サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
「行くぞ絶花!」
俺は叫んだ。
ビヨンドの身体が音を置き去りにして加速する。
石畳を踏みしめた瞬間、足裏の感触がさっきまでとは根本的に違っていた。
押し返してくる地面の反発が、蹴り出したエネルギーをそのまま推進力へと変換している。
加速する肺の中で空気が燃える。
視界の端で絶花もまた二刀を構えて地を蹴った。
ウルトラマンZの身体がまるで長年そうしていたかのように彼女の剣技に追従している。
だが動き出してすぐ、俺は気づいた。
絶花の初速が遅い。身体に慣れていないのだ。
巨人の筋肉の出力と剣士の意思の間に、コンマ数秒のズレが生じている。
奴がそれを見逃すわけがない。
合体怪獣が動いた。
宿那鬼の顔が俺を、ガンQの眼球が絶花を、それぞれ同時に捉える。
右手の怨霊刀が絶花へ、左手の大太刀が俺へ。
二方向への同時攻撃。
連携の「質」がさっきまでとは段違いだ。三つの判断機関が一つに溶け合ったことで、無駄な躊躇が消えている。
俺は右へ回り込んだ。
大太刀の軌道を正面から見据える。
重い。振り下ろされる刃の風圧だけで周囲の瓦礫が舞い上がり、視界が砂塵で白濁する。
だが見えずとも分かる。殺意のベクトルが太い直線として脳裏に焼き付けられている。
「甘い!」
俺は右のツインエッジで大太刀の腹を斜めに弾き上げた。
ギィンッ!!
金属と怨念が摩擦して生まれた火花が、夜霧の中で爆発のように散る。
衝撃が手首から肘、肩へと抜けていく。だがビヨンドの装甲は震えすら伝えない。
受け流した大太刀が逸れ、奴自身の左肩へと食い込む。
グチュリ。
自壊だ。だが構わない。痛みを共有する脳が三つある。ダメージは分散される。
「せやぁッ!!」
絶花が横合いから斬り込んだ。
俺が大太刀を逸らした隙を見て、奴の脇腹へ踏み込んだ一撃。
天聖の白刃が先に走る。
ベリアロクの黒刃がそれを追う。
二刀が交差する軌道で、合体怪獣の脇腹をX字に切り裂いた。
グチャリ。
腐肉と霊体が混ざり合った断面から、ドロドロとした体液が噴き出した。
熱い。吐き出された体液が俺の左腕にかかり、ジュワジュワと音を立てて蒸発する。
ただの体液じゃない。怨念そのものが液状化したものだ。当たった箇所の装甲が一瞬だけ曇る。
「ガアアァッ!!」
合体怪獣が苦悶の咆哮を上げる。
咆哮そのものが衝撃波になって俺たちを押し返す。
足場の石畳が砕け、靴底が――いや足裏が——瓦礫の上を滑る。
だが、まだだ。こいつは倒れない。
三つの怨念が互いを補完し合い、傷口を無理やり塞いでいく。
断面から新生される肉が、まるで自分の意志を持つ蟲のように蠢きながら組織を再構築していく。
あれを見ていると、網膜が拒絶反応を起こしそうだ。
生物の論理が外部から書き換えられている。気持ちが悪い。
「しぶとい野郎だ!」
『なら、完全に断ち切るまでだ!』
ゼロの声が脳内に響く。
俺はビヨンドツインエッジを交差させ、エネルギーを収束させる。
紫電が刃を伝い、周囲の空気をイオン化させていく。
肌が粟立つ。静電気ではない。高エネルギーが臨界点に達しようとしている警告だ。
だが溜めを作れば、その間隙ができる。
案の定、奴の胸に埋まったガンQの眼球がギョロリと俺を捉えた。
視線そのものが物理的な圧力となって皮膚を圧す。
来る。遠距離攻撃だ。
「絶花! お前は下がってろ!」
「え? でも…」
「いいから! これは王の一撃だ。お前はその目に焼き付けておけ!」
絶花が一瞬迷った。
その迷いが、一秒。
だが奴はその一秒を見逃さなかった。
ガンQの瞳孔が収縮し極彩色のエネルギーが充填されていく。
狙いは——絶花だ。
俺の溜めを待たせないための牽制。狙いが正確すぎる。
クソッタレが。
俺は舌打ちした。
ツインエッジのチャージを維持したまま、身体をひねって絶花の正面に出た。
怪光線が放たれる。
正面から受け止めるわけにはいかない。だが避ければ絶花に直撃する。
一瞬の判断。チャージを維持したまま右のツインエッジで光線を弾く。
キィンッ!!
焼け付くような熱が右腕を走り抜ける。
光線を弾いたはずだ。だが完全には消滅しない。残滓が肩の装甲をかすめ、焦げた匂いが鼻を突く。
右腕に痺れが走る。チャージの一端が霧散した。
だが——足りる。
紫電はまだ生きている。
俺は合体怪獣を正面に見据えた。
奴もまた、光線を放った反動でわずかに硬直している。
ガンQの眼球が明滅し焦点を戻そうとしている。その数秒が、死命を分ける。
「お前ら三匹の怨念、まとめて浄化してやる」
ツインエッジを天に掲げる。
紫電が天を裂き雲を貫く。
チャージが限界を超える。
全身の筋肉が悲鳴を上げる。腕の関節がミシミシと軋む。
背骨から踵まで、エネルギーの通り道が焼きごてを押し当てられたように熱い。
限界だ。これ以上溜めれば、俺自身の身体が先に持たない。
「俺の刃を刻み込め!!」
叫びと共にツインエッジが巨大な光の剣へと変貌する。
ゼロツインソード。
宇宙の理を断つ究極の刃。
振り下ろす瞬間、肩の筋肉が断裂する音がした。
だが腕は止まらない。意思が肉を超える。
「ツインギガブレイク!!」
光の剣が合体怪獣を斜めに切り裂く。
刃が肉に食い込む感触がない。
怨念という名の「情報」そのものを断層ごと切り取っている感覚。
切断面から三つの顔が同時に驚愕に見開かれる。
宿那鬼の怒りの顔。戀鬼の哀しみの顔。ガンQの無機質な眼球。
それら全てに「終わり」が刻まれた。
光の刃は止まらない。
Z字を描くように合体怪獣の巨体を三度切り裂いた。
一度目で外形を断つ。
二度目で骨格を断つ。
三度目で核を断つ。
「グオオォォ…!!」
断末魔の咆哮が夜の京都に木霊する。
身体を繋ぎ止めていた怨念の糸が一本ずつ切れていく。
音がない。ただ、光として昇華されていく。
三つの怨念がそれぞれの形を失い空へと還っていく。
振り抜いた腕が、だらりと下がる。
右腕に感覚がない。ツインエッジが手から離れ、四本のゼロスラッガーとなって頭部へ戻っていくカチリという音だけが、静寂の中で響いた。
「終わったか」
俺は静かに呟いた。
『ああ、終わったな』
ゼロの声が、どこか満足げに響く。
だがその声にも疲労が滲んでいる。
「太郎くん!」
絶花が駆け寄ってくる。
ウルトラマンZの姿のまま、その手にはまだ天聖とベリアロクが握られている。
「すごい…! 今の、すごかった…!」
「お前もな」
俺は笑った。だが口元だけだ。体中の力が抜けていく。
膝が笑い出しそうになるのを、無理やり膝の筋肉で固定する。王がへたり坐るわけにはいかない。
「お前の二刀流、見事だったぜ。最強の侍」
絶花が照れたように俯く。
その仕草は、巨大なウルトラマンの姿でも変わらない。
「…でもこれどうやって戻るの?」
「あー…」
俺は空を見上げた。
「ゼロどうすんだこれ?」
『知らねぇよ。俺も初めての経験だ』
「お前なぁ…」
まあいい。
戻り方は後で考えよう。
今はただ、この勝利の余韻に浸っていたい。
夜の京都に、静寂が戻る。
遠くで、夜明けの気配が感じられた。
次回の王は
-
妖怪王
-
機械王
-
怪獣王
-
幻想王