中で絡み合う無数の視神経を、まるで取っ手のように握り締める。

ブヨブヨとした生温かい感触。細胞の一つ一つが獲物を取り込もうと手のひらに吸い付いてくる。

しかし、もう俺は戸惑わない。

「テメェの場所から、俺を見下ろしてるんじゃねえ!!」

 

叫んだ瞬間、俺はガンQを自分の方へと引き寄せた。

いや正確には、ガンQごと落下したのだ。

「ええい!!」

 

ガンQと一緒に、俺は地面へと叩きつけられる。

いや、違う。

振り落とされる直前に俺は体を回転させ、ガンQを下敷きにした。

狙いたがわずガンQが先に地面へと激突する。

ドガァアァン!!

コンクリートを砕き、瓦屋根を弾けさせ、石畳ごと陥没する。

「ガ…キャアッ!?」

ガンQから、ノイズのような悲鳴が上がる。

 

「まず一匹!」

だが、すぐに背後から殺気が奔った。

宿那鬼だ。

大太刀を振りかぶり、正面から斬り下ろしてくる。

俺は転がった。

ガンQの上から飛び退く。

俺が立っている地面ごと、宿那鬼の一刀が切り裂いた。

間一髪。ズシンッ!

地面が爆ぜる。俺は自分の重さに足を取られそうになりながら、再び距離を取る。

「まだだ!」

宿那鬼は容赦なく吠え、前の顔から炎を吐いた。

後ろの顔からは、風を吐く。

炎と風が交わり、まるで生き物のように渦を巻いて迫る。

焼き尽くす熱。骨ごと削る風。

「鬱陶しい!」

俺は頭を下げその縦横無尽な遠距離攻撃を地を這うようにかわした。

這いつくばったまま、それでも止まらない。

前転。

後転。

火花を散らす。

しかし、逃げても次が来る。

戀鬼だ。

音もなく、俺の真上に出現している。

いつの間に背後に回り込んでいた?

霊体のまま、俺の後頭部めがけて怨霊刀を振り下ろす。

「舐めんなァ!!」

俺は後ろを向かずに肘を突き出した。

人間のバックハンドエルボーの要領だ。

だがゼロの巨体から放つ肘は、戀鬼の腹部に深々とめり込んだ。

「グ…!?」

だが、手ごたえがない。

まただ。また、霊体化するつもりか。

「させるかよ!!」

 

俺は、戀鬼の腕を掴んだ。

奴が霊体化してすり抜けようとするのを、物理的な力で強引に押さえ込む。

「どうした、化け物! 俺はここにいるぞ!」

そのまま、俺は戀鬼の腕を首に巻きつけた。

絡め取るように、胴体ごとホールドする。

プロレス技、ヘッドロック。

「え…え…?」

戀鬼が戸惑っている。

そりゃそうだ。

光の刃も光線も使わずに、肉弾戦、それも地味な関節技で攻めてくるとは思わなかったのだ。

 

「俺はな、王になる男だ。王が戦う時は、華麗に、そして図々しくな」

そして、地面に叩きつける。

倒れ込みながら、俺は戀鬼の首を放さない。

絞める。

体重を乗せて。

この泥臭さこそが、俺の戦い方だ。

「地面を舐めろ!!」

 

ズシンッ!

二人分の質量が地面に沈む。

戀鬼が、消えかかる。

「は、離せ…!」

「絶対に、離すかよ」

 

剣戟だの呪いだの。

そういう特殊能力に頼り切っている。

だが、俺は違う。

ゼロが積み上げてきた格闘戦。レオやアストラから教えられた宇宙拳法。

それは、こういう泥臭い肉弾戦の極み。

そして、私の脳裏に叩き込まれた、数百年ぶりの「関節技」の痛み。

奴らは、この痛みを忘れている。

 

「どうした、テメェら! 剣が無いと戦えないのか!? 魔法がなきゃ戦えないのか!? てめぇの身体で来いやァ!!」

 

宿那鬼が、怒りに我を忘れたように吠えた。

大太刀を振りかぶり、炎と斬撃が同時に放たれる。

俺は、戀鬼の身体を盾にした。

「な…!?」

宿那鬼の攻撃が、味方であるはずの戀鬼を飲み込む。

「なんだと…」

信じられない、という顔だ。

だが、俺は王だ。非情な作戦だって取る。

彼らの連携は、それぞれの得体の知れない能力に頼った脆いものだ。

だったら、その脆さを力でへし折る。

「仲間割れさせたな…! ずるいぞ!」

「戦いにズルいもクソもあるかよ!」

俺は、満身創痍の戀鬼を投げ飛ばした。

投げ技。巴投げの要領だ。

戀鬼の体は、視界の端でガンQと激突した。

「ガッ…!?」

「きゃう…!?」

二匹の怪異が、情けない声を上げて瓦礫の中へと転がっていく。

さあ、残るはあと一匹だ。

俺は、仁王立ちして宿那鬼を指差す。

さっきまで、余裕づいていた二面の鬼神が、後ずさる。

「来いよ。この次元の違う力を、存分に味わわせてやる」

ゆっくりと、俺は構えた。

まるでプロレスラーのように、両腕を大きく広げて。

いつでもかかってこいと言わんばかりに。

「王として、雑魚の相手は終わりにするぞ、宿那鬼」

「…グオオオオッ!!」

宿那鬼が、精一杯の威勢で飛び込んでくる。

俺は、その軌道に自分の身体をあわせて入れた。

「な…!?」

瞬間、俺の身体は宿那鬼の懐に滑り込んでいた。

背中に、奴の体温が触れる。

すっぽりと、入った。

投げる。腹に腕を回して、力任せに持ち上げる。

「うおおおらあああ!!」

ブレーンバスター。

俺は宿那鬼を頭から地面に叩き落とした。

夜の空気が、歓声のように震えた。

まるで、人体が論理の檻から解き放たれた時に見せる、幸福な暴力だった。

この姿なら、やれる。

俺は、ゆっくりと立ち上がり、宿那鬼の体から飛び出た大太刀を拾い上げた。

「武器がないほうが、寂しいだろう。返してやる」

宿那鬼が、前後の顔を苦痛に歪めながらも、大太刀を握り直す。

「さあ、決着だ」

俺は、ゼロスラッガーを再び構えず、右の拳を握った。

「お前の刀と、俺の拳、どっちが硬いか試そうじゃねえか」

宿那鬼が、ぶんっと大太刀を横なぎに振るう。

俺は、屈みながら、その胴体にタックルした。

もう、何もかもが遅い。

「これが俺の王の拳だッ!!」

一体に近づき、そのまま、アッパーカット。

拳に魂を乗せて、宿那鬼の顎を撃ち抜いた。

 

「…ハッ」

息が漏れる。

だがそれは苦痛なんかじゃない。

笑いだ。

 

目の前の光景は地獄だ。

石畳はひび割れ瓦礫の山と化し空気は焦げた肉と血の匂いで満たされている。

そしてその瓦礫の中から三体の怪異がゆらりと立ち上がる。

 

宿那鬼。俺のアッパーカットで顎が外れ前方の顔がぐらりと揺れている。だが後ろの顔が笑うように牽引し無理やり正体を保っている。首の骨がミシミシと音を立てて自己修復しているのが聞こえる。グロテスクだ。まるで二匹の蛇が一つの革袋の中で交尾をしているような不協和音。

 

戀鬼。俺のヘッドロックと巴投げで半ば霧散していた霊体が再び収束しようとしている。男女の顔が溶け合った部分からドロリとした体液が溢れ出し足元の石畳をシマシマに染めていく。まるで腐った臓物を無理やりミキサーにかけたようなおぞましい再生だ。

 

ガンQ。視神経の束が千切れ飛び巨大な眼球にはヒビが入っている。だがそのヒビからドロドロとした膿のような体液が滲み出し傷口を塞ごうとしている。眼球がギョロリと動き俺を捉えた瞬間視界が反転するような吐き気が走る。

 

倒せない。

こいつらは「死」という概念すら超越した怨念の塊なのだ。

物理的なダメージを与えても細胞レベルで侵食し合い無理やり繋ぎ止める。

小林泰三的な表現をするなら俺は今「生物としての論理の崩壊」そのものと対峙している。

 

だが。

 

「…いい度胸だ」

 

俺は口元を吊り上げた。

不敵な笑み。王の笑みだ。

 

怖くないわけじゃない。

あのグロテスクな再生能力は生理的嫌悪を催す。

吐き気がする。

だがそれ以上に熱いものが身体の奥底から湧き上がってくる。

 

『ハハッやるじゃねぇか相棒!』

脳内でゼロが笑う。その声も興奮で震えている。

『まだ立ち上がるってか? だがそれがいい! 俺たちの拳が効いてる証拠だ!』

 

「ああそうだぜゼロ! こいつらはしぶとい! だがそれがいい!」

 

俺は両拳を顔の前で合わせた。

コスモライズの赤い装甲が擦れ合い火花が散る。

 

「王たる者にとって退屈な敵など不要だ! 幾度でも立ち上がるなら幾度でも叩き伏せてやる! 地面を舐めさせ首をへし折りその腐った魂を根こそぎ刈り取ってやる!」

 

全身の筋肉が悲鳴を上げている。

カラータイマーの警告音も早鐘のように鳴り響いている。

だが問題ない。

この痛みこそが「生」の証だ。

この高揚感こそが「戦い」の醍醐味だ。

 

「さあ第2ラウンドだ鬼共! 王の拳で存分に可愛がってやるぜ!!」

次回の王は

  • 妖怪王
  • 機械王
  • 怪獣王
  • 幻想王
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