サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
夜明けの京都は静かだった。
ただし、物理的には瓦礫の山でうるさい。
俺はゼロビヨンドの膝をついたまま右腕をさすっていた。感覚がない。筋繊維の代わりに光の組織が断裂したらしいが、痛いものは痛い。
「太郎くん、大丈夫ですか?」
ウルトラマンZの姿のまま絶花がのぞき込んでくる。手には天聖と、あの口の悪い黒い剣。ベリアロクが護拳の顔でニヤニヤ笑っていた。
「俺は平気だ。それよりしまえ、その黒いの」
「しまえって言われましても……離れないんです!」
絶花がベリアロクを振り回す。ブンブンという風切り音が朝の静寂をぶち壊す。
『オイオイ、乱暴な侍だなぁ。オレ様はデリケートなんだぜ』
「デリケートな剣がいるか!」
俺が叫ぼうとした時、声が降ってきた。
「まあ、えらい荒っぽううて優雅さに欠けるかったのう」
瓦礫の山の上。九本の尾を朝風に靡かせ、八坂が立っていた。
「優雅に死ぬ趣味はねえよ」
俺は顎でしゃくってやった。右腕が痛むので、左手で右肘を支えるのが精一杯だが、王の貫祿は保たないとな。
「ほな、優雅に生きる趣味もあらへんのか。まあええわ。それで、あのおぞましい連中はどうなった?」
「バラバラにして空に還した。つーか、合体しやがったんだよ。三体がドロドロに溶け合って、骨に肉に目玉埋め込んだグロテスクな肉団子だ。小林泰三の未発表原稿みたいだったぞ」
「知らん作者やな。せやけど、それがタルタロスのやり方や。並行同位体をこっちの世界に引っ張り出す時、地脈の力を使うねん」
「地脈?」
八坂が扇子で足元を指す。
「この京都には何百年もかけて霊的結界を張ってある。その下にあるのが地脈や。日本中のエネルギーが集まるパワースポットやな。タルタロスはその結界をぶち壊して、地脈をバッテリー代わりに使うたんや」
「バッテリー代わりかよ。京都がただの充電器じゃねえか」
「せやから結界を直さんと、何度でも充電しに来るってことや。地脈そのものにヒビが入っとる。うちら妖怪の力だけじゃ修復は厳しいんや」
八坂の視線が絶花の手元に移り、止まった。
「それで、その剣はどうしたんや?」
「え、あの、気がついたら手に……」
『オレ様が選んだんだよ。この小娘が気に入ったからな』
ベリアロクが口を挟む。八坂の狐目がスッと細くなった。
「黙らっしゃい」
空気が震えた。物理的な圧力だ。ベリアロクの笑いがぴたりと止まる。
「その剣、呑まれんよう気ぃつけや。持ち主の恐怖をエサにする性質がある。怖がれば怖がるほど、剣がお前を食うてしまうねん」
「た、食べる……」
絶花の顔が青ざめる。
「やけど、心が強うあれば従う。選ばれた主にだけ真の力を貸すんや。ま、選ばれたのがこんなおどおどした侍やったんは、剣のミスジャッジかもしれんけどな」
「ミスジャッジ……!?」
絶花がムッとする。ベリアロクがまたニヤリと笑った。
「で、だ。八坂」
俺は会話を切った。右腕の痺れが少しずつ戻り始めている。
「結界を直すのに、俺の光の力が必要なんだろ?」
八坂が扇子をパチリと鳴らした。
「察しがええな。王はんにしては」
「タダ働きはせんぞ」
「もちろんや。うちらが持っとる情報、全部共有するわ。タルタロスの動きも、並行同位体のことも。それに、その黒い剣についても知っとることは全部教えたる」
八坂が手を差し出した。
「同盟や。ええ取引やと思うで?」
俺は右手を差し出そうとして、激痛が走り左手に変えた。
「悪くねえ取引だ」
俺の手と八坂の手が交わる。妖怪の長と、王を目指す小僧。奇妙な同盟が成立した。
「あ、あの! 八坂さん!」
絶花が巨大なウルトラマンZの姿のまま手を挙げた。
「私、どうやってこの姿から戻れば……?」
八坂が呆れたようにため息をついた。
「力抜けば戻るやろ。ま、ゆっくり教えたるわ。とりあえず、お茶でも淹れよか」
八坂が瓦礫の向こうへ歩き出す。巨大なZがよろよろとそれを追いかける姿は、侍というより迷子の犬だ。
『相棒、悪くねえスタートだろ?』
脳内でゼロが笑う。
「ああ」
俺は空を見上げた。
「悪くねえよ」
「力を抜けば戻るやろ」と八坂は言ったが、事態はそんなに単純じゃなかった。
「力を抜けって言われても、こんなの握ってて抜けるわけ…!」
絶花が右手の天聖、左手のベリアロクを交互に見下ろす。巨大な青い体がガチガチに強張り、関節がキリキリと音を立てているのがここまで聞こえてくる。
『へっ、震えてんなぁ。オレ様の切っ先がそんなに怖いのかよ? 楽しくなってきたぜ』
ベリアロクが護拳の顔でニタニタと笑う。その声は絶花の焦りを煽るように低く響いた。
『主、その不埒な剣め! 妾の主の恐怖を肴に飲食するとゎ、万死に値するぞ!』
天聖が吠える。白い刃がブンブンと振られ、ベリアロクの黒い刃にカチカチと当たる。金属音が朝の京都に響き渡る。
『うるせぇな乳剣! オレ様と主様の秘め事に首突っ込むなよ』
『誰が主様じゃ! 妾こそが主の守護神剣! 貴様の如き怨念の塊、妾が砕き奉る!』
「きゃああっ! 二人とも喧嘩しないでください!」
巨人の少女が剣を振り回して泣き叫ぶ。侍以前の問題だ。
「絶花!」
俺は一歩踏み出した。右腕が痛むが、ここで王が黙っていてどうする。
「お前は剣士だろ。剣を握る手に迷いがあるか?」
絶花がハッとして俺を見た。その瞳は涙で潤んでいるが、奥には剣士の芯がある。
「迷いなんて…!」
「あるかよ、なかったらさっきの二刀流は出せなかったはずだ。お前の剣筋に、迷いはねえ。あるのはただの『恐怖』だ」
俺はゆっくりと、だが確実に言い放った。
「恐怖はあってもいい。だが剣を握る手は迷うな。お前が握ってるんだ。剣に握らせるな」
絶花が息を呑む。全身の硬直が、ふっと解けた。
光の粒子が弾ける。
Zの装甲が剥離し、青と赤の光が雪解けのように溶け出していく。
「あ……」
視線が下がる。巨大な視界が急速に縮小し、背丈が地面へ近づいていく。
やがてそこには、いつもの黒いブレザー姿の少女がいた。
だがその両手には、まだ白と黒の剣が握られている。
「戻れた…」
絶花が自分の手を見る。安堵と、まだ残る緊張。
『へぇ、やるじゃねぇか小娘。ま、しばらくはついてってやるよ』
ベリアロクが短く言い捨て、刃がスウッと影のように収縮する。黒い刀身が消え、柄だけが絶花の手に残った。
絶花は震える手でその柄を腰の鞘へと納めた。カチャリ。乾いた音が静寂を告げた。
「……收納,できました」
彼女はふらりと膝をついた。俺は左手を差し出してやる。
「立てよ、最強の侍」
絶花が俺の手を握り返してきた。その手は冷たいが、もう迷いはなかった。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王